事務所経営

志の高い仲間と出会えるTKCでライフステージに合わせた事務所経営を推進

女性会員が語る

とき:平成23年8月25日(木) ところ:TKC東京本社

結婚による生活環境の変化や出産・育児など、ライフステージの変化に柔軟に対応し、また事務所経営においてぶつかる様々な壁を乗り越えてきた3人の女性会員に、仕事と家庭を両立するための工夫やTKCのサポート体制など、その体験談を語っていただいた。

出席者(敬称略・順不同)
 ・三神仁美(北海道会札幌東支部)
 温井德子(東京中央会中央支部)
 田中明子(南近畿会なにわ支部)

司会/ニューメンバーズ・サービス委員会委員長
 畑 義治(静岡会)

座談会

国税専門官時代「凄いな」と思った税理士がTKC会員

 ──本日は会務や事務所経営でご活躍されている女性会員の皆さまにお集まりいただきました。まず簡単な自己紹介と事務所の概要についてお聞かせください。

温井德子会員

温井德子会員

 温井 私は平成12年の税理士試験に合格し、それから2年間の実務経験を経て、平成14年11月に登録しました。TKC入会は平成15年1月です。
 父がTKC会員事務所の職員として勤めており、父が退職すると同時にその関与先をいくつか譲り受ける形で独立・開業しました。その後、ある会計事務所を関与先と職員を含めて引き継ぐことになって急に事務所が拡大し、現在は職員が5名、関与先は法人70件と個人80件の計150件です。

 三神 私は兵庫県出身ですが、大学から北海道で暮らしています。卒業後は北海道の広告代理店に約4年間勤めましたが「税理士になるので辞めます!」と社長に宣言して退職し、その次の月から1年間大原簿記学校に通いました。
 その後、TKC会員事務所に数年間勤め、その間に子供を1人産みながら通信教育で勉強を続けて平成17年に合格しました。翌18年8月に開業し、TKCに入会したのは平成19年3月です。
 現在開業5年目ですが、職員は巡回監査担当者の男性と、巡回監査と内勤を両方こなしている女性の2名。関与先数は法人34件と個人14件の計48件です。

 田中 私は元々国税専門官でしたが、7年目に2人目の子供が産まれたのをきっかけに退官し、次の年から大原簿記学校に通いはじめました。途中で親の介護など様々な事情がありましたが約7年間かけて合格し、平成11年4月に登録、翌5月にTKCに入会しました。
 職員は男性5名と女性4名の計9名。開業時の関与先ゼロ件から現在は法人が70件と個人30件の100件です。

 ──税理士を目指した理由と、TKC入会のきっかけを教えていただけますか。

 田中 税理士を目指した最大の理由は、自分のライフステージに合わせて仕事ができる点です。退官した当時は託児所などもなく仕事と育児の両立が難しかったのですが、税理士なら自宅で仕事をしながらの育児も可能だと考えました。
 TKC入会については、国税専門官時代に「この税理士は凄いな」と思った方がTKC会員だったから。たまたま私が税務調査に入った会社がTKC会員の関与先で、その税理士は帳簿に間違いがないから自信満々でした。実際に話をしてみても、私の疑問に対し税法に基づいて論理的に説明をしてくれて「これが本来の税理士の姿だ、こんな税理士になりたい」と感じたのです。
 もう一つの理由は税理士同士のネットワークですね。自宅開業で会計事務所での実務経験も無かった私にとって、組織がしっかりしていて、情報交換ができるTKCが最適だと判断しました。

 三神 父親が会社を経営していたのですが、小さい頃、父の会社の顧問税理士がいつも私に「君は税理士になりなさい」と言っていたので、その言葉がずっと頭に残っていました。
 大学卒業後は広告代理店に就職したのですが、結婚してそろそろ子供が欲しいと思ったとき、このまま今の仕事を続けるのは無理だろうなと。そこで税理士という仕事を思い出し、独立すれば時間的な問題が解決できると考えたのです。
 また、税理士試験の勉強中に就職した会計事務所がTKCだったので、そこで理念を学んで共感していました。それに自分は何の強みもない主婦税理士だと思っていたので、TKCという看板によって他の会計事務所と肩を並べて仕事ができると考えたのです。

