2024年4月号Vol.134

【特集】フロントヤード改革、はじまるバックヤードと一体的な取り組みで、行政も住民ももっと便利に

総務省自治行政局
行政経営支援室長 兼 地域DX推進室長
君塚明宏氏
インタビュアー 本誌編集人 飛鷹 聡

2023年秋の改定で、『自治体DX推進計画』重点取組事項の
トップに掲げられた「フロントヤード改革」。
これまで取り組んできた〈行政手続きのオンライン化〉と一線を画す
新たな住民と行政との接点の実現とはどういうものなのか――
総務省自治行政局の君塚明宏室長に話を伺う。

──自治体DXの新たなテーマとして、「フロントヤード改革」が注目されています。改めて、取り組みを推進する背景や狙いを教えてください。

写真左から花森課長と藤堂課長

君塚明宏(きみづか・あきひろ)
2000年自治省(現総務省)入省。
岡山県財政課長、総務省自治財政局財政課財政企画官、高知県総務部長、総務省自治行政局公務員部応援派遣室長、大臣官房広報室長などを経て、23年7月に自治行政局行政経営支援室長に就任。
9月から現職を兼任。

君塚 デジタル化による業務効率化ということでは、これまではバックヤード起点で取り組みが進められてきたと感じています。その一つの成果が「情報システムの標準化・共通化」です。これにより〈行政事務の効率化〉は進みますが、〈住民の利便性向上〉の点では効果が見えづらいですよね。
 住民の利便性向上ということでは昨今、自治体の創意工夫のもとで書かない窓口やオンライン申請、リモート窓口、移動市役所など多様なチャネルを活用する動きも広がっています。しかし、現状を見ると〈書かない窓口だけ〉〈オンライン申請だけ〉といった〝部分最適〟な取り組みが多く、その進捗でも自治体間で大きな差が生じていると感じています。
 総務省が実施した「窓口業務改革状況簡易調査」(2023年2月)では、指定都市や中核市では着実に窓口改革が進んでいるものの、それ以外の団体では10%程度にとどまっていることが分かりました。ここは、全国の自治体が足並みを揃えて推進していくことが重要でしょう。
 自治体DXの目的は、〈デジタルやデータを活用して仕事のやり方を変え、人的資源を行政サービスのさらなる向上につなげていく〉ということです。
 急速な人口減少による人材不足が深刻化する一方で、高齢化などにより行政需要は多様化・複雑化していきます。限られたリソースで、より質の高い行政サービスを持続可能な形で提供するには、相談対応や企画立案の業務に人的資源をシフトさせていくことが欠かせません。そのために、従来発想のデジタル化から一歩踏み出し、利用者起点で住民と行政の接点から仕事のやり方を総合的に変えていく──これが「総合的なフロントヤード改革」で目指すところです。

フロント・バック改革は
車の両輪

──従来の「行政手続きのオンライン化」とでは、何が違うのでしょうか。

君塚 これまでの取り組みは、紙とデジタルの申請が混在したまま、住民との接点だけを複数用意する「マルチチャネル」化だったといえます。これでは住民は便利になっても、職員の業務負担は逆に増えかねません。
 一方、フロントヤード改革で進めようとしているのは、データ対応を前提とした「オムニチャネル」化です。マルチチャネルのように住民との接点を別々に考えるのではなく、チャネル全体を一つのサービスとして融合していくというものです。
 具体的には、マイナンバーカードを活用して、窓口やオンラインのほか、住民に最も身近な場所(支所や公民館、郵便局等)など、あらゆる接点からサービスを受けられるようにします。これにより住民の利便性向上はもちろん、バックヤード側の一連の業務まで〝エンドツーエンド〟でデジタル化することで、業務効率も格段に高まります。
 その意味で、フロントヤード改革とバックヤード改革は、いわば〝車の両輪〟といえるでしょう。
 フロントからバックまで一体的なデジタル化を進めることで、例えば申請データを活用して処理状況(処理件数・時間、待ち時間など)の把握・分析が可能となり、その結果をサービス品質の向上や業務改善に役立てることができます。そして、目指すべき最終ゴールは、住民も職員も負担を減らすと同時に、サービスや業務の質が上がり、きめ細かな相談対応等がなされることで、「役所(役場)が変わった」と感じられるようにすることです。

──その推進に向けて、どのようなことに取り組まれているのでしょうか。

君塚 現在、「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」を進めています。これは、総合的なフロントヤード改革の実証支援を通じて、〈住民の利便性の向上〉と〈業務の効率化〉を実現する汎用性のあるモデルを構築し、全国へ横展開することを目的とするものです。令和5年度事業では53団体が応募し、12団体を採択しました。
 自治体職員の皆さんと話をすると、「必要性は理解しているが手が回らない」「何をしていいか分からない」という声を多く耳にします。そこで人口規模別にさまざまな実践モデルを創出し、業務の見直しから実現までのプロセスを手順書で示すことで、「この通りにやれば窓口業務を改革できる」というものにしたいと考えています。
 そのためモデル自治体を選定する際にも、人口30万人以下の団体への横展開を意識し、離島や過疎地を抱えている、あるいはベッドタウンであるなどの地域特性も加味して、多様な例を選定しました。さらに一歩先を行く先駆的モデルとして、高度なデータ分析による業務改善を目指す例や、周辺自治体との連携といったモデルが選ばれたのも今回の事業の特徴といえます。

