事務所経営

FX4クラウドでさらなる「自律経営」を促していく

梯茂之税理士事務所 所長 梯 茂之(九州会大分支部)
梯 茂之会員

梯 茂之会員

非営利法人に強く、かつ関与先の9割が自計化しているという梯茂之会員は、「自律」を事務所経営のキーワードに据え、また道具としてのシステム活用を信条としている。昨年6月の提供開始後、すぐに所内研修を開いてFX4クラウドの特長をつかみ、身近なシステムとしていち早く関与先への導入提案を行った梯会員に、FX4クラウド導入の背景やメリットについて語ってもらった。

「中小企業と一緒に歩みたい」と金融機関からの転身を決意した

──梯先生は政府系金融機関に勤務されていたとうかがいました。

 もともと「経済のダイナミズムの中に身を置きたい」「中小企業に寄り添える仕事をしたい」という気持ちを強く持っていました。そこで大学卒業後の昭和58年には、貸出競争の激しかった民間金融機関はあえて選択せず、政府系金融機関に就職しました。退職するまでの最後の2年間は広島支店で融資業務に携わっていて、1人で数十億円規模の融資残高を持っていましたね。

──なぜ転職を考えられたのですか。

 入社3年目の時、昭和60年(1985年)のプラザ合意で円のレートが急に上がって不動産投資が盛んになってくると、政府系金融機関も貸出競争の色合いが濃くなってきたのです。毎月の融資残高目標もあり、月末や決算期が近づくと融資のお願いに行っていました。それで1週間くらい、場合によっては1日だけ借りてもらって、翌月には何かと理由をつけて返済してもらう。一応目標はクリアしますが、今度はその数字が基準になりますからハードルがどんどん高くなっていく(笑)。「これが本当に中小企業の役に立っているのかな」という疑念を抱くようになってしまいました。
 もう一つ、金融機関は全国の支店への転勤があるので自分が融資したお金の行く末を最後まで見届けられない。例えば工場など設備資金であれば1回に数千万円単位になりますが、建設・稼働し効果が出るまでは時間がかかる。それに金融機関と経営者の立場では貸し借りがあるので利害関係が出てきますし、長く密接に関係してはいけない部分もあります。「中小企業と手を携えて一緒に歩める仕事をしたい」という思いが強くなって、昭和62年、26歳の時に退職を決めました。

──税理士を選ばれた理由は?

 「中小企業にどうアプローチするか」が軸でしたから、別に税理士でなくてもよかったんです。ただ公的な資格がないと怪しく見られると思い(笑)、公認会計士、弁護士、中小企業診断士など何の資格を取ろうかと考えました。でも私は法学部の出身なので、弁護士試験に苦労している人をたくさん見てきたのですね。26歳で新たに勉強を始めるのに、試験が「一発勝負」の弁護士や公認会計士では合格まで何年かかるか分からない。それに地元の大分に帰ろうと思っていたので、地域密着型、かつ企業に深くかかわれる税理士を目指すことにしました。
 それからは昼夜逆転の生活です。朝10時から夕方5時まで勉強し、夕方から家庭教師のアルバイトをして20万円ほど稼ぐという生活を4年ほど続け、平成4年に合格。そして平成6年の春に税理士登録をして開業しました。

──TKCとの出会いは何でしたか。

 実は金融機関時代、融資の際には『BAST』を使って企業の評点をつけることになっていました。だからその当時からTKCのことを知ってはいました。当時『BAST』は本でしたけれどもね。
 それから、試験勉強中に知り合いになった人に現在のTKC会員が結構いました。例えば田中俊二大分支部長は合格の同期ですし、岡本安功元大分支部長は、私の法人税の先生でした。私は会計事務所での勤務経験がほとんどなかったので、周りが「間違った方向に行ったら大変だ」と心配して(笑)。「事務所経営やTKCのこともいろいろ教えてくれるから」と田中先生から紹介を受けて、週2~3日、別府の阿部盛一郎先生の事務所(現税理士法人大分綜合会計事務所:代表=蔵前達郎会員)で勤務することになったのです。
 実は開業直後は、お付き合いの関係で他社システムを入れていました。ですから大分の自分の事務所では他社システム、別府の阿部先生の事務所ではTKCシステムを使っていたのです。私は平成10年にTKCに入会しましたが、おかげで入会時にはTKCシステムは全部使えていましたね。システム併用ではコスト面でも作業面でも煩雑になるので、他社システムのリース契約期間が終了するところから、1年ほどかけて決算が来るたびにTKCシステムへ切り替えていきました。

事務所外観

ワンストップサービス提供のため、知り合いの士業と設計から手がけたという「市民の権利ビル」。各階に入居している他士業事務所とは内線で連絡が取り合える。梯茂之税理士事務所は4階に入居。周辺には裁判所や税務署、弁護士会館などがあり、立地も良い。

最初の質問は「携帯メールは打てますか」自計化率は9割超を維持

──現在開業19年目を迎えていらっしゃいます。関与先の業種で多いのは?

