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早期の介護医療院への転換で経営基盤の強化を

介護療養病床と医療療養病床2の廃止にともなう受け皿の1つとして、新たに創設された介護医療院。2018年4月の施行から3か月で20施設、1,400床の転換が進んでいる。こうした状況のなか、日本慢性期医療協会のなかに新たに介護医療院協会が設置され、その2代目会長として鈴木龍太氏(医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院理事長・院長)が就任した。鈴木会長に介護医療院の特徴や経営ポイントなどについて話をうかがった。

鈴木龍太
介護医療院協会会長
医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院理事長・院長

聞き手/
本誌編集委員
石川 誠
Suzuki Ryuta

東京医科歯科大学医学部卒業。米国National Institutes of Health (NIH) NINCDS Visiting fellow。東京医科歯科大学脳神経外科助手、昭和大学藤が丘病院脳神経外科准教授、昭和大学藤が丘病院安全管理室室長(兼任)などを経て、20096月、医療法人社団三喜会鶴巻温泉病院副院長に就任。同年9月、同病院院長に就任。20156月、同法人理事長に就任(鶴巻温泉病院院長兼務)。社団法人日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、厚労省指定臨床研修指導医、日本リハビリテーション学会専門医。

住まいと生活を医療が支える新たなモデルが介護医療院

──廃止された介護療養病床や医療療養病床2251)の転換先の1つとして、2018年度診療報酬・介護報酬同時改定では、新たに「介護医療院」が創設されたわけですが。

鈴木 そもそも療養病床が創設された経緯は、老人医療費が無料化された1973年にまで遡ります。当時は、いわゆる老人病院が急増し、多くの高齢者が施設等から老人病院へと転院しました。これが社会的入院の発端です。その後、1998年に、社会的入院の解消と、長期療養を必要とする患者さんの療養環境の整備を目的に、「療養病床」が創設されました。介護保険法が施行された2000年には、長期療養の要介護者に対する医学的管理や介護などを行う「介護療養病床」が介護保険上、位置づけられたわけです。

ところが、2006年、国は社会的入院のさらなる解消と医療費抑制を図るため、比較的、医療必要度が低いとされる介護療養病床を2011年までに廃止する方針を打ち出し、その転換先の1つとして「介護療養型老人保健施設」(新型老健)を新たに設けました。

しかし、新型老健の介護報酬に対する不満や、病院から施設への転換が受け入れ難いとする現場の強い反発などから、実際に転換は進まなかった。その現状を踏まえ、廃止期限が6年間延長され、2017年度末となったことは記憶に新しいと思います。

介護療養病床は、日常的に医学管理が必要な要介護者に対応してきました。また、看取りやターミナル機能を有するとともに、生活の場としても機能してきた経緯があります。現在、約6万床あり、こうしたサービスを求めている高齢者がいます。単に廃止するわけにはいかない。何かしらの対応が必要ということで、厚生労働省の「療養病床のあり方等に関する検討会」において議論が進められ、介護療養病床がこれまで担ってきた機能を踏まえ、生活施設としての機能を兼ね備えた新たな施設類型として「介護医療院」が制度化されたということです。

 

──介護医療院は、介護療養病床に新たな機能を加えた施設になりますね。

鈴木 介護医療院は「住まい」と「生活」を医療が支える新たなモデルです。その役割を端的にいうと、①入所者の尊厳を保持する、②入所者の自立を支援する、③入所者・在宅療養者に質の高い療養環境を提供する、④潤いある、生活感の溢れる施設とする、⑤地域に貢献し、地域と交流する施設とする――5つです。

制度的な特徴としては、介護保険上は介護保険施設、医療法上は医療提供施設として位置づけられていることです。医療と介護が融合した施設といえます。もう1点、在宅施設として位置づけられていることもポイントです。つまり、患者さんが病院から介護医療院に入所すると在宅復帰率にカウントされるということです。地域の病院にとって介護医療院は重要な存在になると思います。

支援策の後押しもあり数年で5万床の転換が進む 

──介護医療院の類型は2つに分かれていますね。

鈴木 具体的にいうと、介護療養病床相当のサービスを提供する「型」と、介護老人保健施設相当以上のサービスを提供する「型」に分かれています。それぞれの大きな違いは医師の数です。「型」は入所者48人に対して1人(481)となっていますが、「型」は入所者100人に対して1人(1001)となります。当然、「型」には、より医療的ケアが必要な人が入所することになります。

 

──実際に提供されるサービスの特徴となると、どういうことが上げられるのでしょうか。

鈴木 最期まで尊厳が保持された看取りに対応するとともに、人生の最終段階における医療介護に関する事前の話し合い、「ACP」(アドバンス・ケア・プランニング)にも積極的に取り組むことです。家族と本人に、どのような亡くなり方を希望するのかをしっかり話し合い、医療・介護チームがそれを実現していくわけです。

また、状態に応じた自立支援や寝たきり防止のための生活期リハビリテーションを提供することも大きな役割の1つです。自宅への復帰までを見据えたものです。

そして、地域に貢献し、地域に開かれた交流施設であるということです。ボランティアの積極的な受け入れをはじめ、地域住民向けの介護教室などの開催、住民の集いの場となるサロンや認知症カフェの設置などを通じて、介護医療院が地域でどのような役割を果たしていくのかを広く理解していただくための活動も行います。

 

──現段階において、介護医療院は介護療養病床等からの転換しか認められていないという理解でよろしいでしょうか。

鈴木 厳密には新設することも可能ですが、市町村の総量規制の対象になるので実際には難しいでしょう。介護療養病床等からの転換であれば、その対象に含まれないことになっています。

 

