産業用爆薬製造・販売を主力に年間約17億円を売り上げるワイ・エス・ケー(YSK)。4代目の由良秀明社長(52)は、公共事業激減という逆風のなか、果敢な経営戦略と『FX2』を活用した緻密な財務管理を駆使して、安定した業績を上げ続けている。

歴史に裏付けられた技術で“逆風”に立ち向かう

ワイ・エス・ケー:由良社長(中央)

ワイ・エス・ケー:由良社長(中央)

――由緒正しい歴史をお持ちのようですね。

由良 設立は正式には1917年。曾祖父の由良浅次郎が由良染料株式会社を設立したのが会社としてのスタートです。ただ、一族の歴史をさかのぼると、浅次郎の父である儀兵衛が1895年に紀州フランネルを生産する由良兄弟色染合名会社(後の由良精工、現在は本州化学)を興しています。さらにいえば、江戸中期の1873年頃、日高屋嘉兵衛が紀州55万石の和歌山で、表紺(藍染め)屋を創業、出入り御用商人になったのが始まりといえば始まりかもしれませんね。

――染料というと?

由良 浅次郎は日本で初めてベンゼン、アニリン、フェノールなど、合成染料の基礎原料と合成染料そのものの製造を行いました。当時、染料の基礎原料や有機中間体は欧州から輸入されていました。それをいわば最初に国産化したのが曾祖父だったのです。もっといえば、「有機化学」そのものを実際に手がけたのが由良だといわれています。

――我々素人には染料と爆薬というのが結びつかないのですが。

由良 染料の基礎原料のフェノールをニトロ化することでトリニトロフェノールができます。これが実は、日露戦争で海軍の主力爆薬として使われた「下瀬火薬」の主成分なのです。当然、フェノールを合成することができる当社には、それをつくる能力があったというわけですね。
 そんなことで、第二次世界大戦の終結まで、当社は軍の命令で爆薬を供給し続けました。そのため、終戦後は戦後賠償指定工場になり、1952年のサンフランシスコ講和条約までは休眠状態でした。

――その後は産業用爆薬で再起をされたとか。

由良 当初は、旧日本軍の弾頭から火薬を取り出して爆薬をつくるようなこともやっていたようです。それから昭和40年代に父親が社長に就任すると、全国のダム建設や採石場などに精力的に営業をかけ、徐々に規模を拡大していきました。ちなみに、現在は産業用爆薬は業容の4割程度で、あとの6割は染料や界面活性剤、酸化防止剤などの原料となる有機中間体の製造です。つまり、有機化学の知識とノウハウが当社を支えてきたというわけです。

――公共事業が激減し、競合も多く存在するなか、業績は安定されています。

由良 もちろん産業用爆薬事業では、公共事業の減少は大きいですね。しかし、その分、OEM生産を増やすなど、負の影響を最小限に抑える戦略を展開しています。大手化学メーカーは、ハイテク分野などに忙しく、あまり儲からない爆薬事業は、できれば外部に任せてしまいたいという部分があります。かといって、危険な製品なのでいい加減な会社に任せるわけにはいかない。その意味で、技術の蓄積と業界での信頼のある当社が、その受け皿になり得ているのだと思います。

――化成品事業の拡大も大きかったとか。

由良 当社では、設立時を除くと、とくにエボリューションはありませんでした。ただ、化成品の方は、父と私の時代に、比較的時代のニーズに合った製品を供給できるようになったと思います。医薬品をつくるような高度な技術ではありませんがYSKなりのノウハウは構築してきたつもりです。それが、差別化につながってきたのだと思います。たとえば、製造が難しい特殊なメガネ光学レンズの原料なども、当社が供給したりもしています。

数字のリアルタイムの把握がスピーディーな打ち手を生む

――ところで、先ほど拝見したのですが、社長の席の後ろの壁に財務データのグラフや表が15枚以上、びっしりと貼られていました。

小寺隆弘顧問税理士 経営計画策定支援ツールの『継続MAS』から出力した売上・利益の推移や前年度、予算実績比較のグラフなどです。

由良 具体的な数字をはりだすことで、社員が会社の置かれた状況を共有し、全社的なモチベーションを上げていこう…ということで、数年前から始めました。私だけが数字をいくら理解しても、社員が動かなければ意味がないですからね。

小寺 この「貼り付け」方式を常々拝見していて「これは良いなあ」と感じ、いま他の顧問先にも薦めているところです。

――『FX2』は10年近く前に導入されたとか。どんな使い方をされていますか。

由良 前期実績や予算と今期実績を比較し、異常値があれば精査し、その原因を排除するように指示します。毎月、岡山工場(玉野市)と結んでテレビ会議を行っているのですが、そこで『FX2』からの指標に基づいた指示を出すこともあります。
 たとえば、旅費が予算を上回っていたら、もっと出張を効率化するように。あるいは、「月末たな卸高」が増えていれば在庫を圧縮するよう指示します。当たり前のことのようですが、これらは実はリアルタイムに数字が分かるからこそできることなんです。また、『FX2』では、たとえば《全社業績の問合せ》の画面から「旅費」という科目をクリック(ドリルダウン)すると、当期と前期・予算の累計比較グラフが出てきますよね。とても使い勝手が良いと思います。

――とくに気になる勘定科目は?

