ユーザーインタビュー

株式会社ビルド・アップ 様

株式会社ビルド・アップ 様

右から望月慎一郎税理士、稲垣里志社長夫妻、勝俣好浩監査担当

高技術力企業のつまずきを
銀行と税理士が密着支援

株式会社ビルド・アップ 稲垣里志社長
静岡銀行吉原北支店 片山貴彦支店長
望月慎一郎税理士事務所 望月慎一郎税理士、勝俣好浩監査担当

 建築資材の運搬に携わっていた稲垣里志氏が、大工として独立したのが1993年、24歳の時である。以来、木造枠組壁(2×4=ツーバイフォー)工法のパネル製作・施工に重心をかけながら業容を拡大してきた。そのプロセスのなかで、2002年にビルド・アップを設立し法人化。国内マーケットの主流である木造軸組(在来)工法のカウンターパートとして、着々と勢力を伸ばしてきた2×4工法にいち早く着目した先進性は、その後の順調な売り上げ推移によって証明されてきた。

 稲垣社長は言う。

「当初は在来工法も手がけていましたが、97年にパネル製作工場をつくってから、2×4工法に次第に特化していきました。2×4工法は、世界標準の規格(2×4インチの木材が基準)の材料を使用したパネルを壁にして組み合わせる木造建築の手法で、コストダウンがしやすく、屋内の空間を比較的自由につくることができ、また、断熱性、機密性とともに耐震性、耐火性にも優れており、地震大国日本にはぴったりの工法です。そんなところに合理性と将来性を感じました」

 欧米では標準的な建築工法だけに、高度なシステム化、マニュアル化がなされており、従来工法を手がけてきた職人の勘やフィーリングはあまり必要ない。その代わり、図面を読み取り、誤差のないよう正確につくるという別の能力が要求されるのだという。

「これが意外にできない。ベテランの職人さんも多数雇いましたが、対応できない方が多かったように思います」

 そのため、稲垣社長は未経験者を採用して、いちから職人を育てるという荒技に出る。しかも、その職人たちが独立していき、彼らが同社のパネルを推薦・採用するという正のサイクルをつくり上げていった。

 設備投資にも積極姿勢を貫いた。2003年に2カ所目の工場を設立しつつ、順次、最新鋭の機械を導入、パネルの加工精度と生産能力を大幅に引き上げた。加えて、自社倉庫の建築、自社物流網の構築などのインフラ整備に力を注ぐ。こうして、現場での施工期間を極力短くしつつ効率性を上げ、会社組織としての安定性も担保していく。

 もちろん、成長市場なので、2×4パネルは他のハウスメーカーや工務店から引っ張りだこ。自社で設計・施工を行う能力を持ちながら、パネルメーカーとしての色合いが次第に強くなっていった。また、先行してノウハウを蓄積しつづけたために、大手ハウスメーカーなどから技術力も評価されるようになる。結果として、東海地方でトップクラスのパネル生産量を誇るにいたった。

 ちなみに、木材はカナダ・バンクーバーからの直輸入。現在では、パネル製作坪数の生産能力は年間約2万8000坪。現場での建方は35坪程度なら、屋根トラス施工まで1日で終えることができるという。

工場内風景

年間約2万8000坪の生産能力を誇る

深刻な経営危機に……

 ところが、好事魔多し……。2016年、莫大(ばくだい)な過剰在庫が発覚したのだ。しかも使えない在庫である。仕入れ担当者の不注意だった。これをきっかけにして社内が混乱し、当時の主要メンバーの数名が退社、新会社を設立する。顧客の何割かはそちらへと移った。いきなり強力なライバル会社の出現となった。一方、財務的に在庫処理の手続きをとることで債務超過に転落する。文字通り「内憂外患」が現実のものとなり、創業以来、順風満帆な経営を続けてきたビルド・アップが、一気に深刻な経営危機を迎える。

 これまで設備投資を重ねて優位性を築いてきた同社。長期借入金の月々の返済も決して楽ではない。とはいえ、稲垣社長の士気は衰えておらず、営業利益もしっかりと出ていた。そのため、メインバンクの静岡銀行吉原北支店は、返済金負担を補うための融資実行により資金繰りを支えていた。

片山貴彦静岡銀行吉原北支店長

片山貴彦静岡銀行吉原北支店長

 そんななか、2017年7月、その吉原北支店の支店長に、片山貴彦氏が就任。片山支店長はこう述懐する。

「手元資金を取り崩して、なんとか自分たちで経営改善を行うという話でしたが、決算書などを見てみるとかなり不安な内容でした。借り入れ返済を一時的に止めれば何とかなるかもしれないと、より詳しい状況を調べようとしてみましたが、管理体制ができてないので財務内容がはっきりと分からないのです。出てきた数字の信憑(しんぴょう)性も疑問でした。会社の内情が分からなければ、こちらとしても手の打ちようがありません。そこで、これまでにも当行とコラボしながら取引先の経営改善に取り組んだ実績のある望月慎一郎税理士に、顧問になっていただきました」

