TKC会員による実践事例

実践事例

平井基也税理士事務所 平井基也会員(TKC中部会)

現場別の原価管理徹底に重点を置き、
体質改善を支援!

支援先企業の概要

業  種: 土木・建設業
年  商: 約4億円
従業員数: 11名
借  入: 地方銀行1行(保証協会つき)、日本政策金融公庫
経営状況: 数年前に大きな赤字を出したことをきっかけに、平井事務所が関与。不採算の仕事を受注しないようにする等のスリム化で一時黒字化したが、業績管理体制を社内に徹底できていなかったことから再び赤字に。金融機関からの依頼もあり、経営改善計画策定支援事業を利用した。

制度利用で保証協会の協力を得る

平井基也会員

平井基也 会員(TKC中部会)
平井基也税理士事務所

〒514-0802 三重県津市三重町津興492

職員数: 5名(うち税理士2名)
経営方針: 関与先の親身な相談相手たれ
行動理念: 「只今、本番!」「思いやりの実践」

── 「経営改善計画策定支援事業」をどのように捉えていますか。

平井 そもそも経営計画の策定は、事務所の当然業務として行ってきています。
 関与先の黒字決算割合が60%から70%ぐらいの時代には、経営革新計画の策定を支援して経営者が夢を語れるようにしていました。ところが、3年ほど前から黒字決算割合が下がってきたため、金融機関などの外部説明用という位置付けで、経営改善計画にも着手してきました。
 当事務所では経営計画策定は顧問料の範囲内で支援しており、報酬請求が必要となる「経営改善計画策定支援事業」の利用は、当初は考えていませんでした。今回当事業により支援した案件は、その関与先企業のメインバンクからの依頼によるものです。

── なぜそのメインバンクは当事業の利用を希望したのでしょうか。

平井 経営改善計画の中身についてはその金融機関に説明して納得してもらっていたのですが、その金融機関の担当者が信用保証協会に行って話をしても、保証協会は当企業の従前の印象を引きずっており、その内容を十分には理解してもらえないということがあったようです。保証協会の協力を得るため、当事業を利用して、保証協会にも直接経営改善計画の内容がスムーズに伝わる形にしたかったということかと思います。金融支援を受けるに当たって保証協会への説明が必要になるという視点が抜けていたと気付かされました。

企業の内部体制が赤字転落の要因

── 支援した企業は、どのような状況でしたか。

平井 土木・建設業で年商は約4億円。地元の老舗企業です。もともと平成19年頃に大きな赤字を出して、銀行の紹介で当事務所に移ってきました。移ってきた当初は年商ももっと大きかったのですが、決算内容を見ると会計面はかなりでたらめな状態で、会計面を今後正しく処理していくことを条件に引き受けました。
 窮境要因は、長期的には関与以前の景気低迷による需要減と土木予算の削減から来る道路工事の減少でした。しかし、関与後はそうした外部要因を織り込んだ上で対応し、スリム化に方向転換してもらい無理な売上を排除してきました。通常の経営計画を策定し、DAIC2も導入して、原価管理の重要性を指導。やっと正確といえる現場別工事台帳が出せるようになって2期目というところで、再び赤字に転落してしまいました。以前より売上は減少していたものの、前々期が黒字でしたので、むしろ内部要因が赤字転落の最大の原因だと分かっていました。

── その内部要因について教えていただけますか。

平井 入札時の積算が甘く、実行予算と実際原価が大きくかい離している工事があったこと。そして工事進行中に原価を管理できていないこと。これらが赤字転落の原因でした。
 原因を掘り下げていくと、新築建築工事部門で工事利益が出ていないことが分かりました。土木工事では実行予算が組まれていますが、それも社長管理の工事以外では実際原価との対比もできていない工事があること。社長は土木しか分からないため、建設工事では監督任せで実行予算とのかい離の検討も外部注文の確認もしていないこと。これらのガバナンスの欠如が赤字原因として特定できました。原価管理の重要性は巡回監査で担当者が指摘してきた事項でしたが、社長以外の社内への徹底状況は見えていない部分でした。

原価管理中心に5点の打ち手を計画

── 経営改善の具体的な打ち手は。

平井 ①新築建築部門からの撤退と若干のリストラ策、②積算タイミング・実行予算の確認ルールと外注の相見積もりの定例化、③入札工事のスケジューリング、④現場工事別の進捗管理の定型化、⑤社長による全ての現場確認を月1回以上行う──の5点に絞って落とし込み、原価管理中心の計画にまとめました。
 その他に遊休資産の売却を2年後に行うという計画も盛り込みました。本来は付属的な計画だったものの、計画に取り入れた以上、売却実現の可否によって大きく変わります。そのエビデンスの確保が、重要なものになってしまいました。写真・開発状況・市の計画の青写真・売却交渉の推移等、証拠となる参考資料を添付して資産リストラの実現可能性を金融機関に納得してもらった次第です。

