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「診療報酬・介護報酬」同時改定 クリニック経営への影響は

2024年、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬の同時改定が行われる。今回の改定は、超高齢化社会に対応するための医療・介護の体制整備や、医師の働き方改革、医療DXの推進、かかりつけ医機能の強化などを念頭に置いた議論が交わされている。クリニックにとって、どのような影響があるのか。医業経営コンサルタントとして活躍する細谷邦夫氏にお話を伺った。

細谷邦彦 氏 細谷 邦夫
有限会社メディカル・サポート・システムズ
代表取締役社長

聞き手/ TKC全国会医業・会計システム研究会 広報委員会委員 若山由希子
Hosoya Kunio

大学を卒業後、湘南鎌倉病院(現・医療法人徳洲会湘南鎌倉総合病院)に入職(総務課・医事課等)。その後、東日本メディコム株式会社などを経て独立。2002年に有限会社メディカル・サポート・システムズ代表取締役社長に就任。医療機関の増収や個別指導対策などを手掛ける。

施行時期は6月1日 後ろ倒しの影響は小さい

──2024年は診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定となります。地域包括ケアの目標年となる2025年を前にした最後の同時改定でもあり、クリニック経営にどのような影響をもたらすのかが注目されます。中医協での審議はこれから本格化するという状況ですが、現時点でのポイントについて伺っていきたいと思います。まずはコロナ特例措置が10月から変わり、大幅な縮小となりました。

細谷 クリニックに関していえば、10月以降はコロナの患者さんを診療して算定できる点数がほぼなくなったといっていい状態です。これではドクターのモチベーションが下がってしまいます。患者さんも3割負担で9,000円となれば「家で寝てます」ということになってしまう。実際にそういう患者さんもいらっしゃると聞いています。来年の改定ではコロナ対策も診療報酬に組み込まれ、外来感染対策向上加算の算定に変化があるかもしれませんが、医療にとって本当によいことなのか疑問に感じます。

──経営的にも影響を受けますし、同様に物価高騰も大きいですね。特に病院の光熱費や給食費がコストアップとなっています。医療機関を取り巻く環境が厳しくなっているなかでその対策は通常の報酬改定とは違った手当となるのか、注目されます。

細谷 診療報酬上で水道光熱費を評価するというのは、初再診料になってくるので、その引き上げとなれば当然、財務省が大反対するはずです。すると、何らかの加算でしのぐのか、あるいは何かの補助金とするのか、そういう手当の仕方になるでのはないかと思います。なかなか効果的な手立てがないというところだと思われます。

──やはり別建ての可能性が高いのでしょうか。

細谷 今のところ具体的な話になっていませんが、個人的にはそう思います。物価高が来年の春までに落ち着くとは思えませんが、一時的なものと判断されれば、診療報酬での評価は難しいと思います。ただ、クリニックのような小さな規模では、企業努力も限界がありますから、国の手助けはほしいところです。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──今回の診療報酬改定の施行時期は、「診療報酬改定DX」と称する取り組みのために6月に後ろ倒しになりました。この影響はあるのでしょうか。

細谷 クリニック等に関しては直接的な影響、メリットはあまりないと思います。
 あえて言えば、この2か月間後ろ倒しになる期間にシミュレーションする時間ができます。今回の改定でどれだけの影響が出るのか、それに対して何を減らすべきかなどを考えることができるのがメリットと言えます。

──その診療報酬改定DXを含めた医療DXでは、オンライン資格確認や、全国医療情報プラットフォームが整備されていきます。

細谷 流行り言葉のように使われているDXですが、業務効率化などをきちんと考えた上で取り組まなければ何の意味もありません。

──オンライン資格確認では、「やらない」と言っていた関与先のクリニックに、厚労省から突然電話が来て「義務化されたので3月までに導入してください」と言われてとても驚いていました。

細谷 逆に言えば医療の現場にはそれほど必要がないということです。急ぎすぎているような気がしています。DXやIT化というのは、放っておいても必要があればみなさん使います。20年前に電子カルテが出始めたときは、誰も見向きもしませんでした。それが今では、開業する先生方のほぼ100%が導入しています。

