事務所経営
「TKC方式の自計化」の価値を全職員と共有し、関与先の月次決算早期化を支援
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森 耕生会員(TKC中国会鳥取県支部)1973年2月 鳥取県倉吉市生まれ
好きな言葉は「stay hungry、stay foolish」(貪欲であれ、愚かであれ)。
日々の愛犬の散歩やお世話がリフレッシュになっているという。
鳥取県倉吉市で開業する森耕生会員(TKC中国会鳥取県支部)は、多くの若手経営者との出会いを通じて、クラウド会計の普及と月次巡回監査の重要性を実感。それまでの記帳代行型事務所からFXクラウドシリーズを活用した月次決算体制の構築支援へと大きく舵を切った。「一発逆転はない。地道な継続こそが成長につながる」という信念のもとで進めてきた事務所改革や、FXクラウドシリーズの推進策、職員育成などについて聞いた。
税理士試験で培った信念一発逆転はない、続けることが大切
──事務所がある鳥取県倉吉市の魅力をお聞かせください。
森 この土地の魅力は、街のシンボルである白壁土蔵群をはじめとする美しい日本の原風景と人々の温かさが調和している点です。関金(せき がね)や三朝(みささ)、はわいといった名湯と、「二十世紀梨」や「大栄スイカ」などの大地が育む農産物を味わえることも、魅力だと自負しています。
──税理士を志すまで、どのような歩みをされてきたのでしょうか。
森 大学時代は神戸で過ごしました。経営学部には税理士を目指す学生が多く、友人たちの姿に刺激を受け、税理士は自分の力で勝負しながら社会に貢献できる仕事だと感じ、勉強を始めました。その後家庭の事情により帰郷し、2000年に当事務所の前身である齋藤邦康税理士事務所に入所しました。当時は起票・記帳代行が中心で、関与先ごとに異なる会計システムを利用していたため、TKCの税務システム(TPSシリーズ)への手入力に多くの時間を費やし、事務所全体が期限内申告に追われていました。
──当時の状況にどのような思いをお持ちでしたか。
森 私も関与先を25件担当しながら税理士試験の勉強をしていたので、自分の置かれた環境を恨めしく思ったこともありました。ただ、試験勉強を通じて、「一発逆転はなく、当たり前のことを当たり前に、コツコツと諦めずに続ける」ことの大切さを学びました。この地道な継続の姿勢が今の私を支え、「TKC方式の自計化」推進と月次巡回監査の徹底にもつながっていきました。
その後、転機が二つありました。まずは2019年の税理士登録とTKCへの入会です。全国会や中国会のイベント・研修会に参加し、全国で活躍する会員の先生方の実践に触れる中で、それまで重視してきた「期限内申告」だけでは、お客様の発展に十分貢献できていないのではないかと考えるようになりました。
もう一つの転機は、20代・30代の若手経営者や、新規開業・法人成りを検討する事業者からの相談が増えたことです。
──なぜ相談が増えたのですか。
森 地元商工会などの地域団体へ足を運び、セミナー講師を積極的に引き受けたことがきっかけです。人口減少が進む倉吉市で、後発組である当事務所が存続・発展していくには、若手経営者や創業案件との接点づくりが不可欠だと考えました。そこで長期的な戦略として、講師活動に力を入れました。現在は、県内各地で年間20件以上の講師依頼があります。その積み重ねが事務所への相談増加につながりました。
「クラウド難民」と出会いクラウド化には月次巡回監査が必要と確信
──2021年に記帳代行型からFXクラウドシリーズによる「TKC方式の自計化」へと事務所方針を大きく変更されたそうですね。
森 相談に来られた若い経営者の皆さんは、例外なく、ご自身でクラウド会計を契約し、フィンテックによる口座・クレジットカード連携を当たり前のように行っていました。
しかし、その中身を見せていただいて愕然としました。会計知識がないままで自動仕訳に頼り切っているため、損益計算書は一応作成できていても、貸借対照表には現金をはじめ不自然なマイナス残高が並び、経営判断に使える状態ではありませんでした。私はこうした企業や事業者さんを「クラウド難民」と呼んでいました。
