経営・労務・法務

今後の高齢者医療を支えるために民間病院が担うべきことは


人口減少社会のなかにあって今後の医療提供体制はどのように変わっていくのだろうか。日本医療法人協会会長の加納繁照氏は、地域包括ケアシステムのなかでは不足する高齢者救急体制の整備が不可欠だという。また、今後、医療施設や医療従事者などの医療資源が過剰となる地方においては、地域での立ち位置を定め、存在価値の高い医療機関になることが重要と説く。
加納繁照
一般社団法人 日本医療法人協会 会長
聞き手/
本誌編集委員
大田篤敬(医業経営コンサルタント)

Kano Shigeaki
順天堂大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院等での勤務を経て、平成21年には社会医療法人協和会理事長に就任。大阪府病院協会理事・常任理事、大阪市立大淀医師会理事・副会長・会長、厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会」委員、「社会保障審議会医療部会」委員、四病院団体協議会「二次救急に関する検討委員会」委員長などを歴任。平成27年6月より日本医療法人協会会長を務める。


これまでの日本の医療は
民間病院が支えてきた

──医療機能の分化や地域医療構想などによって、今後の医療も変わっていくと思いますが、まず、これまでの医療提供体制をどう見ておられるかについてお話をうかがっていきたいと思います。
加納 一般に、日本の医療の中心は公的病院というイメージを持たれている方が多いかもしれませんがそれは少し違います。
たとえば、約8,500の病院数のうちの8割は民間病院です。ベッド数についても、約160万床の7割は民間病院が保有しています。機能面から見ても、年間約540万件の救急搬送の約6割は民間病院が受け入れている状況です。私はこれを民間病院「8・7・6」、公的病院「2・3・4」の法則と呼んでいるのですが、これらの数字を見ても、これまでの日本の医療は民間病院が支えてきたといっても過言ではないと考えています。
しかし、視点を変えると民間病院の弱さも見えます。たとえば、救急搬送件数全体の6割を受け入れている民間病院が、都道府県別で見ると50%以上をカバーしているところは21に留まります。残り26の都道府県は公的病院が多くなっているということです。
これは、人口密度が高い都市部では民間病院が、人口密度が低い地方では公的病院が中心になっていることを示しています。この理由は、今の診療報酬体系では、人口密度が低い地域での経営が難しいからです。そのなかで、例外の都道府県があります。それは愛知県です。愛知県は名古屋市などの大都市を抱え、人口密度が高いのですが、公的病院が優位となっています。なぜかというと、トヨタ自動車があることにより、十分な税収が確保できている。公的病院には一般会計繰入金というものがあり、資金の補填を潤沢にできるようなっているからです。
昨今、公的病院の経営改善が進み、黒字化を実現しているところが増えていますが、一般会計繰入金を入れて黒字になっているに過ぎません。それがなければ公的病院のほとんどは赤字経営です。

人口減が進む地方では
医療資源の過剰が生じる

──人口密度の低い、地方の医療をいかに守っていくかが、これからの民間病院の大きな課題ということになりますね。
加納 そのとおりです。実際、今の診療報酬ではなかなか支え切れないのが現状です。地域医療を守るためにも、また、どこに住んでいてもすべての国民が平等に同じ医療を受けられるようにするためにも、一般会計繰入金制度のように公的資金を民間病院に投入するといった政策を検討していただきたいと考えています。
もう1点、課題ということでは、今後、人口の過疎化が進む地域においては、人口減少にともなう医療施設の過剰という事態になることが予測されています。そのなかでは、地域の医療資源を“整理整頓”することも考えていかなければならない。場合によっては、“減ベッド政策”が必要だと思います。
民間病院は、自己責任で長期借入金を抱えながら経営している。その借入金を抱えたまま閉院するわけにはいきませんので、もし“減ベッド政策”をするのならば、借入金を相殺するようなことも考えていただかないといけません。
平成28年度診療報酬改定では、精神病院が過剰なベッドを減らすことによる点数がつきました(参考1)。これは、いわゆる、“ベッドの買取”と同じことになります。当協会では、一般病床にもそれを適用するように政府に働きかけをしているところです。

