経営・労務・法務

ケアマネの行動力・フットワークが医療との連携構築を促進させる

介護保険制度の創設以来、利用者の相談支援やケアプランの作成、ケアアセスメント、医療者や介護事業者との連絡・調整など、制度を支えてきたケアマネジャー。地域包括ケアシステムの構築が進められていくなかで、その役割も少しずつ変化する一方、重要性も増す。日本介護支援専門協会の鷲見よしみ会長に、これまでと、そして、これからのケアマネジャーの役割について話をうかがった。

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一般社団法人
日本介護支援専門員協会 会長
聞き手/
本誌編集委員
岩田修一(医業経営コンサルタント)

Sumi Yoshimi
岐阜歯科大学歯学部を卒業。平成16年、山梨県介護支援専門員連絡協議会会長。平成21年、富士吉田市介護保険運営協議会副会長、一般社団法人山梨県介護支援専門員協会会長。平成25年、社会保障審議会臨時委員介護給付費分科会、平成26年、高齢者の地域におけるリハビリテーションの新たな在り方検討会、平成26年、社会保障制度改革推進会議医療介護分野専門委員等。

利用者本位のもと
説明と合意を定着させてきた

──ケアマネジャーの資格ができてから今年で約15年が経過しました。まずはこれまでを振り返り、果たしてきた役割や成果についてどのように考えておられますか。
鷲見 2000年の介護保険制度創設と同時にケアマネジャーが生まれました。当初は、本当に手探り状態のところからスタートし、試行錯誤を繰り返しながらも、要支援・要介護認定を受けた利用者の相談支援、ケアプランの作成、そして医療者や他の介護事業者との連絡・調整など、求められる役割を果たしてきました。
 そのなかで、大きな成果を出したといえるのは、介護保険制度そのものを各地域に定着させたことです。結果的に、ケアマネジャーが地域のインフラになり、介護保険制度のもと、利用者にとって、最も身近な相談者として機能していると考えています。
 そして、もう1点、“利用者と家族の合意がなければ前に進めない”という文化をつくったことも大きな成果です。措置の時代の“指示・命令”ではなく、相談して、摺合せをして、落としどころをつくりながら進めていくというプロセスが、今では当然の形として根づいています。
 一方、このことは「利用者、家族のいいなりになっているのではないか」などの批判の声につながっていることも承知しています。実際、生活全体をコーディネートするということは、それぞれの家庭の経済状況に大きく影響を受けることなのです。ケアマネジャーとしては、「本当はこうしたほうがよい」と思っていたとしても、個々の家庭の経済状況と利用者の状態を見て、どこかで折り合いをつけた上で、ケアサービスを位置づけていかなければなりません。
 結果だけを見て、“いいなり”と批判されながらも、私たちはブレずに“利用者本位”という考えのもと、説明と合意を徹底してきた。それが利用者と家族の納得感、満足感の向上につながってきたわけですし、同時にマネジメントという部分も強く意識してきたので、介護給付費の効率化にも少なからず寄与してきました。それぞれの要介護度の介護給付費の割合は、当初からほとんど変わっていないことからも、マネジメント機能が働いてきたことがわかると思います。
 こうしたことを考えると、ケアマネジャーがこれまでの介護保険制度を支えてきたといっても過言ではないと感じています。

