事務所経営

翌月巡回監査率100%を前提に関与先に心から感謝される事務所を目指す

税理士法人ソレイユパートナー 牛田策啓会員(TKC静岡会)

牛田策啓会員は、「TKC方式を純粋に実践する」をモットーにTKC方式の自計化、TKC方式の書面添付、巡回監査と経営助言を標準業務としている。「関与先の発展に貢献し、職員のやりがいを高めたい」と語る牛田会員に、巡回監査・事務所経営委員会の渡辺晃行委員がインタビューした。

◎インタビュアー TKC全国会巡回監査・事務所経営委員会 渡辺晃行委員

開業時にTKCの基本を学べたことが今の事務所経営に役立っている

牛田策啓会員

牛田策啓会員

──開業の経緯を教えてください。

牛田 高校卒業後、不況だったこともあり、大原学園に入学して税理士という職業を知りました。簿記1級と簿記論を取得して卒業後、会計事務所に3年勤務しましたが、特に勉強せず退職しました。その後、小規模の会社に入り、営業や経理を兼務していましたが、そこで腰を痛めてしまったのです。29歳で再度、別の会計事務所に勤務、34歳で資格を取得し、平成17年に独立開業しました。

──開業後は順調でしたか?

牛田 いえ、まったくダメでした(笑)。入会前の1年で3件しか関与先が増えず、初年度の売上は120万円でした。大原学園の夜間講師アルバイトをしながら生計を維持しました。ただ、時間はたくさんありましたので、TKCの研修や支部例会などには必ず出席していました。そこで、坂本孝司全国会会長や畑義治前静岡会会長、齋藤保幸先生に気にかけてもらい、TKCの理念や事務所経営に対する考え方を教えていただいたのです。月次巡回監査の重要性やTKCシステムの開発思想を学べたことが本当にありがたく、現在の事務所経営に大いに役立っています。
 その後、やるべきことの本質を理解し、自分の言葉で説得力を持って伝えられるようになりました。その頃から関与先が増え始めました。

──最初にTKCの基本を学んだことが大きかったということですね。現在の事務所の方針を教えてください。

牛田 翌月巡回監査率100%を前提に事務所経営を行っています。「2カ月に1回」というような契約は絶対にしません。月次巡回監査をベースに、TKC方式の自計化、TKC方式の書面添付、継続MAS予算登録を100%にすることを目指しています。
 また、時代の変化に対応するために、FXクラウドと証憑保存機能を標準とするように努めています。これらを活用して巡回監査実施前に数字の誤りや、勘定科目、課税区分のチェックなどを行う、いわゆる「事前確認」によって、巡回監査で経営助言を行う時間を大幅に増やすことができています。この「事前確認」はFXクラウドに移行する前から実施していましたが、職員から「FXクラウドにした方が便利なので移行します」という声も増えてきました。

月次巡回監査体制の構築には関与先社長の理解が最も重要

──月次巡回監査を関与先にはどのように浸透させていますか?

牛田 月次巡回監査はTKC会員事務所にとって業務の基盤であり、これがなければ何も始まりません。月次巡回監査体制を構築するために最も重要なのは関与先社長の理解です。そのため、関与を開始する際の説明をしっかりするようにしています。
 例えば、「中小企業の約7割が赤字である原因は経営者が数字を把握していないことです。黒字化するためには、同業の優良企業と比較した業績管理が重要です」「税務調査で調査官が確認したいことを毎月の巡回監査で私たちが確認することで、税務調査が減ります。書面添付の実践は、真面目に経営している会社であることを国税当局に伝える制度でもあります」という話をしています。そのような説明をすると、「ぜひ顧問をお願いします」と言われることが多いです。社長の同意を引き出せたら、TKCシステムによる自計化と月次巡回監査の必要性もスムーズにご理解いただけます。

──経理担当者の抵抗を受けるようなケースはないですか?

牛田 先日、金融機関から紹介を受けた社長と会って事務所の業務について説明したところ、「うちの経理担当者が自計化を嫌がったら記帳代行してくれますか?」という質問がありました。そこで、その経理担当者に対して会社における経理の重要性と、会計事務所と経理担当者の担うべき役割の違いについてご説明しました。自計化に対して不安を持たれていたので、FXシリーズを利用すれば、今より業務がとても楽になることもお伝えしました。特に、銀行信販データ受信機能や証憑保存機能、電子納税かんたんキットへの反応が良く、実際に立ち上げと初期指導が完了した時点では「本当に仕事が楽になった!」ととても喜んでくださいました。

──事務所の職員さんには月次巡回監査の必要性をどのように浸透させていますか?

牛田 職員にも関与先社長と同様の話をしています。先日、事務所にインターンで来た方に、「社長は誰でもなれるが『経営者』はそのうち2割くらいしかいない。『経営者』になっていただけるように支援するのが税理士の仕事です」と伝えました。そのような支援をして会社を守ることは、その先にいる社員や家族を守ることにもつながります。そうすれば、関与先に心から感謝される会計事務所になり、そこで働く職員にもやりがいが生まれます。
 また、税理士には職員の監督義務があり、それをおろそかにした場合に事務所にも大きなリスクが発生することになり、関与先にも迷惑をかける可能性があります。その意識と覚悟を持って、職員が「巡回監査報告書」の重要性を理解できるよう、日頃から伝えるようにしています。

