税務官公署出身会員に聞く

TKC理念に基づく事務所経営でお客さまの夢と情熱をサポートしたい

税理士法人F&Lパートナーズ 髙橋心也会員(東北会宮城県支部)
髙橋心也会員

髙橋心也会員

勤続27年、平成16年に退官し、独立開業した髙橋心也会員。研修制度を積極的に活用し、TKC理念を学び続けているという。事務所の目的は「お客さまと共に人間力を高めること」と語った。

「一生に一度」と地元での開業を決意

 ──退官前のご経歴と開業の経緯をお聞かせください。

 髙橋 期別は普通科37期、本科23期です。下谷、日本橋、館山、仙台北、盛岡、大船渡の税務署、東京国税局、仙台国税局に勤務し、主に法人税調査事務に従事していました。家族の病気をきっかけに単身赴任の生活を続けることが難しくなったことと、一生に一度くらいは自分で商売をしてみたいという考えがあり、生まれ育った塩竈での開業を決意しました。

 ──TKC全国会に入会された理由は。

 髙橋 TKCを知ったのは、館山署に勤務していた昭和62年に、宮﨑健一先生(TKC千葉会名誉会長)の事務所の調査を担当したときです。他の事務所と比べて業務品質が高く、書面添付の内容を見て「こんな税理士もいるのか」と驚きました。TKC千葉会南総支部の活動は活発で、3年間の館山署時代に、TKC全国会には志が高く一生懸命な税理士が多いという印象を受けました。
 開業するにあたって、TKC全国会は研修制度が充実していることもあり、迷うことなく入会を決めました。たくさんの研修に参加して、今も「参加しすぎかな」と思うくらい出席しています(笑)。
 有志が集ってTKC理念を学ぶ「原点の会」にも、入会直後から10年以上出席しています。当初はTKC全国会のいう「血縁的集団」や「職域防衛」という言葉がよく理解できませんでした。しかし、原点の会で「『血縁的集団』とは血のつながる身内だけが得をすればいいという考え方ではなく、『自利利他』を実践する人たちの集団という意味ですよ」と髙橋宗寛和尚からお聞きして、目からうろこが落ちました。「職域防衛」についても、「TKCシステムの徹底活用、生涯研修の受講などによる他の追随を許さない業務品質をもって事務所経営を行うこと」だと学んで、共感することができました。

継続MASをもとに関与先の聞き役に徹する

 ──TKCシステムの推進状況を教えてください。

 髙橋 関与先数は法人が20件、個人が15件で、ほとんどの関与先にFX2e21まいスターを導入しています。翌月巡回監査率は、ほぼ100%を維持しています。継続MASを使って経営計画を策定し、社長の考える見通しがうまくいくように具体策を話し合います。お客さまが税理士に求めているのは、単なる数字の管理者ではなく、経営の課題や要望を本音で相談できる「聞き役」の存在です。お客さまとの関係を築き試行錯誤していく中で、会社の業績が良くなっていくことは何よりうれしく、前職とは一味違う喜びがありますね。

 ──関与先拡大はどのようにされていますか。

 髙橋 人間関係づくりに尽きると思います。国税勤務時代は、納税者の誤解を避けるため、職場の人以外とゴルフに行ったり酒を飲んだりすることはせず、社会との接点をあまり持たないようにしていた生活でした。開業当初は知り合いを通じて10件ほどの関与先を持ったものの、その後の拡大には骨を折りました。商工会議所や銀行などに顔を出すという地道な活動を重ねながら、世の中が私という人間を信頼してくれるのには時間が掛かると感じました。
 ここ数年は、地元の中小企業経営者を会員とする団体活動に積極的に参加しています。「何のために経営するのか」「仕事とは何か」などを考え学ぶための団体です。講演を依頼される機会もあり、「BAST(TKC経営指標)」を用いた経営分析、自計化の重要性などTKCの取り組みや理念をテーマに話すこともあります。講演を聞いて、自計化に興味を持たれた方もいました。

「一隅を照らす」事務所経営をしたい

 ──事務所の目標を教えてください。

 髙橋 お客さまと共に人間力を高めることです。「感謝(=報恩)と感動の共有」という言葉を事務所の重点事項として掲げており、お金を稼ぐためだけに仕事をするのではなく、仕事に対して感動することのできる、夢と情熱を持った企業になってほしいという願いを持ってお客さまと接しています。
 具体的には、『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司著・あさ出版)に登場する企業の話を紹介するなど、本や講演を聞いて自分がためになると感じたことをかみ砕いてお客さまに伝えるようにしています。飯塚毅全国会初代会長の言葉を紹介することもあります。すぐに理念や想いを理解してもらったり、改善策を実践してもらうのは難しいことですが、巡回監査のたびに「一緒に成長していきましょう」と繰り返し伝えると、お客さまは少しずつ前向きな考え方に変わってくれます。事務所の利益や売上は大事なことですが、会社を良くしようという思いが一番上にないと税理士の仕事は成り立たないと思っています。

 ──今後の抱負をお願いします。

 髙橋 高校の卒業旅行で出会った「一隅を照らす、此れ則ち国宝なり」という延暦寺根本中堂にある最澄の言葉をずっと大切にしています。この言葉は、「社会の一隅にあって世のため人のために尽くす人こそが国の宝である」という意味ですが、私たち税理士の仕事はまさに一隅を照らすことだと思っています。どんなに小さな会社でも、潰れてしまうと従業員や家族に大きな影響があります。私たちは会社を潰さないよう明かりを照らします。明かりを強めることができるのがFX2継続MASなどのシステムや書面添付などの取り組みです。
 自分一人でできることには限界がありますが、一隅を照らす明かりが集まり、万の明かりとなれば、国を照らす「万燈照国」となり得ます。これからも世の中のためにできることは何かを考え、事務所経営をしていきたいと考えています。

(TKC出版 小早川万梨絵)


髙橋心也(たかはし・しんや)会員
平成16年8月税理士登録。9月TKC全国会入会。
■税理士法人F&Lパートナーズ(「F&L」は脚下照顧の意のFootLightが由来)
 住所:宮城県塩竈市白萩町7-21-301
 電話:022-290-7018

(会報『TKC』平成27年5月号より転載)