事務所経営

未来への決断― 顧客・銀行・職員から感動される事務所づくり

目次
出席者写真
◎パネリスト
山中朋文会員(TKC東京都心会)
澤口洋輔会員(TKC神奈川会)
小野晃弘会員(TKC中国会)
◎コーディネーター
多々良信彦会員(TKC静岡会)

■とき:令和7年11月14日(金)

関与先拡大

開業当初の「しくじり」をきっかけに、自計化で黒字化支援をする事務所へ

多々良 はじめに「関与先拡大」について皆さんに伺います。今年、ニューメンバーズ・サービス委員会が一丸となり、『TKC会員事務所の関与先拡大のきほん』(TKC出版)を改訂しました。このテキストは自計化と月次巡回監査を前提とした、関与先拡大の「型」を理解いただけるように構成されています。そこでまずは、ニューメンバーズの皆さんにこの「型」を理解いただきたく思います。まずは山中さん、関与先拡大における「事務所のビジョンと戦略」について、どのように取り組まれてきましたか。

山中 開業当初はとにかく関与先件数を増やすことしか考えておらず、顧問料無料キャンペーンまでやっていましたが、結果は散々なもので、いきなりしくじりました。職員は疲弊し、利益も残らない。このままでは誰も幸せにならないと気付き、このしくじりをきっかけに「自計化で黒字化支援をする事務所を作る」というビジョンと戦略を設定しました。
 その際に学んだことは、①自身と事務所の強みを見つけること、②それをより尖らせること、③アピールすること──、の三つです。「この人だから紹介してみたい」と思われるような事務所、そして職員の強みを磨くことこそが、最大の戦略ではないでしょうか。

多々良 次に、「営業ツールの準備」、「ホームページの活用」などについて、小野さん、いかがでしょう。

小野 営業ツールに関しては、テキストにも書いてありますが、事務所のパンフレットや、ロゴ、ホームページの準備をしていました。また、坂本孝司TKC全国会会長も常日頃おっしゃっていますが、名刺やホームページにはTKCのロゴを必ず入れましょう! 覚えていただきやすくなりますし、事務所の看板にもなります。また、ホームページには事務所の方針や業務内容を具体的に記載しなければ、記帳代行などの問い合わせがあり、事務所の意向とミスマッチすることがあるので、注意が必要です。しっかりと事務所の強みをPRすることが重要です。
 閲覧していただくためには、QRコードを作成し、名刺やパンフレットに記載しましょう。ホームページ作成に関しては、ニューメンバーズの皆さんはアイ・モバイル株式会社のホームページ無償キャンペーンを利用できますので、活用をご検討ください。

多々良 続いて、新規開業の方にとっては最重要テーマである「人脈づくり」に関して、澤口さんお聞かせください。

澤口 私自身、関与先もゼロで営業経験もゼロでしたから、最初はとにかく試行錯誤の連続でした。そんな中でも意識したのは「忘れられない仕組み」作りです。例えば弊所では、毎月「無料相談会」を行っており、終了後数日以内に、相談内容とアドバイスをまとめた書類をお客さまに郵送しています。そういったお客さまを名簿に記載し、暑中見舞いや年賀状を毎年送るようになり、約10年間で2400枚ほどになり、覚えていただけるようになりました。人とのつながりは、大事な資産ですので、ご縁を切らさずに積み重ねていくことが「人脈づくり」のポイントだと考えています。

多々良 「人脈づくり」に関しては、山中さんも苦労されたと聞いています。

山中 正直、一番苦労しました。開業当初、さまざまな異業種交流会に参加しましたが、結局、机の引き出しがいただいた名刺でパンパンになり、翌日、営業電話だけが来るような状態でした。
 そのため、交流会に参加するのであれば、100枚の名刺よりもこの方とずっとお付き合いしていきたいという1人の方を見つけることの方が重要です。

多々良 続いて「顧問契約書と報酬規程」について、小野さん、お願いします。

小野 顧問契約は業務範囲を明確にしてトラブルを防ぐために必須ですし、報酬規程は料金の透明性を示してお客さまに安心感を与えます。これがないと「こんな請求聞いてない」などの問題になりかねません。弊所では報酬規程があるおかげで、値上げの際も正当性を示せます。
 最近は電子帳簿保存法やインボイス制度で業務負担が増えているので、報酬規程は極めて重要です。報酬規程を作成する際は、業種別・年商別に分類して現行報酬を当てはめると作りやすいですよ。

