事務所経営
FX2クラウドと継続MASの徹底活用がお客様のパートナーであり続けるカギ
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下平伸次会員(TKC関東信越会長野支部)
1967年3月長野県飯田市生まれ TKC入会:2001年
長野県飯田市で開業60周年を迎えた下平伸次会員(TKC関東信越会長野支部)は、2代目所長として、記帳代行や他社システム利用からFX2(従来版)への一本化、さらにFX2クラウドへの完全移行を決断。綿密な準備のうえ短期間で実行してきた。今後も、TKCシステムの徹底活用で職員の会話力を磨き、地域に根差したお客さまのパートナーであり続けたいという下平会員に話を聞いた。
恩師の「税理士は素晴らしい仕事」との言葉で税理士の道へ
──4月に開業60周年を迎えられたそうですね。事務所の概要を教えていただけますか。
下平 当事務所は、1966年4月に鋤柄益保先生が開業した事務所が前身です。鋤柄先生は1973年にTKCへ入会され、長野県でも早くから全国会運動に取り組んでこられました。
私が入所したのは1998年です。2001年に税理士法人化しましたが、その後、鋤柄先生が病気で亡くなられたため、2005年に事業承継し、下平伸次税理士事務所として現在に至っています。
──下平先生のご出身も飯田市ですか。
下平 はい。実家はこの近くで和菓子屋を営んでいました。母校は事務所に隣接する旧長野県飯田長姫高校の商業科です。ここで恩師の「税理士という素晴らしい仕事がある」との一言がこの道を目指すきっかけになりました。
もともと計算や数学が得意だったので、高校卒業後は上京し、簿記専門学校の税理士試験コースに進みました。2年間の学習を終える頃に学校から講師の誘いがあり、働きながら税理士試験に合格しました。そして、30歳を迎えたのを機に地元へ戻り、就職活動をして鋤柄先生の事務所に入所しました。
──入所した頃で印象深いことはありますか。
下平 今でも印象深いのが「三枚伝票」の整理です。TKCのことを知らない私は伝票をひたすら分ける作業に「これが税理士事務所の仕事なのか」と戸惑いました(笑)。また、当時の副所長はコンピュータが好きで、自計化を積極的に進めていました。もう時効ですが、FX2(現・スタンドアロン版のFX2(従来版))と他社システムを併用していました。結果的に複数のシステムを知ったので、後に所長として「FX2による自計化に一本化する」との決断ができました。
──TKCへの入会はいつですか。
下平 入所して2年後に税理士登録と同時にTKCへ入会しましたが、会員活動にはほとんど参加せず、TKCの理念などを知ったのは所長になってからです。所長になり、TKCのSCGが頻繁に来られて、記帳代行や他社システムのお客さまをFX2へ切り替えする際に、色々と教えてもらい、理解が深まりました。
先代から事務所を承継し税務調査に耐えられるFX2へ一本化
──印象に残るTKCの行事や活動などはありますか。
下平 記憶にあるのは、軽井沢で開催されたTKC関信会(当時)の企業防衛制度の「ミッション16兆」目標達成祝賀会です。大きなイベントで、全国で活躍する会員の話を聞けたことや会員同士で語り合ったことを覚えています。
そして、委員会活動への参加です。私は企業防衛制度推進委員会に長く携わっていますが、そこから入ってくる情報が増えるにつれて、「なるほど、そういうことだったのか」と理解が深まり、TKCの価値を実感するようになりました。
──事務所を承継された当時のことをお聞かせください。
下平 まず考えたのは、「お客さまと職員を離脱させないこと」でした。職員14名、関与先は約240件で職員も社長もほとんどが私より年上でした。所長としての方針を早く示し、私の考え方や進め方を理解してもらう必要があると思いました。
最初に取り組んだのは、職員時代に非効率と感じていた業務の改善です。具体的には、記帳代行からの転換とFX2による自計化への一本化です。
──他社システムをFX2へ一本化しようと思った理由は何でしょうか。
