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正しい情報・知識を啓発し「はつらつ」生活をサポート

超高齢社会が進展するなか、健康で自律した生活を送るための方法として、「アンチエイジング」が注目されている。近年、そのメカニズムの研究も進み、医学的・科学的にさまざまなことが明らかにされてきた。今号では、日本抗加齢医学会の堀江重郎理事長に、アンチエイジングの進化の現状やその役割などについて話をうかがった。

堀江重郎
一般社団法人日本抗加齢医学会理事長
聞き手/
本誌編集委員
丹羽 篤
Horie Shigeo

東京大学病院救急部で研修後、泌尿器科学を専攻。東京大学病院、武蔵野赤十字病院、都立墨東病院、米国テキサス大学などで勤務。1995年、国立がんセンター中央病院スタッフ、1998年、東京大学医学部講師。2002年、杏林大学医学部助教授。2003年、帝京大学医学部主任教授(泌尿器科学)。2012年から順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授。

アンチエイジングの本質はDNA本来の機能を活かすこと

──そもそもアンチエイジングとは、どのようなものなのでしょうか。

堀江 人間の遺伝子というのは生命活動のなかでさまざまなダメージを受けています。たとえば、私たちは毎日、食事をしてエネルギーをつくりますが、それにともない発生する活性酸素により、遺伝子が障害等を受けます。こうした遺伝子の変化、劣化が「加齢」、つまり「エイジング」であり、それを防ぐのがアンチエイジングということになります。

近年、アンチエイジングが注目されるようになったのは、医学的・科学的にそのメカニズムが明らかになってきたからでしょう。そして、その情報・知識が社会に浸透しはじめ、個々人が生活のなかで実践できるアンチエイジングを考え、アクションを起こすようになりました。一種の行動変容が生まれてきたということです。

 

──実際、アンチエイジングの研究というのはどこまで進んでいるのですか。

堀江 遺伝子は活性酸素をはじめ放射線や紫外線、精神的なストレスなど、外部・内部の影響を受けて劣化していきます。これが認知力や筋力、心血管機能、免疫力などの低下につながり、病気の発症にも関係するわけです。そのなかで近年では遺伝子の劣化を防ぐたんぱく質や酵素があることがわかってきました。

また、「サーチュイン」と呼ばれる長寿遺伝子の存在も明らかになりました。網のように螺旋状に巻かれた状態の遺伝子は、転写される時点で一旦、ほどかれます。この時に活性酸素によって傷がつきやすくなるのですが、「サーチュイン」は、ほどかれた遺伝子を再度、しっかりと締め直してくれる働きがあります。そして、「サーチュイン」の働きを活性化するには、「運動する」「食べ過ぎない」「食事を抜く(ファスティング)」ことが有効であることは、すでに研究者のなかで知られています。

さらに2015年には、ある画期的な研究成果が報告されています。若いネズミの臓器と年老いたネズミの臓器をつなげたところ、年老いたネズミの身体の機能が若返ったのです。詳細なメカニズムが明らかになれば、医学的なアプローチで人間の身体を若返らせることも十分に可能だということです。

さらにいえば、「iPS細胞」も究極のアンチエイジングといえます。これは、わかりやすくいえば、生活のなかで“サビ”ついた遺伝子をまっさらにして、受精卵に近いところから再スタートさせるというものです。

 

──医学的・科学的にいろいろなことがわかってきているということですね。

堀江 DNA(デオキシリボ核酸)の一部に、生物の寿命に関係する「テロメア」という領域があることも明らかにされています。「テロメア」はすべての生物が持っていて、細胞分裂のたびに減少し、ある一定のところまで減ると細胞分裂が止まり、老化した細胞になってしまいます。

生物の寿命は「テロメア」の長さで決まります。それによると人間は、おおよそ120歳まで生きられることになっているのですが、多くの人は、その年齢に到達する前に亡くなってしまう。それは「エイジング」が起きているからです。つまり、「エイジング」は自然現象ではなく、いろいろな環境因子に影響しているということです。環境因子が寿命を短くしてるということがいえます。

日常のなかで、「あの人は見た目が若い・老けている」といった話題になることがあります。これまで、外見の印象は主観的なことと思われていましたが、ある研究で、その印象は誰が評価しても差がないことがわかりました。

