事務所経営

会計事務所の的確な税務判断を支援する「税研DB」活用法(後編)

出席者写真
■出席者(敬称略、順不同)
深瀬善太会員(東北会)
友野行晴会員(関東信越会)
山尾秀則会員(静岡会)
三木武裕会員(中国会)
◎司会/谷口裕之TKC税務研究所所長 ◎オブザーバー/古郡孝昭TKCシステム開発研究所次長

「TKC税研データベース(税研DB)」の座談会の前編(本誌3月号)では、税務Q&Aをいかに所内の業務品質向上に役立てているのかを中心に、職員による利用促進方法などを伺った。後編となる今回は、税研DBを関与先支援や税務調査等にどのように活かしているのかについて、令和5年12月に強化された検索機能のメリットなどを含めて語っていただいた。前回に続き、司会はTKC税務研究所の谷口裕之所長が務めた。

関与先からの質問への回答に根拠資料を示すと納得感が高まる

──前編では、税研DB、特に税務Q&Aの所内での活用法──例えば、業務中は基本的に税研DBを立ち上げており疑問があればすぐに調べる、検索内容を申告書作成時や所内の相談時に根拠資料として添付することをルール化している等──についてお聞きしました。
 さらに、そのような活用を通じて、職員は「税務業務における望ましい思考の組み立て」ができるようになり、業務品質の向上や、税理士法第41条の2(使用人等に対する監督義務)の遵守につながるというお話もありました。「日本の最高峰の権威ある知的財産」「事務所の必須アイテム」「職員の成長を促すツール」というありがたい評価もいただいております。
 後編では、税研DBを関与先支援にどのように活かしているのかを中心に、お伺いしていきたいと思います。

深瀬 私はこれまで、税研DBが関与先へ説明する際の根拠資料として役立つと感じたことがたびたびありました。
 例えば、税務処理について説明してもなかなか納得してもらえないようなときです。関与先に税務Q&Aの類似事例をプリントアウトしたものをお渡しして、「この事例を見てください。このように否認されているので今回のケースについても同様に否認される可能性が高いと考えます」といった説明をすると、すんなりと納得されました。

三木 関与先は慣れてくると、こちらが税務Q&Aの資料を出しかけたとたんに、「それなら分かったよ……」という雰囲気になることもありますよね(笑)。

山尾 私の事務所でも、関与先から質問を受けたときに重宝しています。
 特に、規模の大きい関与先や、グループ通算税制でサポートしているグループ会社の中で税務顧問契約を結んでいる子法人からの質問には、回答の根拠資料として税務Q&Aで検索した事例を2、3点添付する──事務所ではこのような使い方を基本としています。それから、職員が巡回監査時に関与先から質問を受けた際にも、その場で参考になりそうな内容を検索できるため便利です。
 このように、税研DBの活用を所内で当然とする仕組みがあるので、経験の浅い職員も自然と使い慣れていきますね。

税務調査で類似事例を提示したら申告是認につながった

──税研DBの情報を根拠資料として活用されているというお話ですが、実際に税務調査等で役立ったという経験はありますか。

友野行晴会員

友野行晴会員

友野 税務調査で、役員に対する取引を否認して役員賞与として加算すると伝えられたケースがありました。金額が少額で過去にも継続して行ってきた取引であり、否認されるレベルではないと主張しましたが、税務調査官からは類似する判例の要旨が書かれた資料を根拠として手渡されてしまいました。
 しかし、その判例を税研DBで検索して全文をよくよく確認したところ、確かに要旨には否認と示されていますが、否認理由はその取引に対してではなく、隠ぺい行為が絡んでいるためだと分かったのです。否認の根拠が違うことを証明でき、税務調査官にも理解してもらえたので非常に助かりました。論点に対し、こちらも根拠をしっかりと確認して対応することが重要だと実感しました。

深瀬 私にも似たような経験があります。特別償却を適用した機械装置の事業供用日が論点となった税務調査でした。税務Q&Aで検索すると、論点の根拠になりそうな類似事例を発見できたので、それを税務調査官に提示したところ、納得してもらえて申告是認となったのです。
 その件を通じて、あらためて税研DBの信頼性の高さを確認できましたし、税研DBの活用を所内でさらに進めていくきっかけにもなりました。

三木武裕会員

三木武裕会員

三木 私も「税務Q&Aに救われた!」という経験があります。税関の事後調査により消費税の修正申告をした場合の控除税額の是正方法において、更正の請求をする際に、その時効が2カ月か5年かという大きな違いのある論点でした。インターネット等で検索すると事例を限定して2カ月とされているケースが多かったのですが、税務Q&Aを検索したところ「5年」と読める回答を見つけることができたので、関与先にも「大丈夫ですよ」とお伝えしていました。
 そこで、関与先の更正の請求書の束を持って税務署を事前訪問したところ、審理専門官からは一言目に「この時効は2カ月ではありませんか?以前、私も否認したことがあります」と言われてしまって、そのときは冷や汗が止まりませんでした。それで、該当箇所にマーカーを引いた税務Q&Aの根拠資料をおずおずと差し出したところ「確認してから回答します……」との反応。後日、電話で「いただいた資料のとおり、最近改正があった内容でした。更正の請求書を受け取りました」とのお返事があり、そのときは本当に、税務Q&Aの根拠資料1枚のおかげで、崖っぷちから生還させてもらったような心境でした。

