独立開業

経済縮小時代における新興事務所の成長戦略

重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門表彰者【座談会】

とき:平成24年4月5日(木) ところ:TKC東京本社

TKC全国会では、重点活動テーマのさらなる推進のため、翌月巡回監査率やKFS実践の実績に基づく表彰制度を設けている。入会3年以内を対象とするニューメンバーズ部門(平成22年~平成23年実績)で受賞した3名の会員に、開業から今までを振り返り、高付加価値戦略やこれまでの経験を強みにした関与先拡大方法、また職員採用の悩みなど、事務所経営全般について幅広く語ってもらった。

出席者(敬称略・順不同)
【翌月巡回監査率90%超達成】
 第1位 田仲賢一会員(千葉会京葉支部)
【FX2純増件数】
 第1位 加藤宏史会員(静岡会浜松西支部)
【継続MAS純増件数】
 第2位 前川定之会員(中部会三重南支部)

司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
 委員長 畑 義治会員(静岡会)

座談会

決算書作成支援がしたくて銀行マンからTKC会計人へ

 ──それではまず、皆さんのヒストリーからお聞きします。税理士を志したきっかけとTKCとの出会いを教えてください。

 加藤 大学卒業後はハウスメーカーの営業をしていました。飛び込みで会計事務所を回っていたらある税理士の方から「若いんだから手に職をつけなさい」と言われまして(笑)。経済学部出身でコンサル系の専門職には興味があったので、税理士を目指そうと思い1年ほどで退職。23歳の時から税理士試験の勉強を始めました。
 地元の浜松には坂本孝司先生がおり、税理士業界の発展のため尽力されています。また、TKC理念に基づくKFS活動で事務所を拡大された坂本先生の事務所経営手法は、若手税理士にとってよい道しるべとなります。事務所の成長・発展にはまず坂本先生のようなTKC会計人になるのが必須条件と思い、迷わずTKC入会を決めました。
 それに今後の経済状況を考えても、KFSの徹底実践で差別化を図り、お客様を増やすことができると思ったのです。平成17年に資格を取得し、平成22年4月に独立。独立直後の同年6月にTKCに入会しました。
 現在、関与先件数は法人20件、個人14件。職員はパートが1人で、私1人で朝昼晩と月次巡回監査に回っています。得意な分野は医療・介護と資産税で、この2つの分野に絞って営業をしているところです。

 田仲 実は税理士になるつもりはまったくありませんでした(笑)。平成2年の大学卒業後は浜松の百貨店に勤めましたが、どうしても地元の船橋に戻りたかったので4年半ほどで退職。次の就職先としてたまたま決まったのがTKC会員事務所だったのです。14年間お世話になりました。
 転職した当初は独立は頭になく、「給料もらえればいいや」くらいに考えていたのですね(笑)。でも「このままだとまずい」と一念発起し、30歳くらいから勉強を始めて平成17年に登録しました。3年ほど勤務税理士として「修行」して、平成20年9月に独立開業してTKCに入会しました。
 現在、関与先件数は法人30件、個人20件。パートは2人で巡回監査は加藤先生と同じく1人で回っています。関与先は新規法人がほとんどなので、結果的に創業支援や経営計画策定支援などが得意になりました。

 前川 以前から漠然と税理士になりたいと考えていたのですが、大学卒業時はバブル最盛期の平成元年だったので、地元の第三銀行に就職しました。でも税理士になりたいという思いを捨てきれず、また銀行業務をしている中で「中小企業の決算書作成支援に関わってみたい」との思いを強く抱くようになりました。そこで34歳の時、平成12年に税理士を目指すべく銀行を退職しました。
 銀行員時代、TKC会員が関与している企業の決算書が一番しっかりしていると感じていて、「TKCの事務所に入りたい」と思い地元の津市で一番大きな中田会計事務所(所長:中田健一会員)にお世話になりました。その後平成17年12月官報合格、平成18年1月に税理士登録し、平成21年3月にTKCに入会。平成22年1月に独立開業しました。
 関与先件数は月次監査先で約30件、職員は巡回監査担当者が1人です。実は開業と同時に他事務所を承継したので当初から30件ほど関与先がありました。ただ入れ替わりもあったので、いまは関与先拡大に力を入れています。