澤口洋輔会員(TKC神奈川会)

澤口洋輔会員(TKC神奈川会)

事務所体制づくり(採用・育成・定着)

開業7カ月目に1人目の職員を採用し、事務所の流れが一気に変わる

多々良 続いて、職員の採用・育成・定着など、「事務所体制づくり」について伺います。まずは、ゼロ開業で1人目の採用を行った山中さん、お願いします。

山中 私が1人目の職員を採用したのは開業7カ月目、売上高がまだ400万円の頃でした。1人でまだまだ事務所を運営できるな、とは思っていましたが、電話がいつ来るか分からずビクビクして、トイレにも行けないと(笑)。このままでは早めに限界が訪れると悟り、1人目の採用を決めました。
 売上としてはまだまだでしたが、その1人目を採用したことで事務所の流れが一気に変わりました。その後、開業1年半までに3人の職員を採用しましたが、この3人が今では、弊所の中心メンバーとして活躍してくれています。
 採用のポイントは大きく分けて三つあると思います。まずは信頼できる方かどうか。事務所の鍵を預けられるかどうか、というのは非常に重要です。
 二つ目は採用経路です。はじめのうちは、前職の後輩や、仕事仲間など、身近な人であればいいのかなと思います。
 三つ目は、もし可能であればリファラル採用などの紹介採用を活用することです。すでに働いている職員からの紹介ほど、確かなご縁はないと思っています。
 独立直後は税理士の皆さんも経営者1年目。育成も採用も新人ですよね。ですから、失敗するのは当たり前で、大事なのは失敗してもすぐに立ち上がること。そして、すぐ相談できる環境を周りに持つことです。怖くても一歩踏み出せば、必ず事務所の未来が動き出します。諦めずに頑張りましょう。

多々良 非常に勇気あるご決断で、ここは「しくじりなし」な、見事な事例でしたね(笑)。続いて、職員の「育成」や「定着」について、澤口さんいかがでしょう。

澤口 採用というのは本当に難しいですよね。求人サイトを見ると、弊所の求人の上下に、魅力的な大手事務所の求人が並んでいるんです(笑)。だからこそ、弊所で働きたいと言ってくれた職員に関しては、「よくぞ見つけてくれた!」と思いますし、だからこそ、弊所では採用よりも「育成」に力を入れています。
 ほとんどの職員が業界未経験ですから、「一緒に成長しよう!」という姿勢を、何よりも大事にしています。
 例えば、事務所内のマニュアルやチェックリストは、若手メンバーが中心となって整備しています。確定申告のチェックリストを作る際には、私の机の上に確定申告書を置き、「こことここの数字の一致を確認して」、「ここには注意してね」などの注意点を共有している様子を若手メンバーにスマホで撮ってもらいます。若手メンバーには、その動画をもとに簡単なチェックリストを作ってもらうのです。そして、それをどんどんブラッシュアップし、その工程で育成していく。これなら、所長がどんなに忙しくても取り組めますよね。
 重要なのは、「ともに学ぶ」という空気をどう作るか。その文化を丁寧に育てていくことが、人材の育成だけでなく、定着にもつながると考えています。

多々良 所長がどんなに手一杯でも、あらゆる手順をマニュアル化していくことが大切なんですね。
 職員の「育成」や「定着」に関しては、TKC全国会中央研修所が作成した「職員研修プログラム」を、皆さんにはぜひ活用いただきたいと思います。ここには入所直後から5年目までの研修プログラム一覧や、巡回監査士の意義・価値から資格取得の方法まで記載されています。ぜひホームページや会社の説明会などでご活用いただき、働く職員さん達に、会計事務所の仕事の意味と価値を理解してもらいましょう!

