事務所経営
記帳代行型事務所から転換し、経営助言で感謝される事務所を目指す
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左が船橋 充会員、右が共同代表の佐藤亮太会員。
事務所のロゴマークは、そろばんの珠で「326」。船橋代表の名前(みつる)を表している。
みつる税理士法人(近畿大阪会北大阪支部)の船橋充代表は、インボイス対応などの課題解決のためにTKCへ入会した。税務と会計を一気通貫で処理できるTKCシステムへの転換に努め、2年連続でTKC全国会運動ニューメンバーズ・サービス委員会の表彰を受けた。今後は記帳代行型事務所から転換し、職員全員が継続MASによる経営助言ができる事務所にしたいと目標を語る。共同代表の佐藤亮太会員の同席のもと事務所の経営革新に向けた取り組みを聞いた。
アフリカ経済学を研究するつもりが簿記との出会いで簿記・会計の道へ
──今日は事務所までJR新大阪駅から電車で来たのですが、最寄りのJR茨木駅まで在来線で約10分。駅からも徒歩3分のとても便利な場所ですね。船橋先生は大阪がご出身ですか。
船橋 出身は福井市です。大学進学を機に大阪に来ました。大学が近く、前職時代から隣の市に住んでいることもあり、茨木市に事務所を構えています。
──税理士を目指したきっかけを教えてください。
船橋 大学は経済学部だったのですが入学時に税理士になるとは思っていませんでした。もともとは高校の国際科で学んでいた時にアフリカに興味を持ったため、アフリカ経済を専門とされている先生がいる大学を受験しました。入学できたまではよかったのですが、何をどう勉強してよいのかが分からなくて。でも、親には学費のうえ、福井から大阪に出てきて一人暮らしもさせてもらっていたので、サボれないという気持ちがありました。
そんな時に大学の課外授業で簿記の資格講座を見つけました。「経済学部生におすすめ」とあったので受講すると、これが面白くて、その年に日商簿記検定3級と2級に合格しました。簿記は自分に向いていると思い、勢いで公認会計士講座に申し込んでしまいました(笑)。しかし、勉強内容が一気に難しくなり、大学生活を楽しもうと、勉強を完全にやめてしまったんです。
ただ、遊びだけの学生生活にも飽きて勉強を再開し、ゼミでは会計論を学び、大学院に進みました。卒業時は就職との間で迷いましたが、性格的に就職すると仕事にのめり込んでしまい、研究者の道には戻れないなと思ったので、ダブルマスターで大学に残りました。それで在学中に税理士資格を取り、アルバイトをしていた大阪市内の会計事務所に就職。2017年に税理士登録しました。
船橋 充会員 1990年福井市生まれ
高校時代は吹奏楽部でトランペットを担当。大学院時代に、「所得税制の課税単位に関する一考察」のテーマで
第23 回(2014 年)の租税資料館「租税資料館奨励賞」の部で入賞。
──開業はいつですか。
船橋 2018年9月です。勤務していたときは、学生時代からの仲間もいて、仕事にも不満はなかったのですが、激務がたたって体調を崩してしまい、自主退職することになりました。
──それは大変でしたね。
船橋 独立に際しては、実務を一通り経験させてもらっていたので「何とかなるだろう」と不安はなく、体のことを考えて、無理せずに、のんびりやろうと思っていました。
ただ、1年目は本当に税理士としての仕事がありませんでした。自宅開業は家族の反対でできず、近所のワンルームマンションの一室で開業したのですが、来客もなく、電話も全く鳴らなくて、朝からパソコンでネットニュースを見て、夕方に自宅に帰る日々を送っていました。
収入は大学院時代のツテで大学の非常勤講師を務めたり、前職の所長が声をかけてくれて、繁忙期に事務所の手伝いをしたりなどで多少はありましたが、毎月、事務所の家賃などの諸経費で通帳の残高が減っていくのを見て、心配になりました。
人が多く集まる場所に飛び込んだことと内装を「魅せる事務所」にしたことが転機
──転機は何でしたか。
船橋 一つは、所属する近畿税理士会茨木支部の行事に欠かさず参加していたことです。20代の税理士は少なくて、先生方に顔を覚えていただけました。そのうちに声をかけてもらえるようになり、「この案件、うちではやらへん(やらない)けど、船ちゃんやる?」と仕事を紹介していただけるようになったんです。
