新たに入社した従業員が組織に早く順応するよう支援する「オンボーディング」に対して、「オフボーディング」という言葉もよく聞きます。そのメリット等を教えてください。(測量業)
人事労務管理において近年注目されているテーマの一つに、「オフボーディング」があります。退職意思を明らかにした従業員が退職するまでの間に、企業側が従業員に寄り添いながら、退職予定者面談、退職手続き、業務引き継ぎ、退職後を含む良好な関係構築等を実施する一連のプログラムのことです。
オフボーディングが注目される背景には、雇用の流動化があります。キャリアアップを目指して転職を積極的に検討する人が増えるなか、SNSや転職サイトでは、企業の労働環境に関する情報交換が盛んに行われています。そこで重視されるのは、退職者が語る労働条件や組織風土、人間関係等の生の声であり、企業イメージが悪化して、求職者から選ばれなくなるリスクも今や小さくありません。「終わり良ければ全てよし」と言われるように、そうしたリスクの回避に最も効果的なのが、退職という節目を従業員が心地よく迎えられるよう支援するオフボーディングなのです。
具体的には、①退職予定者面談②業務引き継ぎの責任者・後任の任命と着実な遂行③退職手続きとその後のフォロー④送別会など退職者への感謝の表明⑤アルムナイ(OB・OG)ネットワークの構築が主な施策です。①では、自社の問題点等のフィードバックも積極的に受け、場合によっては退職以外の選択肢がないか模索し、退職意思が固い場合はそれを尊重して、快く送り出すための対話を重ねます。③については、有給休暇の消化、社会保険、雇用保険等の手続きだけでなく、家族構成等に応じた退職後の諸手続きについても可能な範囲で相談に応じる等の対応が求められるでしょう。④はさまざまな形が考えられます。例えば、心のこもった記念品の贈呈等も良い記憶として長く残るものです。
退職者は人的資産
オフボーディングに取り組む主なメリットは、①離職率の改善②在籍社員のロイヤリティー向上③人材不足解消の3つです。①は、面談で退職を思いとどまるケースは少数にしても、従業員のフィードバックから退職要因が明らかとなり、それらを無くすべく注力すれば、その実効性が高まります。②は、適切な業務引き継ぎを契機に、業務効率化や適材適所が組織全体で意識され、既述のフィードバックとも相まって、より働きやすい組織風土が醸成されることを通じ、促されるでしょう。③は、アルムナイとの良好なネットワーク構築、維持から、ビジネス上の協働の加速、リファラル採用(信頼できる人脈を通じた友人・知人の採用活動)の強化、場合によっては将来的なアルムナイの再雇用を通じて、実現性が高まります。
オフボーディングを効果的に行うには、発想の転換が必要です。終身雇用時代の名残で、退職者を“裏切り者”扱いする企業文化が根強く残っていますが、退職者も「人的資産」と捉え直し、活用する思考が求められています。