TKC会員による実践事例

実践事例

高田勝人税理士事務所 高田勝人会員(TKC四国会)

企業・金融機関・認定支援機関の
三者にメリットがある経営改善を

最後の望みをかけ、建設業の社長が来訪

高田勝人会員

高田勝人 会員(TKC四国会)
高田勝人税理士事務所

愛媛県西条市壬生川107-9

職員数: 21名
経営理念: 私たちは中小企業発展の支援を通して、全ての人の幸福を願い、社会の繁栄に貢献します

── 最初に事務所の概要を教えていただけますか。

高田 昭和30年代に私の祖父が開業した事務所です。平成9年に祖父が亡くなり、私が27歳で承継しました。
 私の転機は平成20年、大きな病気で10カ月入院したことです。それまでも、何とか事務所経営をしてきましたが、ここでもう一度事務所経営を見直し、新しくスタートを切ろうと考えるようになりました。
 そこから改めてKFS、特に進捗が遅れ気味だったKとFに取り組む方針を決め、できない理由を一つずつ取り払い、やる気のあるスタッフとともに推進していきました。
 その結果、平成22年には継続MASの予算登録純増件数で全国第1位に、また翌年にはFXシリーズの推進で同様に全国第1位になることができました。この時期の改革が、今の事務所のベースとなっています。

── 「経営改善計画策定支援事業」への取組状況について教えてください。

高田 いま5件利用申請の受理が済んでおり、他にも進行中の案件があります。当事業に最初に取り組んだのは、7000プロジェクトが始まる1年前の平成25年3月です。関与先ではない建設業の企業の案件でした。社長が3月5日に相談に来られ、資金不足でその月の手形が回らない、銀行に相談してもつれない対応をされたという状況でした。
 事務所は繁忙期、しかも手形の期日まで1カ月もない状態。これは無理かなと思いましたが、その社長と話をしていくと、「何でも言うことを聞きますからお願いします」というのではなく、「こういうところを支援してほしい」ということが明確で、信用できそうな社長だと分かりました。
 当事務所は平成24年11月の第1号認定で認定支援機関になっていましたので、認定支援機関制度を説明しようとパンフレットを出したところ、その社長さんもカバンから同じパンフレットを出されました。事前にいろいろと調べた上で、最後の望みをかけて当事務所に相談に来られたようでした。私も意気に感じ、支援することに決めました。

2,000万円のニューマネーにもつながる

── どのような支援をしたのでしょうか。

高田 繁忙期で昼間は時間がとれなかったので、夜な夜な取り組み、1週間ぐらいで経営改善計画を策定しました。当時は今のように情報があったわけではなく、どの程度の計画を作ればよいかが分からず、手探りの状態。再生支援協議会の案件に携わったことがあったので、その経験をもとにかなり分厚い計画書を作りました。
 そして3月の中旬に社長と一緒に銀行を訪問しました。対応いただいたのは支店長と支店長代理、担当者でしたが、かけられたのは「廃業する勇気も大事ですよ」という言葉でした。それでもとにかく経営改善計画書を受け取ってもらい、一度見てもらうようお願いしました。
 その後、銀行から電話をいただき、「これだけの計画書があるから当面の資金については協力する」と言っていただきました。

── 具体的な改善の打ち手と金融支援の内容はどのようなものでしたか。

高田 まず工事をカテゴリー別に分類して、それぞれの工事粗利を出しました。そうすると大きな赤字が発生するケースのあるカテゴリーがあると分かったので、そこは縮小しつつ、その他のカテゴリーに注力し、現場別の原価管理を厳密に行うという計画にしました。
 金融機関からは当面の資金については協力いただけることになったのですが、実は経営改善計画策定支援事業の利用にはすぐにゴーサインは出ませんでした。未関与先のため決算書の信頼性が確保されていなかったので、半年ぐらい様子を見ることになり、決算で本当の数字を出して、ようやく当事業を利用して支援に取り組みましょうということになりました。
 金融支援の内容は、超長期のリスケです。またそれとは別に最初に2,000万円のニューマネーを出していただきました。その他にも工事見合資金は融資いただけるということで、安心して経営できる環境にすることができました。