このときの経験から、人が多く集まる場所に飛び込むことは勇気が必要ですが、大切なことだと学び、TKC入会時もあまり気おくれしませんでした。
もう一つは、事務所の移転です。私は仕事以外は飽き性なところがあり(笑)、開業から1年を迎える少し前に「引っ越そう」と思い立ちました。すぐに物件探しをして、運よく茨木税務署や茨木支部近くのオフィスビルの一室に空きを見つけました。心機一転しようと、デザイナーと相談しながら内装にこだわり、ガラス張りの応接室など「魅せる事務所」にしたんです。事務所の様子はSNSにも投稿しました。すると、来所されたお客さまとの商談がほぼ100%成約するようになりました。
その時はビルの3階のフロアの半分を借りましたが、2年後に同じビルの6階のフロアが丸ごと空いたと聞いて再移転。さらに職員が増えて手狭になったので、2025年9月に現在のビルに事務所を移しています。
──共同代表の佐藤亮太先生との出会いはいつ頃ですか。
船橋 開業3年目です。当時は完全に記帳代行型の事務所で、関与先の増加とともにパートの職員を増やしていました。職員が10名を超えた頃に、そろそろ私と職員との間に入ってくれる「実務が分かる人」が必要だと思うようになりました。それで大学院時代の同期に相談したところ、紹介してくれたのが佐藤です。
インボイス制度対応と、税務と会計を一気通貫で処理できるTKCへ入会
──TKC入会はいつですか。
船橋 入会は2023年9月です。きっかけはインボイス制度対応に悩んでいた時期に、TKC大阪SCGサービスセンターのセンター長代理が事務所に来られたことです。困っていたところに渡りに船で、課題について相談しました。
──どんな課題があったのですか。
船橋 既存システムのインボイス制度対応があまりに原始的で「このままでよいのか」と感じていた時でした。TKCシステムの説明を受け、「これなら乗り越えられるかもしれない」と思いました。
システム利用料も思っていたほど高額ではなく、むしろ「コストは適切に顧問料に転嫁すべきだ」との発想に変わりました。それで、まだ職員が現行システムに慣れ切っていない頃だったので反発は少ないと思い、リース期間は残っていたのですが、移行にかかるコストと得られるベネフィットを比較して、切り替えに最適なタイミングだと判断しました。
──佐藤先生はいかがでしたか。
佐藤 私は、税務と会計が一気通貫で処理できることに大きなメリットを感じました。それまで使っていた会計システムは税務システムとの連携が複雑で、一から再入力が必要など、とても負担に感じていました。また、TKCのFX2クラウドの仕訳入力は、銀行信販データ受信機能や証憑保存機能によって、スピードアップや省力化が図れると聞いて魅力を感じました。
──入会後の感想を聞かせてください。
船橋 毎月訪問して、支援してくれるSCGの存在が大きいですね。記帳代行から自計化へ移す際の職員やお客さまへの説得や、限られた職員数で初期指導してシステムをどう整えていくのかなど、壁にぶつかるたびに相談に乗っていただきました。苦しい時期を一緒に駆け抜けてくれて本当に感謝しています。
佐藤 私は、TKC全国会運動方針の実践状況を「見える化」する表彰制度の仕組みが素晴らしいと思いました。目標達成を目指して、全国の会員先生方と健全な競争をし、「競い合いながら一緒に上がっていこう」という空気感がとても好きです。
雇用創出は経営者の社会的責任積極的に正社員登用やインターンを採用
──現在の所内体制についてお聞きします。職員さんは何名ですか。
船橋 私と共同代表の佐藤のほかに、正社員がフルタイムと短時間勤務を合わせて6名、パートの職員が2名。学生アルバイトが8名です。
職員は2年目のときに初めてパートの職員を採用しました。関与先はゼロ件でしたが、私が茨木支部や税務署に行く機会が増えてきたために、外出中の電話や郵便物の対応などに困ったからです。その後も少しずつパートで職員を採用しました。当事務所の職員は皆、非常に優秀で、佐藤が入って事務所の体制が整ってきたところで、本人の意向を聞いて、正社員になってもらいました。少しだけ格好のよいことを言うと、雇用の創出は経営者が果たす重要な社会的責任という想いがあります。
