TKC会員による実践事例

実践事例

武藤和義税理士事務所 武藤和義会員(TKC千葉会)

社長へのヒアリングで
事業への思いや課題を引き出す!

支援先企業の概要

業  種: 設備メンテナンス業
年  商: 約3億円
従業員数: 28名
借  入: 地方銀行2行(保証協会つき)から約1億3千万円
経営状況: 売上げは増加傾向にあったものの、原価管理体制が整っておらず、十分な営業利益を確保できていなかった。債務超過の状態が続いており、長期借入金については返済条件の緩和を受けていた。商工会議所の紹介で、武藤税理士事務所が経営改善計画策定を支援した。

「中小企業の存続・発展支援」がベース

武藤和義会員

武藤和義 会員(TKC千葉会)
武藤和義税理士事務所

千葉県船橋市本町4‐11‐17 MYスペースレイ2F

職員数: 11名(うち巡回監査担当者6名)
関与先件数: 303件(個人年一関与含)
経営方針: 中小企業の存続・発展を支援する

写真左が武藤和義会員。右は職員の伊藤孝幸氏

── 「経営改善計画策定支援事業」にはどのようなスタンスで臨んでいますか。

武藤 当事務所では「安心して働けるいい事務所体制を構築し、所長・職員の人間的成長を通して中小企業の存続・発展を支援する」を経営理念としており、経営改善支援は当然業務と捉えています。
 基本的に法人の関与先には経営計画の策定を支援しています。「経営改善計画策定支援事業」を利用した支援事例は今のところ1件です。

── 事例の企業は、どのような経緯で支援に至ったのでしょうか。

武藤 当企業は設備メンテナンス業の企業で、年商は約3億円です。商工会議所からの紹介で支援することになりました。売上げは確保できていたのですが、原価管理の不徹底による営業損失と、平成23年5月期の固定資産売却・除却損によって、債務超過となっていました。
 大きな現場の管理を社員に任せたところ、納期に間に合わせるため多くの人員を投入してしまい、多額の赤字が発生。このことが大きく影響したとのことでした。

── 社長の経営改善計画策定への意欲はいかがでしたか。

武藤 社長は義理人情に厚い方で、人を育てることに力を入れており、現場重視の考え方でした。経営管理的な話はあまり得意ではなかったようで、商工会議所の紹介で最初に面談したときは、あまり乗り気ではないように見えました。
 最初の面談では正式スタートには至らず、2カ月弱経ってから2回目の面談依頼がありました。経営の状況がせっぱ詰まっていたのではないかと思います。ここで社長に「経営改善計画策定支援事業」を利用する意思決定をしていただきました。
 実際の経営改善計画策定に入って何度かお会いするうちに、こちらを信頼してもらえるようになり、社長も少しずつ積極的になっていきました。

ビジネスモデル俯瞰図が現状把握に効果的

── 具体的な経営改善計画の策定は、どのように進めましたか。

武藤 当事務所の関与先ではないため、社長へのヒアリングに時間を割きました。事業の内容や、取引・お金の流れをしっかり把握することが目的です。社長の話に出てくる業界用語なども一つずつ確認し、さらに、実際の現場も見に行くことで企業の実態をつかむようにしました。
 ヒアリングした内容は、「ビジネスモデル俯瞰図」を作成して社長に見てもらいました。そうすると社長が「ここが違う」などと言うので、そういった点を修正していきます。一般的に、社長は自社の事業を体で分かっていても、文章で表現することが苦手なようです。「ビジネスモデル俯瞰図」を作成する作業は、自社の事業を体系的に捉えて整理するために効果的で、社長にとっても支援するわれわれにとっても、有益な作業でした。
 このように現状を把握して、課題・問題点を整理し(表1参照)、計画の基本方針を4点にまとめ(表2参照)、計画を策定しました。
 計画の要点は、「会計のリアルタイム化」と「工事別の原価管理の徹底」です。その他の点も含め、社長が考えていながら実現できていなかったことを「やる」と決めて実施計画のタイムスケジュールに書き出したことで、社長の意識が変わったと思います。

表1 事例企業の課題・問題点(一部抜粋)

  • 従業員に対する短期貸付金の回収可能性に問題がある。
  • 債務超過になっている。
  • 長期借入金について返済条件の緩和を受けている。
  • 原価管理が徹底されていないため、安定した利益を確保できていない。
  • 競争が激化しており、受注単価が低い。
  • 人材が恒常的に不足している。
  • 企業規模および業種から見て、交際費が過大。
  • 利益状況から見て役員報酬が高額。