 非営利法人が一番多く、全体の4分の1を占めています。そのほかは建設関連や医業などさまざま。地域としては大分市が約6割、次いで私の出身地の佐伯市が多いです。基本的には地域密着型で、その地域の方にお任せした方がいいなという考えです。

──事務所経営で、先生が一番大事にしているのはどのようなことですか。

 「自律」ですね。関与先も職員も、自分のことは自分でできる「大人」であってほしいと思っていますから、自計化は開業時から徹底しています。もともと税金計算や記帳代行がしたくて税理士になったわけではないですし。年1もあるので自計化率100%にはなりませんが、新規関与先については必ずFXシリーズを入れますから自計化率は9割超です。職員にも徹底させています。
 私は融資する側にいましたから分かりますが、金融機関は基本的に、「絶対にどこかに嘘がある」という目で決算書を見ています。だから粉飾までいかなくとも、数字をいじったかどうかくらいは見ればだいたい分かるのですよ。いくら小手先のことをしても、やっぱり足腰を鍛えなければダメ。「強い会社」「大人の会社」の大前提がやっぱり自計化なのですよね。

──自計化推進のコツはありますか?

 まずは「携帯のメールは打てますよね」と聞きます(笑)。そして「ワープロは打てなくても携帯のメールが打てれば同じようなものですから」という言い方をして、その上で「今は自分で入力するのが当たり前ですよ」と言えばすんなりご理解いただけます。

──職員さんも先生と同じ思いを共有することが必要になりますね。

 いえ、共有はしなくていいんです(笑)。私を見ていれば分かると思います。私はガンガン言いません。実務の流れについても基本的には私を見て、自分で考えて行動してもらうというスタンスです。KFSや翌月巡回監査率などの数字についても一切言いません。支部や地域会で言われていますから、改めて私から言うことでもないという考えです。ただ職員は、大分支部の職員勉強会「もっとやっちゃろう会~なしか」に自主的に参加しています。その成果か、今は翌月巡回監査率90%超を維持していますし、昨年からはシステム専任講師(巡回監査支援システム)にも選ばれました。

──情報共有はどうされていますか。

事務所風景

梯会員(奥)の席は職員さんのすぐ隣。業務も基本
的に職員さんの自主性に任せているが、気がつ
けば声をかけてフォローを行っているという。

 うちの事務所は私を含めて3人で、目配りができる範囲ですからミーティングはしません。私も含めて皆担当先を持っているので、場合によっては事務所を閉めて出て行く日もあります。ですから連絡事項や相談事項はメールやイントラネットで済ますことが多いですね。巡回監査支援システムは平成21年5月から使っていますし、巡回監査の報告・確認もすべてOMS上ですし。システムはあくまで道具。道具は使いこなさないといけないという思いも強く持っています。

提供開始を切望していたFX4クラウド研修で特長を理解し関与先に即提案

──ではFX4クラウドもシステム活用の一環ということなのでしょうか。

 私は『TKC会報』を隅々まで読んでいて、1年半ほど前のシステム委員会の議事録を見ていたら、新FX4開発の記載がありました。それから提供開始を切望していて、昨年6月にやっと初版のFX4クラウドが提供になったと思ったらFX4(従来版)からの切り替えが最初と言われて(笑)。だからFX4クラウド[2011年10月版]が提供開始になってすぐの昨年10月、TKCの中堅企業システム担当者にFX4クラウドの所内研修会をしてもらいました。私も含めて、職員全員でどんなシステムなのか、何ができるのかを詳しく知りたかったからです。
 そして関与先の中でどこに入れたらシステムのメリットが享受できそうかを視点に導入先の候補を4社ほどピックアップし、最終的に2社に提案しました。その結果2社とも導入が決定。1件は弁護士事務所、もう1件は社会福祉関係の法人です。いずれも年商1億5千万円~2億円の規模ですね。

