事務所経営
OMS、TPSシリーズの導入と自計化推進でお客様を太陽のように照らしたい
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左から野口厚会長、野口和嵩所長
令和5年10月1日以降、インボイス制度が開始され、会計事務所の業務量はますます増えている。令和7年10月で2年を経過する中、TKC会員事務所は、どのように生産性の高い決算・申告業務を行っているのか。鳥取県倉吉市にあるサンテラス税理士法人会長の野口 厚会員、所長の野口和嵩会員、職員でシニアマネージャーの日野智宏氏に事務所の取り組みを伺った。
お客様に喜んでもらえる良い仕事をして、良い人生を送ることが経営理念
──始めに会長である野口厚先生から開業の経緯などをお聞かせください。
野口厚 私は大学卒業後、セールスマンをしていました。その時に偶然訪問した会計事務所で税理士の先生にお会いし、憧れたことが税理士を目指したきっかけです。その後、会計事務所に勤めながら税理士試験に挑戦しました。1983年3月に税理士登録し、鳥取県倉吉市で個人事務所を設立しました。TKC全国会入会は翌1984年5月です。入会以来、TKC全国会の運動方針に沿って、事務所を経営してまいりました。
開業当初、お客様はゼロ件でした。初めてお客様からいただいた報酬は、申告期限間際の3月に依頼を受けた所得税確定申告の3万円でした。その3万円で家族と食事をしたことを今でもよく覚えています。現在は息子の野口和嵩が所長となっています。
──所長の野口和嵩先生のご経歴を教えてください。
野口和嵩(以下、野口和) 私は2015年に公認会計士試験に合格後、3年ほど監査法人で勤務しました。30歳になったことを機に鳥取に戻り、父の事務所に勤務しました。事務所の承継を前提としていたため、担当関与先を持ちながら、所長を引き継ぐ準備を進めていました。その後、2020年11月にサンテラス税理士法人を設立し、2022年12月に所長に就任しました。
──サンテラス税理士法人という名称にはどのような思いが込められているのでしょうか。
野口和 「山陰のお客様を照らす存在となりたい」「太陽(Sun)の下、人々が集まるテラス(Terrace)のような場所にしたい」という想いを込めて、法人名をサンテラス税理士法人にしました。
──事務所の経営理念を教えてください。
野口和 経営理念は次の三つを掲げています。一つ目は「お客様のために良い仕事をしましょう」。二つ目は「良い仕事をしてお客様に喜んでもらいましょう」。三つ目は「お客様の喜びを生きがいにし、良い人生を送りましょう」です。職員とともに困り事を抱える地域の方々の役に立ち、ひいては社会に貢献する会計事務所を目指しています。
インボイス制度開始前後のTKCシステム活用法
──それでは、インボイス制度対応について、職員で、シニアマネージャーの日野智宏さんにお伺いします。インボイス制度開始前はどのような準備をされましたか。
日野 所内では、TKC主催の研修会に参加するとともに、事務所の朝礼の5分から10分程度の時間で国税庁の「インボイス制度に関するQ&A」を1頁ずつ、輪読していました。そして関与先を対象に経営支援セミナーを開催しました。また、個別には、取引先の適格請求書発行事業者の登録番号(以下、事業者登録番号)を確認した都度、FXクラウドシリーズを始めとするTKC自計化システムの取引先マスターに登録するように案内していました。
適格請求書発行事業者については、基準期間の課税売上高が1千万円以下の事業者にも漏れなく説明して、その適格請求書発行事業者の登録申請を1社、1社確認しながら進めました。
──インボイス制度開始後、TKC自計化システムに切り替えた関与先はありましたか。
日野 関与先が利用していたシステムには、インボイス制度に対応しないシステムもあったようです。そのタイミングでTKC自計化システムに切り替えた関与先もいらっしゃいました。
──インボイス制度開始後の経理事務についてお聞かせください。
日野 1年目はインボイスの証憑確認や説明に時間をかけてしまい、月次巡回監査の時間が長くなりました。そのような中ではありましたが、事業者登録番号を事前に取引先マスターに登録していたおかげで、事務負担はだいぶ軽減できていました。最初の一巡は大変でしたが、一度、取引先マスターに登録すれば、同様の取引を行う際、登録されていますので、徐々に時間の短縮につながりました。
インボイス制度開始後、システムもレベルアップされて仕訳帳・元帳から事業者登録番号や適格請求書発行事業者の氏名又は名称を確認できるようになり、さらに使いやすくなりました。
TKCシステム独自の機能と思いますが、事業者登録番号だけでなく、企業名でも事業者登録番号を検索できることが関与先から好評です。そして検索結果から適格請求書発行事業者の氏名又は名称、所在地を複写できるので、大変役立っています。
仕訳入力時は、事業者登録番号を登録していない取引先で、課税区分「5」の仕訳を入力すると確認メッセージが表示されます。このような機能は大変ありがたいです。そのまま仕訳入力を完了した場合も、巡回監査機能の「要注意科目・仕訳」画面から「インボイス経過措置の適用となる仕訳」としてチェックできるので安心です。
野口和嵩所長
取引日時点の事業者登録番号の有効性をチェックできて安心
──インボイス制度開始後2年目の課題はありますか。
