TKC会員による実践事例

実践事例

税理士法人レッドサポート 渡辺忠会員(TKC関東信越会)

苦しむ社長の不安を取り除くため
行動あるのみ!

支援先企業の概要

業  種: 装置製造業
年  商: 約9億円
従業員数: 38名
借  入: 地銀5行、信金3庫、商工中金
経営状況: 平成23年まで売上が伸びていたが、原価管理が甘く、採算割れ受注も多発していた。平成24年以降、売上が減少に転じ、新製品開発等に投資したが効果を得られず、キャッシュ・フローが大きく悪化。金融円滑化法による返済猶予は受けていなかったが、返済不能となるのは時間の問題となっていた。

運用改善後に再チャレンジ

渡辺忠会員

渡辺 忠 会員(TKC関東信越会)
税理士法人レッドサポート

埼玉県さいたま市浦和区針ヶ谷2丁目10番4号 ファーストビル1F(オフィス浦和)

職員数: 14名(うち税理士4名)
関与先件数: 242件

── まず「経営改善計画策定支援事業」に取り組まれたきっかけについて教えていただけますか。

渡辺 最初はこの事業が始まってすぐの頃に一度取り組みました。ただその案件は承認されなくて、補助金を受けることはできませんでした。その時に支援した社長もうちの事務所も「こんなに厳しいのではこの制度を使うのは無理だな」という感想を持ちました。それでしばらくはこの制度の利用には取り組んでいなかったのです。
 その後、研修などで平成25年12月13日に「認定支援機関等向けマニュアル・FAQ」(資料参照)が改訂され、当事業の使い勝手が改善されたという情報は聞いていました。ちょうどリスケを検討している関与先があり、今回、全国会が当事業に目標を持って取り組むことになったこともあって、まず1件やってみようということになりました。

資料「認定支援機関等向けマニュアル・FAQ」の内容(一部抜粋)

Q3-2【金融支援の内容】
この制度における金融支援とはなんでしょうか。

(平成25年12月13日改訂)

A.本事業における金融支援とは、条件変更等と融資行為(借換融資、新規融資)を指します。
ただし、計画において金融支援として融資行為のみを予定する場合には、支払申請の際、当該融資行為を実施する予定である金融機関から
「申請者が財務上の問題を抱えている」
「当該融資が、真に申請者の経営改善・事業再生に必要な範囲での融資である」
旨の金融支援に係る確認書面の提出が求められます。

《金融支援の一例》

金融支援の内容 具体的な手法等の例
条件変更等 金利の減免、利息の支払猶予、元金の支払猶予、DDS、債権放棄
融資行為 借換融資 同額借換(事実上の借入期間の延長を含む)、債務の一本化
新規融資 新規での貸付実行

── 支援した企業はどのような状況だったのでしょうか。

渡辺 昨年の11月から関与している企業です。装置製造業で技術力があり、大手企業とも取引があって2年ほど前には売上高も10億円を超えていました。しかし、原価管理の甘さや安価な海外メーカーとの価格競争による採算割れ受注の多発により、粗利が不十分な状態でした。その後、売上が減少傾向となり、キャッシュ・フローが大きく悪化して、借入金を約定通りに返済するのが困難になっていました。
 社長自身も経営状況の悪化は認識していて、経営改善の必要性を感じ、支援してくれる会計事務所を探す中で当事務所に顧問の依頼をいただいたのです。関与してからは、すぐにFX4クラウドを導入して、業績管理できる体制を整えました。

社長はさまざまな不安を抱えている

── 社長は「経営改善計画策定支援事業」の申請に、すぐ同意されましたか。

渡辺 当初からこの事業の利用を考えていたわけではないのですが、まずリスケすること自体に社長が抵抗感を持っていました。金融機関や取引先に対して印象が悪くなることを懸念したようです。しかし、何もしなければ状況は変わりません。結局、検討しはじめてから3カ月ほど経って、リスケの依頼をして経営改善計画を作成することを意思決定していただきました。
 また、資金繰りに困っている状況でしたので、補助金がなければ、報酬を頂きにくい面がありました。うちが関与する前にも同様の業務についてコンサル会社に相談し、金額が数百万円と聞いてあきらめていたそうです。この事業の存在が経営改善への取り組みを後押ししてくれたとも言えます。

