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2024年度の「同時改定」が医業経営に与える影響とは

政府推計によれば、2040年までに団塊ジュニア世代が65歳以上となり、高齢者人口はピークを迎える。少子高齢化がより深刻化し、医療・介護給付費は、経済成長を上回るペースで増加し続けている。
そのような中で、いよいよ来年、6年に1度の診療報酬・介護報酬の同時改定が行われる。その方向性はどのようなものなのか。九州大学名誉教授の尾形裕也氏に話をうかがう。

織田正道 氏 尾形 裕也
九州大学 名誉教授

聞き手/ TKC全国会医業・会計システム研究会 広報委員会委員 若山由希子
Ogata Hiroya

東京大学工学部、経済学部卒業。厚生省各局、OECD事務局、在ジュネーヴ国際機関日本政府代表部一等書記官、千葉市環境衛生局長、国家公務員共済組合連合会病院部長、国立社会保障・人口問題研究所研究部長、九州大学大学院医学研究院教授、東京大学政策ビジョン研究センター特任教授等を経て、2013年より現職。

過去の同時改定の色彩は異なる 今後は毎回の同時改定の検討を

──来年は診療報酬と介護報酬の同時改定が行われます。大きな改定となることが予想されますが、その意義についてお聞かせください。

尾形 現時点では、「中央社会保険医療協議会(以下、中医協)」で踏み込んだ審議もしていませんので、具体的な内容はお話しできないことを、まずはお断りしておきます。
 そもそも同時改定が始まったのは、言うまでもなく介護保険制度ができた2000年以降になります。医療と介護の報酬改定が同時期に行われることから、基本的な見直しなど大きな改定になると言われてきていますが、2006年、2012年、2018年の過去の同時改定を見ると、それぞれ色彩はかなり異なっています。
 たとえば2006年は、小泉構造改革の下、診療報酬本体△1.36%という史上最大のマイナス改定でした。その中で7対1看護を入れるなど、大きな改定があったことで、相当ハレーションがありました。
 2012年は民主党政権下での改定で、1.38%というプラスの改定率でしたが薬価等も△1.38%と、限りなく0に近いものでした。
 前回の2018年は、改定率だけを見ると0.55%と、それほど大きくありませんが、いろいろな改定項目が盛り込まれていました。
 この同時改定について、個人的な見解を申し上げると、6年ごとにあるのが当たり前のように思われていますが、それについて私は疑問に思っています。介護報酬は確かに、介護保険法を読むと3年を1期として事業計画を組むとなっているので、3年ごとに介護報酬改定を行うのは自然です。
 しかし、診療報酬については2年に1回改定をすることはどこにも記されておらず、単なる慣習です。これだけ医療と介護の連携が重要で、地域包括ケアシステムや地域医療構想においても、医療と介護にまたがったことを整備していこうとしているのですから、診療報酬も3年に1回でよいのではないかと考えています。すると、毎回、医療と介護にまたがった大きな改定ができることになります。
 ご存じのように医療計画においては、前回の第7次医療計画から、従来は5年を1期としてきたものを、6年を1期としたことで、そこに2つの介護の事業計画が入ることになり、平仄を合わせることができました。

──毎回の同時改定で、医療と介護の両方のプラス・マイナスが反映できるということですね。

尾形 その通りです。特に高齢者医療などは非常に隣接している分野です。介護医療院という存在を考えれば明らかです。そういう意味では統一した目線で見ていく必要があると思います。
 地域医療構想においても単に医療機関の病床数のことだけでなく、療養病床の転換先まで、つまり介護施設への転換まで考えている。そこがきちんと検討されていないと病床の転換も進みません。地域医療構想と地域包括ケアというのは裏腹の関係なのだと思います。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──地域医療構想の目標年次である2025年に向けて最後の同時改定となるわけですが、地域包括ケアの体制はかなり整ってきたと見ていいのでしょうか。

尾形 よく「地域医療構想は進んでいないのではないか」とおっしゃる方もいますが、全体として見たときに進んでいないことはないと思います。その一方で、体制整備に少し時間がかかっているのも事実です。ですから、ここからあと1~2年でどこまで当初示した必要病床数に収斂させていくか、もう少しスピードアップする必要があるのではないでしょうか。