──改定の議論のなかで電子処方箋の導入の動向も注目されます。

細谷 電子処方箋の普及率はまだ低いのですが、オンライン資格確認のネットワークを使って行うということで、インフラ自体は整っています。あとは電子処方箋を出す先生と受け取る薬局が増えると進んでいく。実際、私もかかりつけ医に電子処方箋を出してもらいましたが、薬局側に戸惑いがあってスムーズにいきませんでした。医療DXというのは確かに便利ですが、使う側がきちんと理解していなければ使えないものになってしまいます。
 導入するにあたっては、たとえ補助金があっても、先生方がメリットを感じられなければなりません。電子処方箋は発行するまでに手間がかかり、患者さんにもまだメリットが理解されていません。
 ただ、私は電子処方箋はいいものだと思っています。特にクリニックの場合、患者さんがどのクリニックにかかっているかわからない。しかもどんな薬を飲んでいるかもわかっていません。患者さんの記憶というのは結構曖昧なので、薬の名前がわかっていても、たとえば10mgなのか20mgなのか、そういう細かいところまで覚えていない方も多い。ですから、電子処方箋もそうですが、オンライン資格確認でも薬剤情報を見られるので、活用すれば重複投与や医療事故を防止することにもつながると思います。
 とはいっても、これも院内処方の医療機関の薬剤データが出てこないので、活用となると不十分なところもあります。

かかりつけ医機能の評価は注目されるが不透明

──注目されるのは、かかりつけ医機能の強化ですが、今回の診療報酬改定でその評価も入ってくるのでしょうか。

細谷 かかりつけ医機能については社会保障審議会の医療保険部会のなかでようやく議論が始まったばかりなので、何かを評価するというところまではいかないように思います。
 中医協の外来の議論のなかで取り上げられていたのが、初診料の加算の機能強化加算、再診料の加算の地域包括診療加算です。これらは前回までの改定でかかりつけ医機能として評価されたところですから、ここは大きな変化はないと思われます。ただ、形だけの医療機関は締め出しにかかると思われます。
 そのほかで引き下げや要件が厳しくなるのではと懸念しているのは、慢性疾患の管理における生活習慣病管理料と特定疾患療養管理料※1ですが、ここは何回か前の改定から保険者のほうから「いかがなものか」という意見がついているところです。

──改定にあたっての基本認識の案では、医療・介護・障害福祉サービスの連携が重要とありますが、こうした連携の場面ではかかりつけ医機能が重要になると思われます。ケアマネジャーとの連携など、かかりつけ医の機能について、もう少し明確化しようとしているのでしょうか。

細谷 かかりつけ医機能というのはもう10年ぐらい前から、日本医師会や四病院団体協議会から出ていますが、あまりそれが浸透してない。クリニックの先生がイメージするかかりつけ医と、医療法によるかかりつけ医の定義との乖離は大きいように思います。また、患者がイメージするかかりつけ医とも乖離があります。このような齟齬が埋まらない限り、なかなか国がいうようなかかりつけ医機能というのは進んでいかないと思います。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──外来の機能分化についてはいかがでしょうか。

細谷 外来の機能分化に関しては、紹介受診重点医療機関が1つの結実したところだと思います。それよりも、国としてはやはり2040年を見据えて訪問診療をどうしても強化していきたいところだと思います。2025年が地域包括ケアシステムの1つの完成のメドですから、そこに至るにはまだまだ在宅医療が不十分というところです。

──在宅医療はかなり増えてきているようにも思いましたが。

細谷 確かに在宅を始める先生は増えていますが、医師数のなかの割合でいうと圧倒的に少なく、またそのペース以上に在宅患者が増えています。
 外来在宅共同指導料の見直しや、在宅時医学総合管理料の加算などで評価されるかもしれませんが、これからになります

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重点課題として人材確保が盛り込まれるか

──改定の基本的視点について、人材確保・働き方改革等の推進を重点課題にしてはどうかという議論が出ているようですが、人材確保であるとか、世の中の賃上げの動向を踏まえた診療報酬の改定の動きはあるのでしょうか。

細谷 これまで国は「民間の事業者なので人の確保の問題については関与しない」というスタンスでした。それが今回、重点課題にしようという話が出てきたので、驚いています。どのように議論が推移するのか、注目しています。
 ただ、実現可能かは別として、病院の医療職は準国家公務員化するのも一つの方法ではとも思います。