「毎月必ず」を意識付けしたら「いつ来るの?」と電話が

 ──皆さんが重点活動テーマの各部門で優秀な成績を修めた背景を伺います。翌月巡回監査率90%超を達成した田仲さんは新規の立ち上げが多いとのことですが、初期経理指導は結構苦労があるのではないですか。

田仲賢一会員

田仲賢一会員

 田仲 正直、あまりお金がもらえないというのがまず苦労するところではありますね(笑)。本当に最初の1~2年は投資みたいな感じです。初期経理指導は月に2回、しかも午後全部を費やすようなスケジュールでみっちり行います。またできるだけ関与先に出向き、質問を受けた時などはその場で解決するようにしていますね。
 何より苦労するのは領収書の整理です。個人と会社の経費が混ざっていて、何が経費になるか、ならないのかを理解してもらうまでは結構大変です。中には近くのスーパーで買ってきたものまで全部経費にしようとしていたケースも(笑)。でも早ければ3ヶ月、平均しても半年くらいかければ月次巡回監査ができる体制になります。

 ──巡回監査率90%超を維持するコツは何でしょう。

 田仲 毎月必ず電話をかけてアポイントを取っていたのが大きいと思います。「今月はいいよ」なんて言われても、「いえ、お金を頂いているので伺いたいんです」と食い下がって絶対に行くようにしていましたから。いまでは忙しくて電話をかけられないでいると、「いつ来るの?」という電話が逆にかかってくる(笑)。「巡回監査は当たり前」という意識付けができている手応えはありますね。

 ──FX2純増件数の部門で表彰された加藤さん、FX2導入のきっかけづくりはどうしていますか。

 加藤 基本的に、資産管理会社以外はFXとPXをセットで入れてもらっています。若い経営者が多く、手書きで帳簿をつけたくないという人も多いので「だったらシステムで管理しましょう」と言うとスムーズに導入できますね。
 特に重視しているのは、お客様が楽になり、経営に専念できる体制づくりです。「FXを入れてもらって楽になった」と言ってもらいたいので、帳簿の体系を全部作り直して、手書きの帳簿は破棄して、「これで月次の数字の把握が楽になるね」というトークをしますね。

 ──今までで一番感謝されたエピソードはありますか?

 加藤 巡回監査を徹底せず、FX2を入力用ソフトとして扱っていたあるTKC会員事務所から移ってきた関与先に、変動損益計算書や得意先別・部門別管理などFX2のメリットや巡回監査の意義、継続MASでの経営計画策定などKFSをフルパッケージでご案内しました。銀行に月次試算表を提出できるようになり、「何のためのFX2なのかが分かった」と感動していただけましたね。

 ──継続MAS導入が難しいという会員もいます。継続MAS純増件数部門で受賞の前川さんはどんな工夫をしましたか?

 前川 全関与先に、決算が終わったところから決算報告書と短期経営計画のひな形を持っていき、「これをたたき台にして一緒に次期の数字を作りましょう」と働きかけたのがよかったのかなと思います。

 ──「先のことは分からないよ」と言う社長にはどう対処していますか。

 前川 そうしたお客様には、前年と同じような動きの数字でまずはこちらで短期経営計画を作ります。そして新規顧客が本当に獲得できるかどうか、外部環境の影響は受けないかなどを話しながら肉付けをしていきます。
 さらに、中期経営計画を作って事前に既存借入金の状況を入力しておいて、どのタイミングで資金がショートするのかということを継続MASを活用して説明します。その結果借入の申込や、最悪の場合、条件変更等の資金繰りの手だてを提案するようにしていますね。

「調査ゼロ事務所」を理想に書面添付を積極的に実践

 ──最近は価格競争も激しくなってきていますが、低価格戦略をとると自分の首を締めることになりかねません。事務所の付加価値を高める決め手として、どんなことをされていますか。

前川定之会員

前川定之会員

 前川 特に新しい関与先に対しては、「FX2による自計化で会計事務所訪問前に当月の利益が分かり、試算表もできるサイクル」の優位性と、巡回監査で試算表をもとにした経営相談ができることを強くアピールします。
 既存関与先では、売上から販管費まで一つひとつ社長と詰めて、思い通りの利益が計上できる短期経営計画ができた時が一番喜ばれますね。その後、FX2に落とし込んで予実管理をして、差異が出た場合にはその原因を突き詰めて途中で計画も見直していく。一緒に経営している感覚を共有できると、非常に満足していただけます。