──スタートしたばかりということもあり転換は進んでいませんね。

鈴木 20187月末時点で20施設、1,400床です。実際、転換に向けて具体的に動いている介護療養病床等は多いのですが、行政の対応が間に合っていないということもあります。

転換の対象は、介護療養病床と医療療養病床、新型老健となりますが、医療療養病床1は、介護医療院に転換することで減収となるので現実的ではありません。実際は、介護療養病床の約6万床と、医療療養病床251の約7万床のうちの半分(残りの半分は「1」に転換すると想定)、そして新型老健の約7,000床の転換が予測されます。つまり、約10万床が総量規制に関係なく転換できるわけです。少なくとも数年のうちには5万床近くまで転換が進むと考えています。

 

──支援策が講じられていることも転換の後押しとなりますね。

鈴木 そうですね。たとえば、施設基準では入所者1人当たり8㎡と定められていますが、大規模改修を行うまでは6.4㎡でよいとされています。さらに改修工事費は行政が全額補助してくれます。

また、さまざまな加算も設けられています。たとえば、「移行定着支援加算」(93単位/日)は、地域住民を含めて入所者・家族に介護医療院への転換について説明を行うことで、3年間の時限措置ですが、1人当たり193単位(1年間に限る)の算定が可能です。これは経営的に非常に大きいです。たとえば、50床を介護医療院に転換した場合、単純計算で年間1,800万円の増収です。

「正確な加算算定」「支援策の活用」「早期転換」が安定経営の要

──鈴木先生が経営する鶴巻温泉病院でも病床の一部を介護医療院に転換予定だとお聞きしました。

鈴木 当院は現在、回復期リハビリテーション病床を中心に、一般病床、医療療養病床、緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟など、591床を有しています。もともと介護療養病床が180床ありましたが、廃止の流れを受けて2014年に医療療養病床に転換した経緯があります。当時、介護療養病床には医療区分1の人が180人いましたが、この4年間で減らし、今50人ほど残っています。この部分を介護医療院にする予定です。

 

──転換を進めるなかで、難しいことなどはありますか。

鈴木 まず病床数などについてどうするかです。もとの病室は4人部屋なのですが、そのうち2つは2人部屋にして、その他に面談室のようなものをつくり、全体を60床から52床に減らそうと考えています。できる限り効率的に質の高いサービスを提供できる体制を整備するという意味です。

あとは病床と病床の間仕切りについてです。カーテンだけでは認められず、動かすことができないものを設置しなければなりません。先日、県に見てもらい、デザインの一部について指導を受けたので改善する予定です。間仕切りに関しては都道府県によって考え方が少し異なるので相談しながら進めていくことをお薦めします。

 

──スタッフの教育、補充などについてはいかがでしょうか。

鈴木 当院では2014年まで介護療養病床を持っていたので、スタッフは介護ケアに関する一定の知識、技術は持っています。また、介護職に対する教育に力を入れてきましたので、その点はあまり心配していません。たとえば、当院には看護助手が約150人在籍していますが、そのうちの120人は介護福祉士です。10年以上のベテランスタッフが約50人もいます。

介護医療院の開設にともなって、新たにスタッフを補充する必要もなく、現状のスタッフの配置換えを行うだけです。今までの人材をそのまま活用することができるのも介護医療院への転換のメリットだと思います。

問題は「処遇改善加算」です。現在、介護施設の介護職にだけ「処遇改善加算」を出していますが、実態はどうであれ病院に介護職はいないことになっているので加算はつきません。では、病院内に介護医療院ができたらどうなるのか。これまで看護職員として働いてきたスタッフが、介護福祉士として介護医療院に異動すると処遇改善加算が出ます。つまり、同じように病院で働いているのに、介護医療院の介護職だけ給料が上がり、他の人たちの給料は変わらないということが起きます。院内で反感が出ることは容易に想像できます。この部分は政策的なことも含め対応が求められます。

 

──介護医療院の安定経営を実現するためには、どのような視点が必要になるのでしょうか。

鈴木 1つ目は設けられた加算をしっかり算定することです。時限措置のものもありますので、その点も含めて確認することです。

2つ目は、行政が改修費用等を支援してくれますので、それを上手く活用することです。今であれば手厚い支援がありますが、いつなくなるかわかりません。そういう意味では、早急に転換の意思決定をし、行動することが大切です。

3つ目は、早く転換して組織の強化を図ることでしょう。加算がなくなっても安定経営ができる体制を早く整えることが必要です。

変化を進化と捉え地域の人々を笑顔にしたい

──この度、鈴木先生は介護医療院協会の会長に就任されたわけですが、今後の取り組みについてはどうお考えですか。

鈴木 まずは、介護医療院が地域のなかでどういうポジションになるのか、その流れを見極めていきたいと考えています。その上で、実際に運営するなかでの問題点を洗い出し、その改善策を検討していきたいと考えています。

あとは、現在、日本慢性期協会の会員が約1,100、そのなかに介護医療院協会があります。その会員らの意見を集める場をつくることが大事だと考えています。

介護医療院の浸透とともに、組織体制を1つずつつくり上げていきたいと考えています。

 

──最後になりますが、介護医療院への転換を考えている経営者にメッセージをお願いします。

鈴木 私のモットーは「変化を進化に、進化を笑顔に」です。介護医療院は大きな変化です。でもこの変化に対応することで、必ず進化できるはずです。そのことが、地域の高齢者やその家族の幸せ、笑顔に変わるのです。介護療養病床と医療療養病床2の廃止は覆りません。何かしらに転換しなければならない。前に進まなければなりません。早急な意思決定と行動を期待しています。

 

(平成30年914/構成・本誌編集部 佐々木隆一)