金融機関と経営者の意向をしっかり把握

── メイン金融機関の同意を取り付ける際はどのように取り組みましたか。

渡辺 下説明・相談を十分に行ってメイン金融機関の意向をしっかり把握するようにしました。合わせて社長の意向もよく聞き取り、企業の意思表示をはっきりしてもらうようにしました。
 金融機関への説明・交渉に当たっては、金融機関が知りたい情報(資金繰り・事業計画・スケジュール等)に関する資料を事前に準備して社長とともに臨みました。また、うそをつかず、正直に正面突破でいくことも重要だと考えています。

── 経営改善支援センターの手続きはどのように進めましたか。

渡辺 申請書を作成する段階で、電話とFAXでやりとりしながら、マニュアルでは確認できない実務的な細かい点まで教えていただきました。今回取り組んでみて、以前は経営改善支援センターが「通さないためのチェック」をしていたのが、いまは「通すためのチェック」をしてくれるようになったと感じます。

資金のリミットから逆算して予定作成

── 実務的に所長と職員での分担はどうされたのでしょうか。

渡辺 基本的には職員が書類作成や計画原案の取りまとめを担当しています。金融機関との交渉などには私が出ます。経営改善が必要となる先は、社長が精神的に弱くなる傾向にあり、心の指導も必要となるので、そこも私の仕事です。

── 当事業を活用する上で注意すべき点はありますか。

渡辺 今回のケースでは借入先が9行ありました。関係機関が多いほど合意を得る時間がかかるため、スケジュールに十分な余裕を持たせる必要があります。
 金融機関に対して約定通りの返済を行っていこうとすると、資金ショートの可能性がある場合は、将来のキャッシュ・フローを日繰りで試算して、いつ資金がショートするかを知ることが必要です。そのリミットから逆算して、いつまでにどの資料が必要か等のスケジュールを組みます。達成できる計画であるということも重要です。計画に基づいて実行した結果として80点程度は取り続けられるようでないといけません。私は「計画は悲観的に作り、楽観的に実行しましょう」と社長に言っています。

── 渡辺先生は以前から経営改善支援業務のノウハウをお持ちだったのでしょうか。

渡辺 この事業ができる以前から経営改善支援・再生支援に取り組んだ経験がありました。この事業に取り組むには、ノウハウやテクニックという部分も当然必要ですが、なぜ取り組むのかという「思い」の部分が重要ではないかと考えています。「苦しんでいる社長の不安を取り除くんだ。中小企業を存続・発展させるんだ」といった思いです。
 何事もそうだと思いますが、行動しなければ結果は出ません。知識が付くのを待っていたらいつまでも実践できません。実践しながら得た知識こそが、本当に使える知識、知恵につながるのです。ノウハウが不十分であったとしてもまず行動することが必要だと思います。

良い経済循環のため役割を果たしたい

── 経営改善計画を策定して経営者からはどのような反応がありましたか。

渡辺 経営改善計画ができたことで将来の道筋が見え、社長の事業意欲が高まりました。経理担当者任せだった資金繰りなども自ら把握するようになりました。金融機関への対応にも慣れて堂々としてきました。これからは業績管理をして数字を操っていく楽しみを体感してもらいたいですね。

── 今後は経営改善支援にどのように取り組もうと考えていますか。

渡辺 普段から業績不振の関与先を一覧管理しているので、この事業を推進する対象は既に絞られています。今回の1件目をモデルケースとして、所内でマニュアル化・システム化を図り、2件目以降にも着手しています。
 経営改善支援は今後5年から10年は外せない仕事だと捉えています。潜在的な対象が多く、国や金融機関も頭を痛めています。社長の身近にいるわれわれが取り組まなければ、企業は減る一方です。経済の良い循環を作って企業と会計事務所が一緒に成長していかなければならないと思います。
 しかし、これは一事務所で対応できることではありません。やる・やらないはそれぞれの会計人の自由ですが、やらないことで関与先・金融機関・国に損をさせていたら仕事とは言えないのではないでしょうか。ぜひ多くの会員に取り組んでもらいたいですね。
 税理士は素晴らしい、TKC会計人は素晴らしいと言ってもらえるよう、私も自分のできること、やるべきことに、地道に取り組んでいきたいと思います。

経営改善計画策定支援のポイント

  • メイン金融機関と支援企業の経営者の意向をしっかり把握する。
  • 申請書類の作成は、経営改善支援センターに細かい点まで教えてもらう。
  • 関係機関が多いほど進捗が遅くなる。資金ショートの可能性がある場合は、リミットから逆算して詳細にスケジュールを組む。

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