そして、見た目が若い人というのは「テロメア」が長いのです。「テロメア」を補充する酵素がよく出ているからです。では、どうすればその酵素が出るのか。辛い思いや悲しい気持ちなど、心にストレスがない状態のときにその酵素が働くのです。少なくても、毎日、ストレスを感じている人に「あの人は見た目が若い」という人はいません。つまり、私は「はつらつ」と表現していますが、日常を「はつらつ」と生きることこそがアンチエイジングのカギであるといえます。

進展する高齢社会のなかで重要なファクターとなる 

──一方で、社会には本来的なアンチエイジングとは異なる疑わしいものなども広がっているような気がしますが。

堀江 まずは医学的・科学的に正しいアンチエイジングの考え方、知識を広く啓発していくことが大事なことだと思っています。実際、怪しげな商品、サービスなどが売られている現実があることは確かです。しかし、それも全面的に否定することはできません。なぜかというと、たとえ怪しげな商品であっても、それにより自分の気持ちが「はつらつ」とすれば、それが結果的にアンチエイジングにつながるからです。

そのなかで、私たちがまず伝えたいのは、アンチエイジングは、なにか特別なことをしなくても、高価な商品やサービスを購入しなくても、毎日の生活のなかでできることがある。心の持ち方がある。そのことを知っていただきたいと考えています。

 

──医療機関で提供されるアンチエイジングであれば、その信頼感は格段に高まると思います。実際の提供体制というのは、どのような状況にあるのでしょうか。

堀江 まず認識してほしいのは、今の医療において、何か特別なサービスを提供するのがアンチエイジングではないということです。

たとえば、高血圧に対して血圧を抑える薬を処方します。これだってアンチエイジングです。血圧が高いというのは活性酸素が増えて遺伝子がダメージを受ける状態です。これを薬で抑えているということになります。そういう意味では、今、医療機関で提供されている生活習慣病の治療をはじめとした慢性疾患の治療というのは実はアンチエイジングであるといえるのです。

他方、何かしらの注射をして白髪を黒くするといった類のアンチエイジングについては、医療機関での提供は進んでいません。再生医療法などの法律に抵触しない範囲のなかで、個々の医療機関の研究と創意工夫に委ねられている側面があります。

そのなかで、今、話題になりつつあるものとしては、自分の血液から傷を治す成分の血小板だけを集め、それを関節に注射することで加齢にともない劣化した関節の痛みを和らげる、または顔のシミを減らすといった取り組みをしているところはあります。

いずれにしても、見た目や機能的なアンチエイジングを提供する医療機関というのは、受けやすさ、金額、そしてエビデンス等を含めた“アクセス”を考えた場合、まだまだこれからというのが現状でしょう。


──今後、ますます超高齢社会が進展するなかで、アンチエイジングの重要性についてはどのように見ておられますか。

堀江 日本の高齢化率が年々、高まっているなかで、政府は今、働き方改革に代表されるように、「年齢に関係なく元気なうちは働いて社会に貢献してください」といっているわけです。たとえば、アメリカやイギリスは定年がありません。アメリカには、75歳の社長秘書や80歳の大学教授がたくさんおられます。

つまり、今後は年齢に関係なく、元気な人、スキルがある人、意欲がある人は積極的に社会参画するというような姿は自然の流れです。そして、それをサポートするのがアンチエイジングだと考えています。

たとえば、仕事をするには筋肉の維持が重要です。でも80歳の人が、スポーツジムに行って闇雲にトレーニングすれば膝も腰も悪くなるかもしれません。そのなかで整形外科医が80歳に合った運動カリキュラムを提供する。これもアンチエイジングでしょう。また、薬剤師が個々に合った適切なサプリメントを処方するというのもアンチエイジングです。今後は、AIが進化し、見た目年齢を評価して、それに合わせた適切な改善メニューを医学的観点から提供することだってできるかもしれません。

とにかく今後の超高齢社会において、アンチエイジングの浸透は重要なファクターです。そのなかで医療従事者が取り組むアンチエイジングにはさまざまな視点、そして可能性があるので、是非、この領域に目を向けてほしいと思っています。

 

──スタートしたばかりということもあり転換は進んでいませんね。

堀江 20187月末時点で20施設、1,400床です。実際、転換に向けて具体的に動いている介護療養病床等は多いのですが、行政の対応が間に合っていないということもあります。