継続した銀行との勉強会が実を結ぶ

── 2件目以降の事例はどのような形で進められましたか。

高田 2件目以降は関与先の案件ですが、これについては以前から進めていた取り組みが実を結んでいます。
 その取り組みというのは事務所の近隣にある銀行の支店との勉強会です。3年ほど前から始め、半年に1回のペースで継続してきました。毎回、当事務所とその支店から5~10名ずつ出席し、お互いの取り組みを発表しあう形で情報交換をしています。
 そういうことがあって良好な関係を築けており、当事業に取り組むに当たっては、事務所で候補となる関与先をピックアップし、同様に銀行側でもピックアップしてもらい、結果をすり合わせて、実際に支援する先を決めました。
 利用申請書をその支店に持っていったらすぐにハンコを押してもらえる状態なので、非常に進めやすいですね。

── 具体的な支援事例を一つご紹介いただけますでしょうか。

高田 直近で支援したのは美容室のお客さまです。このお客さまは財務的には全く問題ない状態で、当然リスケなどは受けていないのですが、役員借入金があったので、それを返済するための資金として銀行から新規の借入をするという内容でした。これは銀行から見ると自己資本の減少ということになるので、私も正直この資金使途では難しいかと考えていました。ところが、銀行に相談してみたところ、意外にも方向性の共有ができたので、当事業を使って取り組んだという案件です。

── 役員借入金の返済を考えたきっかけは何かあったのでしょうか。

高田 これは経営改善の具体策とも関係があるのですが、端的に言うと経営者と従業員の成果配分の割合を変えるために役員借入金をなくしたかったということです。

── 成果配分の割合を変えることが経営改善につながるということですか。

高田 美容室というのはスタッフがある程度育ってくるとどうしても独立してしまうのですね。そうするとまた次のスタッフを採用して、教育していかなければいけない。その繰り返しでは経営的にはマイナスです。
 それを防ぐためには、給与その他の待遇面を改善していかなければなりませんが、役員借入金があるとどうしても経営者への成果配分が多くなります。経営者としてはもともと個人の資産を拠出しているのだから当たり前だという思いもありますが、従業員はそうは受け取ってくれない。そうした問題を解決するため、借入金を銀行からのものに切り替えて毎月の返済額を明確にし、返済後に残った利益を分けるという形の成果配分の仕組みにしたのです。

PDCAサイクルを根付かせていく

── 経営改善計画策定支援事業に取り組む上で独自に工夫している点はありますか。

高田 支援いただく金融機関に負担を押しつけないようにしたいと考えています。企業・金融機関・認定支援機関の三者にとってメリットのある形が理想です。リスケは金融機関にとって負担ですから、すでにリスケを受けている先やどうしてもリスケが必要な先は別として、なるべくリスケにならない落としどころを探るようにしています。
 また、いまは実質的な作業は職員に担当してもらっていますが、金融機関にハンコをいただく際は、なるべく私が直接伺うようにしています。
 その他の取り組みとして、当事業の利用申請をする可能性のある企業には前もって利用申請書にハンコをいただくということをしています。経営者に説明してハンコをもらった利用申請書のストックが事務所に複数あるので、融資を受ける話がでたらすぐに取り組めるという体制です。

── 当事業を利用したことによる事務所への効果として感じていることはありますか。

高田 通常の決算書を作成する業務ではあまり意識しない〝営業キャッシュ・フロー〟を意識する見方が身に付くのが大きいですね。それによって事業の価値も分かるようになりますし、それが事業承継や事業譲渡といった案件にも生かせると思います。
 また、金融機関の考え方もよく分かってきました。以前はただ「貸したいだけ」なのではないかというように感じていたこともありましたし、企業と会計事務所がタッグを組んで金融機関と対決するようなイメージを持っていました。それがいまでは、金融機関と会計事務所が協力して企業を支えるというイメージに変わっています。

── 今後の目標について一言お願いします。

高田 いままでもKFSには取り組んできましたが、本当の意味での予算+モニタリングというものが関与先に十分に根付いていなかったと感じています。この事業を呼び水として、改善が必要な先には現実をしっかり見てもらい、自計化をベースに経営計画に基づくPDCAサイクルを根付かせていきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • 金融機関との良好な関係づくりが当事業の実践においても生きてくる。
  • 新規融資・借り換え・一本化といった金融支援でも当事業を活用することができる。難しいかと考えられるケースでも、まずは経営改善支援センターや金融機関に相談した方がよい。
  • 黒字の企業でも、予算作成+モニタリングという考え方を根付かせるためにこの事業は有効。

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