──FX4クラウドは主に年商規模が5億~50億円の企業向けシステムとの位置づけがありますが。

 私の場合は、年商規模別ではまったく考えませんでした。むしろ業態や、今抱えている課題を解決できるシステムは何かと考えたらFX4クラウドが最適だった、という視点です。例えばOMSを「職員5人以上になったら入れるのか?」と考えるのと一緒です。所長1人でも必要なら導入すべきですよね。
 弁護士事務所はもともとFX2が入っていました。2007年に、車で1時間ほどの距離に新たな事務所を開設することになったのでFX3に切り替え、拠点ごとのコードと合併コードを別にとり、FX3内の合算システムで2つの事務所の業績管理を行うことにしました。
 ただ合算システムでは全体の売上や損益を把握することは可能ですが、ドリルダウンができないし、何より決算処理が大変でした。例えばTPS1000で期末整理仕訳を入力する時に、各支店のコードで立ち上げて仕訳を入れて、それから合算する。数字が合わない場合は、合算システムの画面を閉じて該当コードのマスタをまた開いて修正する。この繰り返しだったので、非常にもどかしい思いがありました。

──それらの課題解決のためにFX4クラウドが有効だったと。

 ちょうどサーバーの切り替え時期が迫っていたこともあって、サーバーの要らないFX4クラウドを所内研修後すぐ、11月に提案しました。サーバー入れ替えで百万円単位のコストがかかるという見積もりだったので、月々のレンタル料は上がってもトータルでは安くなる。しかもFX4クラウドであれば、1つのマスタに支店のコードをぶら下げることができますから、入力時にわざわざ他のマスタを立ち上げる必要がなくなります。コスト面でのメリットはもちろん、業績把握も入力作業も格段に楽になるということで、提案1回で導入が決定しました。
 サーバーの運用を気にしなくてもいいというのは心理的にすごく楽になりました。万が一の時には会計事務所側が動かないといけませんし、場合によっては責任問題にもかかわります。そのあたりをまったく気にせずにいられるというのは大変ありがたいですね。
 もう一つ、立ち上げやその後の細かな調整、数字の閲覧が事務所でできるというのもメリットです。実はこの弁護士事務所は同じビルに入居していて内線電話もつながっているので、何かあったらリモートディスプレイサービスと内線電話で指導していたのですが、リモートディスプレイサービスは相手がいないと機能しませんし、何より同じビルですから行った方が早い(笑)。でもFX4クラウドであれば365日、事務所からでも数字が確認できますし、立ち上げ後のサポートもできる。これは非常に便利ですね。

◆梯事務所のFX4クラウド導入事例◆

導入先の決め方
システムの特長を理解した上で、年商規模に関係なく、「システムのメリットが享受できるかどうか」を関与先ごとに吟味して選定した。

FX4クラウドの「お気に入り」ポイント
①365日(朝6時から翌朝2時)いつでも運用可能。
②サーバーの運用を気にしなくて済む。
③立ち上げや細かな調整、閲覧が会計事務所からもできる。

4つの事業を展開する法人に導入 固定資産管理・資金管理が明確に

──もう1社の導入経過はいかがでしょう。

 社会福祉関係の法人の代表はとても発想の良い方で、もともとDPEと不動産事業の2本立てで事業展開していたのですが、時代の変化を読んで不動産業にシフトするようになりました。そして数年後には新分野開拓として介護事業を始め、グループホームを造ることになりました。
 ところがこれまでとはまったく異なる事業なので、借入時、金融機関は「グループホームだけの貸借対照表と損益計算書が見たい」と言ってきました。ただ、FX2では部門別で固定資産が管理できないので、もう1つ別のマスタをグループホーム用に作り、さらに合算用のマスタを作って、2つの部門の売上や費用を合算して決算を組んでいたのです。
 そして約2年後、今度は不動産と介護事業のノウハウを活かして高齢者用の賃貸住宅事業を展開することになり、また別のマスタを作ることに。と当時にヘルパーの訪問介護事業も始めたので、合算先のマスタのほかに4つのマスタができてしまった。つまり、不動産事業部の1台のパソコンの中にFX2が4件入っていたということです(笑)。
 しかも各事業部に預金が結構あって、マスタ間の資金移動は「本支店勘定」で管理していたのですが、その数字が合っているかどうかは合算用のマスタに合計しないと分からない。しかもマイナスが出ていたらもう1回、すべてのFX2を立ち上げて確認しないといけない。ここは社長自らが経理も兼ねているので、入力にはすごく手間がかかっていました。入力の手間がかかるということは当然、巡回監査の手間もかかります。これをどうにか解決したかったのです。
 ここは国保連への介護報酬の伝送をオンラインで行っていましたので、クラウド型システムに移行してもデータセキュリティ等に対する違和感がないなと思い提案を決めました。今年2月1日から、本格的にFX4クラウドの運用を始めています。

──手応えはいかがですか?

