事務所経営

新入職員を育成する5つのポイント「初級職員研修プログラム」をご活用ください

中央研修所副所長・巡回監査士制度の充実プロジェクトリーダー 中村哲郎

『行動基準書』に学ぶ

 新入職員が入所して1年も経たずに、退職してしまうときほど辛いことはありません。職員教育には「入所1年目の壁」があるように感じます。いま、人手不足が深刻で、人材を確保するのは事務所経営において難題です。職員を採用することが難しくなっているとよく聞きますが、同じく育てることも難しくなっています。

 日本の年齢別の人口を調べてみますと、わが事務所の平均年齢でもある働き盛りの48歳の人口は約199万人、対して今年入社した職員と同じ18歳の人口は約112万人だそうです。すなわち、新入職員の存在はたいへん貴重であり、ぜひとも育ってほしい人材であるわけです。そのためにも、私たちは今まで以上に職場環境や教育・フォロー体制を整えておく必要があると思います。

 『TKC会計人の行動基準書』の【職員教育】(3-1-4①)には、こう示されています。

 「会員は、職員教育に最大限の関心と精力を注ぎ、打算心のない純粋な愛情と忍耐を持って計画的に職員を育てなければならない。」

 この基準を自身に照らし合わせて受け止める必要があります。たとえば、私たちの価値観を若い職員に押し付けるのではなく、職員の話に耳を傾け、若い世代の価値観を受け入れることが、「職員教育に最大限の関心を注ぐ」という第一歩かもしれません。また、「計画的に職員を育てること」は、簡単ではありません。こちらも時間的余裕がなかったりして、どうしても場当たり的な教育になってしまうことがあります。

 そこで、中央研修所・巡回監査士制度の充実プロジェクトチームでは、計画的に職員が成長する教育プログラムを作り上げ、会員先生方の職員教育のご支援をするための活動をしています。

入所1年目の壁を超えよう

 新入職員に「会計事務所の仕事にはやりがいがある」と感じてもらうことで、「入所1年目の壁」を突破していただきたいと思います。その第一歩として、新入職員の育成のポイントを5つ紹介します。

 1点目は、事務所の方針です。職員教育の視点では、キャリアプランと教育プログラムを示すことが大切です。

 2点目は、新入職員が職場(事務所)に溶け込むために、良好な人間関係を作ることです。令和5年4月に提供した「新入職員研修プログラム」(オンデマンド研修)は、そこを重視しています。

 3点目は、仕事の基礎を確実に身につけることです。入所1か月が経過すると、会計事務所の仕事は覚えることが多くて、仕事についていけるか不安になるかもしれません。その不安を解消し、段階的に知識とスキルを高めるための土台を作るために制作したのが「初級職員研修プログラム」(令和5年10月提供、左頁参照)です。

 4点目は、所内でのフォロー体制です。所内の雰囲気や仕事を少しずつ覚えてきたところで新入職員は、「ここで自分の将来はどうなるか」と考え始めます。そのときに大切になるのは、いかにコミュニケーションの機会を作るかです。巡回監査という業務の魅力、巡回監査士として活躍してほしいとの期待、を話し合うと良いと思います。

 5点目は、地域会で開催する集合研修へ積極的に参加することです。研修に集中できることはもちろんのこと、新入職員が比較的年齢の近い他の事務所職員と知り合い、切磋琢磨する仲間づくりができます。

 以上の5点を意識しながら、新入職員向け基礎研修シリーズとして提供した「新入職員研修プログラム」と「初級職員研修プログラム」をセットで、新入職員の教育に役立てていただきたいと思います。

(会報『TKC』令和5年11月号より転載)