 温井 私が税理士を目指したきっかけは、父が会計事務所に勤めていたというのももちろんありますし、小さい頃から人付き合いが苦手なところがあって、税理士は人と話さないで数字だけを計算していれば済む職業というイメージがあったんです。完全な勘違いでしたが(笑)。また父が勤めていた事務所がTKCだったので、事務所に遊びに行ったときにはTKCの3枚複写伝票などにも接していました。
 このように会計事務所あるいはTKCが身近にある環境だったので、大学卒業後も自然と資格取得を目指してとりあえず会計事務所に就職し、開業後もなんとなくTKCに入会しました。ただ就職したその事務所は起票代行型で、私の仕事は関与先から送られてくる伝票をひたすら入力することだったため「税理士はなんて楽な商売なんだろう」と、ここでも大きな勘違いをしてしまいました(笑)。

ニューメンバーズフォーラムの司会をきっかけに「不良会員」を卒業

 ──入会後TKCが主催するイベントなどに参加した感想はいかがでしたか。

三神仁美会員

三神仁美会員

 三神 北海道会では、毎年ニューメンバーズ・サービス委員会主催のウィンターセミナーを定山渓温泉で開催しているんですが、全国からゲストを招き朝4時頃まで熱い話をして、それが本当に楽しいですよね。1年に1回、自分を見つめ直し反省するいい機会になっています。

 田中 私は大学時代、武田隆二先生(TKC全国会第3代会長)のゼミで学んでいたのですが、自宅で開業しTKCに入会した直後、武田先生に「自宅を出なさい」とアドバイスをいただきました。また同じ武田先生の教え子であるTKC静岡会の坂本孝司先生が開業当時どのように関与先を増やしてきたのか、その体験談が書かれた書籍をいただくなど、武田先生には本当にお世話になりました。
 その坂本先生の講演を聞いた時「税理士の使命とはそういうことだったのか!」と目から鱗が落ち、今でもその時の感動が忘れられません。TKCだからこそ自分の道を見つけられたのだと思います。
 また、何度か事務所見学会を受け入れていますが、様々な質問をいただくことで自分の考えを整理できたり、他の会員も同じ悩みを持っていることなどがわかり、非常に良い刺激になっています。

 温井 私は入会してから「暗黒の時代」が長く、会務にまったく参加せずSCGサービスセンターの場所さえ分からないという不良会員でした。ところが何となく参加した研修で、2005年のニューメンバーズフォーラムの司会を頼まれ、深く考えずに引き受けてしまったんです。
 当時はTKCの活動もそれほど理解していなかったし、フォーラムもあんなに大規模なものだと知っていたら絶対に引き受けていませんでした(笑)。そのニューメンバーズフォーラムで、実行委員の会員や講師の方の素晴らしい話を聞いて「TKCってこんな組織だったんだ」とはじめて実感が沸きました。またその時に「与えられた役割は断るな」とある会員からアドバイスを受け、それ以降は研修の講師の依頼などを積極的に引き受けるようになりました。
 事務所見学会にも参加しましたが、事務所内の書類を自由に見せていただいたり資料をいただくなど、TKC以外では絶対にできない取り組みだと思います。

 ──TKC会員として事務所を経営するにあたり、最も力を入れているのはどのような点でしょうか。

 温井 最初に話したとおり私は他の事務所の関与先を引き継いだのですが、その事務所は他社システムが中心だったため、現在FX2をはじめとしたTKCシステムへの切り替えに力を注いでいます。
 私自身がよく理解できていないシステムでは職員も不安だし、業務の標準化という面でも負担が大きくなります。また事務所の拡大も見据えて「オールTKC」を進めようと取り組んでいます。

 田中 当事務所でも、新たに顧問契約を結んだ関与先では、他社システムからTKCシステムへの移行に努めています。最初に「自社で業績管理ができるように指導することが当事務所の役割です」と説明し、自計化ができるようになるまでの支援期間を決めるのです。
 期間は場合によりますが、基本的には1年。さらに時間がかかっても自計化の意欲がある社長なら引き続き支援しますが「そっちでやってよ」という姿勢が変わらない社長には「それならごめんなさい」と関与をお断りすることもあります。