由良 限界利益です。当社は、変動費のなかの原料費率が高い。65%くらいでしょうか。石油化学系の原料などはとくに価格の変動が激しかったりします。なので、なるべく安いところから安い時期に購入する必要があります。ここは神経質にならざるを得ません。

――原料費以外の変動費とは?

由良 廃液処理費が大きいですね。化成品原料の製造過程には必ず廃液が出ます。この処理費用が思いのほかかかるんですよ。知らず知らずのうちに膨らまないようにチェックしておく必要があります。
 余談ですが、日本は廃液処理にとても厳しい。一方、アジアの新興国ではそうでもなくて、それが国際競争力の確保という意味では悩ましいところではあります。

――固定費はいかがでしょう。

由良 やはり最も気になるのは人件費でしょうか。今、取り組んでいるのは残業の圧縮です。1ヵ月72時間を超える残業を強いると、労働基準監督署から「安全配慮義務違反」が疑われますから、まず、ここを厳しく指導しています。
 あとは、『FX2』の《全社業績の問合わせ》の画面から、人件費をクリック(ドリルダウン)し、累計推移グラフで予算比を確認することで、残業代の増減をチェックします。もし、異常値が確認されれば、工場の効率改善などの手を打つ必要が出てきます。

小寺 由良社長の計数管理能力はとても高いと思います。にもかかわらず“細かい”という感じではない。数字は参考にしますが、最後は自分の経営者としての感覚で決断されています。

由良 指標はあくまで指標。そこに引っ張られすぎてもダメだと思っています。思い切った手が打てなくなりますからね。ただ、悪い数字が出たときにはできるだけ具体的原因を追及し、可能な限り修正すること。これは経営者の行うべき最低限の仕事だと思いますよ。

対前年比売上120%目標に多彩な施策を展開中

――今後はいかがでしょう。

由良 大まかな数字でいえば、対前年比で120%の売上を達成していく体制づくりを進めています。そして、売上高のみならず、限界利益管理を強化し、適正な収益性を重視していきたい。
 そのための具体的施策として、火薬事業では「環境・安全・人にやさしい火薬」で、防衛省から土木、採石業まで、新しい販売ルート開拓に取り組んでいます。化成品事業でも「グリーンケミストリー」の分野で今後、ビジネスの足がかりをつかんでいきたいと考えています。それから、採算面では中国の協力工場をもっとうまく使う必要があるでしょう。国内生産と海外生産の比率の見直しですね。さらに、自己資本比率もまだまだ不十分だと思っています。最終的には金融機関に頼らない無借金経営が理想です。
 懸案は山積みかつ多種多様ですが、実はまさにいま、様々な目標を掲げて一生懸命に太鼓を鳴らしているところなんです。そして、それら目標をひとつひとつクリアしていけば、当社はまだまだ成長していけると信じています。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 ワイ・エス・ケー株式会社
業種 火薬類製造業
代表者 由良秀明
設立 1917(大正6)年2月
所在地 大阪府大阪市中央区高麗橋2-2-5
TEL 06-6231-5911
売上高 約17億円
社員数 40名
URL http://www.yskco.jp/

CONSULTANT´S EYE
社長の計数管理が会社の成長を促す
所長 小寺隆弘
こでら会計事務所
大阪府大阪市城東区成育3-2-12 電話06-6935-5917
URL:http://www.tkcnf.com/kodera-office/pc/

 YSK様とは平成13年頃からのお付き合いです。当初、知り合いの弁護士から「顧問先の社長がTKCのシステムを使いたいらしい」と、ご紹介をいただききました。TKCシステムの名指しに非常にびっくりしたと同時にTKCの知名度をありがたく思いました。

 当時、社長交代をされて間もなく、また、経理担当者の方が定年退職されたことも重なって、大幅に経理体制を見直す必要がありました。そこで社長の強い意志でTKCシステム導入が決断され、『FX2』『PX2』『SX2』という3システムを同時導入という、まさしく全面移行体制となりました。

 以前から他社システムを利用されていたので、経理担当者の方々には移行にはさほど抵抗はありませんでしたが、システム設計にあたっては、項目の設定など工夫をしなければならないところも多く苦労した覚えがあります。

 他社システム利用時には、業績報告はすべて紙ベース。また、その報告書も残高試算表のみでした。内容がよくわからないという不満もあったようです。現在では「社長専用メニュー」をフル活用していただき、業績を日常的に確認し、また『SX2』とも連動させ、日次決算体制で管理されておられます。営業社員の方々に対しても会社の業績をオープンにされ、グラフ資料などを積極的に掲示し、現時点の状況を把握してもらえるように活用されています。

 現在では、岡山工場での原価管理システムも稼働させ、本社経理とのスムーズなデータのやりとりに貢献しています。

 会社には良い時もあれば悪い時もあります。得てして社長は、良い時は業績を喜んで見るが、悪くなると見たがらなくなります。悪い時こそしっかりと業績と向かい合い改善に向けて努力していくための『FX2』にしていきたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2011年4月号