 今は合算先のコードを利用して、そこに4つの事業部を部門別でぶら下げています。固定資産も借入も、部門別にすべて分けて管理できています。事業部間の資金移動も、今では仕訳1回で済むのですごく楽です。もともとマスタが分かれていましたから切り替えはそう難しくありませんでした。クラウド型なので社長は自宅でも入力・閲覧できますし、「入力がすごく楽になった」と大変喜んでいらっしゃいました。会計事務所側としても、巡回監査支援システムとの連動で巡回監査はFX2使用時と変わらず違和感なく行えています。

──今後はどのようにシステムの選択をしていきたいとお考えですか。

 FX4クラウドでいえば、業種や規模にかかわらずニーズがあれば入れたいと思っています。たとえば複数の拠点をもつ企業や、まったく異なる事業を展開している企業はFX2・3の部門別管理がしづらい部分があると思うので、そこをFX4クラウドで解消したいと思っています。ですから「中堅企業向け」と構えて特別なシステムと思うのではなく、身近なシステムとして考えて「この関与先に使えないか」という視点を持った方が良いのではと個人的には思います。
 今後は、顧問料を含めた料金体系も見直していきたいですね。FX4クラウド導入で既存関与先では顧問料の見直しは基本的に行っていませんが、レンタル料が上がっています。これから関与する場合については、FX4クラウドのレンタル料と顧問料を含めた報酬体系にすることも可能かなと思っています。

企業の内部に深くかかわって空気のような存在の事務所になりたい

──開業20周年に向けて、先生の今後の夢をお聞かせください。

 私が好きな言葉に、サントリーウイスキー「山崎」のキャッチコピーがあります。

「朴訥だが明晰。
 シンプルだが、奥が深い。
 なんという矛盾だろう。
 静謐があって、覇気がある。
 ゆったりと、鷹揚で、大きな流れと、縦横無尽に闊歩するものとが、
 同居している。
 なにも足さない、なにも引かない。
 ありのまま、そのまま。
 この単純の複雑なこと。」

 私は禅問答のようなこの世界を実現したいのです。それには関与先も職員も、人としてのレベルが高くないといけないでしょう。だから関与先を「大人の会社」にすること、自律してもらうことが何よりの目標ですね。今でも、事務所に関与先からの電話はほとんどかかってきませんし、訪問もめったにありません。TKCにも来ないでくれと言っているんですよ(笑)。ProFITを見れば必要なことはすべて書いてありますからね。目指すはSCGが来なくてもいいような、自律した事務所です。
 それから、「税理士」をやめること。私は「税理士」という肩書きがどうも好きではないんですね。「税理士」という肩書きがついているがゆえに、一般の人から「2月、3月が忙しいんですよね」とよく言われますが、本当に忙しいのは4月、5月ですし、実は年中忙しい(笑)。私は税金だけでなく経営全般にもっと深くかかわっていきたいので、早く「税理士」をやめるのが目標です。

──では経営参謀のような。

 そうですね。企業の内部に深くかかわって企業と共に歩み、ふと気づいたら「あ、梯会計がやってくれていたんだ」と思ってもらえるようになるのが理想です。だから早く空気のような、存在を忘れさせる事務所になりたい。
 「感謝されたい」「存在感を発揮したい」という発想は「自分を認めさせたい」ということであって、自分本位ですから。結果的に認めてもらえたなら、空気のような存在になるはずですからね。

FX4クラウド導入企業
月次巡回監査の様子

月次巡回監査の様子(右が職員さん)

同時入力できるのが助かっています

 以前は1つのマスタの入力が終わったら、開いていたTKCシステムの画面を1回全部閉じてもう1つのマスタ画面を呼び出していました。クラウド化でその煩雑さがなくなったのは大きなメリットです。特に売上や損益など、全支店合計の業績がどこでもタイムリーに見られて、予実管理が分かり易くなったのはとっても便利になりました。それにインストールが簡単で同時入力も可能なので、忙しい時にほかの支店の人に入力を手伝ってもらえるのが良いですね。分業できるのはすごく助かっています。

(TKC出版 篠原いづみ)


梯 茂之会員(51歳)
昭和58年早稲田大学法学部卒業後、政府系金融機関に勤務。昭和62年退職、平成6年4月税理士登録・開業。平成10年TKC入会。現在職員数2名、関与先件数約50件。翌月巡回監査率、自計化率はともに90%超を維持。大分支部総務委員長、TKC全国会社会福祉法人経営研究会大分県リーダ。

梯茂之税理士事務所
 住所:大分市中島西1-4-14 市民の権利ビル4F
 電話:097-538-2429

(会報『TKC』平成24年5月号より転載)