 三神 TKCが推進する取り組みについては、基本的に実行するように心がけています。ただFX2や継続MASの導入、書面添付などは私が勝手気ままにやってきたというのが現状でした。
 現在はそのことを反省していまして、5月に2人目の巡回監査担当職員を採用し、そうした取り組みを組織的に実施できるように計画しているところです。

職員第1号は近所の主婦仲間に簿記学校の教え子

 ──職員さんの採用・マネジメントについて、心がけていることはありますか。

 三神 開業して1年くらい経ってから1人の女性を採用したのですが、それが同じマンションに住んでいる主婦仲間でした。「誰か働きたい人いない?」と相談したら「じゃあ私がやるわ」と即決で来てくれて(笑)。簿記の知識も全くない女性でしたが、今では内勤も巡回監査もこなしてくれる貴重な存在です。
 今年5月に採用した男性職員はTKC会員事務所で5年働いた経験があったので、即戦力が欲しかった私にはちょうどよかったですね。ただ以前の事務所ではあまり研修に行っていなかったようで「TKCはこんなに素晴らしい組織だったのか」と驚いていました。

 田中 私は開業してすぐに他の税理士と2人で事務所をはじめたのですが、2人ともほとんど事務所にいないので、まず「電話番が必要だよね」という話になり、以前簿記学校で非常勤講師をしていた時の、当時求職中だった生徒に声をかけました。面接当日に採用し電話番をしてもらってから11年、今では一人前の監査担当者として働いてくれています。
 関与先数に対して職員が多いのですが、その理由は昨年税理士法人を退職して組織を分けたから。経営的には厳しい面もありますが、それでも志を共有してくれるスタッフは何にも代えられません。それに関与先が増えてから採用するのではスタッフが疲弊して事務所の業務品質が低下する恐れがあるので、拡大を見据えた先行投資と考えています。

 温井 私も開業当初、父と2人で切り盛りしていた時は、休みなく必死に働いてもまったく業務が追いつきませんでした。そんなとき、ある会員に「それは関与先のためになってるの?」と指摘されてハッとしました。確かに、自分自身に余裕がなければ様々な面で関与先に迷惑をかけてしまう可能性があります。
 それで職員の採用を真剣に考えていたところに、事務所を引き継ぐ話が出てきて関与先と職員が一気に増えたというのが実情です。その事務所はベテラン職員が多いので、自分が知らないことやできないことをしてくれたら、素直に「凄いですね、これどうやったんですか」と感謝の気持ちを伝えるなど、事務所全体のチームワークにも気を付けています。

「できる業務」と「できない業務」を最初にしっかり伝えることが重要

 ──皆さん順調に事務所を大きくされているようですが、関与先の拡大という点で工夫されていることはありますか。

田中明子会員

田中明子会員

 田中 私はよく「税理士は牧場の牛みたいなもの」と例えています。つまり業界内部にいると同じ税理士でもそれぞれ業務品質や得意分野が違うことが分かりますが、私たちが牧場の牛一頭一頭の違いがわからないのと同じように、お客様も税理士の違いなんてわからないんです。
 だから自分の事務所は何を得意としているのか、あるいは何をしない事務所なのかということをわかりやすく説明することを常に心がけています。そうした事務所の「カラー」を出すことで金融機関等から思い出していただきやすくなり、新たな関与先の紹介にもつながります。
 また、職員が事務所の特徴をきちんと話せるということも重要です。そのために事務所業務を分りやすく書いたパンフレットやチラシを携帯してもらい「田中事務所はこんな事務所です」といつでもアピールできるようにしています。