学生アルバイトを採用したのも、2020年頃にコロナの影響で多くの飲食業等のサービス業で休・廃業を余儀なくされ、学生の収入源が断たれたという報道を見て、手助けしたいとの想いからでした。現在は、主に私が非常勤講師をしている大学の授業で希望を募ってインターンシップを行っており、授業の合間や長期休暇に来て手伝ってくれています。
──業務の分担はどのように行っていますか。
船橋 所内は私のチームと佐藤のチームに分かれています。巡回監査は、私と佐藤が行っており、職員は所内で事前確認と、会社の事情で自計化ができないところやFX2クラウドを導入して初期指導中のお客さまの入力の一部を支援するなどしています。
──巡回監査をお二人でされているとのことですが、関与先数は何件ですか。
佐藤 月次の関与先は約30件です。大阪府内だけでなく、神戸や奈良、和歌山、北海道にもいらっしゃいます。遠方の方は、どうしても時間とコストの面で毎月の訪問ができていないのが実情です。
船橋 安定した経営基盤を築くためには利益を出さねばならず、高付加価値サービスの提供と関与先の拡大が課題です。巡回監査できる職員を育成するために、私たちの巡回監査に同行してもらうことや書面添付の作成などをしています。
──関与先の支援で工夫していることはありますか。
船橋 勤務体制について、職員の都合に合わせて、勤務時間の変更や在宅勤務の申し出には柔軟に対応しています。
ただし、担当者が休むと業務が止まるという事態を避けなければなりません。そこで関与先1件につき複数の職員が担当するチーム制をとっています。そのために、毎月20日頃にWeb会議を行っています。全員でOMSの「スケジューラ(SPS)」を見ながら、次月の勤務スケジュールを鑑みて、関与先ごとに設定されたタスクへ人員を割り当てています。
──所内の業務効率化で取り組んでいることはありますか。
佐藤 所内に委員会を立ち上げて、これまで船橋と私の二人で行ってきた業務を職員に任せるようにしています。例えば、新しいシステムが提供された時のマニュアル作成や、直近では、三共済制度推進を目的とする委員会を立ち上げて、職員のみでお客さまへの普及策を検討したり、案内文の作成などをしたりしてもらっています。
SCGの支援を受けながら、IT導入補助金を活用したシステム導入
──みつる税理士法人は、「TKC全国会重点活動テーマ」のニューメンバーズ・サービス委員会表彰を2年連続で受賞されました。まず、1年目(2023年7月~2024年6月)は、継続MAS実践表彰(第2位)と自計化推進表彰(第3位)の2部門で受賞されましたね。
船橋 1年目は入会直後の右も左も分からない時期でしたので、SCGと二人三脚で作戦を考えていました。最初は、インボイス制度対応のために他社システムからTKCシステムへ移行していったのですが、移行対象の件数が多かったので、ある程度移行の目途が立ったときに、SCGから「表彰圏内に入るかもしれません」と教えていただきました。
──どのように推進されたのですか。
佐藤 近畿大阪会では全国会運動方針に沿った独自の事務所総合表彰制度が設けられています。その当時は表彰対象がAグループ(TPS1000処理社数100件以上)、Bグループ(TPS1000処理社数100件未満)、Cグループ(ニューメンバーズ会員)の三つに分けられており、私たちはCグループでの受賞を目指そうということになりました。全国会表彰はその延長線上にあったのだと思います。
──継続MAS実践と自計化推進について、ターゲットの選定はどのようにしましたか。
船橋 職員には「例外なくTKCシステムに移行する」という事務所方針を明確に示しました。そして、「来年は(他社の)ライセンスを△件に減らします」と宣言し、退路を断ちました。一方で、職員の負担感を減らすために、関与先にIT導入補助金を活用してスキャナーを導入してもらい、証憑保存機能で書類を電子化することによって、仕訳入力を省力化・自動化できる環境を整えていきました。
佐藤 推進は証憑保存機能とセットで導入することがポイントです。私もお客さまに、「書類の管理が楽になりますよ」といって導入していきました。設定で分からないことがあったら、いつでもSCGに相談ができたので、導入はスムーズでした。
カンファレンスを経た書面添付の作成を通じて職員を育成
──2年目(2024年7月~2025年6月)は、「書面添付実践表彰」で第1位でした。
船橋 書面添付は前職の会計事務所でも力を入れていたので、全件実施することは当然のことだと考えていました。