「在宅医療」「がん治療」
「高齢者救急」の3つを担保する

──他方、都市部においては、どのような課題があげられますか。
加納 東京や大阪、神奈川、千葉、埼玉などでは、今後、高齢者人口が急増していきます。つまり、高齢者医療にどのように対応していくかが重要な課題になるわけですが、そこでは大きく3つのポイントがあると考えています。
1つ目は「在宅医療」です。これは超高齢社会における医療のベースともいえるものです。開業医の先生方が中心となり地域の患者さんを支えていくなかで民間病院は、その受け皿として開業医の先生方を支えていくことです。
2つ目は「がん治療」です。日本人の2人に1人はがんに罹患し、3人に1人は亡くなるわけですから、ターミナルを含めたがん治療に適切に対応する体制をつくることが重要になるでしょう。
そして、3つ目が「高齢者救急」です。これは私が長年、強く主張してきたことでもあります。在宅で生活しても、介護施設で過ごしていても、脳卒中や骨折、心筋梗塞など、高齢者の状態、病状は急変するわけです。その際、高齢だからといって治療を諦めるのではなく、QOLを求める医療を積極的に行うべきです。単に高齢を理由にターミナル的な扱いにしてしまうことは論外です。ターミナルは別物として考えていく必要はありますが、すべての高齢者の救急搬送をターミナルにしてはいけない。高齢者でも生活を維持できる可能性があるなら治療して元気な高齢者として地域で頑張っていただく。これは人口減少社会における社会資本にもなり得る重要な視点です。
現在、地域包括ケアシステムの構築が進められています。生活の場に医療と介護をどのように組み入れるかという概念ですが、医療においては、「在宅医療」「がん治療」「高齢者救急」を担保する。この3点を担保できれば、地域包括ケアシステムは成り立つし、逆に1つでも欠けるものがあれば崩壊してしまうと思います。そして、民間病院については、特に高齢者救急の重要性を強く認識し、取り組んでいかなければなりません。

高齢者救急のカギは
かかりつけ医の判断

──高齢者救急の重要性についてはあまり周知されていないようにも感じますが。
加納 平成28年度診療報酬改定においては、入院基本料7対1の絞り込みばかりにスポットがあてられていますが、実は最も評価されたのは、高齢者救急を担う2次救急なのです。
地域包括ケアシステムの構築には、2次救急を守ることが重要であるという視点から、救急搬送の夜間の受け入れが「改定前200点」から「改定後600点」へと3倍になりました(参考2)。しかも、これまで平日は「深夜」のみでしたが、「夜間」も算定できるように、時間外はすべて算定可となったわけです。
厚生労働省としても、今後の高齢者医療のカギが2次救急にあると考えていることは間違いありません。これが中小病院の役割であり、求められていることです。医療の保証は、患者さんの急変時にどのように対応するかにかかっています。慢性期病院でも救急はできるという声を聞きますが、日中なら精神病院においても救急受け入れはできます。問題は時間外です。時間外に医師、看護師、レントゲンスタッフ、病棟が確保できるかどうか。それを考えると、一般病床の民間病院にしかそれを担うことはできない。
確かに高齢者救急、2次救急に対応するためにはコストがかかります。その点で「慢性期病院のほうが煩わしくない」と多くの経営者は考えるかもしれません。しかし、今後の民間病院の生き残りの道だと認識し、その役割を果たしていくべきだと考えています。
──どこまでがターミナルで、どこまでが高齢者救急なのかを判断していくことが重要ですね。
加納 かかりつけ医の役割、診断力が重要になると考えています。患者さんの状態が変化した時に、「自宅で療養すべきなのか」「救急搬送して積極的に治療すべきなのか」ということを、迅速に判断していく力が求められます。
実際には、2次救急に搬送すべき患者さんが、3次救急に運ばれるということが多々あります。3次救急は、多発性外傷や脳卒中の妊婦など2次救急で対応できない患者さんを受け入れるところで、いわば“最後の砦”です。それなのに、3次救急には多くの高齢者の患者さんが運ばれている。
このことによる医療費の損失も莫大です。たとえば、2次救急の救急医療管理加算1は今回100点(1,000円)上がって1日約9,000円ですが、3次救急に運ばれると救命救急入院料2は1日約11万4,000円になります。確かに2次救急では他にも点数がつきますので単純に9,000円という計算にはなりませんが、3次救急と比べると信じられないような金額で対応しているわけです。社会保障制度の持続性を維持するという意味でも、適切な判断が必要です。