転換の対象は、介護療養病床と医療療養病床、新型老健となりますが、医療療養病床1は、介護医療院に転換することで減収となるので現実的ではありません。実際は、介護療養病床の約6万床と、医療療養病床251の約7万床のうちの半分(残りの半分は「1」に転換すると想定)、そして新型老健の約7,000床の転換が予測されます。つまり、約10万床が総量規制に関係なく転換できるわけです。少なくとも数年のうちには5万床近くまで転換が進むと考えています。

 

──支援策が講じられていることも転換の後押しとなりますね。

堀江 そうですね。たとえば、施設基準では入所者1人当たり8㎡と定められていますが、大規模改修を行うまでは6.4㎡でよいとされています。さらに改修工事費は行政が全額補助してくれます。

また、さまざまな加算も設けられています。たとえば、「移行定着支援加算」(93単位/日)は、地域住民を含めて入所者・家族に介護医療院への転換について説明を行うことで、3年間の時限措置ですが、1人当たり193単位(1年間に限る)の算定が可能です。これは経営的に非常に大きいです。たとえば、50床を介護医療院に転換した場合、単純計算で年間1,800万円の増収です。


「正確な加算算定」「支援策の活用」「早期転換」が安定経営の要

──鈴木先生が経営する鶴巻温泉病院でも病床の一部を介護医療院に転換予定だとお聞きしました。

堀江 当院は現在、回復期リハビリテーション病床を中心に、一般病床、医療療養病床、緩和ケア病棟、地域包括ケア病棟など、591床を有しています。もともと介護療養病床が180床ありましたが、廃止の流れを受けて2014年に医療療養病床に転換した経緯があります。当時、介護療養病床には医療区分1の人が180人いましたが、この4年間で減らし、今50人ほど残っています。この部分を介護医療院にする予定です。

 

──転換を進めるなかで、難しいことなどはありますか。

堀江 まず病床数などについてどうするかです。もとの病室は4人部屋なのですが、そのうち2つは2人部屋にして、その他に面談室のようなものをつくり、全体を60床から52床に減らそうと考えています。できる限り効率的に質の高いサービスを提供できる体制を整備するという意味です。

あとは病床と病床の間仕切りについてです。カーテンだけでは認められず、動かすことができないものを設置しなければなりません。先日、県に見てもらい、デザインの一部について指導を受けたので改善する予定です。間仕切りに関しては都道府県によって考え方が少し異なるので相談しながら進めていくことをお薦めします。

 

──スタッフの教育、補充などについてはいかがでしょうか。

堀江 当院では2014年まで介護療養病床を持っていたので、スタッフは介護ケアに関する一定の知識、技術は持っています。また、介護職に対する教育に力を入れてきましたので、その点はあまり心配していません。たとえば、当院には看護助手が約150人在籍していますが、そのうちの120人は介護福祉士です。10年以上のベテランスタッフが約50人もいます。

介護医療院の開設にともなって、新たにスタッフを補充する必要もなく、現状のスタッフの配置換えを行うだけです。今までの人材をそのまま活用することができるのも介護医療院への転換のメリットだと思います。

問題は「処遇改善加算」です。現在、介護施設の介護職にだけ「処遇改善加算」を出していますが、実態はどうであれ病院に介護職はいないことになっているので加算はつきません。では、病院内に介護医療院ができたらどうなるのか。これまで看護職員として働いてきたスタッフが、介護福祉士として介護医療院に異動すると処遇改善加算が出ます。つまり、同じように病院で働いているのに、介護医療院の介護職だけ給料が上がり、他の人たちの給料は変わらないということが起きます。院内で反感が出ることは容易に想像できます。この部分は政策的なことも含め対応が求められます。

「健康の追求」は共通の目標共通言語で共有化が必要

──日本抗加齢医学会のなかでは今、どのような研究、議論が進められているのでしょうか。

堀江 日本抗加齢医学会には約8,500人の会員がいます。その多くは医師などの医療の専門職です。それぞれの立場、知見から研究発表や議論などを行っています。

そのなかで、ホットなテーマとしては、まず活性酸素の発生を抑える「ポリフェノール」の研究があげられます。その効果は非常に高いことが明らかになっているのですが、それをサプリメントとして摂取した場合の身体へ吸収の度合いはまだわかっていません。そこをどのように解決していくかは重要な課題だと思っています。