──病院団体は、物価高騰の影響なども含めて、大幅な入院基本料等の引き上げを要望していますが、クリニックではそれに代わるものはありません。

細谷 結局、その人件費を含めたところでの評価となると、やはり初再診料になるのでしょう。けれどもそこはハードルも高い。
 いささか暴論ですが、今の初診料を288点からキリよく290点にして貰えると喜ばしいですが、クリニックでは算定回数が多いとは言えない所もあるでしょう。再診料は算定回数も多いので、1点でも引き上げられたら、人材確保、水道光熱費の補塡になると思います。
 武見敬三厚労大臣は、医療、介護、障害福祉分野において人材不足によりサービス提供体制が危機的状況となっていることへの対応を必要とし、月6,000円程度の賃上げが妥当ではないか※2との認識を示していましたが、今後どのような手立てで実現させるのか注目されます。
 またサイバーセキュリティー対策について、定期的なコストとして出てきてしまうものになっています。電子カルテについても、それでお金を生むものではありませんが、それにかかる費用は大きいです。何かしらの補助が必要だと思います。

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2040年を見据えて 「連携」がキーワード

──そのほかに2025年・2040年を見据えたところでのクリニック経営に与える影響や必要な視点についてお聞かせください。

細谷 今回は2025年の地域包括ケアシステム完成前の最後の改定ということなので、外来に関してクリニックに大きなメリットがある改定ではないものの、総仕上げ的な意味合いが強いでしょう。ですから、クリニックの先生方におかれては、地域包括ケアということを今一度見直してほしいと思います。
 その地域での自院の立ち位置というのをしっかり見直して、自分たちが地域に対して何をできるのか、そこを捉えてしっかりアピールしていく。患者さんを取り込んでいくというところが大事なことだと思います。

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──関与先のクリニックでは、連携する介護施設があって、そこのケアマネとはつながりができているのですが、うまくいくときもあればそうでないときもあるようです。また、複数の介護施設やケアマネとの連携というのも難しいと感じているようです。

細谷 「連携」という言葉がでてきましたが、今回の改定や2040年を見据えたところでは、間違いなく「連携」がキーワードです。介護報酬改定においても連携という言葉が多く出てきています。ただ、現場のクリニックの先生方は何をすればよいのかつかめていない方が多い。確認していただきたいのは、まずは近隣の病院にはどういうところがあるのか。何かあったときに頼れるのが病院です。そこから先は、もちろん先生同士のつながりが一番いいのですが、まず普段から地域連携室や地域のケアマネと話をすることです。ここがそもそもゼロのところが多い。まず、この関係構築が地域包括ケアシステムの一員になることだと思うので、ここをしっかりやってほしい。そうすると現段階でも診療報酬で算定できる点数というのがたくさんあります。そこの報酬をしっかり拾い上げていただくことが大事だと思っています。
 地域包括ケアというと、在宅医療をしている医師の話だと思われる先生方もいますが、そうではありません。たとえば皮膚科の先生だって患者さんが在宅で寝たきりなら褥瘡ができるわけですから、連携の仲間に入るべきです。歯科との連携も大事です。医科と歯科と関連する疾患はたくさんあります。

参考①:BCP策定率(業種別)とBCPの見直し頻度の関連性

──2040年まで見据えれば、75歳以上の高齢者が多くなっていきますので、医療的なニーズも増えると思われます。

細谷 医療のニーズは増えていきます。ただデータ的には外来患者数は下がり始めています。そういう意味では結局、在宅のニーズが増える。そちらへ舵を切ることも大事になります。体力的に厳しいというのであれば、やはり連携となりますし、在宅医療専門ドクターも当然、視野に入ってくるということでしょう。
 それとオンライン診療も選択肢に入ってきます。今回のコロナ禍にあっては、オンライン診療が進んだことが1つのメリットといえるでしょう。われわれも、それまで半日潰して行っていた会議がコンピューターの前で終わる時代となって、業務効率化としてはとてもいいと思います。ただ、オンライン診療だけで完結するものではないので、対面と組み合わせるのがよいと思います。
 患者さんにも潜在的なニーズがあります。私も実はコロナ禍にあってオンライン診療、電話診療を主治医との間で試しました。電話で診療が終わると薬が届くので、患者目線で見たらとてもいい。ただ、あまりに簡便になりすぎるのも患者にとってよくないのですが、そこを上手に組み合わせてあげることで、日本の医療というのも2040年に向けて変わってくるだろうと思います。

※1:特定疾患療養管理料の要件とともに、かかりつけ医機能を評価する「併算定」について、その存否、要件見直しが議論に上がっている。今後の動向が注目される。
※2:11月6日、政府・与党は報酬改定までのつなぎの補助とすることを念頭に、介護職員や看護補助者の賃上げを行った事業所、医療機関を対象に1人あたり月額6,000円の賃上げ相当額を支給する措置を補正予算案に盛り込んだ


(2023年10月30日/構成・本誌編集部 川村岳也)