2030年から医療機関は
“整理整頓”の時代に入る

──高齢者の生活を支えるということは回復期病院や慢性期病院なども非常に重要な役割を担います。民間病院としては今後、どのような機能、姿がよいのでしょうか。
加納 ある程度の規模があれば、1つの形として急性期から回復期、慢性期の機能を持っているケアミックスがよいと思います。
患者さんは救急で運ばれても、すぐに次の病院を探さなければならないので、患者さんにとってもケアミックスのほうが効率的なのです。在宅に帰るまで主治医が一貫して診ることができます。もちろん、回復期にいけば、その専門医が診ますが、同じ病院ですから主治医が見守ることができます。
ケアミックスは、患者さんから見ても利便性が高く、地域包括ケアシステムを考える上でも民間病院の1つのあり方だと思います。
──すべての病院がケアミックスでできるわけではありません。そこではどのような視点が求められるとお考えですか
加納 ポイントは、地域ニーズの見極めです。各地域では機能分化、連携を進めていくという方向に進んでいますが、その背景には、各地域の将来の人口動態、医療ニーズがある程度、見えてきたということがあります。今後、さらに患者数が急増していくところもあれば、今すぐにでも地域の医療資源を“整理整頓”しなければならないところもある。それに沿って経営者は適切な意思決定を行い、場合によっては自院の姿を変えていく必要があります。
先般の厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」では、医療従事者の需要のピークは2030年と示されました。つまり、医療需要も2030年がピークだということです。2030年を境に、医療従事者や医療機関は“整理整頓”の時代に入るということも、しっかり認識した上での経営を行わなければなりません。

厳しい経営環境下だからこそ
税理士等の経営助言が必要

──各医療機関の機能の分担、業務の連携を推進するために、昨年の医療法の一部改正では、「地域医療連携推進法人制度」が創設されましたが。
加納 医療機能を集約化していかなければならない地域、特に人口密度が低いところは、まさしくこの制度を活用しなければ、地域医療は守れないと考えています。
そこでの問題点は大きく2つ考えられます。1つは、誰が経営の指揮を執るかです。経営力がないにもかかわらず、事業規模が大きいという理由だけでトップになり、経営が破綻するということも考えられます。つまり、より経営管理能力が高い人が指揮を執ることが求められます。失敗した場合のリスクと影響が甚大です。
もう1つ、ホールディングする側とされる側に分かれるということです。医療機関のほとんどは民間です。それぞれにトップがいるなかで、法人化に向けて上手く話し合いによる調整が進むのかということが問題になるでしょう。
この点について、私は現実的には、「ホールディングス型」と「アライアンス型」の2つに分かれると見ています。ちなみに、当院の地域でこの話が具現化する際は、アライアンス型で進めようと思っています。それぞれが並列な立場で、そのなかでグループ化して、情報を一元化して、同じ方向を向いてやっていく。やはり、ホールディングする側とされる側に分かれて、上手く機能するかといえば難しいと思います。それならば、M&Aをしたほうがよいのではないかということになります。法律上は、ホールディングもできるけど、アライアンスも可能ということになっています。
そして、ここでのキーワードは、クラウドによる情報の一元化です。地域における医療と介護に関する情報を一元化し、住民のデータを活用して、健康を守っていく。このようなシステムが構築されれば、地域医療連携推進法人は十分に機能すると思います。
もしかしたら、地域包括ケアシステムというのは、最終的には、この地域医療連携推進法人のような形なのかもしれません。
──最後になりますが、民間病院の経営者にメッセージなどがありましたらお願いします。
加納 地域ニーズの見極めが不可欠な時代に入り、それに沿った経営をしていかないといけないという警鐘と、将来に悲観的にならず、地域での立ち位置さえ明確に定まれば、存在価値の高い医療機関になれるということを改めてお伝えしたいと思います。
もう1点は、経営の適切なアドバイスを行う税理士・公認会計士と密に連携していくことが今後はとても重要になると思っています。医療法の一部改正では、地域医療連携推進法人制度の創設だけでなく、医療法人制度も見直されました。そこでは、医療法人には、経営の透明性の確保やガバナンスの強化を求め、一定規模以上の法人には、医療法人会計基準に沿った決算書の作成、公認会計士等の監査の実施が盛り込まれています。これまで、法人制度のなかで、医療法人会計基準は条文化されてきませんでしたので、これは非常に大事なことですし、ここは公認会計士等としっかり連携し、担保していかなければなりません。
また、このことに限らず、税理士等から提示される正確な財務データ、分析による経営アドバイスは、経営環境が目まぐるしく変化するなかで、個々の経営者の意思決定を適切な方向に導くものとなるはずです。そういう意味でも、是非、TKC会計人の皆様には手厚い経営助言等をお願いしたいと思っています。
(平成28年4月28日/構成・本誌編集部佐々木隆一)

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