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ジュエリーの製造・卸売・販売を手がけるほほえみブレインズは、従来のカット技術に比べて2倍の輝きを実現できる独自のダイヤモンドカット技術を有する。事業承継を機に、過大投資による経営危機を乗り越えた川渕希望社長に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。

株式会社ほほえみブレインズ 代表取締役社長 川渕希望氏

川渕希望氏

プロフィール
かわぶち・のぞみ●1974年生まれ。学生時代から父に連れられパールの入札会などに参加。96年に株式会社ほほえみブレインズ入社。99年取締役、2014年に代表取締役社長に就任。

 カットされた宝飾用ダイヤモンドの品質は、通常①色(カラー)②透明度(クラリティー)③質量(カラット)④研磨(カット)の「4C」と呼ばれる国際基準で評価される。このうち「カット」は、最上位のエクセレントから、ベリーグッド、グッド、フェア、プアの5段階に分類される。

 ほほえみブレインズは2000年、こうした既存の基準とは全く異なる光学理論に基づいた新たなカット技術を開発した。川渕希望社長はいう。

 「光は3次元で反射・屈折しますが、これまでの評価は2次元モデルが前提になっていました。誰も3次元での角度計算に挑戦してこなかったのは、計算が非常に複雑で不可能と言われていたからです。しかし2000年代に近づき、コンピューターの性能が向上したことで、当社は3次元での解析が可能だと判断。宝石市場で価格競争に巻き込まれるのを避けるためにも、自社のオリジナルブランドを開発することに賭けました。それが『O.E.カットダイヤモンド(Over Excellent)』だったのです」

 開発には、松下電器産業出身の高名な研究者・吉田登美男氏を中心とした技術者チームが加わった。人間の目が光をどのように知覚するかという仕組みも考慮しながら、たった1年で独自の3次元光学シミュレーションソフトを開発。こうして従来のダイヤモンド製品を大きく上回る輝きを放つカット技術が完成した。

 「反射点の数は従来のエクセレントカットの約2倍です。特許論文にもあるように、最低でも2倍の輝きを放つことが証明されました。また“輝き”に加えて“きらめき”“色づき”がはるかに豊かなのも特長です。同じ直径でも、光の反射が多いため、実際よりも大きく見えるのです」(川渕社長)

評価基準との矛盾と業界の壁

 革新的なカット技術が評価され、04年には日本橋三越本店に出店。BtoB中心だった事業に加えてBtoCの販路も広がった。しかし、業界では既存の基準による評価が主流で、O.E.カットはなかなか受け入れられなかった。特にダイヤモンドの輝きは非常にきれいなのに、既存の基準では「プア」と評価されてしまうという矛盾に直面した。

 商品が市場に流通しない状況が続く中、過大な開発投資が経営を圧迫した。借入金や私募債の利払いに苦しんだが、当時社長を務めていた父の川渕良範現会長は、「いずれ市場は大きく変わる」と従来路線を変えなかった。

 「金融機関に追加融資を求めたところ、融資どころか返済を通告されました。そのため私はBtoB戦略からの撤退を提案しましたが、父は反対。そこでキャッシュフローを少しでも良くしようと、テレビショッピングの出演販売に挑戦することにしたのです」

 07年、川渕社長はテレビショッピング専門チャンネル「QVC」に自ら出演する。1時間で5,000万円を売り上げ、当時のトップレコードを記録するまで売り上げを伸ばしたが、一時しのぎにしかならなかった。販売方針をめぐって相違が生じるようになり、結局テレビショッピング事業からは撤退。大量に仕入れた原石等を在庫に抱えるという負の遺産が残り、経営状態は降り出しに戻るどころか「万事休す」に近い状態に陥った。いよいよ追い詰められ、最終的に川渕会長が折れた。