あとは遺伝子の研究でしょうか。持って生まれた遺伝子の情報と健康とをどのように結びつけていくか。遺伝子のなかにはエイジングしやすい領域があるので、それを詳細に読み解くことで、個々に合った健康指導が可能になります。

また、医療とは少し離れるかもしれませんが、今、不動産業者と議論をしているのが高品質のアンチエイジングの住まいの可能性です。今、バリアフリーが当たり前の社会になりつつあるわけですが、バリアがあると身体が鍛えられるという考え方もあります。パブリックな場は当然、バリアフリーであるべきですが、プライベートの場はバリアがあったほうがよい。たとえば、坂の上に自宅があるというのは大きなバリアですが、そこに住んでいる人は長生きするというデータがあります。バリアはアンチエイジング効果が高いということです。

このように、当学会ではさまざまな医療従事者等がアンチエイジングについて研究、議論を行っているわけですが、そのなかで感じるのは、結局、どの診療科、専門職も「人々を健康にするためにはどうするか」というアンチエイジングの考え方と同じことを追求しているということです。今は、そのことがそれぞれの違った言語で議論されていますが、今後は共通言語として確立し、医療全体の共通の目標として共有できるようにすることが重要ではないかと考えています。そうなれば、専門医の連携も密になり、研究のさらなる進化も期待できると考えています。

──後の重点的な取り組みなどについて、お聞かせください。

堀江 当面の目標としては、会員数1万人の達成です。そのためには、よりアンチエイジングの有効性等を専門職の方々に伝えていくことが大切だと考えています。

また、当学会はいろいろな領域の専門家が集まっています。このなかで、遺伝子に関する臨床研究やオフィスでのアンチエイジングの方法などの社会的な関与のあり方など、いくつかの柱を軸に、私たちの研究成果を積極的に世界に発信するとともに、世界中の研究成果を取り入れていきたいと考えています。アンチエイジングは日本だけで発展していくものではありません。アメリカ、ヨーロッパ諸国、韓国など、さまざまな国で研究が進められています。積極的な国際交流を行うことも私たちの役割だと考えています。

アンチエイジングは自院の付加価値を高める

──今後、アンチエイジングが社会に広く浸透していくための課題については、どのように見ておられますか。

堀江 最もアンチエイジングの効果を発揮するのは、個々に合った生き方をすること、いわゆる「はつらつ」と暮らすことです。そして、そこに標準的な形があるわけではありません。標準化できないということは、安価に提供するのは難しいという側面があることは否定できません。つまり、一種の自己投資です。個人の責任判断でアクションを起こしていくということになります。

1人ひとりが「健康に自己投資する」という意識が醸成されれば市場がどんどん活性化するはずです。そうなれば、アンチエイジングはより高度化し、発展し、浸透していく可能性が出てくると思っています。

 

──自己投資ということになると、経済的な負担などから公平性などを担保するのが難しくなるということもありますね。

堀江 確かにそうした側面もあるのかもしれませんが、アンチエイジングは、巷にある高額な商品やサービスを購入するだけではありません。繰り返しになりますが、もっとも効果が高いのは「はつらつ」と生きることなのです。友達と趣味を楽しむ、仲間と飲み語る。そこにはお金はかからないわけです。では、仲間がいない人はどうするのか。そこは行政などによる地域コミュニティづくりが重要になります。

また、今後、アンチエイジングに関連した医学、科学が発展すれば、それにともない効果的な薬やサプリメント、サービスなどがある程度、標準化され、安価に提供できるようになるはずです。そのためにも、継続的な研究が求められるということです。

 

──最後に、医療機関の経営者にメッセージなどがありましたらお願いします。

堀江 地域の医療機関には、保険診療という標準化されたサービスを地域の方々に届けるという大きな役割がありますが、今後、地域のなかで生き残っていくためには付加価値が非常に大事になると思うのです。そのなかでアンチエイジングの情報を患者に提供することができれば、それは大きな付加価値になるのではないでしょうか。医師から勧められれば、信頼感も違いますし、患者も「よし、やってみよう」となると思います。患者の「はつらつ」とした生き方をサポートしてほしい。当学会に参加いただければ、たくさんのヒントを得られるはずです。

 

(2019年3月8/構成・本誌編集部 佐々木隆一)