下平 最大の理由は、FX2が税務調査に耐えられる「過去が変わらないシステム」だったことです。他社システムでは、月次巡回監査に行くと前月に締めたはずの残高が変わっていることがあり、原因を一から調べる必要がありました。その点、FX2は月次で締めた後の数字が変えられないため安心でした。
もう一つは、私が所長になったときには定年退職されていた前副所長が、退職前に「次は継続MASによる経営計画だ」と方向性を示されました。継続MASを活用するにはFX2との連携が不可欠で、所内にはすでに推進の土台がありました。そこで職員からお客さまへ「経営計画を作り、業績管理を進めましょう」と提案することによって、FX2への一本化を進めていきました。
三枚伝票のお客さまも、三枚伝票を書けるということは仕訳を作れるということですから、「伝票を分けるのは大変ですよね」と説得して、FX2を導入してパソコンの操作をお教えしました。
──切り替えにはどれくらいの時間がかかりましたか。
下平 ほとんどかかっていません。私は方針を決めたら、期間・スケジュール・手順を明確にし、各段階の進捗をきちんと確認できる体制を整えてから進めます。だから、決めたことはダラダラやらず、決めた期間で一気に進めることを職員にも徹底しました。
──下平先生が事務所経営で大事にされていることを教えてください。
下平 私は「関与先1社1担当者制」 を守っています。私が入所した頃からこの体制でした。複数担当者制を試したこともありますが、やはり1人の担当者が最初から最後まで責任をもって支えることで、お客さまの安心感と担当者の責任感が生まれると考えています。
ただ、気を付けないといけないことは、担当者が変わっても円滑に引き継げるようにしておくことです。正確な決算を組むために必要な資料や、その会社を理解するために備えるべき情報は、様式や記載内容を標準化しています。
FX2クラウドを全件導入する前に半年間のモニタリングで情報収集
──2020年提供のFX2クラウドについてお聞きします。提供後すぐに、それまでのFX2(以下、FX2(従来版))から移行する方針を決めた理由を教えてください。
下平 一番の理由は、事務所の業務が大幅に合理化できると期待したからです。これまでは関与先へ行かなければ見られなかった経理処理の状況が、クラウドなら事務所にいながらリアルタイムで把握できる。これは仕事のやり方そのものを変えると感じました。ですから、提供された際には、迷わずFX2クラウドへの移行に踏み切りました。
──推進にあたって準備されたことや、活用したツールを教えてください。
下平 職員に方針を示す前に、クラウドを自ら試すことにしました。
私は、現場感をとても大事にしています。システムが変わったとき、私自身が触っていないと、導入する職員がどこでストレスを感じるのか、何が分かりにくいのかを理解できません。自分が導入して初めて「お客さまはここで困るんだな」という実感も得られ、その声を吸い上げて改善につなげることができます。
最初に私が担当しているお客さま1件に導入したところ、「これはしっかり準備しないとまずい」と感じました。すぐに職員2名を加え、3人で半年間のモニター体制を敷きました。それは複数人で試すことで、お客さまの反応や課題を幅広く把握し、つまずきそうな点について事前に対応を検討するためです。
さらに、メニューの配置や操作の違いなどを整理したマニュアルを作成し、職員もお客さまも迷わないようにしました。
──準備万端で全件移行を進めたのですね。
下平 はい。FX2クラウドが2020年9月に提供されて、本来はその翌年に全件移行したかったのですが、初版はFX2(従来版)の機能がまだ揃っていなかったこともあり、モニター期間で多くの課題が見つかり、時期尚早と判断し、1年先送りしました。
そして、その翌年6月、電子帳簿保存法(電帳法)の改正が始まるタイミングに合わせて事務所でセミナーを開催しました。ここでお客さまに、証憑保存機能とFX2クラウドをセットで進める方針を示しました。TKCであれば、証憑がTKCのデータセンター(TISC)に安全に保存されるという点を強調して、FX2クラウドへ切り替えるメリットを説明しました。
