TKC会員による実践事例

実践事例

増山会計事務所 増山英和会員(TKC関東信越会)

改善計画策定を通じ
社長の意識改革と後継者の成長を促す

支援先企業の概要

業  種: 機械修理業
年  商: 約5億円
従業員数: 50名(パート含む)
借  入: 地域金融機関5行(保証協会つき)から約3億円
経営状況: 売上げの見込みが立たないまま借入金で新工場を建てたため過大設備投資となり、借入金返済で資金繰りが悪化。バンクミーティングで金融機関の理解を得て再建に取り組んでいる。

“ハンコ待ち”を含め12件実践

増山英和会員

増山英和 会員(TKC関東信越会)
増山会計事務所

茨城県水戸市千波町1258-2 増山ビル2F

職員数: 26名(巡回監査担当者20名)
関与先件数: 490件(法人・個人)
経営理念: 税務・会計・経営の分野における専門家として、お客様の問題予測・回避・解決を図り、お客様・パートナーとともに成長し、地域経済の発展に貢献する。

── 事務所における推進状況をお聞かせください。

増山 これまで利用申請書が受理されたのは7件、他に社長や銀行のハンコ待ちの案件を合わせると12件程度です。
 経営改善計画策定支援事業が始まってからすぐに着手し、まず巡回監査担当職員に関与先の中から対象を選び出すよう指示したのですが、待てど暮らせど挙がってこない。今考えると、選定基準が不明確だったこと、職員自身のこの支援事業への理解が不足していたことが原因だと思います。7000プロジェクトの発足を受けて、今年7月、改めて事務所を挙げてこの支援事業に力を入れることを発表し、職員から推進責任者を選んだ上で、8月までに1人1件、11月までにさらにもう1件という目標を立て、毎月の事務所経営会議で進捗状況を確認しました。
 またProFITの「貴事務所で経営改善計画策定の必要が見込まれる関与先リスト」ができてからは、そのリストを基に「この会社も対象になるのでは」と職員に確認することで対象を増やしていきました。

── 支援事例をお聞かせください。

増山 業種は機械修理業、年商は5億円程度と比較的規模の大きな会社です。修理工場のキャパシティが限界になったので、数年前に銀行から融資を受けて新工場を建てました。本店での受注とは別に新工場でも仕事が取れると思っていた当てが外れ、そうしているうちに本店での受注も減ってきたわけです。
 月々約400万円という借入金返済が重くのしかかってきて、みるみるうちに現金がなくなるという状況でした。実は約2年前に継続MASを使って業績検討会を実施した際、あと1年で資金が枯渇することが分かったので、利益率の改善を指導し、金融機関にも早めに相談するよう伝えていました。

金融支援で一息つかせてから経営改善計画を策定

── 利益率の改善方法は。

増山 固定費の部分ではまず社長の給料を大幅に下げ、退職者が出ても代わりの社員を採用しないなど人件費を削減し、交際費も必要最小限に抑えました。変動費についても、例えば、それまで業者の言い値で購入していた塗装用ペンキを、必ず見積書をとって他社よりも安価かチェックするなど現場データを活用したことで、変動費率が大幅に改善しました。
 こうした改善の成果は徐々に出ていたのですが、やはり返済額が大きすぎるので間に合いません。金融機関にも相談に行ったものの、社長がまだ少し楽観的に考えていて、リスケなどの根本的な解決には至りませんでした。
 しばらくは折り返し融資でしのいでいたのですが、今年5月にいよいよ資金が底をつきそうになったので、「もう返済を止めてもらうしかないですよ」と社長に伝え、今回の支援事業を利用して立て直すことになったのです。

── いくつの金融機関から借り入れていたのでしょうか。

増山 5つです。事態が逼迫していたので、すぐに社長、後継者、私の3人で、借入残高の多い順に、来月分の返済から止めてもらえるよう交渉に行きました。メイン行は「本部に相談します」などと悠長なことを言っていたのですが、次に行った並行メイン行は、現状を説明すると「それは大変だ。今月は何とかなっても来月はもっと厳しくなるので、今月分の返済から止めます!」と迅速に対応していただきました。最終的には他の金融機関にも応じていただけることになり、ひとまず資金繰りは落ち着きました。
 社長もこの段階でやっと事態の深刻さに気付き、本気で経営改善に取り組む決心がついたようです。やはり資金繰りが不安定な間はそのことで頭が一杯なので、他のことを考えるのは難しい。だからこそ、まず金融支援によって資金繰りを一息つかせ、その猶予時間で真剣に経営改善計画を策定するというのがこの支援事業の眼目であると認識できました。