──そういった事前準備としてもご活用いただいているのですね。

三木 税務調査で論点となりそうな内容を、あらかじめ税務Q&Aで検索しておくのも有効です。その際、通説だけでなく、反対説にも必ず目を通しておきます。税務Q&Aには思考過程が丁寧に記載されているので、税務調査官の思考を予想して理解するのにも役立ちます。「A説とお考えかもしれませんが、それを踏まえた上で、このような根拠でB説を採用しています」と先に論を展開すると、主張を聞いてもらいやすくなると思います。
 また、根拠資料がないと水掛け論になりがちなので、私も必要に応じて税務Q&Aをプリントアウトして提示します。何と言っても、「国税当局で各税法に係る解釈や取り扱いを明らかにする事務に携わった方々の監修を受けている」という一言を添えると説得力が増しますね。

山尾 私の事務所では、意見聴取の場面で税研DBを活用することが多いです。意見聴取では、添付書面の記載内容、顕著な増減事項等はもちろん、個別的な内容を問われることもあります。
 最近あった意見聴取では、商品パッケージのデザイン料について質問を受けました。その点は所内の決算審査会でも注意して税務Q&Aを基に確認していた箇所だったので、税務Q&Aをプリントアウトしたものを提出し「意匠権としての登録がない場合に該当するので繰延資産計上し20万円未満のものは損金計上している」とすぐに回答でき、納得してもらえました。個別的な質問に対して「明確な根拠をもとに、こう判断している」と即答できれば「そこまで調べているなら、調査に行かなくてよいかもしれない」という心証も与えられると思います。
 また、職員は経験を積むことで注意すべきポイントが分かってきます。そのため、月に1回行う所内の全体会議では、意見聴取等があった場合、「こういう論点だったが、この根拠資料で説明したら理解してもらえた」というように、必ずその事例を共有するようにしています。税研DBの有効な使い方や情報をその都度全員で共有することが、事務所全体のレベルアップにもつながると考えています。

検索上位60の「注目キーワード」が疑問解決と情報収集に役立つ

税研DBのレベルアップ機能を画面を見ながら確認

税研DBのレベルアップ機能を画面を見ながら確認

──ここからは、令和5年12月に実施された税研DBのレベルアップ内容について、システム開発担当者である古郡次長の意見も交えながら、会員先生方のご意見をお聞きしたいと思います。

古郡 TKCシステム開発研究所の古郡です。レベルアップでは、より多くの会員先生方や経験の浅い職員さんにも幅広くご活用いただきたいという思いから、検索機能を使いやすく、また分かりやすく強化しています。具体的には、「疑問解決」「情報収集」という二つの目的に沿って改訂しました(26頁)。
 まず、一つ目の「疑問解決」のための機能として、税研DBのトップページの検索窓に直接キーワードを入力することで、税務Q&A等を検索できるようになっています。さらに、サジェスト機能によってGoogle等での検索と同じように、文字を入力すると関連語が表示されるので、そこから選択して簡単に検索できます。

三木 このサジェスト機能は使っていて、かなり優秀だと感じますね。

深瀬 まれに1回の検索でヒットしないことがあっても、キーワードを変えるなどして数回試せば、欲しい答えにたどり着けると思います。

古郡孝昭次長

古郡孝昭次長

古郡 加えて、トップページには「注目キーワード」が表示されるようになっています。この注目キーワードとは「直近1カ月のTKC会員の検索キーワード上位60」のことで、上から検索の多い順に並んでいます。いずれかのキーワードを選択すると、選択したキーワードと「一緒に検索されることが多い上位40」の「追加キーワード」が表示され、キーワードを複数選択していくだけで簡単に検索ができます。

三木 今は確定申告の時期なので、1位は「所得税」、その次が「消費税」「譲渡所得」……トレンドが分かるのも面白いです。これまで私やベテランの職員は、脇目もふらずに検索窓に調べたい単語を直接入力していましたが、こういう検索方法もよいですね。

深瀬 経験の浅い職員は、そもそも検索キーワードが思い浮かばずに困っているので、あらかじめ列挙されたキーワードの中から選択して検索できるなら、慣れていなくても使いやすそうです。

山尾秀則会員

山尾秀則会員

山尾 キーワードを三つほど選択すれば、検索結果を100件以内に絞り込めるケースが多いようですね。検索結果を幅広く見ていくことで関連情報も収集できるので役立っています。

