税理士による開業コラム

営業活動の推進

事務所の売りは・・・?
「ちゃんとした事務所」
にしたくて

富永 一也

富永一也税理士事務所

税理士 富永一也(昭和56年生まれ、大阪府大阪市で平成28年に開業)

開業時には関与先獲得、事務所選び、職員採用など、考えることがいっぱいです。しかし、事務所が動き出すともっと時間を取ることが難しくなります。 最初に自分はどんな事務所にしたいのか、どういう方針でいくのか、ここが非常に重要だと思います。私は、「ちゃんとした事務所」にしたくてTKC全国会に入りました。

私は、開業当初自分なりの考えで事務所をはじめました。
それなりに考えたつもりでしたが失敗だったと思っています。

当時を振り返り、開業時に最初に決めておくべきだったと思うことをこれから開業される皆様にご紹介したいと思います。

開業当初の私の考え

受験時代からいつかは独立したいと言う気持ちはありましたが、勤務時代は目の前の仕事に精一杯だった覚えがあります。

紆余曲折あり開業するに至った私でしたが、勤務時代に虎視眈々と準備してきたわけではなかったので、当初「事務所経営」という観点が全くなく、「税理士としてどうやって食っていくか」を考えていました。
そのため開業時にTKC全国会にも入会せず、+αの能力をどう身に着けるか、税理士富永をどう売り込んでいくか、そんなことを考えていました。
人とは少し違うことをしようしていたと思います。

自分流で会計事務所業務をはじめてみて

会計事務所業務を行うようになり、しばらくして「勤務時代にやっていたことが上手くできない」と思うことがありました。

私の開業は平成28年で、当時まだ出始めだったクラウド会計を主として利用し、私なりの月次業務を行い、私なりのサービスを提供していたつもりでした。
しかし、そこに私の事務所としての方針や方向性がはっきりしていませんでした。
報酬体系も曖昧で、業務もその時々で思いつくことを行っていたと思います。
良く言えば臨機応変な対応かもしれませんが、実際のところは業務のブレ幅が大きく不安定なサービス提供をしてしまっていたと思います。

その結果、最初に顧問契約をいただいたのは地元の友人でしたが、私の不足もありこの友人から強くお叱りを受けることとなってしまいました。

井の中の蛙大海を知らず

なぜ、こんなことになってしまったのか、私は真剣に考えました。
その理由の一つとして私の力不足もあったかもしれません。

しかし、最も欠けていたものは、私がどんな事務所にして、どんなサービスを提供していくのか、「事務所の方針」をしっかり決めていなかったことにあったと気付きました。

平成30年11月にTKC全国会が主催するTKCニューメンバーズフォーラムに参加して、全国で大活躍されている諸先輩方のお話をお聞きして、自分の考えの小ささを痛感しました。
全国で活躍されている同業の先輩方はしっかりとした事務所方針を持っておられて、まずはこれを決めなきゃダメだ!と思いました。

事務所方針について

事務所方針は、無限にあるように思えるかもしれませんが、私はまず大きく二つに分類されると考えています。
一つは、価格勝負で最低限のサービスだけを提供する薄利多売型、もう一つは、手間暇をかける付加価値型です。

現在は事業者の絶対数は増えず、インターネット情報により専門家のサービスの質も昔に比べ見分け易くなってきていると思います。
会計事務所業界においても、資金力の乏しい新規開業者が薄利多売の戦場で勝ち抜くことは極めて困難です。
とは言え、開業して間もない頃に、高付加価値を求めるお客様はなかなか現れない、と思うかもしれません。

しかし、TKC全国会の先輩方に話を伺うとどうやらそうではなさそうです。

自分の事務所に高付加価値サービスのメニューも料金表もなければ、それを求めるお客様は絶対に現れません。
自分の事務所は価格で戦うのか、または品質で戦うのか、はっきり決めることです。

現事務所の写真(内観)

会計事務所業界の業務水準とは

私は、自分の関与先様にとっては最良の税理士でありたいと思っています。皆様も同様ではないかと思います。
そうであるならば、ご縁をいただいた関与先様のため、勤めてくれる職員のため、日々応援してくれる家族のために「ちゃんとした事務所」にしたい、そう思いました。

では、「ちゃんとした事務所」とは何でしょうか?
会計事務所の業務はわかりにくいものですが、実は一定の基準があります。

TKC全国会では、翌月巡回監査率、書面添付実践率、継続MAS利用率など、さまざまな基準があります。
業界トップレベルの先生方はこれらの基準を高水準で実践されています。
と言うことは、その水準と同じことが自分の事務所でもできるようになれば「ちゃんとした事務所」になるのだと気が付きました。

メッセージ最後にお伝えしたいこと

私の開業については、自分流はダメだった、の一言です。
余程自分の戦略に自信がない限り自分流はたかがしれていると思います。

業界トップクラスの先輩方が何十年と積み重ねてきたことに新規参入者が早々勝てるわけがありません。
従って、業界トップクラスの先輩方が示す方へ全力で舵を切り、TKCが定める標準業務(KFSというものがあります)を愚直に行うこと、最初は顧問料などを気にせず、今持てる全力のサービスをすべての関与先に届けることが事務所を軌道に乗せる最良のルートだと思います。

現実は難しいですが、私もTKC全国会に入会して3年が経ち、自分の事務所も、関与先も、職員も年々成長していることを実感しています。