ここで若い世代へのクラウド対応が必須であること、そして「FXクラウドシリーズ」という道具と税理士による月次巡回監査がそろって初めて、経営判断に役立つ正しい決算書が生まれることを痛感しました。税務と会計の専門家として、「まさに我々の出番だ」と確信したのです。
「TKC方式の自計化」への全社一括移行を決断
──すぐにクラウド化の推進へと舵を切ったのでしょうか。
森 クラウド化の必要性は感じたものの忙しくて実行できませんでした。
そんな中、2021年4月8日に中国会主催の研修会がありました。この年は新型コロナウイルスの影響で確定申告業務がずれ込み、多忙を極めていましたが、何か「ビビッ」と感じて参加したのです。そこで、講師を務めた西田幸治先生(TKC南近畿会)の「『TKC方式の自計化』ができない原因は、事務所にある」との言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けました。
「お客様に自計化の能力がない」と考えていたのは、自分たちが変化を避けるための言い訳にすぎなかったと気付かされました。「お客様のせいにするのはやめよう。まず事務所が変わろう」と腹を決め、全社一括移行を決断しました。
──その決断をしてから具体的にはどのように推進されたのですか。
森 研修会場から事務所に帰るとすぐ、当時所長だった齋藤(邦康会員・現共同代表社員)に「システムを全てTKCに一本化したい」と直接伝えました。同時にTKCの担当SCGにも連絡し、全面移行への協力をお願いしました。齋藤も以前からその必要性を感じており、私に全面的に任せてくれました。
そして4月28日、全職員を集めた緊急のキックオフミーティングを開催し、「TKC方式の自計化」の必要性と「当事務所はTKCシステムへ完全移行する」という方針を文書(次頁資料)にまとめて宣言しました。
一気通貫のメリットを感じた職員が自ら学び始めたことで推進活動が加速
──突然、FXクラウドシリーズに移行すると告げられた職員の皆さんの反応はどのようなものでしたか。
森 最初は戸惑いや抵抗感が強く、「クラウドの動作が遅い」「使いづらい」といった声もありました。慣れ親しんだ環境を変えることへの不安は想像以上に大きかったと思います。
──どのようにして組織として乗り越えていかれたのですか。
森 SCGに協力いただき、全職員で山陰SCGサービスセンターに出向き、朝から晩まで缶詰めで研修を受けました。ここでは操作方法だけでなく、なぜ挑戦するのかという方針の共有にも力を入れました。
──方針決定後、関与先への導入プロセスはどのように進めたのですか。
森 私は全てをトップダウンで決めてしまうのは好きではありません。トップとして「TKCに完全移行する」という大方針は明確に示し、お客様にも新たな事務所方針を書面でお伝えしました。
一方、それ以降の具体的なプロセスは各担当者に委ねました。担当者一人ひとりに、自らの担当関与先へいつシステムを導入するか、移行計画を立ててもらい、その進捗を確認しながら進めました。
──職員の皆さんの意識はどのように変わっていきましたか。
森 半年ほどすると、税務と会計の一気通貫のメリットを実感した職員から、「決算処理が楽になった」「使いやすい」との声が上がりました。本当に嬉しかったですし、「このやり方で間違っていなかったんだ。これなら絶対にいける」と、私自身がとても大きな自信をもらいました。特に若手職員は前向きに活用し、自ら便利な使い方を学んで所内で共有してくれるようになり、FXクラウドシリーズの推進活動が加速しました。
「なぜ早く教えてくれなかった」の声に価値を十分に届けていなかったことを痛感
──経理経験のない経営者や経理担当者が挫折しないよう初期指導をどのように行っていますか。
森 初期指導でのつまずきはその後の運用に大きく影響します。そのため、最初の1~2カ月はお客様から資料をお預かりし、担当者が伴走しながら、仕訳辞書や仕訳ルールなどの基盤を整えます。お客様が基本操作に慣れてから、段階的に運用範囲を広げるようにしています。
