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1つずつステップを踏み2025年に対応した報酬体系を

本年4月に、2018年度診療報酬改定が実施された。今改定により2025年に向けた医療提供体制づくりが進むことが期待される。

今号では、基本方針に基づき具体的な個別改定項目の設定などについて議論してきた中央社会医療保険協議会の田辺国昭会長に、今改定のポイントや積み残しとなった課題、目指すべき医療提供体制の姿などについて、TKC医会研の海来美鶴代表幹事が話をうかがった。

  

田辺国昭
中央社会保険医療協議会 会長
東京大学法学政治研究科 公共政策大学院 教授

聞き手/ 

TKC全国会医業・会計システム研究会 代表幹事

海来美鶴(医業経営コンサルタント 税理士)

Tanabe Kuniaki

1984年、東京大学法学部卒業、同大助手。1987年、東北大学法学部助教授。1993年、東京大学大学院法学政治学研究科助教授。2000年、東京大学大学院法学政治学研究科教授。現在に至る。2014年より中央社会保険医療協議会公益委員、2015年より同協議会会長。

 

 

2025年以降も見据えた報酬体系づくりも大事

 

──まずは2018年度診療報酬改定の狙いや意図などについて教えてください。

田辺 診療報酬の改定作業の流れというのは、社会保障審議会医療保険部会・医療部会で審議された診療報酬にかかる「基本方針」に基づき、中央社会保険医療協議会で個別の診療報酬項目に関する点数設定や算定条件等について議論することになります。

こうしたなかで、今改定の基本方針を見ると、2016年度診療報酬改定とは大きく変わらないことがわかると思います。

今改定で最も重要度が高いものとして、「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」がありますが、これは2016年度改定でも同じように重要な方針の1つとして位置づけられていました。

あとは、「新しいニーズにも対応できて、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実」についても前改定とほぼ同一の位置づけのものです。

ただし、この方針については個別に内容を見ると、緩和ケアを含むがん医療の評価を拡大したり、小児医療や周産期医療、救急医療の充実を図ったり、認知症の人への適切な医療を評価するための見直しなども行い、医療からこぼれ落ちる患者さんができる限り出ないように対応しました。

また、ここではICTを活用する際の原則を明確にし、その上で「オンライン診療料」や「オンライン医学管理料」などを評価しました。「オンライン診療料」等については、今後の活用状況や問題点を把握し、適時、見直していくことで、さらに進化する分野になるのではないかと思っています。

いずれにしても、いろいろな意図はありますが、今改定の狙いを端的に答えるならば、「2025年に対応した医療提供体制の構築」です。しかし、今改定だけでその医療提供体制をつくるというものではなく、何回も改定を重ねていくなかで少しずつつくり上げていく必要があります。今改定だけを見て、その姿が明確にわかるものではありません。前改定で積み残された課題を次の改定で対応する。その繰り返しです。1回の改定であるべき姿に向けて大きく診療報酬体系を変えてしまうと、それこそ現場が対応できないということにもなってしまいます。

──2025年まであと約7年あるなかで、現場が混乱しないように一歩ずつ医療提供体制づくりを進めていくことが大事なのですね。

田辺 いわゆる団塊の世代といわれる年齢層がすべて75歳以上の後期高齢者となるのが2025年。そこを目標にあるべき医療提供体制をつくらなければならない。そうしなければ大変なことになるということも事実なのですが、同時に2025年が終わりではないということも強く意識しなければなりません。社会はそれ以降もずっと続くわけです。

2025年以降は、高齢化率が増えるとともに、全体として本格的な人口減少社会に突入します。現段階から、そのことも合わせて診療報酬の仕組みなどを考えていかなければなりません。

 

入院基本料・薬価の抜本的な見直しが今改定の大きな特徴

 

──今改定について、基本的な部分は前改定と大きく変わらないということでしたが、そのなかで今回の特徴、ポイントをあげるとすればどのようなことになるのでしょうか。

田辺 連続的な側面と新しいことを加えた側面があるわけですが、そのなかでも確実に新しいこと、そして中医協の議論のなかでももめたのが入院基本料の構造を抜本的に変えたことでしょう。

