02 連携

地域金融の質を高める「顔の見える連携」
TKCとの協働がもたらす現場力の向上とデータ連携の深化

足立成和信用金庫・土屋武司理事長 × TKC東・東京会
『TKC会報』2025年11月号

目次

    地域金融機関には今、従来の資金供給にとどまらず、企業の実態理解に基づく事業性評価や、経営改善へ踏み込む役割が期待されています。こうした要請に応える現場の実践例として、足立成和信用金庫とTKC東・東京会は「顔の見える関係」を構築しています。若手職員が税理士の巡回監査に同行して対話力を磨く取り組みや、TKCモニタリング情報サービス(MIS)を通じたタイムリーな業績把握など、両者の協働が生み出す金融実務への具体的な効果を探ります。

    1.月次巡回監査への同行訪問が生む「目利き力」の育成

    足立成和信用金庫では2024年10月より、TKC会員事務所の巡回監査に若手職員(入庫5年以内)が同行する取り組みを開始しました。参加した職員からは、

    • 「TKCシステムの仕組みを理解できた」
    • 「経営者との対話の着眼点が参考になった」
    • 「巡回監査の現場に立ち会えたことが貴重」

    など、実務的な学びが多かったとの評価が寄せられています。

    「地域金融力強化プラン」が強調する「企業の実態理解」「早期の予兆管理」「事業再生支援の強化」には、まさに「現場力と対話力の向上」が欠かせません。TKC会員事務所が行う月次巡回監査への同行は、金融機関が事業性評価を行う上での基礎スキルを磨く有効な手段といえます。

    2.TKCモニタリング情報サービス(MIS)活用に広がる金融実務の高度化

    足立成和信用金庫では、TKCモニタリング情報サービス(MIS)の利用先が421社に達し、営業店への活用が定着しつつあります。
    MISは、全国ではすでに37万件を超える利用件数となり、中小企業庁の資料では決算書入手手段の10%をMISが占めるまで広がっています。
    さらに、日本政策金融公庫のデータでは、MISで「中小会計要領チェックリスト」「書面添付」「記帳適時性証明書」(三種の神器)を提出している企業はデフォルト率が大幅に低下するという結果も示されています。

    これらは金融庁が強調する

    • 事業者との「深度ある対話」
    • データに基づく予兆管理
    • モニタリングの質の向上

    という方針とも一致しています。

    また、「再生・再チャレンジ支援円滑化パッケージ」にも、経営情報のモニタリングの高度化を図る仕組みを構築するよう促す旨が明記されています。

    3.オリジナル連携ローンの再活性化

    2014年に販売開始された「TKC会員税理士連携ローン」は、金利が最大1.3%まで引き下げ可能な優遇制度であるにもかかわらず、近年は実行件数が伸び悩んでいます。そこで足立成和信用金庫では、パンフレット刷新を契機に、MISとあわせた連携スキームとしての再活性化を目指しています。
    この点も、事業性評価や企業価値担保権制度(2026年5月開始)を強調する地域金融力強化プランの方向性と一致しています。月次決算のデータを起点にした融資判断の高度化は、金融機関の競争力を左右する段階に入っています。

    4.「データの信頼性」が担保された「書面添付制度」とは

    税理士法第33条の2に規定する書面添付制度は、申告内容について税務の専門家として独立した公正な立場からどのように調製したのかを明らかにすることで、正確な申告書の作成・提出に資するとされ、税理士だけに認められた権利です。
    また、書面添付制度は「申告書類の信頼性の向上につながる」「税務コンプライアンスの向上」「税務調査の省略や効率化が期待できる」など、企業にとってさまざまなメリットがあるにもかかわらず、国税庁の統計では法人税申告において、全国で10%程度しか実践されていません。
    さらに、金融機関の事業性評価においては、「データの信頼性」「経営者のコンプライアンス意識の醸成」「税務リスクの見える化」などのメリットがあります。
    そこで、足立成和信用金庫では、MIS経由での書面添付の増加に期待しており、TKC東・東京会も書面添付の普及を強化方針に掲げています。

    5.現場の連携とデータ活用を基盤とした「新しい形の地域金融」

    足立成和信用金庫とTKC東・東京会の取り組みは、地域金融の現場が今何を求められているのかを示す好例です。地域金融を取り巻く環境は「企業理解」「データ活用」「協働による企業価値創造」へ舵を切っています。
    これらを実践するためには、金融機関単独ではなく、税理士などの専門家との連携が不可欠であり、その起点となるのが「顔の見える関係」づくりです。
    地域の企業と真に向き合い、共に成長を支える金融機関であるために。現場の連携とデータ活用を基盤とした新しい地域金融のスタイルが、今動き始めています。

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