 「とうとう父から『希望の思うようにやっていいから、なんとか会社を継いでつぶさないでほしい』と頼まれるようになりました。会社の再建は現実的にはとても不可能に思えましたが、弟の川渕証取締役から『全力で支えるから再建しよう』と励まされたこともあり、覚悟を決めて経営改革にまい進することにしました」(川渕社長)

 こうして14年、川渕兄弟が株式の51%を保有することで事業承継が実現した。

「笑顔」「頭脳」「最優良」

 再建の第一歩として掲げたのが、今までになかった経営理念の創設だ。キーワードは「笑顔」「頭脳」「最優良」の3つ。仕事をしている時に“ほほえみ”が絶えない状態を指す「エニタイムスマイルの精神」で、取引先・社員が幸せになる企業を目指した。また、常に“ブレインズ”(頭脳)を働かせて能動的かつ高効率な仕事を追求するとともに、最高の自社商品“Over Excellent”から最優良な状態を創出する意識付けを行った。

 続いて取り組んだのが国際特許の整理である。BtoB事業でのグローバル展開を想定していたためピーク時には世界28カ国で特許を取得していたが、年間特許費用が1,000万円を超えるまでになっていたからである。これを数か国までに絞り込んだ。

 不採算店舗の整理や取引先、金融機関との関係改善にも取り組んだ。まず札幌や名古屋など赤字店舗からの撤退を決断。主要仕入先には頭を下げ、仕入代金を長期の分割払いに変更してもらった。こうした一連の経営改革の取り組みが評価され、一時関係が悪化していた金融機関の姿勢も変化し、金利の減免等最大限の支援体制を受けられるようになった。

 再建に向け活発な動きが続く。19年にはクラウドファンディング「Makuake」で約300万円を売り上げ、単価の高いジュエリー分野での成功モデルとして注目を集めた。22年には経済産業省推薦で旭日単光章を受章している。

 18年に出店したあべのハルカス近鉄本店では売り上げが好調に推移し、同店から「優秀ショップ賞」として表彰を受けた。同店は20年に売り場面積が2.5倍へ拡張している。24年には大丸梅田店に旗艦店を開店し、現在の店舗数は全国で3店舗となっている。

再起を支えたコラボ商品

 さらに大きな追い風となったのが、オーバーエクセレントを強力に支援する有名人が現れたことだ。以前からオーバーエクセレントのファンだった女性テクノポップ3人組ユニット「Perfume(パフューム)」のあ~ちゃん(西脇綾香さん)である。メディアで同社製品をたびたび取り上げたことをきっかけにパフュームとオーバーエクセレントのダブルネームでのコラボ販売が実現。Perfumeプロデュースの「Perfume Closet」シリーズとして公式オンラインショップ等で販売され、初動だけで3,000万円を超える売り上げを記録した。

 ここ数年ではさらに攻めの経営が加速。24年には事業再構築補助金を活用して自社ECサイトを開設した。25年5月期には売上高5億3,000万円、最終利益3,000万円を見込むまでに業績が回復してきたという。「キャッシュフローで悩まない日々がやっときた」という川渕社長は現在、異業種交流会に積極的に顔を出している。川渕社長は早期に国内市場を固めた後に次なる目標として海外展開を掲げており、そのためには「これまでとは規模の異なる資金が必要になる」と考え、資本参加を含めた協業パートナーを探しているからだ。

 「アジア発祥のラグジュアリーダイヤモンドブランドはいまだ存在していません。当社は、他社にはまねできない“オンリーワンの輝き”で、世界に通用するブランドを目指します」

会社概要
名称 株式会社ほほえみブレインズ
業種 ジュエリーの製造・卸売・販売業
設立 1976年7月
所在地 東京都中央区銀座7-17-8 松良ビル3F
売上高 約5億3,000万円(2025年5月期見込み)
従業員数 30名
使用システム FX2クラウド
URL https://www.hohoemi.co.jp
顧問税理士 荻野信一郎税理士事務所
顧問税理士 荻野信一郎
東京都墨田区江東橋2-3-4 ドルミ錦糸町長谷川ビル1110号
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