2021.01.05
再審開始決定に対する即時抗告の決定に対する特別抗告事件(袴田事件第2次再審請求(特別抗告審))
LEX/DB25571224/最高裁判所第三小法廷 令和 2年12月22日 決定 (特別抗告審)/平成30年(し)第332号
確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、Aは、昭和41年6月30日午前1時過ぎ頃,静岡県清水市(当時)所在のみそ製造販売会社専務であった男性の居宅に侵入して金員を物色中、同人に発見されるや金員強取の決意を固め、殺意をもって、所携のくり小刀で同人の胸部等を突き刺し、物音に気付いて起きてきた同人の妻、長男、次女の頸部等をそれぞれくり小刀で突き刺し、店の売上金等を強取した上、さらに、上記4名を住居もろとも焼いてしまおうと考え、混合油を4名の身体に振りかけてマッチで点火して放火し、4名を殺害して金員等を強取するとともに住宅1棟を焼損したというもので、原決定は、確定判決においてAの犯人性を推認させる最も中心的な証拠は、5点の衣類に関する証拠である一方、それ以外の証拠は犯人性を推認する上では補助的なものにすぎないとし、5点の衣類は犯人が犯行時に着ていた衣類であること、5点の衣類はAのものであることの2点について、確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような新証拠であれば、刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」といい得るとし、B鑑定及びみそ漬け実験報告書は、いずれもそのような新証拠には当たらないとして、再審開始を認めた原々決定を取り消したため、抗告人が特別抗告した事案で、確定判決において5点の衣類が犯人性の認定における核となる証拠とされたという本件の証拠関係、5点の衣類に付着した血痕のDNA型及び色調をめぐり、原々審及び原審において長期間にわたり審理が重ねられ、原々決定においては再審開始決定がされ、これが原審において取り消されて本件再審請求が棄却されたという審理経過、さらに、原審に至ってH意見書において血液中のたんぱく質とみそ中の糖との間で生じ得るとされているメイラード反応がみそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因として初めて主張され、5点の衣類がみそ漬けされた状況を客観的に再現する工夫がされたF実験も、この点に関する専門的知見に基づく検討の必要性を認識させるものであったことなどの原審における審理状況をも併せ考えると、上記の違法が決定に影響を及ぼすことは明らかであり、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するというべきであり、原決定を取消し、メイラード反応その他のみそ漬けされた血液の色調の変化に影響を及ぼす要因についての専門的知見等を調査するなどした上で、その結果を踏まえて、5点の衣類に付着した血痕の色調が、5点の衣類が昭和41年7月20日以前に1号タンクに入れられて1年以上みそ漬けされていたとの事実に合理的な疑いを差し挟むか否かについて判断させるため、本件を原審である東京高等裁判所に差し戻すこととした事例(反対意見、補足意見がある)。