寄稿

格差是正を願う

はじめに

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 私のところには全国の会員からいろいろなメールが届きます。

 なかには情報不足からくる誤解や認識不足による次のようなクレームもあります。

「TKC全国会は毎年怒濤の如く、あれこれと目標を示すが、末端会員は戸惑うばかりで迷惑だ」。これは最近来たものですが、これと似たケースで、「いろいろとやらされるから出るのは嫌だ」などの声を、支部例会などに参加されない会員から聞くこともあります。

 どうもTKC全国会が志向している諸活動が一部の会員には正しく伝わっていないことが原因で被害者的意識となっているように思われます。

 そのようなことがないように、TKC全国会の唯一の機関誌である『TKC会報』は、発刊以来、全国会活動について常にその狙いや活動内容をタイムリーに紹介し、国や行政機関の最新情報などもできるだけ掲載するように努めています。

 血縁的同志であるすべてのTKC会員に最新情報を等しく共有していただくことで、地域会や支部活動を側面から支援する役割を『TKC会報』は担っています。会員間の情報格差が生じることがないようにすべての会員に読んでいただきたいものです。

TKC全国会の活動が誤解されないために

 企業や組織集団には、企業理念や組織理念があります。

「理念」とは、いわば企業や組織を運営していくうえで拠り所となる普遍的で半永久的な方針であり、その企業や組織の価値観や存在意義を示すものです。

 理念を具現化したものが、「事業目的」です。事業目的を達成するために、ビジョンや事業計画が作成され、これに基づいて事業活動が展開されます。これはTKC全国会も同じです。

 特に「職業会計人の職域防衛と運命打開」は、TKC全国会の重要な理念でありTKC会計人の実践原理です。これに基づいてTKC全国会は、職業会計人を取り巻く法制度の欠陥是正の活動に取り組んできました。

 改めてTKC全国会の事業目的を確認するまでもありませんが、「租税正義の実現」「税理士業務の完璧な履行」に続く3番目の項目に、「中小企業の存続・発展の支援」があります。

 今日、赤字決算企業比率の高止まりや経営者の高齢化、企業数の減少など、中小企業をめぐる経営環境は厳しい状況にあります。そのためTKC全国会は、「中小企業の存続と成長・発展を支援する」をミッションとして、次の戦略目標を掲げています。

 ①中小企業の黒字決算への支援
 ②決算書の信頼性向上を図る支援
 ③企業の存続基盤を確かなものにする支援

 これらの活動は、事業目的の4番目の項目に挙げられている、「TKC会員事務所の経営基盤の強化」に直結する活動です。そのためには積極的に情報を共有し、自ら行動をおこす勇気と覚悟が必要だといえます。

「税務・会計は必要だが、いまのような税理士はいらない」

 ITが加速的に進展し、人工知能やビッグデータの活用が世の中のあらゆる事業活動にインパクトを与える時代となっています。

 今年の7月14日、東京・帝国ホテルにおいて、株式会社TKC創業50周年記念式典が開催されました。その基調講演として、ドイツのDATEV社前社長ディーター・ケンプ教授が「2025年における税理士業務」のテーマでスピーチをされました。

 ケンプ教授は、講演のなかで、「バンキング(の機能)は必要だが、いまのような銀行はいらない」とのビル・ゲイツ氏の言葉を引用され、デジタル化が進むなかで、「税務・会計(の機能)は必要だが、いまのような税理士・会計士はいらない」と言われることがないように、税理士が未来に生き残るために必要と思われる次の3つの前提条件を示されました。

  1. 取り組む方法や範囲を常に法規や技術の発展・変化に適合して業務を遂行し、関与先や第三者の高度な品質への要求に応えること。
  2. 常に専門知識を習得し、品質の高いサービスを提供し、自分の事務所での取り組みを効果的かつ効率的に行い、事務所自体も効果的・効率的に経営すること。
  3. 最新技術のもたらす可能性を駆使して、媒体やシステム横断的にシームレスなサービスを提供すること。

(『TKC会報』平成28年9月特別号から)

 現在、TKC全国会が目指している活動の目的もここにあるのです。品質の高いサービスを提供できる事務所へ体質改善できるチャンスがあっても、従来のやり方に固執して姿勢を変えようとしない会員をみかけます。そのような所長の姿勢も会員間の格差拡大の要因となり得るのではないでしょうか。

「ゆでガエル」の寓話と会計人

 本年度の重要テーマ研修のタイトルは、マイナンバー、複数税率、クラウド会計、そしてFinTechなど、いま起きている時代変化に対応して「危機を突破する事務所経営戦略とは」でした。

 KFS活動を中心とする事務所総合力を駆使して、高品質な業務サービスを展開することによって、関与先企業を中心とする中小企業の運命打開を図ろうとの趣旨で研修が行われました。

 4971事務所が受講し、受講者へのアンケート結果によれば、「大変よかった」と「よかった」を合わせて97.9%という非常に高い評価でした。

 過半数の会員事務所が受講されたわけですが、一方でさまざまな理由で未受講の事務所が多いことは残念です。このような研修不参加も含めて、小さな機会損失の積み重ねが、冒頭のような被害者意識を生み、会員間の格差拡大につながらないことを祈る次第です。

 企業経営の失敗事例として、よく「ゆでガエル」の寓話を引き合いに出すことがあります。煮立った湯鍋にカエルを入れると、その瞬間に飛び出してしまいます。しかし水が入った鍋に入れておくと、じっとしたままでいます。下から火を焚いて温度を上げていくとしばらくは何の変化もおこりませんが、やがて温度が高くなるとだんだんと意識がもうろうとして、ついには鍋から脱出できなくなって死んでしまう、という寓話です。カエルの体内にある生存への脅威を感知する仕組みが、環境の急激な変化には適するが、ゆっくり徐々に起こる変化には対応していけないというわけです。会員事務所が「ゆでガエル」にならないことを願う次第です。

TKCモニタリング情報サービスを定着させよう

 環境変化と言えば、昨年からフィンテックブームが起きていますが、TKCもいち早くフィンテック・サービスを始めました。「銀行信販データ受信機能」に加え、10月3日から「TKCモニタリング情報サービス」が開始されました。

 当モニタリング情報サービスは、TKCによる「金融機関向けFinTechサービス仕様説明会」が全国主要都市で開催され、210を超える金融機関から申し込みがきています。

 各地域会や支部においてさまざまな機会をとらえて、会員向け説明会等が実施されているところですが、特に本サービスは会員事務所の所長先生と職員各位の理解と協力なくしてはスムーズに運びません。まず会員事務所が、仕組みをよく理解し、その上で関与先企業への周知活動を徹底させる必要があります。

 会員事務所にはProFITを通じて解説動画と関与先向け説明用パンフレットが提供されています。これらを活用して監査担当者全員が理解を深め、関与先への周知をお願いします。

「決算書等提供サービス」と「月次試算表提供サービス」が開始されていますが、まず「決算書等提供サービス」からスタートしてこの仕組みに慣れることです。これまで銀行に紙で提出していた決算書などを、会員事務所のOMSを通してネットで送ることが可能になったということですので、抵抗感は少ないものと思います。

 会員事務所がこのような新たな変化にしっかり適応し、堂々と、発展の道を歩むことを切に願う次第です。

(会報『TKC』平成28年11月号より転載)