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監視・制御システム関連のソフトウエア開発に特化して成長を続けているシステムクラフト。ニッチな専門分野で技術力を磨き、地道に取引先の支持を広げてきた。2年前にトップに就任した岡嶋宏尚社長は、既存事業の地盤を固めつつ、新分野進出を模索するなどもう一段の飛躍を目指している。

岡嶋宏尚氏
1989年に、物流倉庫システム大手に勤めていた技術者など数名が独立して創業したシステムクラフト。当初は、それまで培ってきた技術・ノウハウを活用し、倉庫や工場における自動搬送システムを制御するソフト開発の分野でスタートした。
リーマンショックでの小休止があったものの、その後は、化学製品や医薬品・飲料などの工場で活用される、液体の状態を計測し、監視・制御する「計測装備」(計装)の分野にも展開しつつ、堅調な業績推移を続けてきた。
EC需要の拡大で業績アップ
岡嶋宏尚社長は言う。
「自動搬送システムにしても計装にしても、ハード(機械)は別にあって、われわれはそれを動かす(制御する)ソフトをつくる会社です。ファクトリーオートメーション(FA)関連制御ソフトの設計から現地調整まで一括して請け負うことができるのが特徴です。また、この分野に特化した企業はほとんどないので、それも当社の強みです」
自動搬送システムとは、「物」と「情報」を効率よく搬送することによって、倉庫や工場の無人化、省力化を実現するシステムのこと。たとえば、よく見かける物流倉庫でのコンベヤーや自動搬送装置が該当する。これらは同社の業容の半分を占めるが、とくに、ここ数年は活況だと、岡嶋社長は言う。
「コロナ禍以降、巣ごもり需要の伸びもあり、アマゾンや楽天などECを利用する人が飛躍的に増えたことで、新倉庫の建築や既存倉庫の自動化ニーズが拡大してきたのが好況の理由です」
また、制御ソフト開発の案件では、多くの場合、「制御盤」製作の仕事も発生するが、昨今は、制御盤を制作する企業とコラボレーションしながら、同社が一括で請け負う形のビジネスが増加しつつある。これが売り上げのボリュームを拡大させる要因となり、業績のアップをさらに後押ししているという。
ちなみに、最近の業績を見てみると、今期の年商は約3億7,000万円(2025年5月期)が予想されているが、昨期は3億4,000万円、2年前は約3億円とジャンプアップを続けている。
一方、計装分野も堅調だ。計装といっても、にわかには分かりづらいので、同社の石川慶宗取締役に説明してもらおう。
「化学品の基礎材料や医薬品、あるいは飲料などを製造する工場で、液体の状態(温度や圧力)、あるいは液体そのものが何であるかなどを計測・判別し、機械の動きをコントロールするソフトを開発・提供しています」
この分野は、既述した通り、リーマンショック以降に徐々に伸ばしてきた分野で、今では業容の約半分を占めるようになった。また、商社を通さない直取引や、下請け構造の上流化を促すことによって全社的な利益率の向上にも貢献しているという。
高い品質と迅速な顧客対応
システムクラフトには創業以来、営業マンはおらず、社長を含めほぼ全員がシステムエンジニア。事務員は1人だけである。ちなみに、経理業務は社長が一手に引き受ける。これは、高品質のソフト開発に集中してきたがゆえだ。岡嶋社長は言う。
「創業以来、高品質のソフトを納期内にしっかり納めることに集中して取り組んできました。しかし、それによって仕事が属人化しがちになり、仕事のボリュームも比較的小さいものにとどまっていました。1人が請け負って1人で完結する仕事を積みあげて売り上げをつくっていく形だったわけです。そのためかどうか、会社としての受注金額の交渉なども、あまり熱心に行ってこなかった。ここは今後、修正していくポイントかもしれません。逆に言えばノビシロは十分です」
また、ソフトの品質以外に、選ばれる理由として迅速な顧客対応が挙げられる。
岡嶋社長が続ける。
「主要取引先とは長い付き合いがあり、そのなかで信頼関係を築き上げてきたという面が大きいと思います。当社では、不具合が出た時に、すぐに駆け付けて対応するよう徹底しています。不具合を出さないことももちろん大切ですが、不具合を出した後の対応によって、信頼感がより高まるのだと考えています」
また、岡嶋社長が就任する前までは、各部署、チームからの決算データの収集に手間がかかっており、財務管理について課題があった。ところが数年前からは、会計システム『FX2クラウド』(『戦略経営者』2025年5月号 P48~50参照)を活用しながら、月次決算を徹底することで、タイムリーな経営判断につなげている。これによって、個人の判断にゆだねられていた利益管理が、企業としての“ディール”の対象となったのである。
既述の通り、経理業務は岡嶋社長が一手に引き受け、また、それぞれの総務的な個人の処理も、DX化を進めることで各社員でも行えるようにすることで、管理部門の出費は抑えられてきた。
