特集

「TKCファストリンク」の意義と今後の展望

目次
TKC全国会中小企業支援委員会 委員長 松﨑堅太朗

全国で利用可能な初の金融機関連携スキーム

 日本政策金融公庫国民生活事業(以下、「日本公庫」)との正式提携により、本年9月1日から開始された「TKCファストリンク」は、全国のTKC会員事務所が活用できる初の金融機関連携スキームとなりました。これまでにも地域金融機関や信用保証協会と地域会が個別に提携した商品は存在していましたが、全国規模で標準化された仕組みは前例がなく、画期的な取り組みです。また、かねてから、TKC会員事務所と日本公庫の各支店、あるいは担当者との個別の信頼関係に基づいて迅速な融資が行われるケースはありましたが、それが明確なスキームとして標準化されたことで、すべての会員事務所が同様の支援を関与先に提供できるようになりました。これは、TKC全国会と日本公庫が「組織対組織」で連携できる千載一遇のチャンスであり、今後、金融面での中小企業支援を全国的に展開できる可能性を秘めています。

会計事務所に新たな価値とやりがいをもたらす仕組み

 TKCファストリンクは、会計事務所が主導して関与先企業の融資申込みを支援するという今までにない発想に基づいており、特に日本公庫との接点が少なかった会員にとっては驚きをもって受け止められています。これまで融資支援は紹介にとどまるケースが多かった中で、会計事務所が主導で資金調達支援に関与できるようになったことは、会員のみならず職員にとっても、やりがいにつながっています。
 実際に、巡回監査担当者からは、「これまで資金調達の支援ができずにもどかしく感じていたが、自分にとって強力な新しい武器になった」「素早く結果を出してくれてありがとう、と社長から連絡がありうれしかった」「全関与先に継続MASで予算を作成しているため非常に活用しやすかった」という声があります。巡回監査を通じて経営者との対話を日々積み重ね、さらに迅速な資金調達支援ができ、経営者に安心感を提供できるという実感は、職員の新たなモチベーション向上にもつながっています。
 また、「TKCファストリンク」の利用には、「自計化」と「予算登録」が前提となるため、これを機に所内において推進体制の構築が進み、経営助言の標準業務化にもつながるというメリットも期待できるでしょう。

経営者のニーズに応えるスピードと実績

 日本公庫では一般的に融資決定まで約20日間を要していましたが、「TKCファストリンク」では5営業日以内(創業向けは7営業日以内)での決定が可能となり、急な資金需要にも迅速に対応できる体制を整えていただきました。実際に、申請当日に融資が決定した事例もあり、そのスピードには多くの経営者が驚かれています。融資申込に必要な書類も非常にシンプルで、経営者にとって負担が少ない点も高く評価されています。こうしたスピーディーかつシンプルな仕組みが実現できたことで、経営者は資金繰りの不安から解放され、会計事務所は経営者が安心して本業に専念できる環境づくりに貢献できるようになります。
 TKCファストリンクの利用登録事務所数はすでに1800を超え、融資決定件数は開始から2か月間(令和7年9月~10月末)で250件に達しました。これらの実績は、TKCファストリンクが現場に急速に浸透していっていることの表れであり、今後、日本公庫とのますますの連携強化が行われ、さらに利用実績が拡大していくことが期待されます。

全国で開催されている勉強会、交流会

全国で開催されている勉強会、交流会

左から中国会山口県支部徳山部会との「1日公庫」、
九州会福岡中央支部との勉強会、近畿京滋会洛南支部との勉強会

 「TKCファストリンク」のリリース以降、民間金融機関からTKC全国会へ「同様のスキームを検討したい」「迅速な融資判断の仕組みを知りたい」といった問い合わせが増加しています。特に、TKCと日本公庫が共同で実施したデフォルト率分析の結果が報道されたことにより、民間金融機関の間でもTKC専用スキーム構築への関心が高まっています。
 「TKCファストリンク」の利用が拡大することは、TKC会員のさらなる巡回監査への取り組みや、TKCモニタリング情報サービスの利用等につながり、これがさらなる民間金融機関の融資判断の迅速化を促すきっかけとなることで、中小企業金融の好循環が全国へ波及することこそが、「TKCファストリンク」のねらいです。

利便性の向上とスキームの進化に向けて

 TKCファストリンクの運用においては、「日本公庫ダイレクト」の使い勝手に関する課題も一部指摘されていますが、従来のメール送付と比べて安全かつ確実に資料を提供できる点は大きな利点です。登録した会員(職員)と日本公庫支店が直接つながり、支店内で資料確認が可能となることで、資料の抜け漏れ防止にもつながっています。
 現在の運用は暫定的なものであり、利用件数の増加に応じて日本公庫では仕組みの改善をご検討いただける予定であることから、今後、さらなる利便性向上が見込まれます。

今後の中小企業支援委員会の活動について

 「TKCファストリンク」を契機に、各地域会(支部)で日本公庫との勉強会や交流会が活発に開催されるなど、様々な連携活動が始まっています。とりわけ「1日公庫」では、1事務所では相談者の確保等の負担があるNM会員等において、ブロックや部会等の日本公庫の支店単位で行うことにより、負担を大幅に軽減し効果的に開催された事例があります。
 こうした状況を受け、中小企業支援委員会では、令和8年1月から全国一斉に日本公庫との勉強会や「1日公庫」の開催を支援することとしました。さらに、令和8年末までに「TKCファストリンク」の利用登録事務所数を5000事務所とする目標を掲げ、資金調達ニーズに迅速に対応できる会員事務所の創出を強力に支援していきます。社会からTKC会員事務所が「資金調達支援に強い会計事務所」として認知され、評価されるよう取り組んでまいりましょう。
 会員の皆さまにおかれましては、「TKCファストリンク」のさらなる推進に、ご理解とご協力をお願いいたします。

(会報『TKC』令和7年12月号より転載)

おすすめのトピックス