日々進化する現場で
成功体験を積むことが大切

──一方で、いろいろな問題点も指摘されてきたわけですが。
鷲見 これまでの当協会の実態調査を見ると、制度開始以来、居宅介護支援事業所の経営がずっとマイナスになっていることは大きな課題です。基本報酬が現場に見合った形になっていないということがいえるわけですが、この難しさは、相談援助の成果が数字に見えないことにあると考えています。丁寧な相談支援によって利用者の状態像が改善するかといえば必ずしもそうではありません。利用者の満足度や生活の質(QOL:Quality of Life)は向上しますが、数字でそれを明確化することはできません。
 また、日本人の国民性として、相談支援のサービスに対してお金を支払うことが定着していないと感じています。日本人は、“相談支援は無償のサービス”という感覚をどこかで持っているのです。ケアマネジャーの居宅支援費は1か月約1万円です。1万円かけて相談をするかということを考えると難しいところがあるのではないでしょうか。
 ただ、前回の介護報酬改定で新設された「特定事業所加算」を算定できれば、何とか収支は合うというところまで進んでいます。人員配置や重度の要介護者の割合、24時間連絡体制、定期的な会議の開催、ケアマネジャー1人の利用者数が40人未満など、体制を整え、サービスの質を高めることができれば評価されるという道筋がついたと見ています。
──ケアマネジャーをはじめとした介護職の医療知識の不足についても指摘を受ける部分だと思いますが、それについては、どのように見ておられますか。
鷲見 各方面からたびたび指摘を受けてきたことではありますが、私は、決して介護職が医療知識を持っていないわけではないと考えています。しっかり勉強をしてきた専門職です。でも、現場で利用者の身体にどのようなことが起きているのかということと、持っている医療知識がつながらない。だから現場で生かせないのです。医療職は、現場でいろいろな患者をみてきた積み重ねがあり、知識を活用できるわけです。でも介護職はそれがないわけですから、知識があっても活用できない。これはどんな専門職でも同じことがいえるのではないでしょうか。
 まずは、高齢者、利用者の生活を支えるなかで、医療職と介護職がお互いの知識、経験を出し合いながら、お互いが成功体験を積み重ねることが大事だと考えています。成功体験を増やしていくことで、現場での対応と知識とが自然とつながるはずです。
──15年間という年月では、成功体験を積み上げるにはまだまだ足りなかったということでしょうか。
鷲見 そうばかりではありません。当初と今とでは利用者の状態像、環境が大きく違うのです。病院では早期退院という流れになっていますので、医療ニーズが高い在宅の利用者が増えています。また、医療機器も格段に進歩しています。人工呼吸器をつけながら在宅療養するということも可能になっています。
 つまり、在宅ではどんどん高度な医療知識が求められる環境になっているということです。知識と体験、経験を積み重ねる間もなく、現場は毎日、進化しているわけです。
 確かに医療者からすれば心許ないケアマネジャーかもしれません、しかし、こうしたなかでも、期待に応えようとみんな、本当に努力しています。医療者にも、生活の場面に積極的に出てきていただき、カンファレンスやサービス担当者会議などに参加してほしい。一緒に行う機会が多いほど、ケアマネジャーを含めた地域の介護職は体験、経験を積むことができ、医療知識が活用できるようになり、地域全体の介護レベルが向上していくはずです。

「地域で生きる」とは
「関わりを持つ」ということ

──地域包括ケアシステムの構築が進められていますが、そのなかでは、ケアマネジャーの役割も変わってくるのでしょうか。
鷲見 まず、地域包括ケアが構築されることで高齢者の生活はどのように変わるのか。住み慣れた地域で最期まで安心して暮らすことができるようになるというのは、高齢者にとって大きなメリットといえるわけですが、地域のなかで生きていくということは、単に在宅で生活をするということではなく、“関わり合いを持ちながら生きていく”ということでもあります。実は、このことは高齢者にとっては少し窮屈なことかもしれない。今までの生活を180度変えなければいけないことかもしれない。これまで家族のなかだけで済んでいたことが、済まなくなると、いろいろな職種の方々が生活に入ってきます。そこでは新たな人間関係をつくらなければならないし、新たなコミュニティにも参加しなればならないかもしれません。こうした“新しい”関係づくりは言葉にするよりずっと大変なことです。
 一方、支える側の立場から考えると、地域包括ケアのもとでは多職種によるチームでサービスを提供することになります。その際、「私のせいであの利用者がこうなってしまった」「あの事業所のスタッフがこうすればよかった」などの考えが少しでも生まれるようなチームでは成り立ちません。「チームでケアを行った結果だよね」などと、チームで責任をシェアできるということが非常に大切で、それができなければ、地域包括ケアはなかなか進まないと思います。
 このような利用者側の環境の変化にともなう負担感や、サービスを提供する側から考えられる重要な視点を踏まえた上で、ケアマネジャーは、病院から自宅に帰ってくる時のつなぎの部分であるとか、家族が大変な時に気持ちが前に向けるように、安心できるようにサポートするという役割を、これまで以上に果たしていかなければなりません。
──具体的に求められる資質、能力という部分ではどのように考えていますか。
鷲見 欲張り過ぎだといわれてしまうかもしれませんが、まずは、これまで同様、「コミュニケーション能力」と、それに基づく高い「コーディネート力」。そして、前述したように高齢者の状態像が従来とは変わっていますので、それに対応する「医療知識の拡充」です。たとえば、食事がとれなくなってきた利用者の状態をみて、家族に「そろそろ大変な時が訪れそうですよ」と事前にお伝えできる医療知識を身につけることができるかどうかです。家族は、この先どうするかを考えなければいけないし、覚悟だって決めないといけない。準備期間が必要です。先を見据えた話ができるようになるためには、医療知識が当然、必要になります。
 それに加えて、もう1つ、「行動力」「フットワークの軽さ」をあげたいと思います。
 こうした能力を駆使して、良質なケアプランの作成、アセスメントにつなげていくということになります。
──医療との連携は今後、さらなる強化が求められるところでもありますね。
鷲見 連携の基本となるのは、お互いの立場を尊重することです。このことを前提に、「この利用者は一体何を大事にしているのか、何を望んでいるのか」などをしっかり把握し、それを実現するために主治医と一緒に、丁寧に動くことが重要になります。
 そのなかで、先ほど私があげた「行動力」「フットワークの軽さ」が医療との信頼関係を高め、連携構築を促進するキーワードとなります。主治医や病院のシステムに合わせて、私たちが積極的に動いて汗をかく。「ケアマネジャーはよく動く人たちだね」といってもらえるような行動ができることが連携構築の根本になるところだと思っています。

