事務所経営

関与先の事業を最良の形で次世代に繋ぐことができました―TKCと連携して親族外承継(M&A)を支援

目次

(株)TKCでは、2016年10月に中小企業事業承継支援部を設立し、TKCが出資しているM&Aコンサルティング会社である(株)TBCと一体となって、TKC会員の関与先企業(TKC自計化システム利用)の親族外承継(M&A)を支援しています。これまでに約150件超の成約実績があります。後継者不在で事業承継に悩む関与先企業に関してTKC中小企業事業承継支援部に相談いただき、成約に至った岡田全弘会員(中国会)にその経過をうかがいました。

■対象企業A社(譲り渡し側)
自動車整備業、創業約60年、社長年齢66歳、年商約3億円、従業員約7名(パート含む)。利用システムFX2クラウド、PX2。書面添付実践

──事務所の概要や特徴などをお聞かせください。

岡田 当事務所は昭和38年、祖父である初代所長・岡田康が広島県福山市で開業し、その後実父が承継し、現在は、私が三代目の所長に就任しております。私は、令和4年9月までは関西の税理士法人に勤務していましたが、その後、福山へ戻り、令和5年11月に代表を引き継ぎました。
 事務所の引継ぎは1年間と短期間で、親族内承継ではあるものの多くの課題に直面しました。特に、福山へ戻ってから初めてTKCシステムを使用することになり、当初は「なぜ毎月巡回監査に行く必要があるのか」という基本的なことすら理解できていない状態でした。その後、TKCの会員向けの研修や相互研鑽の機会を得て、その意義を理解するとともに、歴代の所長と事務所職員が築いてきた月次巡回監査体制のもと、現在は、関与先へ総合的な経営支援を行っています。

巡回監査の際に社長から相談が

──関与先のM&AをTKCへ相談した経緯などをお話しいただけますか。

岡田 A社は、当事務所の中でも最も長く関与歴のある会社の一つですが、A社担当の巡回監査担当者が2023年末にA社社長(66歳、二代目)から事業承継について相談を受けました。そこで、巡回監査担当者と共に面談したところ、A社社長は、業績は順調に推移しているものの、親族内や従業員の中に後継者がいないことに悩まれており、今後5年、10年といった期間を見通した会社の発展維持や従業員の雇用継続に大きな不安を抱えていらっしゃいました。そのような中で私は、親族外承継(M&A)という選択肢は可能なのかを検討する上で相談する先はないかと考えた際に頭に浮かんだのがTKCでした。
 当事務所の担当SCGからTKCのM&A支援について日頃から情報を得ていたことや、『戦略経営者』の他社の事例記事でTKCでも支援していることを知っていたため、TKC会員である私は、迷いなくTKCに相談しました。
 TKCはTKC会員事務所にとりまして身近な存在というだけではなく、一般的なM&A支援機関が採用している譲り渡し側、譲り受け側双方と契約し双方から報酬を得る「仲介方式」ではなく、譲り渡し側とだけ契約し、譲り渡し側の立場で支援する譲り渡し専門の「ファイナンシャル・アドバイザー(FA)方式」を採用している点にも安心感があり、自信を持ってA社社長にTKCをお薦めすることができました。そして、A社社長、TKC社員であるM&Aアドバイザー、当税理士法人の三者面談からM&Aの支援がスタートしました。

 今振り返りますと、支援開始のきっかけは、月次巡回監査でした。A社担当者が定期的に顔の見える関係を築いていたことでお客様との間での信頼関係が構築できていたと感じます。経営者の引退に直結する事業承継という、普通であればお互いに切り出し難い話の相談先として、お客様に真っ先にご相談いただけたことで、月次巡回監査の重要性を改めて痛感しました。
岡田全弘会員