日野 現在はインボイス制度開始当初のような大変さはなくなっていると思いますが、最近は事業者登録番号が無効になっている取引先が出てきています。というのも、請求書には事業者登録番号が載っており、課税区分「5」の仕訳を入力したところ「当取引先の事業者登録番号は取引日時点では無効です」と確認メッセージが表示されることがありました(画面1)。TKCシステムは、取引日と事業者登録番号の失効日をチェックしているのですごいと思いました。また、そのまま仕訳入力を完了した場合も巡回監査機能の「要注意科目・仕訳」画面の「インボイス経過措置の適用となる仕訳」に表示され、「適格請求書発行事業者の登録状況」の列に失効日が表示されますよね(画面2)。自分自身で失効していないか調べなくてよいので、本当に安心して利用できています。
──インボイス制度開始後の決算申告業務はいかがでしたか。
日野 TKC自計化システムを利用していると、法人決算申告システム(TPS1000)に必要なデータが連携されてくるため、とても楽に決算申告業務ができています。消費税申告書の作成についても月次巡回監査や決算申告業務で「勘定科目別の消費税額集計表」をもとに正しい課税区分で処理できているか確認しているため、あまり時間をかけずに作成できています。TKCシステムを利用しているからこそ税務調査をおそれることなく、安心して申告書を作成できています。
──お話にあった「勘定科目別の消費税額集計表」については、令和6年度TPS1000[2025年04月版]で、MX2クラウドとの連携方法を大幅に改訂し、「勘定科目別消費税集計表の確認」からドリルダウンして期中の取引や伝票まで確認できるようになりました。FX2クラウド等でも令和8年4月に同様のレベルアップを実施する予定なのでご期待ください。
次に、勘定科目内訳明細書の作成や納税事務についてお聞かせください。
日野 勘定科目内訳明細書作成システムを利用すれば、TKC自計化システムの取引先マスターから取引先名や所在地等を複写して作成できるため、大変便利です。
また、電子納税も進めており、TKC電子納税かんたんキットを推進しています。簡単なシステムであり、銀行に行かなくても納税できるため、関与先からとても喜ばれています。TKC給与計算システムやTPS1000、個人決算申告システム(TPS2000)で作成した電子納税データを連携して納税できるため、事務負担の軽減にもつながっています。また、TKC電子納税かんたんキットで固定資産税、自動車税等も簡単に電子納税できることも関与先に喜ばれています。
──今後、インボイス制度で留意すべきことはありますか。
日野 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置が変更(80%控除可能から50%控除可能に変更)され、小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)が終了すると、納税額が変わってきます。関与先によっては、納税資金を気にしていただく必要があります。
野口 厚会長
知識とシステムを早く習得できるよう若手職員が質問しやすい環境をつくる
──決算・申告業務の早期完了に向けた事務所の生産性向上策についてお伺いします。事務所として重点的に取り組んでいることをお聞かせください。
野口和 月次巡回監査の質を上げることで、期末整理仕訳を少なくすることができ、決算・申告業務の早期完了につながると考えています。
月次巡回監査の質を高めるには、新入職員の育成が重要です。研修カリキュラムを用意し、業務知識とTKCシステムの使い方を早く習得できるようになるまで、上長がしっかりと教える体制を整えています。困ったときも誰に聞けばよいかを教えています。その結果、生産性向上につながる仕組みができていると考えています。その他、私は職員間で毎月の業務量に偏りがないかを確認しています。
日野 例えばTPS1000を教える時は、先輩の職員が実際の関与先で処理している画面を見せて説明した後、実際に処理をしてもらいます。TPS1000で入力ミスがあると、別表間の金額がずれてしまいます。その結果は法人税申告検討表で確認できます。この金額のずれをチェックできるのがとても大事で、必ず法人税申告検討表を確認しています。
また、所内の座席の配置も工夫しています。対面式ではなく横並びにして、若手の職員の左右に先輩職員の席を配置し、質問しやすい環境をつくっています。
野口厚 職員はよく勉強しています。勤務しながら税理士試験に合格した職員や社会保険労務士試験に合格した職員もいますし、先日、日商簿記1級に合格した職員もいました。巡回監査士の試験も頑張って勉強しています。その結果、お客様により良いサービスを提供でき、喜んでもらえています。
野口和 新入職員は入所2年以内に巡回監査士補の資格を取得する方針にしています。巡回監査士補の資格取得をすると次に巡回監査士等の資格取得を目指そうというマインドが生まれています。知識が備わると、巡回監査担当者として自信をもってお客様と接することができるので、事務所として資格取得をあらゆる面で支援しています。
──月次巡回監査の基盤となるFXクラウドシリーズの活用はいかがですか。
日野 FXクラウドシリーズを利用している関与先では、事務所での事前確認ができるようになったため、月次巡回監査で社長との対話の時間が増えています。また、関与先から質問いただく場合は、リモートディスプレイサービスを利用して対応しています。職員によっては、付箋機能を活用し、付箋をつけた仕訳のみを検索して関与先とやりとりしています。