バンクミーティングで各行の疑問点を解消

── 経営改善計画のポイントを教えてください。

増山 まずは資金繰りを安定させるため、1年目は元金返済ゼロで利払いのみ、2年目はフリーキャッシュフローから3割を残高プロラタで返済するという内容にしました。以下、3年目5割、4年目7割と続きます。
 売上計画は横ばいにすることがポイントです。利益については、先ほど説明したような人件費や材料費など、自助努力で改善できる費用を減らすことで確保しました。

── 金融機関の反応はいかがでしたか。

増山 先日バンクミーティングを開催したのですが、内容には概ね同意をいただけました。固定費と変動費の改善には取り組んでいたので、こうした姿勢も評価されたのかもしれません。
 またバンクミーティングには信用保証協会の「経営サポート会議」を利用しました。信用保証協会が日程調整や式次第の作成などもしていただけるのでありがたいですし、こんな良い制度は利用しないともったいないですよね。
 支援事業の利用申請から計画書策定、バンクミーティングまで比較的スムーズに進められたのは、これまでTKC関東信越会あるいは茨城支部として経営改善支援センターや信用保証協会、地域金融機関との関係づくりをしてきたことも大きかったと思います。

── バンクミーティングで最も留意したことは何でしょうか。

増山 バンクミーティングではそれぞれの金融機関から質問をあらかじめもらっておき、回答を準備して臨みました。例えば「部門別の収益性は?」「得意先ごとの売上高の推移を教えてほしい」など、金融機関ごとに気になる点が違いますので、それらの質問に丁寧に回答して不安を解消することが大切だと考えたからです。
 ただそのおかげで、金融機関がどのような疑問を持つかが整理できました。このような情報を経営者に伝えて経営に活かしてもらうことが重要であり、日頃の巡回監査においても「金融機関の視点も含め、経営に役立つ情報を提供できているか」といった観点で振り返る良い機会になりました。また「この会社ではFX4クラウドを利用した業績管理が必要ではないか」など、最適なTKCシステムを提供できているかという点も見直すことができました。

後継者の成長にもつながっている

── 他に支援事業に取り組む際に心掛けていたことはありますか。

増山 本当に経営改善をするためには「社長のやる気」が重要というのは当然ですが、この支援事業を通じて後継者の成長にもつなげられることがあります。
 先ほども申し上げた通り、金融機関へのリスケのお願いには後継者を同席させ、当事者意識と危機感を持ってもらうようにしました。「ビジネスモデル俯瞰図」も後継者に作ってもらったのですが、最初はいい加減なものだったので「いずれ自分が社長として経営する会社なのだから、もっと真剣に考えなさい」と発破をかけました。
 そうしているうちに頼りなかった後継者も少しずつ当事者意識が芽生え勉強するようになりましたし、金融機関に行った時もはじめは黙って聞いているだけだったのですが、慣れていくうちに改善の内容を説明するなど、明らかな成長が見られるようになりました。

── 金融機関に同行したことが刺激になったのでしょうか。

増山 そうだと思います。ほかの関与先でも、大学院卒で理論は素晴らしいのですが行動力に欠ける後継者がいました。業績の悪化に伴い当支援事業を利用することになったので経営改善計画を考えてもらったのですが、「インターネットで売り出せば注文が来る」など机上の空論のような計画だったので「根拠がない売上計画では意味がない」と私も金融機関もダメ出しをしていました。するとプライドが傷ついたようでしばらく音信不通になりましたが(笑)、最終的には「会社を良くするのは自分しかいない」という自覚が芽生えて今は頑張っています。
 二代目、三代目は創業社長に比べるとどうしても危機感が足りないことが多いので、会社経営の厳しさを知るという意味でも、社長と一緒になって経営改善に取り組むことは非常に意義があると思います。

職員任せにせず、まず所長が決断を

── 7000プロジェクトの未実践会員にメッセージをお願いできますか。

増山 私も最初は職員に任せて失敗しましたが、結局は所長の決断が重要です。「金融支援を必要としている関与先はすべて対象になる」というのがこの支援事業の肝ですから、職員任せにせず、まずは所長自らが関与先の状況をよく確認し、この支援事業を積極的に利用してほしいと思います。
 当事務所でも、ProFITの対象関与先抽出機能でリストアップされていないので支援事業を利用できないと思いこんでいた関与先がいくつかありましたが、ある時資金繰りの相談を受けたので改めて検討したところ対象となった事例がありました。
 なかなか関与先の金融支援にまで踏み込めていない会員もいらっしゃるようですが、例えば金融機関の視点からの懸念材料を見つけ出すことから始めてはいかがでしょうか。そして当事業を活用し、その懸念材料を解消する支援をしていただきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • まずは資金繰りを落ち着かせ、社長が経営改善に本気で取り組める状況を作る
  • 改善計画を作る際は、売上計画は横ばいにして固定費と変動費の削減で利益を確保
  • 後継者がいる場合は、社長とともに意識改革を図る

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