岡田全弘会員

M&Aは長期的視野で検討すべき

──M&Aを振り返って感じていることをお聞かせください。

岡田 早い段階での検討開始が功を奏したと考えています。相談を受けてから成約までには約2年かかりましたが、私は、本来M&Aはこれくらいの時間をかけて進めるべきものだと思います。単価の決まっている商品や製品とは違い、会社は多くの取引先や従業員を抱えており、マッチする譲り受け側を探すには時間がかかって当然かと思いますし、何より社長が長年かけて我が子のように育ててきた会社なので、買収資金が潤沢な譲り受け側であればどこでも良いということにはならないと思います。
 A社は、社長はじめ従業員の皆さんのご努力の結果、無借金経営で財政状態も業績状況も良く、かつA社社長も健康を維持していたため、今すぐにM&Aを実行しなければならない状況ではありませんでした。会社も社長も十分に体力のある状態で余裕を持って進められましたことも成功要因の一つかと考えています。実は以前、ある譲り受け候補先と株式譲渡直前まで進んだものの諸条件が合わず破談となったことがありました。今回、最良の相手先とめぐり会うことができ、納得感のあるM&Aが実現して事業を次世代に繋ぐことができました。
 最終的な譲り受け側は、複数の事業を営みながら自動車整備業のウェイトを高めるためにA社を必要としてM&Aに至りました。M&A時にA社に後継社長が派遣されただけでなく、A社社長が長年悩まれていた人材確保についても、M&Aと同時に譲り受け側から複数の技術者が派遣されています。まさに両社の思いが一致した理想的なM&Aになったのではないかと感じています。
 この2年の間は、A社社長も重要な判断の連続で精神的負担は極めて大きかったと思いますが、A社社長もまだまだお元気な段階で早めに相談いただいたことも幸いだったと考えています。やはり、M&Aは、財政状態や業績状況が悪化した時点や社長の体調が芳しくない状態になった等のお尻に火が付いてからではなく、5年後、10年後の事業の継続を考える中で選択していくことなのだと身をもって勉強させていただきました。

──M&Aにおいて会計事務所としてどのような支援をされたましたか。

岡田 A社長からの相談を受け、TKC社員であるM&Aアドバイザーと連携を図りながら、譲り受け側からの質疑応答の支援や財務・税務デューデリジェンス(買収監査)への対応を支援しました。その過程では、FX2クラウドにより自計化していましたし、OMSの関与先DBも整備されていましたので、確かに時間的な負担はありましたが、A社に精通した巡回監査担当者が非常によく活躍してくれました。
 M&A全体の進行や譲り受け側との交渉、調整は全てTKCのM&Aアドバイザーにお任せできますので、当事務所としてM&Aの専門的な知識を要求されるような場面はありませんでした。ただし、A社は一部社内規定が不十分な点がありましたので、社会保険労務士の方の支援をいただきながら就業規則の再整備等のM&Aの事前準備には時間をかけました。
 全体を通じて感じたことは、対税務署、対金融機関の視点もさることながらM&Aにおける譲り受け側の視点で社内規定の整備や中期経営計画の立案等の経営助言をすることの大切さを強く認識したことです。

関与先企業の永続的発展を願って―今後も総合的な経営支援に邁進したい

──関与先から何か反応やご意見はありましたか。

岡田 A社社長および二人三脚でA社経営に携わってこられた奥様から、私と監査担当者、そしてTKCに対し、「本当に良いお相手とめぐり会えました。ありがとうございました」との感謝の言葉をいただきました。先代からの長い付き合いのある関与先企業経営者が満足のいく形で事業承継できたことに心が熱くなる思いでした。当税理士法人としても先代からの思いを繋ぐことができたと感じる瞬間でした。
 A社の事業承継が目的なので、M&A後の当事務所との顧問契約については考えてもいませんでしたが、幸いなことに、譲り受け側から、長年支援してきた当税理士法人が最もA社を理解しているとの評価から、引き続き顧問契約を継続したいとの意向をいただきました。A社社長ご夫妻もこれを強く後押ししてくださり、当事務所としても今後もA社の事業継続と発展により一層尽力しなければならないという身の引き締まる思いでいます。

──最後に、TKC会員事務所へのメッセージをお願いします。

岡田 繰り返しになりますが、月次巡回監査により関与先と信頼関係を構築することが、関与先社長のニーズや不安を把握し、支援に結びつけることが可能であることを改めて実感しました。
 また、TKCはTKC会員事務所にとって「身近なパートナー」であり、親族外承継(M&A)においてもサポートいただけることを身をもって感じました。他の仲介会社では、紹介後の連携が不十分との声も聞かれますが、TKCは会員事務所と密に連携し、進行状況の報告を丁寧に説明しながら進めてくれます。今後も会計事務所の本来業務で最大限関与先企業に貢献することを目指しつつ、各士業、専門家と連携しながら関与先企業の総合的な経営支援に邁進したいと考えています。

(聞き手/中小企業事業承継支援部 田郷不二夫)

事務所概要
事務所名 福山中央税理士法人
所在地 広島県福山市西町1-10-8
開業年 昭和38年
職員数 4名
関与先数 約70件

(会報『TKC』令和8年5月号より転載)

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