事務所経営

TKC方式の徹底で誇りを持てる職人(クラフトマン)集団を実現したい

税理士法人クラフトマン 髙谷新悟会員(TKC東北会)

税理士法人クラフトマンは、巡回監査を顧客との信頼関係の構築や心の距離感の維持のための基幹業務と位置づけている。その有効な方法としてチーム制による関与先支援に力を注いでいるという髙谷新悟会員に、巡回監査・事務所経営委員会の菊地大輔委員がインタビューした。

◎インタビュアー TKC全国会巡回監査・事務所経営委員会 菊地大輔委員

開業時に2千万円を借り入れ人材採用 毎年10件のペースで関与先を拡大

髙谷新悟会員

──開業の経緯を教えてください。

髙谷 大学では経済学部で学びましたので、漠然と公認会計士や税理士を目指すことをイメージしました。自分なりに調べたところ、税理士は、地元の中小企業の社長を斜め下から押し上げて一緒に成長していくことができる仕事だということが分かりました。アルバイト先が税理士法人スクラムマネジメント(杉井昌彦会員、吉田恵幸会員)の関与先だったご縁で、卒業後に就職し、10年間勤務して独立開業しました。

──在学中にそこまで考えていたのですね。独立開業後、どのように事務所を発展させてきましたか?

髙谷 毎年コンスタントに10件ペースで関与先を拡大してきています。開業当初から、しっかりとした「組織」として地元中小企業のお客様を支援していきたいという思いがあったため、かなり前倒しで人材を採用してきました。開業して5年間は資金的に厳しくなることが予測されたため、開業時に2千万円の借入を行っています。周りの方からは、「まだ採用は早い、借入しすぎ」と言われることも多かったですが、手元資金が確保できていたため、安心して採用することができ、結果としては正解だったと思います。

──先に関与先を受け入れる体制を作ったということですね。現在の事務所の方針、体制を教えてください。

髙谷 事務所の経営理念の1番目は、「私たちは、会計・財務・税務・人事・労務・法務の職人として、地元中小企業の健全発展を強力支援することにより、日本経済の活性化を図ることを使命とします。」としています。経営理念を実現するためにTKC方式の業務を徹底することを事務所の方針としています。体制としては、税理士法人は、税理士2名、監査担当者4名、併設法人と社労士法人のグループ合計19名の体制です。さらに1名の採用が決まっており、年明けからは20名体制となる予定です。

──関与先数112件で、監査担当者4名は少ない気がしますが。

髙谷 はい。1人当たり25件平均なので周りの会員からは多いとよく言われます。そこを「間接担当者」と呼ぶ人材と業務分担することで、関与先をしっかりサポートしています。

──「間接担当者」の活躍がポイントということですね。後ほど詳しくお伺いします。

私たちにとって翌月巡回監査は最強にして最低限の基幹業務

──髙谷先生が考える翌月巡回監査の意義について教えてください。

髙谷 翌月巡回監査は私たちTKC会計人、そして税理士法人クラフトマンの「最強にして最低限の基幹業務」ととらえています。具体的には、「お客様との信頼関係の構築」「お客様の心の機微に気づく」「距離感の維持」のために、現地訪問・直接面談による月次巡回監査は必須と考えています。「クラウドシステムを徹底活用したスマートな確認業務」と「現地訪問による財務コンサルティングという人間味あふれる真剣勝負」の2軸が巡回監査のあるべき姿と考えます。

──そのことを関与先にはどのように浸透させていますか?

髙谷 自計化の重要性、月次決算の重要性、予実対比の重要性を説明した上で、自計化と翌月巡回監査を前提に私たちが提供する財務コンサルティングが可能となることを伝えています。ちょうど今日の午前中に金融機関からの紹介で訪問した企業の社長から「顧問料が高くなるのに、どうしてこちらで入力しないといけないのですか?」と言われたので、その理由を熱く語ってきたところです(笑)。

 今回の紹介のきっかけは、現在の事務所が記帳代行型で試算表の提供が遅れがちになっていることであり、社長も「自分の頭の中と実際の数値を一致させたい」とおっしゃっていました。そこで、「社長のニーズを満たすのは自計化しかありません。自ら帳簿をつけることで自社の経営が分かるようになります。クラウドを使えば、監査担当者に加えて税理士も間接担当者も支援できるし、証憑保存機能や銀行信販データ受信機能などを利用することで仕訳の入力も減っていきます」と伝えてきました。

「間接担当者」の支援により巡回監査担当者が本来業務に集中

スタッフの皆さん

──翌月巡回監査のベースとなる初期指導についてはどう取り組まれていますか?

