制度改正

令和7年改正対応!今すぐ始めるべき年末調整の支援

目次
令和7年度の税制改正により、「年収の壁」に関する制度が大きく見直され、所得税の課税ラインや各種控除の適用要件が変更されました。これに伴い、年末調整において従業員が提出する申告書の様式や記載内容が複雑化しており、関与先企業の事務負担が増加することが予想されます。会計事務所としては、関与先企業が円滑かつ正確に年末調整を実施できるよう、事前に改正内容や申告書の記載ポイントを丁寧に説明するとともに、従業員への周知を支援することが不可欠です。

1.改正の背景と影響

 今回の改正では、従来「年収103万円の壁」とされていた課税ラインが、「年収160万円」まで引き上げられました。これにより働き方を見直す従業員も増加しています。
 また、次のような新制度・変更点も導入されており、従業員本人だけでなく、配偶者や大学生年代の子等の年収状況も確認する必要があります。

  • 基礎控除額の引き上げ(最大95万円)
  • 給与所得控除の最低保障額の引き上げ(65万円)
  • 「特定親族特別控除」の新設(大学生年代(19~22歳)の子等が対象)
  • 扶養控除、障害者控除、配偶者控除等の所得要件の見直し

 これらの改正により、年末調整で所得税が還付される従業員が増える可能性がある一方で、申告書の記載ミスによる控除漏れや税額誤差も懸念されます。

2.申告書の様式変更と記載の難しさ

 令和7年分から、次の申告書が変更・追加されました。いずれも兼用様式で、記載内容が細分化されています。

  • 給与所得者の基礎控除申告書
  • 給与所得者の配偶者控除等申告書
  • 給与所得者の特定親族特別控除申告書
  • 所得金額調整控除申告書

 特に「配偶者控除等申告書」「特定親族特別控除申告書」では、控除額の判定が年収や合計所得金額に応じて段階的に変化するため、従業員が自力で正確に記載することは非常に困難です。
 例えば、配偶者の給与収入が123万円を超える場合、「配偶者特別控除」の適用となりますが、控除額は所得に応じて大体5万円単位で9段階に分かれており、本人の所得金額によっても変動します。同様に、大学生年代の子等の年収が123万円を超える場合、「特定親族特別控除」の適用となりますが、こちらも控除額が細かく設定されています。
 また、令和7年分扶養控除等申告書は、様式の改正がありません。改正がない様式に、改正内容(給与所得控除の最低保障額の引き上げ、扶養控除、障害者控除の所得要件の見直し)を踏まえて記載することとなり、説明なしでは、記載漏れ(控除漏れ)は必至です。

3.会計事務所に求められること

 こうした複雑な制度変更に対応するため、会計事務所は次のような支援を関与先企業に対して行うことが求められます。

(1) 改正内容の説明と資料提供

 関与先企業の担当者が制度の全体像を理解できるよう、税制改正のポイントを整理した資料や説明会の開催を通じて情報提供を行います。特に、見込み所得額の確認が控除判定の基礎となることを強調し、従業員への周知方法についても助言します。

(2) 申告書記載支援

 各申告書の記載方法や注意点をまとめたガイドを作成し、関与先企業が従業員に配付できるよう支援します。必要に応じて、従業員向けの記入例やチェックリストも提供し、記載ミスの防止を図ります。

(3) ITツールの活用支援

 「TKCまいポータル」や「PXまいポータル」などのシステムを活用することで、見込み「年収」額の入力により所得と控除額の自動計算・判定が可能となり、記載ミスや計算誤りを防ぐことができます。会計事務所として、こうしたツールの導入支援や操作説明も積極的に行いましょう。
 (1)~(3)のポイントをまとめた『事務所通信「年収の壁」特集号』を、関与先数に相当する冊数を各会員事務所にお届けしました。またProFIT等でもPDFファイルでダウンロード可能です。有効にご活用ください。

4.年末調整までのスケジュール管理を支援

 企業が年末調整を円滑に進めるためには、下記の図表のスケジュールに沿って準備を進める必要があります。会計事務所として、各段階での対応ポイントを明確にし、関与先企業の実務をサポートしましょう。

図表

5.まとめ

 令和7年度の税制改正は、従業員の税負担軽減を目的とした前向きな改正である一方、企業の年末調整業務には大きな影響を与えます。会計事務所としては、関与先企業が改正内容を正しく理解し、従業員が誤りなく申告書を記載できるよう、事前の説明と継続的な支援を行うことが重要です。
 関与先企業の担当者との連携を強化し、年末調整事務の正確性と効率性を高めることで、会計事務所としての信頼と価値をさらに高めることができるでしょう。

 なお、FXクラウドシリーズ(給与計算機能)は、令和7年10月中旬より、年末調整に対応します。続く、PXシリーズ・あんしん給与は令和7年11月上旬に対応します。
 本誌10月号では具体的な改定内容について解説します。

(TKC SCG営業本部 本部長 神立直樹)