その後は、「DX対応(業務合理化)確認書」(次頁資料)を作り、経理の合理化を名目に、お客さま1件毎に「何を合理化したいのか」を聞き取りました。現行システムの確認や、FinTechの利用状況、電子取引の保存体制などを意向調査し、確認書をもとに8~10月で一気に移行を進めました。
事前に「できること・できないこと」を把握していたので、セミナーでも「全部が完璧にできるわけではない。でも十分なメリットがある」と正直に説明しました。このようにして基本的に3カ月間でクラウド移行を一気に推進した形です。
──推進で重要なことは何ですか。
下平 事務所として「やる」と決めたら一気にやることです。同じ時期に全員で進めると、職員同士で「自分はこう乗り越えた」と経験を共有でき、ストレスが軽減されたと感じています。
そして、お客さまには、どの職員が対応しても同じ品質の情報を伝えることがとても重要です。私はセミナーでお客さまを集めて説明しましたが、ペーパーで説明するとしても、職員ごとに伝え方が違いますよね。だからこそ、伝えるべき情報を均一化する必要があります。
それから、人が抵抗するのは「できないこと」に対してです。ですので、最初にできないことを正確に把握し、解消しておくことが大事なんです。できないことは素直に「できません」と先に伝えておけばよいんです。でも、それ以上に「できること」「メリット」があることを強調するべきだと思います。
──スケジュール管理と進捗管理をしっかりとされていますが、OMSは活用されていますか。
下平 結構使っています。まず「スケジューラ(SPS)」は必須です。「業務日報作成システム(DRS)」と「目標管理(KPI)機能」と連携しており、今は月次巡回監査率を把握しています。
「進捗管理」も非常に有効です。FX2クラウドの導入時も、「進捗管理」でタスクを細かく設計して、進めていました。これらの機能は担当者別でも把握できるので、進捗が遅れている担当者がいれば、声をかけて、一緒に打ち手を検討しています。
FX2クラウドへの移行時に活用した確認書(実物)
証憑保存機能を活かした事前確認で決算整理仕訳が減り、生産性が向上
──FX2クラウドのメリットをお聞かせください。
下平 事前確認が非常に有効だと感じます。証憑保存とセットで行うことで、事務所にいながら証憑を把握したうえで巡回監査に臨めるため、関与先でのチェック時間は確実に短くなり、その分、会話の時間が増えています。
──事前確認で業務の質が変わったわけですね。
下平 大きく変わりました。事前確認には証憑保存機能が欠かせません。
例えば、投資など大きな取引を巡回監査の場で初めて知ると、資料の確認や仕訳の判断に時間がかかり、仮払金処理のまま翌月以降へ持ち越され、決算時に再確認が必要になることもよくありました。
しかし、事前に状況を把握できれば、必要資料をすぐに依頼でき、証憑が仕訳と紐づいていれば、現地では事実確認だけで済むため、月次が正しく締められます。決算整理仕訳の枚数が減りました。
また、職員の残業時間も減っていますが、翌月巡回監査率は下がっていません。総合的に見ると、クラウド導入で業務効率、生産性は確実に向上しました。
効率化で生まれた時間は新しい取り組みに充てられます。2年前に、ある時期から行っていなかった継続MASを活用した経営計画による業績管理を推進する方針を打ち出し、継続MASの予算登録の目標を達成することができました。
最初は「汗をかく時期」がありますが、一度しっかりと取り組めば、その後は必ず楽になると感じています。
──関与先の経理業務の合理化はいかがですか。
下平 効果があります。銀行信販データ受信機能のおかげで預金残高の確認作業が減り、仕訳も自動計上されるためミスが少なくなりました。また、「仕訳コピー機能」が非常に便利で、困ったら過去の仕訳を検索してコピーすれば対応できます。単純仕訳を複合仕訳へ変換する機能も好評です。間違って計上した単純仕訳をボタンひとつで複合仕訳に展開してくれるので、訂正処理が楽になったと、とても喜ばれています。
経営助言はお客さまと会話すること月次決算速報サービスをきっかけにする
──「月次決算体制の構築」の取り組みについてお聞きします。職員さんにはどのように指導しておられますか。
