目次
金利上昇時代の資金繰り

資金調達や資金繰りに影響を及ぼしつつある政策金利の上昇。企業は金利のある世界を前提に、資金計画を立てる必要がある。返済計画の実効性を高め、金融機関と良好な関係を構築するポイントは何か。金融機関での勤務経験がある西村純史(あつし)氏に聞いた。

 日本銀行は2024年3月、マイナス金利政策を解除しました。昨年12月には政策金利を0.75%へ引き上げ、“金利のある世界”が到来しています。

 政策金利の引き上げは、取りも直さず貸出金利の上昇を意味します。顧問先企業の元には、金融機関から既存借入金の利率引き上げを通知するはがきが相次いで届いています。金利上昇が企業経営にもたらす影響は小さくありません。仮に借入金が1億円あり、金利が0.25%引き上げられると、年間の支払利息は25万円増加することになります。原材料、エネルギー価格などが軒並み高騰するなか、金利の引き下げは当面考えにくく、中期的な金利上昇を前提に返済計画を立てることが肝要です。

返済計画立案のポイント

販売単価見直しがカギ

 返済計画を策定する際に欠かせないのは、既存借入金の把握です。借り入れごとの金額と返済期間、利率等の返済条件をまず洗い出します。TKCが会計事務所向けに提供している『継続MASシステム(※)』を活用すると、金利上昇がキャッシュフローに与える影響を簡単にシミュレーションできます。将来の借入金返済に充てる額を念頭に置き、手元に残る資金を予測するのが第一歩です。

 収支トントンとなる場合、資金の減少が見込まれるため、収益力向上の打ち手を考える必要があります。「顧客単価のアップ」は有力な施策と言えるでしょう。飲食店なら、うどん1杯におにぎりの追加注文をいかに促すか、建設業なら工事にどのような付加価値を上乗せできるか、といった発想です。

 先日、釣り具メーカーの顧問先にクラウドファンディング(CF)を紹介しました。ルアー商品の開発資金を募り、調達資金を金型の製作に活用。広報宣伝活動を促進し、支援者に商品をいち早く届ける枠組みを提案しました。購入型CFなら卸売会社を通さない分、厚い利益を見込めるのも利点です。

 中小企業のなかには、本来有償で行うべきサービスを無償で提供しているケースも散見されます。飲食業を営む顧問先のある経営者は、飲食店経営に精通しており、無料で相談を受け、開業支援を行っていました。飲食ビジネスにおける経験やセンスを買われ依頼されていたため、開業支援を事業化するよう提案しました。いまやこの企業は相談者と顧問契約を結び、コンサルティング料という新たな収入源を獲得しています。

 そして、借り換えや新たな借り入れを念頭に、余裕を持った資金調達を加味するのも大切です。倒産するのは赤字の企業だけでなく、黒字であっても資金繰りで行き詰まる例もあり、早めの資金調達を心がけるべきです。金利が中期的に上昇する可能性が高いので、将来見込まれる借り入れを前倒しで検討するのも得策でしょう。

継続MASシステム…経営者のビジョンに基づいた「中期経営計画」と、次年度の業績管理のための「単年度予算」、「短期経営計画」の策定を支援するシステム

金融機関と緊密な連携を

 近年は同一の業種でも、業績の好不調の二極化が進展している印象があります。この差は、経営者が「限界利益」をどれだけ意識して、経営判断を行っているかに起因している場合が少なくありません。業績が好調な企業では、経営者が変動損益計算書で限界利益をこまめに確認し、付加価値を高めつつ販売単価の引き上げなどを実施しています。

 一方、金融機関は企業の業績や財務状況をしっかり見極め、融資審査を厳格化する動きがみられます。金融機関と良好な関係を築く上で経営者に求められるのは、適時かつ適切な情報開示です。「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)を活用すれば、金融機関へ赴くことなく、決算書や月次試算表等を電子データとしてタイムリーに提供できます。金融機関側も昨今は業務のデジタル化に注力しており、MISに対するニーズはおしなべて高まっていると感じます。

 また、決算報告会に取引金融機関を招き、直近期の業績と今後の見通しを伝えるのも有効です。その際大切なのは、経営者が自ら説明すること。金融機関の担当者が、業績に関するコメントを経営者から聞く機会は多くありません。設備投資計画もあらかじめ伝えておけば、将来のスムーズな資金調達が期待できます。

 近江牛を世界に発信するとのビジョンを掲げ牧場を経営している顧問先企業は、複数の取引金融機関関係者を招いた決算報告会を毎期開催しています。この取り組みは長年継続しており、社長が足元の業績と投資計画を説明するのが習慣になっています。コロナ禍には、企業と金融機関、会計事務所の3カ所から参加できるようオンライン方式で開催しました。金融機関と緊密に連携を図り、お互いの顔が見える関係を築くことで、つなぎ資金や設備投資資金を迅速に調達しています。

 中小企業はいま、円安による輸入コストの増加や人件費の引き上げ、中東情勢緊迫化にともなう原油高などさまざまな経営課題に直面しています。繰り返しになりますが、政策金利は急激には引き上げられないでしょう。とはいえ、低下する見込みは薄いとみています。取引先企業の業績や財務状況により、金融機関の貸出金利に今後差が出てくるはずです。経営者には限界利益を常に注視しながら、価格転嫁などを通じて収益力を地道に高めていく姿勢が求められます。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2026年5月号