2022.06.21
業務上横領被告事件
LEX/DB25572177/最高裁判所第一小法廷 令和 4年 6月 9日 判決 (上告審)/令和3年(あ)第821号
被告人は、株式会社Bの取締役兼総務経理部長として同社の経理業務を統括していたCと共謀の上、同社名義の銀行口座の預金をCにおいて同社のために業務上預かり保管中、東京都内の同社事務所において、自己の用途に費消する目的で、Cにおいて、情を知らない同社職員に指示して、上記口座から、Cらが管理する銀行口座に、現金2415万2933円を振込入金させ、もってこれを横領したとして、第1審判決は、被告人の行為は、刑法65条1項により、同法60条、253条(業務上横領罪)に該当するが、被告人には業務上の占有者の身分がないので、同法65条2項により同法252条1項(横領罪)の刑を科することとなり、その上で、公訴時効の成否について、公訴時効の期間は、科される刑を基準として定めるべきであるとし、横領罪の法定刑(5年以下の懲役)を基準として刑事訴訟法250条を適用し、公訴時効の期間は5年(同条2項5号)であるから、本件の犯罪行為が終了した平成24年7月5日から起算して、本件の公訴提起がされた令和元年5月22日には公訴時効が完成していたとして、被告人に対し、同法337条4号により免訴を言い渡したことに対し、検察官が控訴し、被告人に対する公訴時効の期間は業務上横領罪の法定刑を基準とすべきであるのに横領罪の法定刑を基準として公訴時効の完成を認めた第1審判決には法令適用の誤りがあると主張したところ、原判決は、第1審判決の認定した犯罪事実及び本擬律を前提に、公訴時効の期間は、成立する犯罪の刑を基準として定めるべきであるとし、業務上横領罪の法定刑(10年以下の懲役)を基準として刑事訴訟法250条を適用すると、公訴時効の期間は7年(同条2項4号)であるから、本件の公訴提起時に公訴時効は完成していないとして、第1審判決を法令適用の誤りを理由に破棄し、第1審判決と同旨の犯罪事実を認定して、被告人を懲役2年に処したため、被告人が上告した事案で、公訴時効制度の趣旨は、処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにあり、刑事訴訟法250条が刑の軽重に応じて公訴時効の期間を定めているのもそれを示すものと解され、処罰の必要性(行為の可罰的評価)は、犯人に対して科される刑に反映されるものということができるとし、本件において、業務上占有者としての身分のない非占有者である被告人には刑法65条2項により同法252条1項の横領罪の刑を科することとなるとした第1審判決及び原判決の判断は正当であるところ、公訴時効制度の趣旨等に照らすと、被告人に対する公訴時効の期間は、同罪の法定刑である5年以下の懲役について定められた5年(刑事訴訟法250条2項5号)であると解するのが相当であり、本件の公訴提起時に、被告人に対する公訴時効は完成していたことになるとして、原判決を破棄し、本件控訴を棄却した事例(補足意見がある)。