それでFX2クラウドで1年間運用して決算が終わったところから書面添付を実践していきました。
──職員さんが書面添付を実践する上でチェックするポイントは何ですか。
船橋 所内で毎月、「カンファレンス」という、職員が仕上げた月次試算表をチェックする時間を設けています。職員が勘定科目ごとに「この科目では何を行い、何と突合したのか」「この数字を正しいと判断した根拠は何か」などを一つずつ検証していきます。その場で私が指摘して、修正することを繰り返し、最終的には、初見の税務署の方が理解できるレベルまで書面添付に落とし込めるようにします。
佐藤 私も「顕著な増減事項」にあたる部分を注視しています。数字が突発的に大きく変化した部分には、必ず何かの事情があるので、そこはしっかりと証拠となる仕訳や領収書などの証憑書類を確認するように職員に指導しています。
船橋 書面添付は会社の数字の裏にある出来事や変化を振り返ることができます。カンファレンスを経て、初めて書面添付を作成した職員は、新しい気づきを得て、翌年は確実にステップアップしており、教育面での効果も期待できます。
事務所玄関に飾られたTKC近畿大阪会事務所総合表彰の表彰状(左)とTKC全国会重点運動テーマのニューメンバーズ・サービス委員会表彰2024と同2025の表彰パネル。
継続MASを活用できるかに事務所の未来がかかっている
──最後に今後の課題や抱負をお聞かせください。
佐藤 遅かれ早かれ、起票や記帳などの単純作業はAIにとって代わられると思っています。記帳代行はもとより、自計化のお客さまでも、操作が簡単になれば事務所が関与する場面がなくなります。事務所の次の収益の柱を早く築かねばなりません。その柱が経営助言業務と考えています。
FX2クラウドで月次決算をしっかり行うことによって、継続MASで売上高や借入返済額、納税額などのシミュレーションができます。これをもとに税と会計の専門家として、経営者に分かりやすく説明し、経営判断をお助けしたいです。今は一部のお客さまにしか行えていませんが、全関与先でできるようにします。
その前段階として、職員への意識付けの意味で今年1月に所内研修を開催し、センター長代理に、継続MASをテーマにして「こんなことができます」ということをお話ししてもらいました。事務所の未来は、継続MASを全件に導入し、どれくらいの活用ができるかにかかっていると言っても過言ではないと思っています。
船橋 事務所はまだまだ課題ばかりです。もともとは記帳代行型事務所でしたので、「記帳代行(お客さまの手が空く)=お金を払う価値」という価値観がお客さまにも職員の一部にも今も残っており、この価値観を変えていきたいです。
先日、日本の全法人(290万社)の黒字申告割合が約36%(国税庁公表値)であるのに対して、TKC会員の関与先の黒字申告割合は約54%(「TKC経営指標(BAST)」)というデータを見ました。翌月巡回監査と月次決算を基盤とするTKCのビジネスモデルに真面目に取り組むことが、日本の中小企業の成長を支える未来の会計事務所のあり方であることを実感しています。
あるTKCの先輩会員が、価値観を変えることは「重い歯車を回すことだ」と言いました。確かにこの歯車は重いのですが一度回り始めると加速します。
「2カ月前の月次試算表」では社長は正しい経営判断ができません。これからは、新鮮な会計情報に基づく経営助言が求められます。そこに新たな価値を見出して、職員が月次巡回監査でお客さまと直に話をして、感謝される喜びを感じてもらえる。そんな事務所にしていきたいです。
JR茨木駅から徒歩3分の場所にあるオフィスビルに事務所を構えるみつる税理士法人。2025年9月に移転した。
(インタビュアー/SCG営業本部 三村俊輔 構成/TKC出版 石原 学)
| 事務所名 | みつる税理士法人 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府茨木市西駅前町5番8号 関電不動産茨木ビル5階 |
| 開業年 | 2018年9月 |
| TKC入会 | 2023年9月 |
| 職員数 | 17名(税理士1名、学生アルバイト8名含む) |
| 関与先数 | 120件(法人90件、個人30件) |
(会報『TKC』令和8年4月号より転載)