──要因としては、新型コロナの影響も大きかったのでしょうか。

尾形 それは事実としてあったと思います。ただ一方で、むしろコロナ禍によって地域医療構想をより一層進めなければいけなくなったともいえるでしょう。つまり地域医療構想をつくったときに想定していた少子高齢化の状況が、コロナ禍によってさらに加速してきたわけです。そういう意味ではコロナ禍によって少し停滞したところはありますが、一方でさらに進めないといけなくなった側面の両方があると思います。

生産年齢人口が1,400万人減少 2040年に向けた体制整備を

──2025年が近づくにつれて、ポスト2025年とか、2040年という言葉も出てきていますね。

尾形 明確に必要病床数まで示しているのは2025年までで、まだやらなければならないことがあります。他方で、今回の中医協の資料を見ていると、2040年を意識した表現がありますし、ポスト2025年も見据えた同時改定であるという認識も持っています。医療介護総合確保促進会議では先般、総合確保方針の改正をしました。その別添資料に「ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿」が取りまとめられていて、中医協でもそれを踏まえることになっています。
 この内容は非常に興味深いものです。2025年では団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)になり、高齢者人口も増加します。2040年では、高齢化はまだ進むのですが、増加ペースが緩やかになっていき、生産年齢人口の減少が加速します。厚生労働省の資料によれば、2020年時点から約1,400万人が減少します。ここが2025年と2040年の違いの1つです。医療や介護の体制も生産年齢人口が相当減ってくることを踏まえて考えなければなりません。
 くわえて、「外来患者数は2025年ごろにピークを迎える」「入院患者数は2040年ごろにピークを迎える」「在宅の患者数は2040年以降にピークを迎える」と、3つ書き分けています。この辺りをどう見ていくかが大事です。また、今話したことはあくまでも日本全体の姿であって、地域差が相当大きいことも踏まえる必要があります。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──生産年齢人口の急減は、制度の持続可能性にも大きく影響します。

尾形 この総合確保方針でもやはり給付と負担のバランスについて触れられていて、どういう制度を考えるにしてもそこは不変です。
 2025年を目途とした改革においても、税と社会保障の一体改革で、消費税を増税し、その増税した財源はすべて社会保障に充てることで、地域医療構想を推進してきた背景があります。同様に、2040年をにらんだとき、給付と負担の議論はまだ始まっていませんが、その議論を抜きにすると絵に描いた餅になってしまいます。
 2025年が目標年次のとき、最初に消費税増税を打ち出したのは2008年の社会保障国民会議で、17年前となります。その事実を踏まえると、仮に2040年を目標年次とした場合、今年から議論を始めなければならないことになります。すでにビジョンがある程度出ていないと本当は間に合いません。待ったなしの状況です。

医療・介護を魅力ある職場に マグネットホスピタルを目指す

──第8次医療計画や医師の働き方改革、医療DXなど、医療を取り巻く環境は大きく変化しています。今回の改定ではそれらの動向を踏まえ、広く意見交換をしながら進めていくようですね。

尾形 中医協でスケジュールが示されていて、まずは第8次医療計画、医師の働き方改革、医療DXについて議論をしていき、その後、入院、外来、在宅等の個別改定項目を議論する、二段階で審議していきます。
 第8次医療計画については、都道府県で動き出すのは来年4月からです。今回は、従来の「5疾病5事業」から、6事業目として新興感染症対策が入りました。医師の働き方改革も2024年4月から適用になっていますので、平仄が合います。医療DXというのは、昔から、あるいは今後ともずっと続けていくことなので、何かしらの推進の手当てをしていくでしょう。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──医師の働き方改革が始まると、経営が厳しくなっていくことが予想されます。

尾形 日本の医療の大きな特色として、医療というのは労働集約的なサービスだと考えられていますが、今後はさらに労働集約的な方向を取らざるを得ないと思います。日本は諸外国と比べ、病床数や医療機器などは世界一といってよいぐらい多いのですが、病床当たりの職員配置は手薄です。そのため、従来の診療報酬改定でも手厚くする方向をとり、ひと頃に比べ厚くなってきましたがまだ十分ではありません。その問題がコロナで浮き彫りになり、「医療崩壊」とか、「病床逼迫」などといわれました。これはもっともなことだと思います。
 これから生産年齢人口が減っていく中で、医療や介護側の提供体制として、人も集約していく方向を取らざるを得ないと思います。
 また、医療や介護の現場が魅力ある職場でなければなりません。あたかも磁石のように有能な人材を引き付ける魅力を持った「マグネットホスピタル」を目指していかなければいけない。働き方改革はそういうふうに捉えるべきだと思います。もちろん、医師だけでなく医療従事者の需給についても相当厳しくなるので、その中でこの問題も捉えていくべきだろうと思います。

