TKC法律事務所実務セミナー2016 ケースから学ぶ弁護人のための指紋鑑定 開催のご報告

 平成28年5月19日(木)、6月8日(水)、7月13日(水)の計3回、鑑識鑑定士の齋藤 保先生(株式会社齋藤鑑識証明研究所)を講師にお招きし、「指紋鑑定」をテーマとしたTKC法律事務所実務セミナーを東京と大阪にて開催しました。齋藤先生は栃木県警察で29年間指紋鑑識に携わり、その後も名古屋窃盗否認事件、布川事件など21件のえん罪事件鑑定をはじめ、再審請求事件などの指紋鑑定でご活躍されている先生です。
 裁判で指紋鑑定が提出された場合に弁護人としてどう対処するか、実際のケース(事例)や指紋検出の実演を交えてご講演いただきました。

指紋採取から照合までの書類の読み方

 「指紋鑑定というものは警察の独壇場であり、裁判で鑑定書が提出されてもよくわからない」と、苦手意識を持つ方が多いのではないでしょうか。

 まずは現場指紋の採取や手続きの流れを把握し、①どこにどんな書面があるのか、②何を開示請求すればよいのか、というところを押さえてください。

 指紋に関わる処理は「採取」と「鑑定」の大きく2つに分かれており、指紋採取は“警察署”、指紋鑑定は“本部鑑識課”で行われます。現場指紋が被疑者と合致した場合に本部鑑識課で作成される報告書としては、照合結果のみ記載されている「確認通知書」(作図写真なし)と、指紋照合作図写真の添付されている「鑑定書・合致報告書」の2種類があり、通常は「確認通知書」のみ提出されます。否認事件の場合でも作図写真のない報告書が提出される場合がありますので、裁判官の審理・判断のためにも必ず作図写真の添付されている正式な書面の提出を求めてください。

 また、採取された現場指紋のうち、鑑定不能と判断されたものについては廃棄されてしまいます。すべての現場指紋を確保するためには、廃棄されないうちに開示請求を行わなくてはなりません。

株式会社齋藤鑑識証明研究所 齋藤 保 先生

私たち鑑定人は「モノ言わぬ物に、モノ言う花を咲かせる」ことが仕事であり、弁護人は「モノ言う花に実を成らせて、結果を出す」ことが仕事です。
いわば、弁護人と鑑定人の関係は「車の両輪」と言えるでしょう。
警察の指紋鑑定基準は「12点法則」ですが、齋藤鑑識証明研究所では5点合致から鑑定可能です!
えん罪事件を防ぐためにも、弁護人は鑑定人を大いに活用してください。

指紋鑑定・筆跡鑑定など民間鑑識証明のエキスパート 齋藤鑑識証明研究所

指紋鑑定が提出された場合の対処方法

指紋検出実演の様子

 指紋鑑定は①合致の合否、②犯行時の付着度合、③犯人指紋の不存在、この3つの視点のいずれかに必ず該当します。

 ①否認事件の場合、まず物理的に指紋が合致するか確認しましょう。専門家であっても、誤鑑定となる可能性はゼロではありません。必ず信頼ある鑑定人に依頼をしてください。また、埼玉窃盗否認事件のように犯人でなくとも取調べ時に自白してしまうケースもありますが、自白は誤鑑定の原因の一つとなりかねません。家族を含めたより多くの方の話を聞き、アリバイ検証のための証拠を集めてください。

 ②指紋が合致しても、犯行時に付着したかどうかまでの証明にはなりません。犯行時付着度合には、「押圧力」「指掌紋の方向」「付着部位」の論点がありますが、名古屋窃盗否認事件では、現場指紋の「押圧力」が鍵となりました。指紋が合致した場合でも、付着した時の動作等、背景に何があるのかを確認し、反証を探しましょう。

 ③起訴事実のとおりであれば指紋が残るべきところ、犯人指紋が存在しない場合は、自白内容を全て絵に描いたストーリーにし、検証調書の写真との整合性を必ず確認してください。布川事件では犯人指紋の不存在が引き金となり、現場の状況と自白の矛盾から真実が明らかになりました。

 否認事件は犯行現場に新たな事実が隠れている可能性が高いので、弁護人は事実の中に矛盾点がないかを様々な観点から1つずつ解明していく必要があります。

参加者の声

  • 実際の事件のケースについての説明や、めったに見られない指紋検出実演がとても興味深かったです。
  • 指紋が一致したと警察が言うと、安易に同一人物のものだと信じてしまいがちだが、それがいかに危険なことか非常に参考になりました。
  • 指紋の鑑定については、警察が行っているため信用できるものと疑わなかったが、今回のセミナーでそうではないことを知ることができて良かったです。今後の弁護活動に生かしていければと思います。
  • 証拠の見方が変わると思います。
  • 刑事弁護をやっていくにあたって、非常に参考になるお話でした。争う場合には必ず役に立てたいと思います。
「弁護人のための指紋鑑定」(現代人文社刊・定価2,700円/税別)

【サブテキスト】
「弁護人のための指紋鑑定」
(現代人文社刊・定価2,700円/税別)