OMSの「目標管理KPI」を活用し、「巡回監査報告書」の提出状況をチェック

インタビュアー/渡辺晃行委員

インタビュアー/渡辺晃行委員

──翌月巡回監査率と巡回監査の質を向上させる取り組みを教えてください。

牛田 監査担当者と月次でOMSの「目標管理KPI」を活用し、翌月巡回監査率を管理しています。あわせて、「巡回監査報告書」の提出状況をチェックしています。また、巡回監査の質を高めるために、「監査調書」をしっかり作ることを指導しています。これは書面添付の土台になるとともに、所長への報告や関与先に対する指導の質が上がると考えています。充実した「巡回監査報告書」は所内で共有して互いに参考にしており、新入職員に対しては、「巡回監査報告書」を一緒に見ながら、良いところと改善点を指導しています。

──先ほど、巡回監査実施前の「事前確認」に関してお話がありましたが、その効果についてもう少し詳しく教えていただけますか。

牛田 新規関与時には、FXクラウドと証憑保存機能を導入するようにしています。自計化、継続MAS、書面添付の実践が会社にどんな影響があるかを関与先に伝えて、納得してもらえれば、FXシリーズの導入は必然になります。FXクラウドを活用して事前確認をすることで、社長と対話する時間を作ることができます。逆に、事前確認がないと、巡回監査に時間を要し、社長が途中退席してしまうことがあります。
 毎月訪問している関与先であれば、事前確認で9割方の取引を確認できるようになります。9割を掴めていれば、その実績をもとに継続MASの事前準備も可能です。継続MASによる決算予測は毎月実施していて、経営計画策定の入口は5カ年計画から、としています。
 あるとき、金融機関から紹介を受けた社長から「今回5人の税理士にお話を伺ってから顧問をどなたにするか決めるので、お会いできるのは今日限りかもしれません」と最初に言われました。そこで、私の思いや事務所業務について伝えたところ、後日「牛田先生のようにこれからの経営の話をしてくれた税理士は他にいなかった」と連絡があり、顧問契約に至りました。後日、決算報告の際、その社長が冒頭の挨拶で「牛田先生と会ったときは、経営状態が悪く不安で仕方なかったが、事務所の支援で進むべき方向が見えた。いいときも悪いときもあったが、毎月会社に来てくれて親身にサポートしてくれた。今こうしていられるのも牛田先生のおかげです」と話してくれて、とてもうれしかったですね。このような関与先をもっと増やしていきたいと思います。

──それは税理士冥利に尽きる言葉ですね。書面添付についてはいかがですか。

牛田 書面添付は、税務調査官に対する「プロ同士の説明書」であると職員に伝えています。調査官は1年に1回だけ決算書や申告書類を見て調査先を選定する。その際に、この会社は対象外と認識してもらえるように、貸借対照表・損益計算書の重要科目と金額の増減をもとに、書面添付に本当に記載する必要のある科目と内容を考えるようにしてもらっています。
 また、「書面添付連続提出表敬状」を関与先に贈呈しています。それを見た金融機関から、税務調査の多い企業の紹介を受けたこともありました。

──企業防衛制度、リスクマネジメント制度、三共済制度の推進についての取り組みも教えてください。

牛田 たった一つのリスクで会社は倒産してしまいます。一方で社長はリスクを認識していません。リスクがあるという発想すらないのが現実です。だから、我々がリスクを認識して伝えなくてはいけない。家族や友人が任意保険に加入せず車を運転していたら、「そんなの危ないからやめなさい」と真剣に伝えるはずです。身内に言うのと同じ態度で関与先にリスクを伝える必要があります。そのためには、我々がしっかりと正しい知識をつける必要があります。

良いことに素直に取り組み一歩ずつ事務所の発展につなげたい

静岡県浜松市にある税理士法人ソレイユパートナー

──巡回監査・自計化・書面添付・継続MASがなかなか進まない会員先生方に対するアドバイスはありますか?

牛田 それら導入の最も大きな阻害要因は会計事務所自身だと思います。自分たちが目的を正しく理解していないことが推進にブレーキをかけています。もしかしたら「システムの導入」が目的になっているのかもしれません。事務所がその価値や機能を理解して、活用経験があれば、自信を持って関与先に提案できます。FXクラウドへの移行が進まない、という話もありますが、事務所がメリットを理解していれば、関与先も理解してくれるはずです。
 FXクラウドの推進の際は、その必要性を、経理担当者ではなく社長に直接伝え、社長から「会計事務所の○○さんにサポートしてもらうから、やってみよう!」と言ってもらうことで協力を仰ぐことも大切です。

──今後のビジョンや目標についてお聞かせください。

牛田 TKC方式の業務を純粋に実践していきたいと考えています。以前、TKC北陸会の松岡茂先生が、事務所の書面添付の記載内容を見せてくれましたが、その質の高さに感動しました。私が考えていた「しっかりやっている」のレベルではありませんでした。
 先日、支部例会で「松岡先生と同じレベルの事務所を作るのは難しいかもしれませんが、同じ方向に向かって、一歩ずつ進むことはできます。人によってそれぞれスピードは違うけれども、必ず事務所の成長につながります。みんなで頑張っていきましょう!」という話をしてきました。このような思いを日々職員にも伝えています。将来的な事務所承継を見据え、考え方を引き継いでくれる職員が育ってほしいと願っています。
 私の強みは「素直」であることでして、「スポンジのような男」とよく言われます(笑)。関与先の皆さんにもっと発展していただくために、これからも月次巡回監査を徹底し、良いと思ったことに素直に取り組んでいきたいと思います。

(構成/TKC全国会事務局 松田信之)

事務所概要
事務所名 税理士法人ソレイユパートナー
所在地 静岡県浜松市中区佐鳴台4-40-34
職員数 7名
翌月巡回監査率 94.6%
関与先件数 75件(法人)、30件(個人)
継続MAS予算登録 80件
FX導入 83件
書面添付実践 82件
MIS実践 122件
BAST優良企業 8社

(会報『TKC』令和5年11月号より転載)