202401_01-02

本誌編集委員 若山由希子

──人員の充足にも限りがあると思います。病床数の削減も進むのでしょうか。

尾形 そうですね。病床を減らすこと自体が目的ではなく、むしろたくさんの病床を維持していくのが非常に難しくなっていくということではないでしょうか。

──かかりつけ医機能にも何かしら手当てがあるのでしょうか。

尾形 かかりつけ医機能に関しては、「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」の中で医療法の改正法案が今、国会に出ています。それが通ったところで、あるいはさらに具体化されると、診療報酬等にどう反映させるかということになるのだろうと思います。
 私見ですが、診療報酬でかかりつけ医機能を評価することは結構なのですが、限界があります。たとえば診療報酬でかかりつけ医機能を発揮している診療所などの評価を高くすると、当該診療所にとっては報酬アップにつながりますが、今のような定率一部負担制の下では患者負担が上がってしまい、受診行動に対してはむしろマイナスで、矛盾が生じます。ですから本格的に行うなら、診療報酬上の評価だけでなく、患者の一部負担まで踏み込む。すると健保法改正の話になります。今、3割負担で統一されていますが、こういう場合は1割負担、こういう場合は5割負担などという仕組みにしないと、この問題は基本的には解決しないと思います。
 昨年の診療報酬の改定で、紹介受診重点医療機関を評価することになりました。あれはむしろ逆を攻めているわけです。つまりかかりつけ医から紹介されるほうの病院等を評価し、かかりつけ医に患者が来るようにしています。
 以前は、それほど患者負担についての議論はありませんでしたが、最近は相当、敏感になっています。ですから、患者の一部負担のあり方も含めて考えるべきではないかと思います。

機能分化と分担なしに医療連携はありえない

──医療、介護の連携面での課題についてお聞かせください。

尾形 「連携」とよくいわれますが、まず機能分化をして、その上で機能分担をしなければ連携はあり得ないと思っています。機能が重なっていたら連携はできないからです。自分の医療機関がどういう立ち位置なのか、いろいろな選択肢がある中でどこを選択するのか。まさに地域医療構想はそれを求めているわけです。自院のポジショニングを明確化すれば、おのずと連携先が見えてくるはずですし、そうでなければ相手も連携できません。
 また、かかりつけ医との関係でいえば、地域医療支援病院などはかかりつけ医を育てる責務があると思います。かかりつけ医はなったら終わりでなく、最新の医学知識を更新し続ける常日頃の「メンテナンス」が大切です。今の地域医療支援病院の要件にも、地域における研修などがありますが、かかりつけ医を育てることを使命として位置づけ、診療報酬で評価すべきだと思います。つまり、地域医療支援病院にはその地域の医療がきちんと回るようにする責任があるということです。その辺りはまだ改善の余地があると思います。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──そういう研修に介護も入ってこれるといいですよね。

尾形 そうですね。特に急性期の病院では、退院先をどうするかといったときに、今は「在宅」といっても自宅とは限らず、介護施設ということも当然ありますから、そういったところまで含めて考えないと、急性期病院としてもやっていけないのではないかと思います。

──医療機関は、ポスト2025年とか2040年などを見据えていく中で、どのようなことに注意しなければいけないのでしょうか。

尾形 やはり「総合確保方針」は注目してほしいですね。
 たとえば、「地域医療構想をアップデートし、これに基づき、さらに医療機能の分化・連携を進めていく必要がある」との記載があります。アップデートとはどういうことかわかりませんが、少なくとも今までの地域医療構想と全く違うものをつくるのではなく、これまでのものを更新して2040年に持っていこうとしていることが読み取れます。つまり、地域医療構想は2025年で終わりではないということです。
 また、「実現が期待される医療・介護提供体制の姿を関係者が共有した上で、そこから振り返って現在すべきことを考える形(バックキャスト)で具体的に改革を進めていくことが求められる」とも書かれてありますが、これはなかなか面白い表現だと思いました。
 これを読んで思い浮かべたのはドラッカーです。ドラッカーは、「明日何をなすべきかではない。明日のために、今日何をなすべきかである」と言っているのですが、それと似ていますよね。最初に将来の未来像を描き、それを実現するために今、何をしなければならないのか。ぜひ、お読みいただくといいと思います。

(2023年4月18日/構成・本誌編集部 伊藤之陽)