── 社長さんの経営改善計画策定への意欲はいかがでしたか。

平井 当事務所では、日頃から経営者塾を開催していて、不安を持っている社長には参加してもらってきたので理解が早かったです。後継者に引き継げる会社にしたいと誰もが思っているところですから、社長に迷いは無かったようです。

社長を元気にする「ビタミン剤」的存在に

── 経営改善を支援した結果として関係者の反応はどうでしたか。

平井 社長は私と会ったことで元気になったと言ってくれています。最近は私が顔を出すと奥さんが「社長のビタミン剤が来た」などと言っています(笑)。ただ、社長は、最初から相談相手として喜んでくれていたのですが、経理担当である奥さんとの関係は、DAIC2を導入して100%の活用ができるまでは最悪でした。ここ2年くらいでしょうか、DAIC2のすごさを目の当たりにして奥さんにも「平井会計でよかった」と言ってもらえるようになったのは。
 その奥さんが今回のバンクミーティングの後では深々と頭を下げて拝んでくださって「先生を料理屋に誘っても断られるので、自宅で私の手料理を皆さんに食べていただく機会を作ってください」と言われ、うれしかったです。
 今回の申請案件以外でも、ある信用金庫から頼まれて経営改善支援を行っている土木工事業者がありますが、こちらは年商20億円近い企業で支援センター案件にはなりにくいところです。再生支援協議会案件にならずにすんでいるだけで信金も企業も満足しているようで、「こんなに経営のことに取り組んでくれる税理士がいるとは知らなかった」と喜んでもらっています。しかし、今期打って出た対策が非常に成果の予測が難しいものなので、予断を許しません。現在、最も心配している対象です。
 このほか再生支援協議会案件の企業も銀行から頼まれて関与しています。再生プランはプランとして金融機関対策に効果を発揮していますが、業績管理は当事務所の計画で行っています。この企業からも先ほどと同様の感想をいただきました。事業の発展のためには個別具体的な対策のローリングが必要で、当初の再生プランにこだわっている訳にはいきません。この案件でも営業利益段階で再生プランを大きく上回っています。対策のローリングの必要性は、経営改善計画策定事業における計画や現場で使う経営計画にも当てはまると思っています。

職員一人当たり2~3件の申請を指示

── 経営改善を支援する上でどのような点を意識していますか。

平井 この事例もそうですが、建設業というのは本来個別の工事の売上げが決まっており、その範囲内で実行予算を管理していればいいので、黒字を出しやすい業種のはずです。それが現実には会計面での管理がなされておらず、自転車操業になっている企業がたくさんあります。こうなってしまっている責任の一端は会計事務所にもあるのではないかと思います。会計の信頼性を高め、経営者に数字を見たいと思ってもらえるような指導をしていかなければならないと考えています。
 また、経営改善計画を金融機関に提出すると、支店の担当者が金融機関の本部や保証協会にその内容を伝える形になります。そのことを意識して計画書になるべく詳しい情報を記載しておいたほうがいいと思います。金融機関の協力を得るためには、金融機関の内部事情や融資商品の違いをしっかり理解しておくことも必要です。

── 今後の抱負をお聞かせください。

平井 金融支援が一見必要のない企業であっても、安定したフリーキャッシュフローを確保できるように計画の軸足を整えたいと思っています。以前は条件変更した先でないと当事業の利用対象になりませんでしたが、いまはそこが変わったので、これからはどんどん当制度を活用していく予定です。
 金融調整や金融機関が保証協会に納得してもらうお手伝いとして、当事業の利用が有効であると分かりましたし、国の政策も頓挫しかねない状況ですので、職員一人当たり2~3件申請するように指示しています。単に件数を伸ばしていくということでなく、金融機関や保証協会などの各機関と地域全体で中小企業を支援する体制を作るために取り組んでいきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • 経営改善計画書の中身は、金融機関の直接の担当者だけでなく、本部や保証協会の担当者が見ても分かりやすい内容にしておく。
  • 日頃の会計の指導が経営改善計画の策定・実行にも活きてくる。
  • 金融機関の内部事情や融資商品の違いをしっかり理解しておくことが必要。

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