 田仲 私は書面添付ですね。独立前の事務所が「書面添付は当たり前」だったので職員時代から積極的に実践していて、「私が決算書の信頼性を担保している」という気持ちでいます。個人的には全件書面添付をして、「田仲会計の関与先には調査に行っても仕方ない」と税務当局に思ってもらいたい。調査のない事務所は実に理想的です。究極的には税務調査ゼロの事務所を目指したいですね。

 加藤 私も書面添付は標準業務の位置づけで、差別化戦略として経理内容と社長のお人柄がよければ関与1年目でも実践しています。ただ現金管理はさすがに気になるので、極力現金レスを指導して数字の間違いを防いでいますね。
 ただ私はそもそも、ファーストコンタクトできっちりKFSの説明をして「KFS+巡回監査」をフルパッケージのサービスとしているので、報酬金額も高めに設定しています。

値段で事務所を選ぶ顧客を追ったら痛い目に

 ──どれくらいですか?

加藤宏史会員

加藤宏史会員

 加藤 平均は年間50万円くらいだと思いますが、私は年間70~80万円です。そこから逆算して、システムレンタル料と決算料を引いて月次顧問料を決めています。FX+PXのレンタル料は維持しながら、月次顧問料を調整し、売上が増えてきたら月次顧問料を上げてもらっています。この報酬体系も、契約時に書類で提示しています。

 ──金額のことを言う人はいませんか。

 加藤 極力、事務所を価格で選ぶお客様は追わないようにしています。追っていればもう少し拡大できていると思いますが、のちのち事務所体制に影響が出ると思ってきっちり線引きしていますね。

 田仲 最初、私は追いかけていたのですが痛い思いをしたので、高付加価値事務所を目指そうとシフトしました。安い割に「税金は少なくして」「赤字になるのはまずいから何とかして」などの要望が多かったんです。職員が入ってくると切れなくなるなと思い、1年ほどで契約解除しました。同様のケースは2~3件ありましたね。

 ──田仲さんと前川さんは報酬規定を決めていますか?

 田仲 私は新規が多いので法人でも年商500~600万円規模なら月1万円から、決算料とレンタル料込みで年間18万円を最低ラインにしています。「これ以下は無理です」と何回も念押しします(笑)。最初は安く、売上が増えれば顧問料を上げてもらうスタイルで、これまで順調に報酬は上がっています。

 前川 特に報酬規定は作らず、HPには月次の税理士報酬として「法人は4万円から、個人は3万円から」と掲載しています。レンタル料や決算料、年末調整などは別料金です。開業当初は「安くてもいいので」と近くの商店街を回ったのですが、逆に首を絞めることになると思って止めました。ただ、これはあくまで目安です。会社の規模や状態によっては相談に応じますし、実際に法人で1万5千円というケースもあります。特に他の事務所から移ってこられた場合、前の事務所より多く頂くのはなかなか難しいです。

紹介ルート確保のためにまずは手弁当で知恵を提供

 ──いま取り組んでいる拡大方法を教えてください。

 前川 基本的には、銀行員時代の経験や人脈を活かすようにしています。特に、かつての同期や同僚が、いまは支店長クラスになっているのでなるべく顔を合わせる機会を多く持って紹介してもらっていますね。また銀行員時代に回っていたお客様のところに遊びに行って、名刺を置いていったら実際に関与先になってくれた人もいらっしゃいます。

 田仲 社会保険労務士や司法書士、行政書士の方からの紹介が多いですね。ダイレクトメールが来ていたので実際に会い、「この人だったら」という人たちとのネットワークをつくっています。日頃から「何かあったら何でも相談して」と密なコミュニケーションをとるようにしていて、私も案件があればすぐ回すようにしています。こうした関係性が結果的に拡大につながっていると感じています。
 HP経由も10件ほどありますね。私は報酬規定をHPに掲載しているのですが、「報酬の記載がないところは怖くて」という方がいました。確かに、率直な気持ちだなと思いましたね。