髙谷 初期指導は事務所として最も苦手としている業務でした。実は開業2年目に一気に関与先拡大に舵を切った結果、質が低下してしまったのです。自計化を導入したとしても、お客さんが入力せず、事務所が預金の入力や現金の照合をしている、という状態になってしまい、翌月巡回監査率が60%台になってしまいました。気づけば職員も疲弊しきっていたので、「これではいけない」と考え直して、そこから初期指導に力を入れました。

 ここで活躍するのが「間接担当者」です。当事務所では、お客様をチーム制(直接の監査担当者、間接担当者、有資格者)で支援しています。間接担当者の役割は、「初期指導サポート」「月次資料作成」「継続MASへの予算登録」「決算業務の前半部分」等です。証憑保存機能の設定や問い合わせ対応も間接担当者がメインで担当しています。そのため、間接担当者も積極的にお客様とコミュニケーションをとっています。間接担当者の支援により監査担当者は本来の業務に集中することができます。また、働き方の多様性に対応できるようにもなりました。

 そしてそのような所内体制に基づいて、OMSの目標管理KPIで毎月必ず翌月巡回監査率を所内で共有するようにしています。総務から毎月20日に翌月処理されていない関与先が公表され、翌月になる関与先については、その理由と今後の対策を共有しています。意識するだけで数字は大きく上がり、どうすれば翌月巡回監査できるかを考えるようになりました。

──FXクラウドの巡回監査機能と証憑保存機能を活用した事前確認業務への取り組みについてはいかがですか。

髙谷 監査担当者もしくは間接担当者が事前確認を行うことで、現場での監査時間を圧倒的に短縮することができます。証憑保存機能の推進にあたっては電子取引データ保存の義務化を追い風にしつつ、「電子データによる一元管理」のメリットを関与先に説明しています。

──事前確認により短縮された時間をどのように使っていますか?

髙谷 1時間から1時間半を業績報告の時間としています。ここが真剣勝負となります。業績報告の価値を関与先に理解してもらえなければ事務所の存在価値はありません。業績報告にあたっては必ず説明すべき資料を決めています。FXクラウドから出力される試算表に加えて、MR設計ツールで作成した事務所オリジナルの「マンスリーレポート」をもとに実績を報告し、その実績に基づいて継続MASを活用して決算の着地点を予測しています。

巡回監査と自計化が顧問契約の前提 関与先の8割以上にクラウドシステム導入

インタビュアー/菊地大輔委員

──自計化の取り組みについても教えてください。

髙谷 TKC方式による自計化を導入いただかなければ顧問契約を結ばない、というのが方針です。新規契約の説明の際は「税理士には2種類います。書類を預かって記帳代行を行って書類を返すという税理士と、入力は御社にしていただいてそれをチェックして、巡回監査を通じて財務コンサルを行い、会社を良くしようとする自計化推進事務所です。我々は後者の事務所です。TKCシステムの自計化と巡回監査を顧問契約の前提としています。どちらにしますか?」という話をしています。

 システムを変えたくないから断られた、というケースは今まで1件もありません。他社システムに対応しだすと、事務所のパワーが集中できず分散されてしまいます。クラウド化も同じ考えで一気に移行しようと考えて取り組んでおり、関与先の8割以上はクラウドシステムが導入されています。

──継続MASや書面添付もほとんどの企業に対して実践されていますね。特に「TKC全国会ポスコロ推進キャンペーン」では全国8位で表彰を受けられました。その秘訣をお聞かせください。

髙谷 ポスコロについては、まずは代表社員税理士である鎌田と私が「やる」と決めました。関与先に対しては、「金融機関との関係構築に国の仕組みが応援してくれています。国の施策に則ってしっかり取り組んでいる会社という評価を金融機関から得ることができ、今後の資金調達にプラスに働きます」と伝える形で推進しました。

 所内においては、間接担当者をメインとして、書類の作成や進捗管理などを標準化しました。中小企業活性化協議会との窓口も間接担当者が担っています。今後は伴走支援もしっかりやっていきます。月次巡回監査をしていれば、それほど手間はかかりません。

「心の距離のバロメーター」として企業防衛を大きなテーマとして推進

──巡回監査を前提とした、企業防衛制度、リスクマネジメント制度、三共済制度の推進にも力を注がれているそうですね。

髙谷 企業防衛は事務所として大きなテーマとして取り組んでいます。実は今年に入ってから関与先の社長が亡くなられてしまったのです。正直、保障内容を把握していませんでしたが、運よく他社の保険で保障されました。事務所としてはたいへん恥ずかしいことです。企業防衛の実績は「お客様との心の距離のバロメーター」だと考えています。しっかりとサービスを提供した延長線上もしくは同時進行で企業防衛に取り組んでいきたいと思います。具体的な推進においては、標準保障額を算定して、所内で検討してから、継続MASを使って提案するようにしています。提案に必要な資料も間接担当者が作成してくれています。リスクマネジメント、三共済制度についても同様に一歩ずつ進めていけるよう頑張りたいと思います。

──今後のビジョンや目標についてお聞かせください。

髙谷 人口減少、中小企業減少局面ではありますが、今のステージで成長を止める必要はないと考えています。しっかりと人を採用・教育し、関与先拡大をしていきます。また、代表社員税理士の鎌田が資産税に強いので、通常の月次巡回監査による財務コンサルティングと資産税業務の2つの軸で相乗効果が生まれるような組織体制を作っていきたいと考えています。選んでいただいたお客様、紹介していただく金融機関、そして働く仲間たちにも安心してもらえるとともに、成長を感じてもらえる組織づくりを目指しています。そうして事務所で働く一人一人が、どんな分野でもどんな小さなことでも、クラフトマン(職人)としての誇りを持てる組織にしたいと考えています。

(構成/TKC全国会事務局 松田信之)

事務所概要
事務所名 税理士法人クラフトマン
所在地 宮城県仙台市青葉区柏木1-2-38 柏木丁ビル2階
職員数 19名(グループ合計)
翌月巡回監査率 94.0%
関与先件数 112件
継続MAS予算登録 89件
FX導入 109件
書面添付実践 88件
MIS実践 144件

(会報『TKC』令和5年12月号より転載)