表2 計画の基本方針

1. 経営体制

  • 会計のリアルタイム化を図り、数値に基づく経営判断体制を構築する。

2. 売上改善に関する施策

  • 新規の請負工事を増加させていく。
  • 従業員の技術向上により、単価を上げていく。
  • 人材の確保に努め、常駐作業を安定的に確保する。

3. 収益改善に関する施策

  • 原価管理を徹底する(リアルタイムな原価管理、見積もり精度の向上)。
  • 役員報酬の減額、交際費の50%カット。
  • 収益性の高い工事の比率を高める。
  • 定期修繕工事の単価アップを図る。

4. 今後の返済に関する施策

  • 計画3年目までは元利で月額50万円とし、計画4年目、5年目は元利で月額80万円、6年目以降は元利で月額100万円とする。このため、最終返済期日は、平成30年11月から平成40年5月に期日延長を予定している。

銀行への事前報告・資料送付が奏功

── 事務所としてはどういう体制で支援に臨まれましたか。

武藤 面談には私と職員の伊藤の2名で臨み、私がヒアリングをして、伊藤がその内容を記録するという体制でした。その記録内容から経営改善計画の原案の取りまとめや申請書の作成を行ったのも伊藤です。

── 伊藤さんにとっては通常の巡回監査業務などとは異なる仕事ですが、担当してみていかがでしたか。

伊藤 所長からこの案件の話があったとき、よい経験になると思い、自分から担当に手を挙げました。
 継続MASシステムを使って経営計画をまとめる点は通常業務と同じですし、利用申請書の書き方などは経営改善支援センターに聞けば教えてもらえるので、困ることはありませんでした。
 初めてなので分からない点や効率的に進められなかった点もありますが、一度実践したことで支援スキームの全体像が分かりました。事務所内で共有して、2件目以降につなげていければと思います。

── 金融機関の同意を得る際はどのように取り組みましたか。

武藤 年末年始の時期に重なったこともあり、バンクミーティングは行いませんでした。余談ですが、「バンクミーティング」という名称だと銀行のための債権回収会議だという印象を受けます。主役はあくまで企業の社長ですから、「経営改善計画説明会」といった名称にした方がいいのではないかと感じました。
 借入先は実質2行あり、社長と一緒に訪問し、社長から経営改善計画の概要について説明してもらい、若干の指摘事項等を受けて、同意をいただきました。社長は口下手な方で、隣で聞いていて少し不安になりましたが、事前に銀行には進捗状況を報告して資料も送付していたので、これが功を奏したのではないかと思います。また、信用保証協会からも同意を得る必要がありますが、借入先の2行からは「経営改善計画策定支援事業」のスキームを使うことが伝わっていませんでした。この点は、金融機関から同意を得る際に、信用保証協会にも伝えていただくよう念押しする必要があるかと思います。

いかに社長から思いを引き出すかがカギ

── 経営改善計画の策定を支援する上でのコツのようなものはありますか。

武藤 先ほども触れましたが、社長へのヒアリングでいかに経営に関する思いを引き出すか、どう自社の問題点を話してもらうかがポイントです。
 経営改善の場合は社長が自らどんどん問題点を語るというようなことはなく、聞かないとまず出てきません。そういう意味では聞く技術は必要でしょうね。私の場合は、実際にヒアリングする前に決算書などを見て、聞くポイントを考えておくようにしています。

── 当事業の実践を通して感じたことなどをお聞かせください。

武藤 今回の案件は現在モニタリングの段階に入っていますが、経営改善計画の策定前と策定後では、社長の考えがガラッと前向きに変わりました。策定前は、社長も何かしなければいけないという気持ちがありながらも、具体的な行動はボヤッとしていました。経営改善計画の策定によって、そのボヤッとしていたものが目に見える形になって、やる気が出たのだと思います。
 具体的な実施計画は決して難しい内容ではありませんが、社長には「簡単なことほど実践は難しいですよ」と言っています。当たり前のことができていなかったから経営改善が必要になっているわけですからね。その点はモニタリングを通じて継続的に支援していこうと考えています。
 関与先の経営改善計画策定支援は、いままでも当然業務として行ってきましたが、これからは当事業のスキームを使って進めていく予定です。いまの時点で具体的に考えている支援先は2件ほどあります。
 核となる利益の出る事業があり、金融機関の協力が得られれば、ほとんどの中小企業は救えるはずです。中小企業の存続・発展に向け、みんなでTKC会計人の底力を見せましょう!

経営改善計画策定支援のポイント

  • 「ビジネスモデル俯瞰図」の作成が、社長の自社の事業に関する考えを整理し、現状把握するのに効果的。
  • 金融機関に経営改善計画の説明をする際は、訪問する前に事前報告・資料送付をしておく。
  • 社長へのヒアリングでいかに経営に関する思いや自社の問題点を引き出せるかがカギ。ヒアリングする前に決算書等から聞くポイントを考えておく。

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