小野晃弘会員(TKC中国会)

小野晃弘会員(TKC中国会)

「税理士の4大業務」の同時提供

「月次決算速報サービス」を通して、経営者の数字への意識が明確に

多々良 ここまで、関与先拡大を通して、事務所体制をつくる、というところまで確認しました。続いて私達税理士の4大業務である「税務・会計・保証・経営助言」について、皆さんがどのように捉え、どのように付加価値を生んでいるのか伺います。まずは「税務」業務について、澤口さんお願いします。

澤口 税理士の4大業務を同一企業に同時提供するためには、まず「税務」業務をミスなくスピーディーに、楽に行える環境づくりが欠かせないと感じています。ですから、弊所では法人税でも相続税でも「税務業務の標準化」という点にこだわっています。ここでの標準化とは、同じ流れと同じ手順で、同じ品質の結果にたどり着くことを言います。税務申告書を作成し、それをチェックし、電子申告して、納税すると。この一連の流れを全員が同じ手順で行い、同じ品質で提供することを徹底しています。
 TKCシステムは、一気通貫ですからこの流れと非常に相性がいいですよね。

多々良 続いて「会計」業務について、小野さんお願いします。

小野 私達の「会計」業務というのは、関与先に月次で試算表を提供できる体制を構築することだと考えています。
 経営者というのは、常にいくら利益が出ていて、あらゆる面で問題がないか、ということに不安を抱えながら経営されています。
 ですから、記帳代行や2・3カ月に一度の訪問では、到底この不安は払拭されないでしょう。
 昔記帳代行を行っていた、とある関与先では、2カ月遅れの試算表を届けていました。その関与先はもともと赤字で、「いつも通りだから大丈夫」と言われ、試算表は見られることなく、引き出しにしまわれてしまいました。私はそれが本当に悔しくて、今ではその関与先に自計化を導入し、毎月巡回監査を行い、「月次決算速報サービス」を利用できるまでになりました。
 TKCが提供するこの「月次決算速報サービス」は非常に画期的で、月次巡回監査が終わると、限界利益率や自己資本比率、コメントなどを経営者に直にお届けするサービスです。先ほどの関与先経営者の方はこの「月次決算速報サービス」を通して、これまで以上に数字を気にするようになり、これからどのようにすればいいのか、明確に意識していただけるようになりました。それがすごくうれしかったですね。
 ですから、「会計」業務というのは、くれぐれもお客さまが月次で試算表を把握できるシステムを構築すること、これに尽きると私は考えています。

多々良 続いて、「保証」業務について、山中さんいかがでしょう。

山中 経営者が常に抱えている不安は大きく分けて二つあると思います。それは「資金繰り」と「税務調査」です。この二つの不安を安心に変えられるのが、「保証」業務である書面添付の実践です。書面添付を実践すると、税務調査のリスクが下がるだけでなく、金融機関からの信頼も格段に上がります。
 また、税理士自らの名前で数字を保証すること。これこそが書面添付が生み出す価値であり、経営者の安心と金融機関の信頼を支える土台だと考えています。明日からできるアクションです。まだ書面添付を実践されていない方、各勘定科目まずは1行からでもつけてみてください。その1歩が経営者の不安を安心に変え、AI時代にも揺るがない税理士の強みになると、私は信じています。

多々良 では最後に、「経営助言」業務について、澤口さんお願いできますか。

澤口 私自身課題に感じていたのは、経営助言を一部の関与先だけではなく、100社ほどに実践するためにはどのようにすべきか、ということでした。
 そこで、この1年間取り組んできたのは、経営助言の入り口である決算報告会で継続MASをシンプルに活用して、担当者が決算報告会を主体的に行うことができるようにすることでした。神奈川会のとある会員のセミナーを通じて、細かな数字の分析ではなく、経営者との対話を中心に据えた決算報告会について知りました。
 そこで、早速真似して、できるだけシンプルに継続MASを使用し、単年度計画を経営者とともに作りながら会話するようにしました。すると、担当者が自分で準備して自分の言葉で話すようになり、表情も見る見るうちに変わりました。経営者も「うちのことを分かってくれているな」と感じたようで、この決算報告会を入口にこの二人の関係性が深まりました。その後は自然と経営者から相談を受けるようになりましたので、「経営助言」業務が少しずつ全体に広がっているなと感じています。

多々良 ありがとうございました。皆さんは4大業務の同時提供を通じて、関与先に絶対的な安心感を与えられていることがよく分かりました。税理士は記帳や申告書作成の専門家ではなく、坂本会長がおっしゃる通り、4大業務を同一企業に同時提供できる専門家であると思いますし、これこそが税理士の職業定義だと考えています。

山中朋文会員(TKC東京都心会)

山中朋文会員(TKC東京都心会)

近未来の会計事務所のあるべき姿

自らの手で描き、つかみ取るために「未来への決断」をしよう!