「われわれはほぼ技術者なので、人件費がスリムで分かりやすく、結果的にそれをそっくり賞与など報酬に還元できています。その方が(管理部門を手厚くするよりは)社員たちにとっても喜ばしいことなのではないかと考えています」
ちなみに、ここ数年は限界利益率がかなり高まってきており、年間5カ月プラスアルファの賞与を支給できているという。
さらに近年では、優秀な人材を獲得できるようになり、個で完結する仕事に加えて、チームを組んでプロジェクトとして取り組む仕事も増えてきた。
石川取締役が言う。
「われわれの仕事が評価されてきたのか、直接商社や機械メーカーからの引き合いが増えています。それにともない、ある程度の規模感の仕事も入るようになってきました。こうした案件に対してはプロジェクトを組んでチームで対応するので、次第にわれわれの技術力と経験値も上がっている実感があります。良い循環になってきていると思います」
年商10億円を目指して…
既述した通り、システムクラフトの強みの第一は、制御・監視システムの「ソフト開発」に特化しているところである。従来は、このソフト開発についても機械メーカーが担当することが多かったのだという。とくに愛知県では自動車関連の業者が多く、ファクトリーオートメーションを手掛けるIT企業は少ない。しかも同社は専業ということで、深い技術的ノウハウが社内に蓄積されている。そうした状況のなか、物流や工場の生産性向上が叫ばれるようになり、ブルーオーシャンのなかを、すいすいと泳げる環境が自然とできてきているのである。
2年前、社長に就任した岡嶋社長は、それまでのシステムクラフトを「いろんなことがアナログだった」と表現する。エクセルに手打ちしていた財務管理の体制を、既述の通り会計ソフトの活用で合理化したのはもちろん、勤怠管理もエクセルから紙へ印刷していたものを、クラウド勤怠ソフトに置き換えた。また、スーツでの出勤義務を完全自由化したことも、職場の雰囲気を変え、社員の支持を高めた一因となった。
これらとあわせて岡嶋社長の頭にあるのは、「成長志向」である。これまでのシステムクラフトは、どちらかと言うと、来た仕事を着実にこなしながら、結果として会社が維持されてきたという受け身の体制だった。
「冒険はしないし、新しいこともやらないという社風でした。もう少し地盤を固めた上でのことですが、私の代では新しいことに挑戦しつつ、会社を大きくしていきたいと考えています。とりあえずの目標は年商10億円です」
昨年、システムクラフトは「日本最大のオープンイノベーション拠点」を謳い、スタートアップ企業を育成する“STATIONAi”(名古屋・鶴舞)に参画した。すでに100社以上と交流し、新たなビジネスの可能性を探っている。
これまでは比較的狭い業界で地道にビジネスを行ってきた同社が、先駆的なビジネスパーソンたちとの交流によって、良質な化学反応を起こすことができるのか。要注目である。
コンサルタントの眼
監査担当 大橋卓弘
税理士法人ZERO 岐阜県多治見市西坂町3-24
https://www.i-ems.jp
岡嶋社長は自ら経理業務を引き受けておられますが、職業柄、パソコン操作にたけているため、『FX2クラウド』活用による自計化(会計ソフトを導入して自社で経理業務と財務管理を行うこと)の精度は極めて高く、タイムリーな業績把握を実践されています。
また、こちらからシステムの新しい機能を提案すると、例外なく前向きに検討していただけるなど、IT化による生産性向上にとても熱心だという印象です。それもこれも、会社のかじ取りをする際の、迅速な業績把握の重要性を認識しておられるからで、実際、毎月半ばころに集計される月次決算の結果を精査され、具体的な打ち手へとつなげておられます。
経営においても、社長に就任して2年程度とトップとしての経験が浅いなか、さっそく将来的に業容を拡大していく方向性を打ち出され、さまざまな業務改革にも取り組まれています。さらに、愛知県がスタートさせたオープンイノベーション拠点である“STATION Ai”に参画されるなど、将来を見据えた新しい戦略を、導き出そうとされているようにも感じます。
(取材協力・税理士法人ZERO/本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社システムクラフト |
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業種 | ソフト開発 |
設立 | 1989年6月 |
所在地 | 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-10 |
売上高 | 3億7,000万円 |
社員数 | 31名 |
利用システム | FX2クラウド |
URL | https://www.sys-craft.co.jp |