ここは、「基礎部分」と「実績部分」の二層構造で入院基本料を評価する仕組みにしました。議論の中心となったのは71のところでしたが、結果的には他の101131などにもその仕組みを導入しましたので、急性期から慢性期までその構造を整えた形となりました。病院経営者にとっては、非常に大きな改定であり、しっかりとした対応が必要になる部分だったのではないかと思います。

2つ目としては、薬価の抜本的見直しです。議論は高額な医薬品であるオプジーボの問題からスタートしたわけですが、これまでの薬価の決定ルールを大きく変えて、ほぼ毎年、改定するということにしました。全体の構造として新薬創出の部分とジェネリック医薬品の部分に力を入れていこうと。そして、長期収載医薬品については評価を下げていく。製薬業界へのメッセージ性が高い改定内容となったと思います。

これは大きな変化であり、いろいろなところに影響を及ぼす可能性もあるので、しっかりと検証を進め、問題が起きた時に迅速に対応できるようにしておかなければならないと考えています。

3つ目のポイントは、やはり同時改定ということでしょう。今改定においては2回ほど介護給付費分科会と合同で議論しました。ただ、社会が期待するほど強く意識して進めてきたとは個人的には思っていません。現実的に対応が必要となる部分を中心に議論しました。実際は、在宅看取りやリハビリテーションなどの領域において、上手く医療と介護が連携できる仕組みにしようということでしたが、より広範囲の議論が必要だったのかもしれません。

ちなみに、リハビリの部分では、介護のリハビリは集団で行うことが基本で、医療は個人別ですから、それを連続的にできるように、医療から介護に移りやすいように、施設基準や報酬部分で整合性を合わせました。

また、在宅看取りについては、いろいろな問題があり介護との整合性を合わせることがなかなか難しいと感じました。ただ国民の意識調査等を見ると、自宅での療養を望んでいる人の割合が約6割ということなので、そのニーズに合わせて、医療と介護も対応できるような仕組みをつくったわけです。あとは、看取りに関して「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に沿って進めることを評価しました。これにより、患者さん本人の看取りに至るまでの生き方や自己決定をどのように支えていくか、それを標準化したということです。

  

ICT活用に関する原則を定め効率性・利便性を高める

 ──クリニック経営に関するものとして、先ほども少し話が出ましたオンライン診療や、かかりつけ医機能という部分についてはいかがでしょうか。

田辺 ICTの活用について原則を定めたのは大きいと思います。個別の判断ではなく、ICTを活用できるのはどういうケースなのか、それに対して適切な報酬水準はどうなのか、その枠をつくったわけです。もちろん、すべてがその枠に収まるとは考えていません。今後はいろいろなケース、個別対応の事例なども出てくると思いますし、進化もしていくでしょう。上手くいけば、業務の効率化と同時に患者の利便性を高める形になるのではないかと考えています。

──特に医師不足が顕著な地方においては、ICTを積極的に活用していかなければ、今後は医療が受けられないという患者も出てくると思いますので、今後の発展に期待したいところですね。他方、かかりつけ医についてはいかがですか。

田辺 かかりつけ医に対する評価は、実は2016年度改定で結構、行っているのです。そもそもかかりつけ医とは何かというところからスタートし、クリニックだけでなく、薬局、歯科にも拡大しました。今改定では、そこからの連続性ということで、少し拡充したということになります。

初診料全体を上げるわけにはいかないので、かかりつけ医ということで、一定の要件を満たしたかかりつけ医機能を担うクリニックに関していくつかの加算が算定できるようにしました。

──先般、日本医師会の横倉義武会長とお会いする機会があったのですが、そこでは日本医師会として2025年を見据えかかりつけ医の育成に力をいかれる旨を話されていました。

田辺 それは非常に重要な取り組みだと思います。日本医師会というのはプロフェッショナルの集団です。地域連携の中心的な役割を担う組織でもあります。プロフェッショナル集団として、今後の方向性に対応した研修機能を発揮していただくというのは、社会全体から非常に期待されているところだと思います。

 

アウトカム指標の導入は次回改定までに固めていく

 

──今改定において反映できなかった積み残しの課題などはどういうところになるのでしょうか。

田辺 反映できなかったということからは、はずれるかもしれませんが、費用対効果評価の導入というのは、半歩前進といえますが、予定よりも遅れているという側面は否めません。今回、試行的導入ということで価格調整まで一度、行ったわけですが、そのなかでいろいろな問題が出てきましたので、それを踏まえ、この1年間で議論してから本格的な制度化ということになると思います。

