津山国産材加工協同組合が、メインの取引先であるヤマシタの傘下に入ったのが2018年。その後主力商品である国産集成材事業の業績が大きく改善した背景には、透明性の高い財務情報を共通言語とした会計事務所、金融機関との良好な関係構築があった。

山下英一理事長と廣澤規夫専務理事(左)

山下英一理事長と廣澤規夫専務理事(左)

 津山国産材加工協同組合は、近隣の森林組合が構成員となって岡山県津山市で1986年に設立された。同組合が構造材に不向きな小径木の間伐材を有効利用する製品として採用したのが、台形集成材である。廣澤規夫専務理事は次のように説明する。

「一本の材木から角材を切り出すと周辺の外側の部分は端材となります。しかし台形の形に切り出せば、端材の部分の面積は少なくなります。つまり歩留まりが改善するのです。台形の木材をフィンガージョイントでつなげ、何層にも重ねてブロック状にし、最終的にスライスして板材にしたものが台形集成材です」

 台形集成材の特長は、木のぬくもりを感じられる無垢材の良さと、狂いが出にくく大量生産に適している集成材の良さを併せ持つ点。通常の集成材より接着面が多いことから強度にも優れており、下駄箱やランドセル収納棚など学校、公共施設などで使用されてきた。参入企業も相次ぎ、一定の市場を形成してきたが、近年では需要が低迷。同組合は消滅の危機に陥る。

「台形集成材の工場は最盛期に全国に9カ所ありましたが、次々に廃業し残ったのはわずか3カ所。老朽化した設備を更新する時期になり、当時の経営陣は総じて、『組合の使命は終わった』と判断したのです。 2018年、組合は一度解散することを決めました」

4割を占める取引先の傘下に

台形集成材の製造プロセス

 その方針に慌てたのが、同組合が生産する台形集成材の約4割を購入していたヤマシタである。同社はゴムの木を原料とした集成材、米欧から輸入した広葉樹の集成材の販売や階段などの加工製品を全国に販売。国産材の集成材にも力を入れており、同組合から調達した台形集成材に塗装や加工をしたうえでオリジナル製品として全国展開していた。組合の理事長も務める同社の山下英一社長はいう。

「組合が廃業してしまうのは非常に困りました。国産材の有効活用という観点からもなんとかしないといけないと考え、相談を受けたときにまず出資して『当事者』になることを決めました」

 一組合員として組合の運営に関与することになったヤマシタだが、それでも組合の経営状況は好転しなかった。結局組合員は軒並み出資金を引き上げてしまった。組合員はヤマシタただ一者となり、同社の経営幹部が組合の運営も一手に引き受けることになった。

 ヤマシタグループ入り以降、同組合は補助金を活用するなどして新たな製材機を導入、生産効率の改善や新製品開発の取り組みを始めた。全国に駐在するグループ営業社員の協力を得て地道にアピールを続けた結果、業績はV字回復。一時1億円程度まで落ち込んでいた売上高も、3億円を上回るまでになった。

単価の見直しで利益率改善

廣澤専務理事と談笑する末道敏晴税理士(右)

廣澤専務理事と談笑する末道敏晴税理士(右)

 新生津山国産材加工協同組合立て直しの一助となったのが、会計事務所のサポートである。ヤマシタと顧問契約を結んでいたあおば税理士法人が同組合とも顧問契約を締結することになり、月次巡回監査の実施を含む、緻密な計数管理を行えるようになった。

 次のやり取りは、2023年12月、同事務所の末道敏晴税理士が同組合を月次巡回監査で訪れ、TKCの『FX4クラウド』をパソコンのモニターで確認しながら廣澤専務理事と意見交換する様子である。

末道 11月の業績を報告させていただきます。同月の限界利益率は残念ながら21.4%と低い水準で、単月赤字になってしまいました。棚卸の数字が通常とかけ離れているのですが、心当たりはありますか。

廣澤 仕入れが増えている分棚卸が増えていなければいけないはずですが、そうなっていませんね。歩留まりの数字が変化しているという報告もありませんので、確認ミスの可能性があります。現場スタッフに聞いてみます。

末道 ただ通期で見ると限界利益率は41.8%と昨年同時期より3ポイントほど改善しています。要因をどのように考えていますか。

廣澤 新しい機械の取り扱いに慣れてきたこと、外注企業の管理がうまくいっていること、工場内の生産性向上などが限界利益率の向上に貢献していると考えています。

末道 新しく挑戦している大径木からの集成材の調子はどうですか。

廣澤 大径木からは節のないきれいな材料を使って集成材が作れるようになり、高付加価値製品として販売できています。今後の需要拡大が見込めるので、人員も増やして生産を強化していく予定です。

末道 材料の調達方法や加工の流れ、販売先も既存製品とは異るので、将来的に部門を分けて管理していきましょう。今期はあと4カ月ですが、見通しは?