下平 最終的には365日変動損益計算書の中身をしっかりお客さまに理解してもらえるようにすることです。
しかし、その前に、経営助言はお客さまとの会話であると私は考えています。いま何に困っているのかを聞くことが大事です。そこから一緒に考えることで信頼関係を築くことができます。ですから、実際に会いに行き、顔を合わせて話すことが欠かせません。
会話力を向上させるにはさまざまなお客さまと対話し、経験を積むしかありません。だから、月次決算速報サービスが提供された際には、会話のきっかけとして全社に導入しました。
──365変動損益計算書を見る時は何に気を付けておられますか。
下平 画面を見れば数字のよしあしはすぐに分かります。重要なのはその「理由」です。「なぜ変化したのか」を社長に聞いて、語っていただけるような会話力が職員には求められます。
説明する力も大事です。私は専門学校の講師だったときから、専門用語を使わずに分かりやすい言葉で説明することを心掛けていました。所内では経験の浅い職員が先輩と組んでロープレをしています。人によって伝え方が違うので、先輩の説明を聞き、自分のものにして会話力を磨いていけるよう訓練しています。
──経営助言を行う上で課題があれば教えてください。
下平 社長への経営助言業務はさらに強化すべきと感じています。現時点で、継続MASで経営計画を作る体制はできているので、次は、「経営計画の質」の向上を目指しています。
「質」とは、社長が計画を自分の目標として認識できているかを示しています。会計事務所主導で作ると、「これはあなたたちが作った計画でしょ」と言われることがあります。社長の思いを反映した、「社長と共有できる計画」であれば、予実のズレを見ながら「当初こういうイメージで数字を組んだよね」と建設的な会話につながり、経営助言の土俵が整います。そして、職員が業績改善に向けて「どう伝えるのか」という次の実践段階に進めるのだと考えています。
社長の思いを数字に落とし込むアナログ力・会話力が業務の軸になる
──社長に計画を自分の目標として認識してもらうには、どのようにしたらよいとお考えですか。
下平 すでにある継続MASの「経営者への5つの質問」は社長の核心となる思いをつかみ、数字に落とし込める優れた仕組みだと思っています。ただ、質問が最大公約数的なので、当事務所では 独自のヒアリングシートを作っています。
例えば、「過去10年のどの業績水準を目指すのか」「直近3年の中でどこを基準にするのか」あるいは「社長の今の思いとしてどうしたいのか」など選択肢や考え方の視点を示して、数字を描きやすくする工夫をしています。目標売上をただ聞くのではなく、経験の浅い職員でも深掘りしやすいようにしています。
──今後の抱負をお聞かせください。
下平 お客さまのところでデータ連携やAIによる合理化が進んで、「会計事務所が介在しない場面」が増えていると感じます。
これからは、アナログ力=顔と顔を合わせた会話力が、私たち会計事務所の業務の軸になると思っています。そのためにも、職員は巡回監査の基礎知識を身に付けなければならないと思っています。
私の事務所は広いエリアでお客さまを増やすことよりも、地域に根差して、「顔の見える関係」を大切にしていきます。そして、FX2クラウドや継続MASなどのTKCシステムを徹底活用し、アナログ力を磨いて、お客さまのパートナーであり続けたいです。
(インタビュー・構成/TKC出版 石原 学)
JR飯田駅から車で約15分の場所にある下平伸次税理士事務所。
右端に写る校舎が下平会員の母校・旧長野県飯田長姫高校(現長野県飯田OIDE長姫高等学校)。
| 事務所名 | 下平伸次税理士事務所 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県飯田市鼎名古熊2541番地1 |
| 開業年 | 2005年1月 |
| 職員数 | 13名(内、税理士1名、巡回監査士6名、巡回監査担当者12名) |
| 関与先数 | 225件(法人187件、個人38件) |
(会報『TKC』令和8年4月号より転載)