事務所経営
巡回監査を私たちの業務の中心に据えよう!
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TKC全国会巡回監査・事務所経営委員会委員長 大森昌浩
社長に「待ち望まれる」巡回監査の価値
令和8年7月より、TKC全国会巡回監査・事務所経営委員長を拝命いたしました。本稿では、私が考える巡回監査の価値と、これから委員会として皆さんと取り組んでいきたい方向性についてお伝えします。
私はおよそ10年前、飯塚毅会計事務所を承継した関口明会計事務所に入所し、そこで当然のように巡回監査を教わりました。私たちが行う巡回監査というのは、毎月関与先を訪問し証憑突合などの監査をするのはもちろん、通常では会うことの難しい社長から直接相談を受け、経営助言を行って会社を後にするのです。
私は会計事務所に入所する前、証券会社に勤めていたことがあるのですが、そのときは1日100件、200件と電話をかけて、ようやくアポイントを取った社長のもとに出向きました。それでもその会社の受付で「社長はいません」などと門前払いされた経験を振り返ると、社長に待ち望まれる今の環境は、相当に恵まれていると感じるのです。
新規の顧問契約の相談を受けたときの話です。その会社はあるグループ会社の子会社の1社でした。既存の会計事務所は決算のときにふらりと訪れて、いつの間にか申告書が作成され、説明もなく申告が完了し、しばらくすると控えが郵送されるだけだったそうです。「巡回監査を通じた関係を事務所と築きたい」という社長のご意向から顧問契約を締結しました。顧問料はそれまでの3倍です。
しばらくして、グループ会社の内部監査があり、「他のグループ会社と比べて顧問料が高い」と指摘を受けました。それでもその子会社の社長は、私の事務所の担当者に「私は、あなたにはその金額を払う価値があると思っている。親会社の監査役になんか言わせておけばいいんだよ」と言ってくれました。その言葉を聞いたとき、この社長を絶対に後悔させてはなるまい、期待以上のサービスをして感動させてみせると、ひそかに決意したものです。
事務所経営における競争力の源泉
さて、私たちが毎月実施している巡回監査について考えてみましょう。巡回監査とは一体何なのでしょうか。「相当注意義務の履行のため」「会計帳簿の証拠力の担保のため」──もちろんこれは大前提です。しかし、ここではあえて違う側面、事務所経営上の側面に目を向けてみたいと思います。ずばり、巡回監査とは、事務所経営における競争力の源泉であり、差別化であると言いたいのです。
なぜそう言えるのか。それは巡回監査を断行しているからこそ、予算策定支援や資金繰り支援の精度が高まるためです。TKCモニタリング情報サービス(MIS)、月次決算速報サービス、企業防衛など、私たちが提供する様々なサービスも、巡回監査を経て作成された帳簿を基礎とするからこそ、その情報や経営助言の説得力が増すのです。単に提供された情報ではなくて、巡回監査によって適法性・正確性・適時性が確認された情報を基礎とするからこそ、そこから活用できる情報の質に違いが生まれるのです。つまり、巡回監査によって私たちの提供するサービスの付加価値が高まる──実践すれば、必ずこのことに気付くことができるでしょう。
環境変化に対応し巡回監査の価値向上へ
昨今、私たちを取り巻く環境は激変しています。経理業務において使うツールも大きく変わってきました。昔、会計伝票だったものは今ではFXクラウドシリーズに変わり、その昔、紙が主流だった証憑は、今ではペポルインボイスや電子取引へと変わってきています。
巡回監査のやり方もこれまでのままでいいのでしょうか。いや、変わります。変えていきましょう。クラウド環境を活かした事前確認を取り入れることで、現場に行く前にできること、現場でしかできないことのメリハリがつきました。事実、働き方が少しずつ変わってきたではありませんか。これによって現場では、人と人が直接会うからこそできる対話や経営助言など、より価値のある業務に時間を割くことが可能となりました。この変化は、会計事務所の職員にとってやりがいにつながるだけではなく、様々な働き方に対応するといった職場環境の改善にもつながることでしょう。巡回監査を変えていくことで、巡回監査の価値を高めながら、働き方も変えていくことができるのです。
皆さん、今までのやり方を大切にしつつ、環境変化に対応するため、改めて巡回監査を中心とした事務所経営を目指しませんか。そこで、巡回監査・事務所経営委員会では、今期の活動テーマとして、「Re:Core」というキーワードを掲げました。そこには、長年受け継がれてきた巡回監査の価値と伝統を大切にしながら、時代環境の変化に対応し、改めて巡回監査を私たちの業務の中心に据えようという強いメッセージを込めています。そして「Re」に三つの意味を重ねました。
この「Re:Core」を合言葉に、巡回監査の価値向上と時代環境への対応の両立を目指し、実践事例の共有や情報発信に取り組んでいきます。そして全国の皆さんとともに、運動を展開していきたいと考えています。
最後に、このような運動を推進した先には、私たちの目指すべき会計事務所の姿があります。関与先から必要とされ、職員が誇りを持って働き、そして事務所自身が持続的に成長していく。そんな理想の事務所を共に目指しませんか。
(会報『TKC』令和8年11月号より転載)