「期間管理」の観点が
これからは必要不可欠

──近年、予防が重視されていますが、そうした観点から支援することも重要になると思いますが。
鷲見 そのとおりです。予防という観点からのコーディネートは不可欠です。その際に、ケアマネジャーに大切にしてほしいのは、“一般的な感覚”です。
 私たちが目の前にしている方々は、要介護認定者です。すると、「こういうことが起きてしまうのはしょうがないよね」と考えてしまいがちです。そう考えてしまうと予防も何もなくなってしまう。
「以前の元気だった時はどんなことができたのか」ということを起点に考えてサポートすることを意識してほしいです。
 また、先を見据えた支援もとても重要な観点です。先を見据えるためには医療知識が必要だと話しましたが、ケアマネジメントのなかでも「期間管理」が非常に大事になると思っていて、これは、「今のケアプランはこういうケアプランだけど、次のケアプランはこのようになっていくだろう」という視点を持つということです。そして、「現状が維持できれば、Aのケアプランになるし、状態が悪くなればBのケアプランになる」などのマネジメント力です。
──現在のケアマネジャー数については不足はありませんか。
鷲見 資格取得者は50数万人といわれていますが、実際に働いているのは約15万人となっています。地域によっては不足しているところもあるようです。また、ケアマネジャー自体の高齢化も進んでいます。私は第1期生で、次の世代にバトンを渡したいと思っているのですが、介護や福祉の業界は世の中の景気がよくなると、給与の関係でどうしても人が集まらないのが現状です。
 ただ、全体を見た時、今後、高齢化がさらに進展すれば必要になりますが、現状では数が足りないわけではありません。
──協会としては、今後、どのようなことに力を入れていきたいとお考えですか。
鷲見 ケアマネジャーとしてプロフェッショナルを目指すべきだと考えていて、そのための教育が非常に重要になります。
 そうしたなか、2016年から研修制度が大きく変わります。研修時間も従来の倍以上にするとともに、実習の充実を図り、更新制度もできます。
 あと大切なのはOJT機能です。成功体験を積むということは、OJTが機能していなければなりません。そして、そのためには、ある程度のスケールメリットがないと不可能です。1人ケアマネジャーの事業所も多いので、そこでのOJT機能をどう確保するかということが1つ、課題としてあげられます。
 さらに、これから核になるのは、主任介護支援専門員なので、その研修制度も充実させ、各事業所でより機能するように主任更新研修もつくりました。その受講要件は、実際に後任を育てているなどの主任としての仕事をしっかり果たしてきたケアマネジャーでなければ更新ができないようになっています。
 教育という側面から見ると、一歩ずつステップアップしてきています。
──ケアマネジャーとはどうあるべきか、そうした理念的な部分の啓発、教育も大事になるのでしょうね。
鷲見 どうしても実務的な部分だけの教育に力を入れがちですが、そういう理念的な部分、あるべき姿ということもしっかり伝えていかないといけません。
 当協会では、年1回、全国大会を開催しており、今年は千葉で行う予定です。この全国大会は、各地域のケアマネジャーの取り組み事例の発表が行われるとともに、ケアマネジャーとはどうあるべきかという理念について確認できる場でもあります。こうした全国大会を通じて、個々のモチベーションアップにつながればよいと考えています。
 コミュニケーション力がある人、行動力がある人、一貫性がある人、調整能力がある人、医療知識がある人、理念を持っている人。こうした能力を兼ね備えた人材はそうはいません。約15年という短い歴史ではありますが、そのなかで、地域の人々の役に立つケアマネジメントができる人材を育てることに、真剣に取り組む時期だと強く考えています。それが成功しないと、今、進められている地域包括ケアは実現しないとまで思っています。
──最後に、これからを担うケアマネジャーにアドバイスなどがありましたらお願いします。
鷲見 最初に、これまでケアマネジャーは介護保険制度の創設以来、地域に何をもたらしたのかについて話をさせていただきました。そして、その結果、今の高齢者、要介護認定の方は、ケアマネジャーなしに生活することはできなくなっています。これは誇りに思ってもらいたい。いろいろな問題はあるかもしれませんが、このことは、これまで積み上げてきた私たちの成果です。
 そして、これからも必要とされる場面で、利用者の“伴走者”として機能できるように、個々のケアマネジャーには自助努力を続けてほしいと思います。
(平成27年8月28日/構成:本誌編集部佐々木隆一)
 

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