これにより担当者は取引全体を把握でき、3カ月目以降は質問にも即答できるようになります。また、仕訳の「型」を定着させることで、お客様も迷わずに仕訳を計上できるようになります。あわせてシステム導入時はインターネットバンキング契約とTKCのフィンテック(銀行信販データ受信機能)利用を基本とし、「証憑保存機能」は、お客様が基本操作に慣れてから導入しています。
また、所内にシステムの立ち上げを支援する「システム委員会」を設け、担当者を支える体制を整えています。
──関与先の反応はいかがでしたか。
森 お客様からは「とても安心できる」と言われ、距離感が一段と近くなったと感じています。以前は、お客様から電話で「分からない」と言われるたびに、現地へ訪問するしかなく、対応に大変苦労していました。FXクラウドシリーズ導入後は、担当者が不在でも事務所の別の職員がパソコンを開いてお客様のデータを確認し、その場で解決できるため、サポートのタイムラグがほぼなくなりました。
また、「電子納税かんたんキット」やフィンテックを初めて体験された社長からは「何でもっと早く教えてくれなかったのか」と言われたこともあり、私たちが本来伝えるべき価値を十分に届けられていなかったことを痛感しました。
システム導入を通じて、壁があったのはお客様ではなく、変化を恐れていた私たち自身だったと分かりました。お客様はただ情報を知らなかっただけなのです。「ここに会社を強くする素晴らしい仕組みがあります」と、プロとして自信を持って正攻法でお伝えすれば、壁は乗り越えられると感じています。
森会員が副所長時代の2021年4月28日に、所内の緊急キックオフミーティングで、全職員へ「TKC方式の自計化」の必要性を訴えた文章(実物)
翌月巡回監査率は80%超、決算処理は平均40~45日に短縮
──翌月巡回監査率をどのように維持していますか。
森 最初の2年間はFXクラウドへの移行に集中し、その後、月次巡回監査の本格推進を始めました。
私が徹底していることは、「数字が早く出なければ継続MASによる未来会計は成り立たない」という考え方です。
こうした考えのもと、毎月の進捗をOMSクラウドの「目標管理(KPI)機能」や「進捗管理機能」で見える化しています。また、訪問時には必ず次回の日程を決めるとともに、FX2クラウドで関与先の入力状況を定期的に確認しながら、必要に応じて訪問日程を前倒ししています。
その結果、翌月巡回監査率は30%未満から80%超まで向上し、決算処理完了までにかかる日数は58日から最短で30日、平均40~45日に短縮しました。また、職員に時間的な余裕が生まれたことで、書面添付の質が向上し、企業防衛の実績も大きく伸びるなど、お客様への付加価値提供に注力できるようになりました。
──すばらしい成果ですね。
経営者の『生涯の通信簿』である「自己資本比率」の重要性に着目した指導
──月次決算体制の構築の価値を、経営者にどう説明していますか。
森 会社の業績に悩む社長に対しては、必ず「業績と、会計情報のスピード感・正確性には強い相関関係がある」とお伝えしています。
その際、KFS(継続MAS・FXシリーズ・書面添付)利用企業の黒字企業割合が58・1%(TKC経営指標(BAST))であるのに対し、国税庁が公表する黒字申告割合は約36%であるとのデータを提示します。この1・6倍の差が、月次巡回監査を基盤とした月次決算体制の価値を示していると考えています。
プロの立場から見れば、月次巡回監査を基盤とするKFSの実践をお勧めしないのは、お客様への責任を十分に果たしていないことになるのではないかとさえ感じています。根拠を数字で提示すると、社長も深く納得し、自発的に社内にPDCAの仕組みを整えて動き始めてくれます。
私の担当先に、前社長の急逝を受け、一従業員の立場から突然会社を引き継いで社長となり、多額の借入金を抱えて経営危機に直面した方がいました。