 温井 数年前、センター長の呼びかけによって東京中央会の有志が集まった「拡大倶楽部」という会に1年間参加していました。これは毎月「今月は3件増えて2件減りました」「何をやって、何ができませんでした」など、お互いの拡大状況を報告するという会合で、それがお互いのプレッシャーになって非常に良い刺激になりましたし、オリジナルの「事務所通信」を発行したり事務所ホームページを作るきっかけにもなりました。
 ホームページでは「必ず月に1回訪問します」と月次巡回監査の実施を強調しています。というのは、誰かに紹介いただいた関与先候補は、必ずホームページを確認しているからです。まずできる業務と、できない・やらない業務を社長に分かってもらうことが大事だと思います。
 また、外国人向けのビザ更新専門の行政書士さんと連携しているので、そこから紹介を受けるルートも多いですね。

 三神 事務所を借りてすぐに、突然地元信用金庫の支店長がアポ無しで事務所を訪ねてきたんです。それをきっかけにお互いに経営者を紹介するようになり、徐々に関与先が増えていきました。
 また、事務所周辺の地区だけに配布されるフリーペーパーへ広告を出したことがあるのですが、それがきっかけで関与に結びつくなど効果がありました。しかも広告の内容がインターネット上に掲載されているので「三神仁美」と検索するとその広告が表示され、ホームページの代わりになって助かっています。
 あとは余裕も大切です。関与先から「先生忙しそうだよね」と冷たい視線で言われたことがありますが、これでは関与先も「仕事がおろそかになるのでは」と不安になり紹介を躊躇されてしまいます。

「お母さんが楽しいなら辞めないで」肯定してくれた娘の一言が救ってくれた

司会/畑 義治委員長

司会/畑 義治委員長

 ──女性は男性に比べ、仕事と家事・育児との両立という点で壁にぶつかることもあると思いますが、そうした問題をどのように解決してきたのでしょうか。

 田中 確かに毎日朝から深夜までフル回転で働きづめだった時期、子供には本当に申し訳ないなと感じていました。
 上の娘が高校時代、精神的に不安定な時期があり「お母さん仕事辞めた方がいい?」と聞いたことがあるんです。すると逆に「お母さんは仕事楽しい?」と聞かれたので「お母さんを待っているお客さんがいて、やりがいがあって凄く楽しいよ」と答えると「じゃあ辞めなくてええやん」と。
 それまでは「ごめんね」という気持ちで仕事をしていたのですが、娘のその一言が私を肯定してくれたようで、それから自信と誇りをもって仕事に臨めるようになりました。子供にも遠慮せず、きちんと仕事について話すことが大切なんだなと感じました。

 温井 私は子供がいないので主人と2人ですが、朝一緒に起きてもお互い仕事が遅いのでほとんど会わない生活が長く続いていたんです。それで主人から、毎週日曜日の夜は一緒に食事をしようと提案があり、私が事務所から帰るのを食事を作って待っていてくれています。
 その時は仕事を離れて他愛もない話をして良い気分転換になっていますし、主人の協力はありがたいなと感じますね。

 三神 私は子供がまだ小さいので、夜はいくら仕事があっても7時半には家に帰るようにしています。そのかわり遅くても夜10時には寝て、朝の4時には事務所に出勤し、7時くらいに1回自宅に戻って子供を学校に行かせています。
 また、母親が子供を見ていてくれたり、近所の方にも保育園に迎えに行っていただくなど、周りの人の協力に支えられている面はありますね。

 ──今後の事務所経営の目標、ご自身の夢をお聞かせください。

 田中 会計事務所の所長も経営者の1人なので、生意気な言い方ですが、関与先経営者のお手本というか、参考になるような組織を作ることが夢ですね。
 また将来は、女性職員が結婚して子供を産んでも仕事を続けられるように、託児所付きの会計事務所にしたいです。

 温井 TKCで実施している関与先の表彰制度がありますが、開業10周年を節目に関与先を表彰することが今の夢です。日頃お世話になっている社長さんに「温井会計事務所に頼んで良かった」と言っていただけるような、価値のある仕事をしていきたいと思います。

 三神 私は正直、長期的な事務所の将来像はまだ模索しているところです。ただ短期的な目標としては、組織として計画的に業務を行っていけるような事務所体制を整えていきたいと考えています。

 ──家事や育児等もこなしながらTKC会員として頑張っている3人の女性会員にお話をお聞きしました。これから益々のご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

(構成/TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成23年10月号より転載)