 何はともあれキャッシュフローの明確化が必要だ。そのためには、支払いと回収の関係性を経理部門がしっかり把握する必要がある。望月税理士は言う。

「まず、システム(TKCの『FX2』)を導入して自計化(自社で経理業務を行うこと)を行い、巡回監査、月次決算という基本的な経理体制をつくり、在庫や資金繰り管理もきっちりと行える仕組みを整えました」

TKCモニタリング情報サービス

 さらに、「TKCモニタリング情報サービス」を導入し、月次試算表、年次決算書をオンラインで静岡銀行に送付することを可能にした(他の5取引金融機関には決算書等提供サービスのみを導入)。

 金融機関が条件変更を行うためには、正確な情報をもとにした実行可能性の高い経営改善計画の作成と、それを定期的に検証するバンクミーティングの開催が条件となる。片山支店長が、望月税理士に期待していたのはこの二つの課題をクリアするための土台作りである。

「期待通りでした。若く意欲があり、経営改善の経験もある。こういう税理士さんは金融機関にとっても心強い。いずれにせよ、望月税理士のおかげで、ビルド・アップさんの内情が分かりましたし、しかも、『TKCモニタリング情報サービス』を通して、月次でタイムリーな業績を把握できるようになりました。同サービスは、われわれにとっては業務効率の向上に役立ちましたが、ビルド・アップさんの経営にも好影響を与えているのではないでしょうか。財務の状況が金融機関にガラス張りとなることで、経営者をはじめ財務担当に緊張感が生まれるでしょうから」

 バンクミーティングは、静岡銀行が音頭をとり、今年3月に1回目、6月に2回目が開催された。稲垣社長や他の取引金融機関はもちろん、望月税理士事務所からも、望月税理士と勝俣好浩氏(監査担当)が出席。約定返済の再開時期や債務超過の解消時期など、今後の展開を確認し合った。

次世代工法で飛躍を狙う

 望月税理士事務所によるビルド・アップの財務体制再構築は、もちろん、稲垣社長にとっても大歓迎だった。

「従来も、スプレッドシートで資金繰り管理を行ってはいましたが、信憑性に欠けていたので攻めたい時にも怖くて攻められませんでした。いまでは、月次で信頼できるデータをいつでも見ることができるので、設備や人材への投資に不安感がなくなりましたね。しかも、担当の勝俣さんが毎月来てくれるので、分からないところは聞けばよい。以前は何を聞いたらよいのかさえ分かりませんでしたからね(笑)。最初からこのような体制を敷いていれば、例の過剰在庫問題も起こらなかったと思います」(稲垣社長)

 そんな稲垣社長に、望月税理士は「毎日体重計に乗ることがダイエット成功の条件ですが、会計も同じ。毎日数字を見ることで興味が湧くし、会社を良くしようという意欲も出てきます」とアドバイス。さらに「ビルド・アップさんは、高い技術をお持ちでビジョンもある。経理担当の奥さまはもちろん財務管理にも非常に真面目に取り組んでおられる。このまま、計数管理をきちんと実践しつづければ、必ずや復活できると信じています」と太鼓判を押す。

 そんな稲垣社長が、今後大きな期待を寄せているのは自社の技術力を結集して開発した「2×4工法のユニット化」。施工する際の技術に対してすでに特許出願を済ませているこの工法を使えば、通常約60日かかる工期を、品質を維持しながらなんと7日に短縮できるのだという。

「壁や床、天井をユニット化し、サッシやコーキング、配線、水道設備、バス、キッチンなどもあらかじめ工場でとりつけ、トラックで現場に運んでクレーンを使って設置します。従来、約250ものパーツが必要だった現場作業が、たった16パーツで可能になる。工期短縮だけでなく、職人不足解消やコスト削減にもつながる画期的な工法です」

 実はこの工法、現場で誤差が発生した場合、調整作業が困難なため、ユニット自体に数センチ単位の緻密な精度が必要になる。稲垣社長は「現場で合わなかったら修正が効かない。そのため、リスクを嫌う他社はまねできません」と胸をはる。6月から製作をスタートし、すでに受注が入り始めているというこの次世代工法が、ビルド・アップの今後の経営改善のポイントになるのかもしれない。

株式会社ビルド・アップ
創業
1994年10月
所在地
静岡県富士市依田橋269-1
売上高
約8億円
社員数
約35名
URL
https://buildupinc.jp/
望月慎一郎税理士事務所
所在地
静岡県富士市中里443-7
URL
http://www.mochizuki-tax.jp/

『戦略経営者』2018年10月号より転載