──確かに、当社にもお客さまから「書かない窓口やオンライン申請について、優良事例の取り組みを教えてほしい」という声が数多く寄せられます。

君塚 そこを埋めるのが今回の自治体フロントヤード改革モデルプロジェクトだと捉えています。なお、総務省のYouTubeチャンネルにフロントヤード改革を紹介する動画「始めよう、進めよう。自治体フロントヤード改革」を投稿していますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
 また、自治体フロントヤード改革モデルプロジェクトと並行して横展開のための仕掛けも準備しています。その一つが「自治体DX推進参考事例集」です。かねてよりホームページに掲載しているもので、継続して充実を図ります。今後はフロントヤード改革の事例が増えていくことになるでしょうね。
 加えて、全団体の取り組み状況を〝見える化〟する仕組みの調査研究にも着手します。

──それは、大きなインパクトをもたらしますね。

君塚 そうですね。総務省では、毎年DXの概況調査を実施しており、その結果から団体ごとに「ダッシュボード」のイメージで取り組みの進捗状況を示し、団体間比較ができるようにしたいと考えています。横並びで見える化することで、自分たちの課題が把握しやすくなるとともに、手本となる団体を探して直接教えてもらうといった活用もできるのではないでしょうか。
 われわれとしても、これにより政策がどの程度進んだのかが分かり、次の打ち手の検討にも役立てることができると期待しています。

いつから取り組むのか

本誌編集委員 篠崎 智

──中小団体では〝1人情シス〟も多く、標準化対応で窓口改革まで取り組む余裕がないという声も聞かれます。フロントヤード改革には、いつから取り組めばいいのでしょうか。

君塚 この1~2年間でマイナンバーカードが広く普及し、オンライン手続きや書かない窓口などを進める素地は整いました。急かすつもりはありませんが、皆さんが標準化対応に取り組む一方で、できるだけ負担をかけずにフロントヤード改革も進められるよう手順書などを整備したいと考えています。
 フロントヤード改革は、ツールを導入すれば実現できるものではありません。まずは、紙によるアナログ処理を早くなくすよう意識することです。
 例えば、書かない窓口を活用して、対面による手続きでも紙の申請書に記入するのではなく、職員が手伝いながらタブレット等で申請内容を入力してもらうことが挙げられます。このようにデータ対応の徹底により、事務処理の〝ダブルトラック〟を解消していくことが肝要です。
 住民との接点やインターフェースの部分で一定期間、紙とデータが並存することはやむを得ないと思います。その場合でも、AI-OCR(※1)などを活用してバックヤード側の処理は全てデータ連携していかなければ、職員の業務が増えることになりかねません。

──データ連携ということでは、「公共サービスメッシュ」も25年度末までの実装が予定されています。標準化対応をゴールと考えず、その後を見据えた検討が必要といえますね。改革に取り組む自治体への支援では、他にどのようなことをお考えですか。

君塚 フロントヤード改革には、大前提として窓口業務全体の見直しが欠かせません。これについて、政府では、「窓口BPRアドバイザー」(※2)の派遣など人的支援を行っています。さらに、財政面では「デジタル田園都市国家構想交付金」とも連携して横展開を進めていきたいと考えています。このようにモデル事業による先進事例の横展開と、必要な人的・財政的支援をセットとした支援に取り組みます。

いま、できることから始めよう

本紙編集人 飛鷹 聡

本紙編集人 飛鷹 聡

──今後の展望を教えてください。

君塚 昨年末に公表された『新経済・財政再生計画改革工程表2023』(経済財政諮問会議)では、総合的なフロントヤード改革に取り組む自治体数を26年度までに300団体とするというKPIを掲げました。取り組みはまだスタートしたばかりです。まずはフロントヤード改革のモデル事例を創出し、住民との接点の多様化・充実化やバックヤード改革、推進体制のあり方などを検討し、自治体への理解促進を図っていく考えです。

──当社としても、「役所が変わった」と感じられるよう、フロントとバックとの一体的な改革を積極的にご支援していきます。

君塚 いまフロントヤード改革という言葉が注目されていますが、〈デジタルを使った窓口の効率化〉は自治体にとって古くて新しいテーマです。
 高齢者と子育て世代では求めることが異なります。自治体に求められているのは、そうした多様な住民ニーズに合ったサービスを選択できるよう、利用者目線で、手続きやサービスの対象者によって〝接し方を変えていく〟ということです。
 デジタル化やDXは、あくまでも手段です。目指すのは、仕事のやり方や住民の方との接し方を変え、住民も行政も楽になり、サービスや業務の質を上げることです。まずは全庁でそうした意識を持つところからスタートしていただきたいですね。
 一気にフロントヤード改革を進めることは難しいと思いますが、今できることから一歩ずつ地道な取り組みを続けていくことが大切です。全国の自治体が足並みを揃えて取り組めるよう、ノウハウの紹介などを通じて、これからも伴走しながら皆さんを支援していきますので、ぜひご注目ください。

※1 AI-OCR:AIの学習機能とOCRの読み取り技術を融合したもの。手書き文字をデータとして読み取るため、入力作業を効率化できる
※2 窓口BPRアドバイザー:デジタル庁が希望する市町村にアドバイザーを派遣し、オンライン・現地での支援を行うもの

撮影:中島淳一郎

アーカイブ

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

※掲載団体様への直接のお問い合わせはご遠慮くださいますようお願いいたします。

  • お客様の声
  • TKCインターネットサービスセンター「TISC」のご紹介