多々良 「未来への決断」の未来とは、どんな未来なのか。皆さんが決断した、「近未来の会計事務所のあるべき姿」について教えてください。

多々良信彦会員(TKC静岡会)

多々良信彦会員(TKC静岡会)

山中 私にとっての「未来への決断」はTKCシステムと業務の標準化を通じて、再現性のある高付加価値経営を実現することです。弊所は、法人と相続の両チームが連携し、企業と個人の両面から経営を支える総合支援モデルを進めています。このモデルを関与先全件に徹底し、職員一人当たりの売上高が2000万円、残業ゼロの高収益体制が見えてきました。TKCモデルの高付加価値経営で、職員が誇りを持てる事務所。それが私の目指す近未来の会計事務所像です。
 皆さん、ともに未来を描いてまいりましょう!

小野 私は「不易流行」を大切にしてまいります。不易=変えてはならないものは、「月次巡回監査の徹底断行」です。そして、流行=変えるべきものは「DXやAIへの対応」です。DXやAIによって、巡回監査の手法は変わるかもしれませんが、関与先の現地に赴いて会計事実の真実性・実在性・網羅性を確認し、指導すること。この根幹の部分は変わりません。この巡回監査があるからこそ、現地に行き、現地のものを確認し、対話して、確証を得て、書面添付を実践することができます。これはDXやAIでは代替できません。ですから、私の近未来の会計事務所のあるべき姿は「月次巡回監査の徹底断行」です。
 ニューメンバーズの皆さん、ぜひ、全国のTKC会員、TKCの皆さんとともに、事務所経営を成功させましょう!

澤口 私にとっての「未来への決断」は、人が人を支える仕事を続け、これを広げることです。私が今も担当している機械商社の経営者とは、毎月「月次決算速報サービス」の結果について、近所の喫茶店などで待ち合わせをして、予実対比をしたり、経営の相談を受けたりしています。それだけのシンプルな時間ですが、経営者からは「毎月この時間があるおかげで、経営の軸がぶれないんだ」と言っていただけています。きっと、誰かが一緒に確認してくれる、というのが心の安定や整理につながっているのだと感じています。職員一人一人が、経営者の話をじっくりと聞いてくれる存在になれるような事務所にしていきたいと思います。
 TKC全国会の一番の強みは、各々のノウハウをシェアする文化だと私は思います。今を楽しんで、ともに仲間と支え合いながら成長していきましょう!

多々良 未来というのは、自らの手で描き、つかみ取るものです。だからこそ、自分自身で「未来への決断」をする必要があるのではないでしょうか。ともに輝かしい未来に向け、決断しましょう!

パネリスト
パネリスト
澤口洋輔会員(TKC神奈川会)
開業 2015年7月
職員 税理士1名、監査担当5名、内勤13名
関与先 104件
継続MAS利用 61件
自計化システム導入 84件
書面添付実践 65件
翌月巡回監査率 78.2%
MIS利用 30件
パネリスト
小野晃弘会員(TKC中国会)
開業 1971年5月(2017年10月継承)
職員 税理士1名、監査担当10名、内勤3名
関与先 161件
継続MAS利用 143件
自計化システム導入 125件
書面添付実践 127件
翌月巡回監査率 95.1%
MIS利用 140件
パネリスト
山中朋文会員(TKC東京都心会)
開業 2013年4月
職員 税理士1名、監査担当12名
関与先 118件
継続MAS利用 70件
自計化システム導入 108件
書面添付実践 114件
翌月巡回監査率 85.5%
MIS利用 319件
コーディネーター
多々良信彦会員(TKC静岡会)
開業 1993年2月(2013年6月継承)
職員 税理士5名、監査担当11名、内勤1名
関与先 179件
継続MAS利用 144件
自計化システム導入 160件
書面添付実践 113件
翌月巡回監査率 95.3%
MIS利用 269件

(会報『TKC』令和8年2月号より転載)

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