社員が自由に働く席を選択できるフリーアドレス制度に関心があります。実際に導入する際の注意点や効果について教えてください。(デザイン業)

 メリットとしてまず挙げられるのが「オフィス空間の有効活用」です。リモートワークや外勤等で社員がオフィスに滞在する時間が少なければ、自席をなくすことでオフィスの面積を縮小することができます。余分なスペースを削減することで賃料の圧縮も期待できます。人数の増加による移転計画があればそれを見直すことにもつながります。

 社員間のコミュニケーションが円滑化することもフリーアドレス制度の利点です。従来の働き方では部署ごとに席が配置されるため、部署を超えたコミュニケーションが交わしにくい構造となっていましたが、席を自由に選べるようにすることで他部署のメンバーとの意思疎通を円滑にし、組織全体の活性化が期待できます。

備品の可搬性向上がカギ

 コロナ前からフリーアドレスを実践していた企業は少なく、多くの会社ではなかなか定着しませんでした。その要因として、固定電話やデスクトップパソコンを使用している、無線LAN等の通信環境が整備されていない、社員が紙の書類を多く所持している──などが挙げられます。パソコンの置き場所が固定されていたり、おのおのが膨大な資料を抱えていたりすると、おのずと仕事をする場所も限られてしまいます。

 よって、フリーアドレス制度を導入するには備品の可搬性を向上させることが大切です。例えば①携帯電話やノートパソコンを配備する②無線LANやルーター等の通信機器を整備する③ペーパーレス化を進める──などの取り組みが挙げられます。フリーアドレス制度を取り入れるには、最低限これらの3要素を満たしておく必要があるでしょう。

「仕事の棚卸し」が必要

「オフィスで行う仕事とオフィス以外で行う仕事を切り分ける」こともフリーアドレス制度を導入するうえで重要です。つまり「仕事の棚卸し」です。これまで多くのビジネスパーソンが、書類の作成や電話対応、相談事などほぼすべての仕事を自席で行っていたと思います。フリーアドレス制度では業務ごとに、どの場所で行うのが最適かを考える必要があります。

例えば、オフィスでしかできない仕事、自宅でも集中してできる仕事、その他オフィス以外でもできる仕事……など、どの仕事をどの場所で行うのがもっとも効率が良いかを考え、整理することがフリーアドレス制度を導入するうえで欠かせません。まずは個人レベルで日常業務を見直し、その後組織全体で棚卸しの結果を共有することをお勧めします。

 業務の棚卸しを行わず、自席で行っていた仕事を共有スペースに置き換えるだけでは、以前よりも生産性が下がる可能性があります。フリーアドレス制度の導入によって、かえって生産性が落ちてしまっては本末転倒です。業務を棚卸しせずに席数を削減したり、レイアウトを変更したりすることはお勧めできません。

 フリーアドレス制度は個人そして組織の働き方をデザインし直すきっかけになります。これらのポイントを踏まえながら、ぜひ自社にあったオフィスづくりにトライしてみてください。

掲載:『戦略経営者』2023年5月号