仕訳入力では、過去仕訳コピーの活用や銀行信販データ受信機能(FinTechサービス)を関与先にすすめています。その他、関与先が仕訳入力時に課税区分がわからない場合は、入力を止めるのではなく、事前に用意している不明な場合の科目を使って入力するよう指導しており、後日、不明な科目の取引を確認し、正しい仕訳を説明しています。
──月次巡回監査では社長さんとどのようなお話をしていますか。
日野 関与先によって異なりますが、例えば、継続MASで予算を策定している関与先は、365日変動損益計算書を確認し目標としている利益が出ているかを一緒に確認しています。月次巡回監査が終わると、社長さんは「これで1カ月が終わった」と安心できるようで、私たちの訪問を心待ちにされています。なので、その場で翌月の巡回監査の日付を決めています。
当事務所では、毎日、関与先からお電話で、税務以外の相談をいただくことが多いです。本当は相談がないのが良いのかもしれませんが、身近な存在と感じていただけているのかなと思っています。
野口厚 社長とお会いすると、よく職員のことを「親身になってくれている」「一緒になって考えてくれている」と褒めていただきます。職員たちがお客様から家族のように思っていただけていることはとても嬉しいです。
野口和 今は新規の関与先が増えたため翌月巡回監査率は80%台にとどまっていますが、以前は90%台を維持していました。父の所長時代から職員はお客様のところに訪問することを当たり前としており、早い段階で90%以上に戻したいと考えています。
OMSクラウドで所内の情報共有とスケジュール・進捗・目標管理が便利に
──会計事務所の業務フローに対応しているOMSクラウド(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム、以下、OMS)を積極的にご利用されていますが、どんな機能を利用していますか。
日野 適格請求書発行事業者になるか等について関与先に説明する際は、関与先カルテを利用しています。関与先カルテは課税売上高や課税方式、中間申告の要否などが一目でわかるので、とても便利です。また、事務所の全員と情報共有するときは、情報漏洩の心配がないTKCチャットを利用しています。所内全体のスケジュールはスケジューラ(SPS)に登録して共有しています。そして、職員別の目標達成状況は目標管理(KPI)機能を利用して確認しています。
──スケジューラと業務日報作成システム(DRS)の活用法についてもお聞かせください。
日野 若手の職員は関与先に訪問中にスケジューラで先輩の職員の予定を確認し、その場で同行を依頼しています。関与先の訪問中に次回訪問の日程を決められるので便利です。
職員がDRSで作成した業務日報は所長に報告する前に私が確認しています。紙で報告していた時と比べると、報告内容や相談内容が充実してきています。業務日報を見れば、「この関与先はこういう状況なのだな」「この関与先は巡回監査完了までに日数がかかっているな」「ここは一人で問題を抱えているな」等を確認でき、一人で悩まず先輩職員に相談するべき内容かなども判断して、指示が出せます。
JR山陰本線倉吉駅から車で5分の場所にあるサンテラス税理士法人
職員が「この事務所で働いてよかった」と思える事務所にしたい
──ホームページに掲載されている「サンテラス税理士法人行動計画」についてもお聞かせください。
野口和 「従業員が仕事と子育てを両立させることができ、従業員全員が働きやすい環境をつくることによって、全ての従業員がその能力を十分に発揮でき、次世代育成支援について地域に貢献する企業となる」の一文を掲げ、その行動計画をホームページに掲載しています。この行動計画に基づいて、職員一人ひとりが組織全体を意識して行動するようになり、その結果、全員が残業せずに定時で帰れる事務所作りを進めています。
また、所内イベントも充実していて、2カ月に一回ほどイベントとして花見や事務所旅行、ゴルフコンペ、忘年会などを開催しています。職員同士のコミュニケーションを活発にして、みんなで協力しようという気持ちを高めるとともに、この事務所を愛してもらえるよう、誇りや熱意を醸成していって「この事務所で働いてよかった」と思ってもらえるようにしたいです。
──今後、目指されていることを教えてください。
野口和 TKC全国会の運動方針第1フェーズのテーマ「月次決算体制の構築がすべての基本」に沿って、月次決算速報サービスの推進等、達成すべき目標を定めて実践し、事務所の発展につなげていきたいです。
TKCシステムで月次決算体制の構築に欠かせない月次巡回監査を徹底し、お客様と1分でも長くお話することによって「親身の相談相手」として、お客様のご期待に添い、職員とともに付加価値の高いサービスを提供できる事務所を目指してまいります。
(インタビュー・構成/SCG営業本部 勝田浩幸)
| 事務所名 | サンテラス税理士法人(TKC中国会鳥取県支部) |
|---|---|
| 所在地 | 鳥取県倉吉市福庭町2丁目100 |
| 開業年 | 昭和58年(1983年) |
| 職員数 | 25名(巡回監査担当者18名) |
| 関与先数 | 420件(法人300件、個人120件) |
(会報『TKC』令和7年11月号より転載)