廣澤 業界的には4月の新築物件の引き渡しに向けて一番忙しくなる時期です。取引先の納期にこたえていければある程度売り上げが見込めると考えています。

末道 分かりました。来月は残り3カ月ですので、より細かい決算対策をしていきたいと思います。

 このようなやり取りが毎月実践され、素早い対応が行われてきたからこそ、経営の立て直しに成功したのである。さらに廣澤専務理事は、事務所からのアドバイスの効果が大きかったと話す。

「末道先生に限界利益率の分析をしていただき、『販売価格の見直しを部門ごとにしてみては』とご提案いただきました。そこで取引先ごとの販売単価を調べたところ、以前の営業担当者が設定していた金額ではとても利益が出ないものもあることが判明したのです。製品の供給が可能な適正価格の根拠となる資料を顧客ごとに作成し、価格交渉を実現することで利益率改善につなげました」

 末道税理士によると、毎年翌期の利益計画を作成し予実対比を実直に繰り返すことがV字回復の大きな要因になっているという。あおば税理士法人によるサポートはそれだけではない。

「当事務所では『書面添付(※)』も積極的に実践しており、決算書を確定するまでのプロセスを、添付書面で税務署に伝えることで決算書の信頼性を高めています。また『TKCモニタリング情報サービス』によって、決算書や月次試算表などのデータを取引金融機関に提供しており、担当者から喜ばれています」(末道税理士)

書面添付…税理士法第33条の2(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付) および第35条(意見の聴取)の総称であり、税務申告書に関する証明業務のこと。

月次試算表も取引行に開示

台形にカットされた原料の木材

台形にカットされた原料の木材

 廣澤専務理事と末道税理士の意見交換のあった翌日、ヤマシタ本社では廣澤専務理事が、営業社員を集めたミーティングで津山国産材加工協同組合の新製品についてプレゼンしていた。ヤマシタでは営業本部副本部長を務めているだけあって、理路整然とした分かりやすい説明である。

「津山国産材の売り上げのメインである台形集成材は、無垢材の節が見える部分に表れてしまい、内装工事の際に補修工事の手間が発生するという弱点がありました。そこで当社は新たな設備を導入し、より節が目立たない製品開発を行ってきました。できあがった製品を試験的にある取引先に提供してみたところ大変好評だったので、順次当社の標準商品として在庫を置き換えていく予定です」

 集まった営業社員からは、具体的な製造方法や製品サイズ、価格の見通し、同等の製品が既存市場に存在するか等について質問が相次ぎ、関心の高さがうかがえた。

 同じ日、山下社長のもとには百十四銀行大元支店の辻上達也支店長代理が訪れていた。山下社長から新たな設備投資計画について説明を受けるためである。

「新製品を量産するには今の工場ではやや手狭です。そこで津山国産材加工協同組合の工場奥に少し空いている土地で、100坪ぐらいの倉庫を思い切って増設する計画を立てています。倉庫の増設とともに新設備の導入、既存設備の配置変更も行う予定で、建物3,000万円に設備2,000万円ほどと試算しています。融資のお願いをするかもしれませんので、よろしくお願いします」

辻上達也支店長代理

辻上達也支店長代理

 興味深く山下社長の説明を聞いていた辻上支店長代理は、笑顔で「前向きに検討したいと思います」と回答。終始ポジティブな雰囲気のなか会話が進むのは、日ごろから良好なコミュニケーションをとれている証拠だ。その土台となっているのが、「TKCモニタリング情報サービス」を通じた迅速な財務情報の共有である。

「決算のみならず月次の試算表もデータでご提供いただいているので、業績がリアルタイムに把握できます。今後もコミュニケーションをとりながら、企業に寄り添った伴走型の支援を継続していきたいですね」(辻上支店長代理)

 違法伐採された木材に対して世界から厳しい目が注がれるなか、原産地証明がなされた国産材への注目は高まりつつあるという。引き合いは増加傾向で、直近では大手飲食チェーンの内装部材として標準採用されることが決まった。津山国産材加工協同組合はいま、多方面から光を浴びつつ大きな成長の時を迎えている。

(協力・あおば税理士法人/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 津山国産材加工協同組合
設立 1986年4月
所在地 岡山県津山市一宮1238番1
従業員数 14名
URL https://www.tsuyama-kokusanzai.jp/
顧問税理士 あおば税理士法人
所長 平本久雄
岡山県岡山市北区田中105番地108
URL: https://www.aoba2003.com/

掲載:『戦略経営者』2024年3月号