友野 私の事務所では、このトップページの「注目キーワード」を「旬の情報や有益な情報を得るためのツール」としても活用しています。少し変わった使い方かもしれませんが、事務所ホームページに掲載している「コラム」や「税務情報」等のテーマ探しにも使っています。ホームページを検索結果のページ上位に表示させるためのSEO対策として記事の小まめな更新を行っているので、「お客様が、いま最も関心を寄せるテーマ」を考える際に、とても便利です。

──検索上位60の「注目キーワード」を眺めているだけでも、いま関与先が必要としている情報のヒントを得ることにつながるかもしれませんね。

古郡 レベルアップの二つ目の目的は「情報収集」です。そのための機能として、税研DBのトップページに新着情報を表示する「切り換え(ON/OFF)」ができるようになっています。ONにすると、トップページに「TKC税研速報(直近1カ月)」、「税研からのご回答(毎月掲載)」、アクセス数が多いキーワードのランキング──等が表示されるため、多くの情報に触れることができます。最新トレンドの把握はもちろん、直近では他の事務所でどのようなことが問題となっているのかを確認しておくことで、似たような問題が所内でも起こった場合に、役立てていただけるかと思います。

山尾 ずばり調べたい内容だけでなく、関連する情報に触れることで、職員が好奇心を持ち、知識の幅が広がっていくことにもつながりますよね。

税理士の4大業務の根幹を支える税研DBを積極的に活用しよう!

──最後に、これから税研DBを使う、もしくはこれまで以上に活用しようと考えている会員事務所に向けて、一言ずつお願いします。

深瀬善太会員

深瀬善太会員

深瀬 税研DBを日頃から利用している私にとっては、利用していない事務所がいるということが衝撃的でした。日々の業務で助けられ、なくてはならないものと強く実感しており、使わないのは本当にもったいないと思います。
 また、税研DBは関与先指導にも欠かせないものです。例えば、別の会計事務所から移ってきた関与先から「前の税理士はこう言っていた」という主張をされるも根拠がなくて押し問答になってしまうようなときに、税研DBの根拠資料を見てもらうことで納得感を得られるため、とても助かっています。
 その納得感は、そのまま信頼につながりますから、税研DBは所内の税務業務の品質を高める武器であると同時に、関与先との信頼関係を築くという意味においても、非常に価値あるものだと感じています。

山尾 税研DBを活用する価値は主に二つあります。
 一つは、深瀬先生が言われたように、関与先指導もしくは税務調査の際など、対外的に信頼性の高い根拠資料として使用できるということ。もう一つは、職員の成長、ひいては事務所の成長にも貢献するということです。
 税務判断を行う際の根拠として税研DBを日頃から活用する仕組みが定着すると、日々活用することそのものが職員の勉強やトレーニングになります。それによって能力が向上すれば、会計事務所の経営基盤も強化され、先に申し上げたように税理士法第41条の2の遵守、つまりは事務所を守ることにもつながります。
 税研DBの使い方は本当に簡単で、キーワードを入れて検索するだけ。検索機能も強化されて内容も充実していますので、とにかく試しに一度使ってみれば、その良さが分かると思います。

司会/谷口裕之所長

司会/谷口裕之所長

友野 私も、税研DBは事務所を守り、強くもする重要なツールと考えています。
 「守り」という意味では、将来的に税務調査等で根拠や理由を問われたときに、税研DBで検索した条文・裁決・判例等が記された根拠資料があれば、何年経っても担当者が変わろうとも対応は万全となります。さらに、それは事務所だけでなく関与先を守ることにもつながります。
 また、税研DBを頻繁に利用している税務官公署OBの税理士からは、「税研DBを興味の赴くままに閲覧していると非常に勉強になる」と聞いています。これは今後、私の事務所が目指すところでもありますが、経験の浅い職員も含めて税研DBの活用が当然という環境になれば、自然と業務品質が向上し、それが事務所を「強く」することにつながるものと考えています。

三木 今回の座談会への参加にあたって事前に行った所内へのヒアリングを通じて、あらためて税研DBは「税務業務」に欠かせないものと実感しました。ところが、今日皆さんとお話をしながら、税研DBは「税務業務」だけでなく「税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)すべて」に密接に関わっているのだと分かりました。
 会計・保証・経営助言は「税務」抜きには成り立たず、税研DBはまさにその「税務業務」を盤石にするものです。盤石な税務業務によって正確な会計業務が可能になる。税務についてしっかり確認しているという書面添付、つまり保証業務に行き着く。また深瀬先生が言われたような「根拠はこうだからこうしましょう」という関与先への納得性のあるご提案、それはまさに経営助言業務です。
 このように、税研DBの活用とは「税理士の4大業務」の実践を強固にすることであり、税理士業務の根幹を支えるものであると感じた次第です。

──税研DBが「税理士の4大業務」の根幹をお支えしているというご意見は、私たち税務研究所にとって、これ以上ない評価です。

今後もより多くの会員事務所に使っていただけるよう、税研DBの内容の充実に一層努めてまいります。

(構成/TKC出版 小早川万梨絵)

(会報『TKC』令和6年4月号より転載)