もう1点、入院基本料のアウトカム指標はつくったのですが、まだ修正が必要な部分がありましたので、次回改定までに固めていくことになります。実は、この部分も中医協のなかで大きな議論になったところです。今回、入院基本料を大きく再編しましたので、まずはその影響を見てから考えなければならないと思っています。

 

医療提供体制づくりに失敗は許されない

 

──今改定にともない医療機関の経営者にはどのような視点が求められるとお考えですか。

田辺 今年は診療報酬改定の年ということで、どうしてもこればかりに注目してしまいがちですが、その横ではいろいろなものが動いています。たとえば、第7次医療計画、地域医療構想、医療費適正化計画などです。こうしたものが同時に動き出していることを踏まえた上で経営を考えていかなければなりません。

あとは、地域包括ケアシステムというのは、医療だけではなく、地域の介護、福祉、住まい、生活支援などと力を合わせてつくっていくものです。これを実現するために、医療機関は自院のポジショニングを見極め、どのような形で地域に貢献していくのか、そのためにはどのような機能を持って、または拡充していかなければならないのか、さらにはどの機能は他に委ねるのかというところまでを明確にしていく必要があるのだと思います。

──これからの地域医療がどのように変わることを期待されていますか。

田辺 人々が住み慣れた地域で安心して日常生活を送り、体調が悪くなったら外来に行き、重度化して入院しても回復したら家に帰る。そのなかでは看取りまで行える。もちろん、小児医療も周産期医療も充実した提供体制が整っている。こうした体制がどこの地域においても構築されていることが期待されると思います。

そのために最も重要になるのが、地域の医療資源の機能分化と連携なのです。まさに診療報酬改定の基本方針に示されているとおりです。それぞれの医療機関がその機能、役割を明確にし、それを連携でつなげていく。急性期から在宅医療まで切れ目のない体制をつくっていく。患者情報も必要なものは引き継いでいく。もちろん、そのなかには介護等も含まれます。診療報酬等ではそうした取り組みをきちんと評価しているわけです。

──最後に、今改定について総括いただければと思います。

田辺 医療機能の分化・強化、連携の推進による地域包括ケアシステムの構築。この方向性は間違っていないと考えています。

ただ、診療報酬という側面からの目指すべき医療提供体制づくりに関して、少し歩みが遅いのではないかと思われる方もなかにはいるかもしれません。しかし、医療提供体制づくりというのは、国民の健康と命に直結する重要なもので、失敗は許されないのです。だからこそ、まったく変化がないというのは問題ですが、1つひとつステップを踏みながら慎重に進めていかないといけないと強く感じています。

今年4月の中医協の議論のなかで、遺伝子パネル検査の話があがりました。これは先進医療ということですぐに保険収載ということではありませんでしたが、この遺伝子パネル検査によりオーダーメードの医療が可能になる。しかし、一方で何千万円という医療費がかかる。それを今の財源で賄えるのかどうかは慎重な議論と検証が必要です。

これは一例ですが、このように医療技術も医療機器も日々、進化しています。そのなかでどこまで公的財源でカバーしながらあるべき医療提供体制をつくっていくのかは悩ましい問題です。困っている人、苦しんでいる人が1人でもいて、その新しい医療技術を求めている人がいる。そのなかで簡単に保険から切り捨てるようなことがあってはいけないわけです。

そうしたことをしっかり踏まえ、慎重に検討を重ねながら、全体の診療報酬の構造を微修正し、一歩ずつ理想の形をつくり上げていくことが大切だということを改めて実感しています。

──実際の現場を見ていますと、昨今、高度急性期、急性期のベッド稼働率が落ちてきています。この背景には、「高齢だからもう手術はしなくていい」「最期は自宅で暮らしたい」などと考える患者、家族が増えてきたのだと思います。この急性期の部分は大きな医療費がかかっているところでありますが、患者等の意識が変わりつつあるなかで、医療費の増加にも歯止めがかかってくるのかもしれません。また、その分を、本当に必要とされる医療に手厚く配分されるようになれば、目指すべき医療提供体制づくりによりつながるのかもしれませんね。

本日はお忙しいなかありがとうございました。

(平成30427/構成・本誌編集部 佐々木隆一)