 加藤 私はほとんど紹介です。ですから紹介ルートを一生懸命確保するようにしています。例えば支援機関やスーパーセールスマン、親分肌の経営者といった「紹介者」とのパイプをつくり、その紹介者の利益になるような営業フォローをするのです。例えば、彼らのセールスをバックアップできるような、決算書の見方や保険の売り方、相続対策などの金融機関行員向けの勉強会の開催。勉強会のメニュー表を作って「手弁当で講師をします!」と金融機関の各支店を回ります。
 それから大家さんの勉強会「大家塾」での講師の斡旋。資産税の案件があれば私が引き受けますが、基本的に自分の利益よりもまずは手弁当で知恵を与えることを大事にしていますね。

関与先拡大・巡回監査・「仕入」3つのバランスを保つのが課題

司会/畑 義治委員長

司会/畑 義治委員長

 ──皆さんこれまでの経験や得意分野を活かした営業活動をされていますね。一方で、皆さんが現在抱えている悩みはどんなものがありますか。

 加藤 職員採用ですね。いまあるサービスは過去の仕入からのアウトプットですが、営業し、初期経理指導しながら、巡回監査をしている状態なので新たなインプットがなかなかできていないのです。インプットなしでは今後付加価値が提供できなくなってしまうので、知識を習得できる「仕入」時間の確保が課題です。そのためには早く職員を採用しないといけないなと感じています。

 田仲 私も「関与先拡大・巡回監査・仕入」のバランスがとれておらず、巡回監査で精一杯という状態です。このジレンマを解消するためにも、早く職員を入れなければと痛感しています。
 実は一度、正社員採用を考えたことがあります。でも「1年くらい私の腰巾着になる度胸はありますか」と聞くと来ないんです(笑)。かといってすぐ辞められても困るので、もどかしさを感じています。

 ──「関与先10社で職員1人」が一つの目安だと思うのですね。職員が育つまでは時間がかかります。所長が事務所に留まっていては行き詰まったり、伸びしろがなくなったりしますから、加藤さんと田仲さんは早く職員を採用した方がいいですね(笑)。では前川さんはどうでしょう。

 前川 やっぱり関与先の拡大ですね。ただ関与先拡大を続ければいつか手が回らなくなりますし、質の高いサービス提供のためには早く信頼できる職員を育てなければと感じています。
 実は一度苦い経験があるのです。会計事務所の勤務経験があり、TKCシステムも使ったことがあるという人を即戦力と思って採用したのですが、「前の事務所はこうでした」となかなか私の方針を分かってくれませんでした。1年弱我慢したのですがうまくいかなかった。だから職員採用は慎重になっているのですが、そうも言っていられないので、いまはハローワークや求人サイトなど、どこに求人を出せば効果的か検討を始めています。

座談会

脱税相談以外は何でも声をかけられたらチャレンジを

 ──今後の夢やビジョンを教えてください。

 加藤 このご時世ですからどこまでできるか分かりませんが、引退するまでには関与先件数150件、売上1億3千~4千万円、従業員10名体制を目標に拡大と事務所体制整備を意識していきたい。そして次の世代にスムーズにバトンタッチできればと考えています。

 田仲 私も60歳くらいまでに関与先件数を100件まで増やしたいですね。そして1人でも自分の分身のような職員を育てたい。そして心おきなく隠居したいなと思います(笑)。

 前川 私も関与先件数100件、職員数5~6名が一つの目標ですね。それから、早く信頼できる職員を採用・育成して自分が事務所にいなくても回っていくような事務所体制を構築していきたいと考えています。

 ──開業まもない先生方や若い人たちへのメッセージはありますか?

 加藤 手弁当は当たり前ということでしょうか。「頼まれごとは試されごと」という言葉がありますが、私もそうした心持ちで日々動いています。紹介してもらったら期待以上の付加価値を提供しようという気持ちを持つのが重要かなと感じますね。

 田仲 税理士会の会務をしていると、例会にも来ない、利益重視の人が結構多いことに気づきます。でも、それだけだとたぶんダメなんだろうなと感じるので、脱税相談以外は何でも、来た仕事や会務には積極的にチャレンジしてほしいと思います。

 前川 勤務税理士の方もたくさんいらっしゃると思います。でもせっかく資格を取ったのですから、独立して自分の事務所を持った方が充実した日々が送れると思いますよ。

 ──忘れずにTKCに入会して、ね(笑)。今後若手のリーダーとして、皆さんが地域を引っ張っていってくれることを期待しています。

(構成/TKC出版 篠原いづみ)

(会報『TKC』平成24年5月号より転載)