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院長先生必見!新人スタッフを戦力化するための5つのポイント(前編)

新人スタッフ戦力化の礎は、入念な事前準備にあり

株式会社ビー・プランニング 人材育成部門代表 磯部裕子

医療現場が抱える大きな問題の一つである人手不足。せっかく採用しても早々に離職してしまうことも大きな問題です。そこで、新人スタッフを真の戦力にするノウハウを2回にわたり紹介します。

 

今回は、新人スタッフを迎えるに当たり準備しておくべき「5つの事項」と、新人スタッフがぶつかる「3つの壁」をお伝えします。

迎える側がこれらを共通の認識として理解していることが、新人スタッフをクリニックに定着させ、戦力化させるための礎となります。

 

戦力化のポイント1 クリニックとして準備しておくべき5つの事項

 

①妥協のない採用をする

クリニックにふさわしい理想のスタッフ像を明確にした上で、妥協のない採用をします。

 

戦力化は採用から始まっています。新人スタッフをクリニックに定着させ、真の一員(=戦力)にするために、まず大切なことは、どのような人財がクリニックに必要であるかを明確にすることです。

人手不足の医療業界で、単なる数合わせではない採用をすることは大変困難かもしれませんが、ここに時間と労力、時にはお金をかけることが離職率を下げ、クリニックにとって戦力となる人財を確保する最大のポイントです。

クリニックでは、優れた設備を備え、信頼のできる医療技術を提供すること、つまりハード面のサービスが大切であることはもちろんです。しかし、それと同等以上に大切なことが、人が織りなすソフト面のサービスです。それを支えるのが、人財(ひとのたから)と呼ばれる戦力化されたスタッフです。

 

②理想のスタッフ像を描く

クリニックの経営理念と目標を元に、理想のスタッフ像を描きます。

 

理想のスタッフとは、クリニックが大切にしている想いを共有し、その想いを具現化する(=クリニックの目標を達成する)ための専門的な知識とスキルを持ち合わせているスタッフのことです。採用に際しては、理想のスタッフ像を軸に考えることが肝要です。

新たなスタッフを迎えるに当たって、クリニックの課題を分析することもよいでしょう。クリニックが抱える課題を解決するために必要な人財も、理想のスタッフと言えるからです。

 

③先輩全員がロールモデルになる

院長や先輩スタッフ全員が、ロールモデル(=お手本)にふさわしいか、自らを振り返ります。

 

クリニックの経営理念や目標を共有した先輩たちが、自らの言動により組織としてのベクトル(=目指す方向性)を示すことで、新人スタッフは仕事に対してどのように考え、また、実践していくのか、さらには、職場の人間関係をどのように築いていくのかを学びます。

したがって、新人スタッフを迎えるに当たり、院長をはじめ先輩スタッフは、あらためて組織の想いを共有し、自らの行動を見つめ直し、ロールモデルとしてふさわしいかを考える必要があります。

 

④育成計画を立てる

効果的な教育を実践するため、そして教育内容を平準化するために、育成計画を策定します。

 

OFF-JTがふさわしい教育内容の整理をし、OJTでの教育内容については偏りやが出ないよう、チェックリストを作成するとよいでしょう。チェックリストには、知識やスキル面の項目だけではなく、クリニックにふさわしい身だしなみや接遇面の項目も洗い出します。さらに、OJTで実践できた内容、口頭で説明しただけの内容などを見える化しておくと、その後のフォーローアップを効果的に進められます。

新人スタッフの育成計画は、単独で考えるのではなく、中長期的な教育プランの中のファーストステップとして策定するのが好ましいです。教育担当者も新人スタッフも、中長期的な教育プランを確認できることで、新人スタッフにとってのキャリアビジョン(=なりたい姿)を描きながら教育を進めることができます。

 

⑤新人スタッフの特徴を知る

新人スタッフの特徴を知った上で、自己肯定感を育める関わり方や教育のあり方を考えます。

 

時代の変化とともに、若い人たちの特徴も変わってきています。

近年の傾向としては、家庭の経済状況や学校教育の考え方の変化、ITの進化などにより、失敗から学ぶことや叱られる経験、他者との競争、さらには、自ら工夫し考えること、人と関わる経験が不足しているといわれています。そのため、困難に立ち向かうことや、あらゆる世代の人と健全な人間関係や信頼関係を築くことが苦手であるといわれています(図表)。

 

戦力化のポイント2 新人スタッフにとっての3つの壁を知る

 

①文化の壁:組織風土や組織文化

これらは、クリニックの人間関係や仕事の進め方など、時の流れとともに、クリニックで働く先人たちが大切に育んできたものです。クリニックで働く者にとっては、大事にしたい決まりごとや暗黙のルールです。

気心が知れた仲間や横のつながり中心の学生生活をしてきた新人スタッフにとって、この文化の壁が大きな壁となります。一日でも早く文化の壁を感じなくなるように、新人スタッフの受け捉え方も大切にしながら、なぜこのような文化があるのか”“なぜ文化を大切にしているのかを言葉や態度にし、新人スタッフが価値観を共有して健全な人間関係を築けるように努めることが大切です。

 

 

②技術の壁:学校で学んできたことと日々向き合う仕事の違い

いくら学校で実習を重ねてきたとしても、その学びが通用しない場面も多く、また、それぞれのクリニックでのやり方に馴染めるようになるまで、新人スタッフは日々、自分の無力さや知識不足を実感し、ストレスを感じています。

憧れの職業に就き、今までの学びを活かしテキパキと仕事をし、患者様やそのご家族に喜ばれ、クリニックの人たちにも認められたいという理想や期待もあることと思います。

しかし、現場で働き始めると、理想と現実の差に大きく落胆することになります。いわゆるリアリティショックです。

 

③役割の壁:職場での自分の役割が見出せない

慣れない環境下で人間関係づくりに苦慮し、思うほどに仕事ができないことに無力感を感じるものの、新人だからという理由が通じない責任ある仕事のなかで、新人スタッフは自分の居場所がないことに息苦しさを感じます。

自分の役割が見出せないことはモチベーション低下につながります。新人スタッフにもできること、新人スタッフにしかできないことを積極的に任せ、頑張りを認めることが大きな自信になります。

個々の適性を認めて強みを引き出し、専門的な役割を与えることも大切です。自分の居場所が見つかることが、組織に根付くスタッフを育成する礎になります。

 

クリニックによっては、1年に1度、新人スタッフを迎えるところもあれば、欠員が出たときにだけ募集をするクリニックもあるでしょう。新人スタッフを迎える準備をすることは、クリニックの現状を、院長をはじめスタッフ全員で確認できる機会であり、初心に戻る機会でもあります。

時代は変わっても、新人が学ぶ第一歩は、先輩を真似ることから始まります。戦力化の最大のポイントは、入念な準備と新人に関わる人の心得と言動です。

「学ぶ」と「真似る」は、いずれも「真似ぶ」という言葉を語源としています。

次回は、効果的な教育のための具体的なノウハウと、モチベーションを維持しながら明るく元気に仕事に取り組むために必要なメンタルヘルスケアについて解説します。

(「TKC医業経営情報」2019年1月号より)