当時は月次処理が遅れていたため、売掛管理の甘さや売上単価の曖昧さによる限界利益の低下という真の赤字原因が見えていませんでした。そこで私は「月次決算の早期化」のための継続MASによる「予算管理」の支援を提案しました。
早期に数字が見えるようになったことで、社長自ら単価設定や売掛回収の甘さに気付き、改善を重ねた結果、限界利益が劇的に向上しました。さらに、早期に作成した試算表と精緻な事業計画書が金融機関の信頼を得て、必要な融資を受けることができ、見事にV字回復を遂げられました。
──経営者の意識を高める上で、重視する経営指標はありますか。
森 「月次決算速報サービス」にある、自己資本比率の過去10年分と当期分の推移表です。これは「TKC最大の発明であり、革命的」だと思っています。
私はいつも社長に「損益計算書は『単年の通信簿』に過ぎませんが、自己資本比率は創業からの歩みをすべて記録した『生涯の通信簿』です。この比率を高めることこそが、会社の真の強さにつながるのですよ」と説明しています。
この説明を行うことで、無理な節税に走りがちな社長も「内部留保(自己資本)の蓄積が一番大切だ」と意識が切り替わり、過度な節税要求がなくなります。さらに、この「生涯の通信簿」を社長だけでなく、所長である私にもメールを自動配信できる仕組みも素晴らしいと感じています。私もこの数値は必ずモニタリングしています。
──経営助言力を高めるため、職員さんをどのように育成していますか。
森 まず入所後2年間で簿記2級と巡回監査士補を取得し、3年目には財務数値を読み解き、経営助言の第一歩を踏み出せるレベルを目指しています。
以前は、「巡回監査塾」という勉強会を開催して、私が講師を務めていましたが、現在は、TKCの集合研修とオンライン研修を最大限に活用しています。
月次巡回監査では、「自己資本」と「売上高の推移」「粗利(限界利益)の推移」「最終利益」「キャッシュの増減」を重視しています。利益が出ているにもかかわらずキャッシュが減少する理由を説明する力を養い、経営者の質問に即答できる人材へと育てることで、プロとしての自信を持ってもらえるよう心掛けています。
多彩な有資格者を揃え、ワンストップでお客様に寄り添った支援をしたい
──現在の事務所の課題をお聞かせください。
森 一昨年、西田先生にお会いした際に、お礼と事務所の取り組みをご報告したところ、「やり切ったのは素晴らしい」との言葉をいただき、職員を信じて進めて良かったと感じました。
しかし、改革は道半ばです。翌月巡回監査率は80%超、FXのクラウド率は95%に達しましたが、いずれも100%を目指しています。また、証憑保存機能の利用率は10%にとどまっています。月次巡回監査の事前確認やFXエージェントの効果を最大限に引き出すためにも、証憑保存機能の活用拡大に取り組んでいきたいと考えています。
──最後に、今後の抱負をお聞かせください。
森 現在、当事務所には税理士3名に加え、不動産鑑定士、行政書士、中小企業診断士などの有資格者が揃っています。資格取得を目指す若手職員の成長を後押ししながら、経営・財務・税務から不動産・労務・許認可まで、ワンストップで支援できる体制をさらに強化したいと考えています。一方で、どれだけ体制が充実しても変わらないのは、お客様に寄り添い、数字を早く、正確に把握し、経営判断に役立てていただくという姿勢です。今後もFXクラウドシリーズによる自計化と月次巡回監査を徹底し、地域のビジネスドクターとして企業の成長と地域経済の発展に貢献していきます。
JR倉吉駅から徒歩約10分。倉吉市と鳥取市とを結ぶ県道22号沿いに事務所を構える森・齋藤税理士法人
(インタビュー・構成/TKC出版 石原 学)
| 事務所名 | 森・齋藤税理士法人 |
|---|---|
| 所在地 | 鳥取県倉吉市上井27-1大陽堂ビル3階 |
| 開業年 | 1999年11月(2021年税理士法人設立) |
| 職員数 | 15名(うち、税理士2名、巡回監査担当者10名) |
| 関与先数 | 210件(法人170件、個人40件) |
(会報『TKC』令和8年10月号より転載)