経営改善計画策定を支援するTKC会員紹介の申込みコーナー

待ったなし!「経営改善計画書」の作り方教えます

税理士 大津留廣和 会員今、金融業界に喫緊の問題が起こりつつある――。昨年施行された金融円滑化法に基づきリスケを申請し、認められた中小企業が「本当に期日(1年以内)までに経営改善計画書を提出できるのか」である。タイムリミットが迫るなか、どう対応すればいいのかを探った。

◎税理士 大津留廣和

本当に1年以内に「計画書」を提出できるのか

 「48万1367件、12兆9882億円」――これは昨年12月4日に施行された「中小企業金融円滑化法」に基づき、債務者の中小企業が今年3月末までに金融機関に対し「返済条件の変更」を申請した件数と金額である。

 返済条件の変更とは、元本返済を一定期間据え置いてもらったり、返済期間を延長して毎月の返済額を減額してもらったりすることで、いわゆる「リスケジューリング(通称リスケ)」のことを指す。以前はリスケを行えば、その債権は不良資産とみなされ、金融機関の格付けが下がったが、08年11月に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」が改訂されたことによって、「(金融機関が貸出条件緩和を行っても)実現性の高い抜本的な経営改善計画書があれば、貸出条件緩和債権には該当しない(不良債権とはみなさない)」ということになっていた。

 それが、今回、金融円滑化法の施行に併せて金融検査マニュアルも再度改訂され、「経営改善計画書を提出していなくても、条件変更を実施した日から1年以内に経営改善計画書を作成する見込みがあるときは条件緩和債権に当たらない」としたのだ。要は、「条件変更を先に行い、経営改善計画書の作成・提出は1年間猶予を与える」ことにしたわけである。ただし、(1)資産を売却して財務内容を健全化できる、(2)経費を大幅に節約できる余地がある、(3)新商品の開発などで売上を伸ばすことが可能、(4)販売チャネルを拡大して売上アップできる――ということを金融機関は確認しなければならないが、それらに該当する件数が数十万件もあったということだ。それがいよいよ「提出期限」(1年以内)が差し迫ってきたことで、「本当に経営改善計画書を作成・提出できるのか」という問題が出てきたのである。

 それでは今回リスケを認められた企業はどれくらいの数にのぼるのか。申請のあった48万1367件は貸付債権(口座)ベースで、このうち3月末段階で実行されたのは36万8074件。債権ベースとは、仮にX社の場合、A行に2口座、B行に1口座、C行に1口座を持っていたとすれば4件になるということ。また、リスケの手続きは、メーンバンクで話をまとめたうえでサブバンクへ行くというのが一般的である。こうしたことから、企業の実数は、申請件数からかなり割り引いて考えなければならないが、それでも数万社以上と推定されるだろう。

 これだけの膨大な数の中小企業が返済条件の変更を認められたとみられるわけだが、その理由の一つとしてリーマン・ショックの影響で業績が急激に落ち込み、キャッシュ・ポジション(手元流動性:現預金と短期所有の有価証券の合計)が悪化したことが挙げられる。

 年間のキャッシュ・フローはざっくりいって「利益+減価償却費」で求められるため、仮にそれが500万円(利益300万円+減価償却費200万円)で、金融機関への借入金返済額が年間2000万円とすれば、1500万円の資金調達が必要になる。このとき、今までなら1500万円を融資してくれていた金融機関が「あなたのところは業績が悪化したため、1500万円を融資するのは難しい……」などといわれれば資金ショートを起こす可能性が出てくる。あるいは、年商の大部分を占める得意先が景気の悪化で倒産して売掛金が焦げつき、それを穴埋めすることができなければ、資金繰りに窮することになる。そこで、こうした事態に陥った企業の再生をはかるために用いられる一つの手段がリスケにほかならない。前述のケースでいえば、金融機関への借入金返済額2000万円を猶予してもらえば手元にそれだけお金が残り、それを使って会社を回していくことが可能になる。おそらくこのような事情で、今回多くの中小企業がリスケを申請したのではないかと考えられる。

“三位一体”で計画づくりに取り組むのが望ましい

 さて、その提出期限が目前に迫ってきたわけだが、いまだに経営改善計画書を提出していない企業がかなりありそうである。

 もし期日内に経営改善計画書を提出することができなかったらどうなるのか――。その債権は不良債権として扱われ、債務者区分のランクが、「要管理先」とか「破綻懸念先」に引き下げられるだろう。仮に破綻懸念先となれば、金融機関はその債権の無担保部分に対して70%の貸倒引当金を積まなければならない。したがって、経営改善計画書を提出するかどうかで、企業も金融機関も天と地ほどの違いが出てくるのである。

 このため、金融機関(メーンバンク)では企業と一緒になって経営改善計画書づくりに乗り出している。具体的には、企業がリスケを申し込んだ営業店の融資担当と本部の審査部などが連携して行うのが一般的だが、それはある意味、従来から行われている「リレーションシップバンキング」の一環としてみることができる。しかし、今回の場合はとにかく数(対象企業)が多く、かつタイムリミットも設定されているため、すでに対応しきれなくなっているところもある。

 ではどうすればいいのか。端的にいえば、中小企業の経営実態を最も熟知している税理士が金融機関をサポートして計画づくりを行うのが望ましい。実際、TKC全国会・地域会では金融機関と連携して「経営改善計画策定支援サービス」を行っていくことにしている。要するに、企業・金融機関・税理士が“三位一体”となって、期限(1年以内)までに経営改善計画書を作成・提出するということだ。

 視点を変えていえば、税理士は金融機関とその対象企業の了解のもとに計画づくりに取り組むということ。それは現状把握→経営改善の課題整理→行動計画の作成→経営改善計画の作成・提出というような流れになるだろうが、その際のポイントはおおもとの「決算書」が正確であるということ。例えば、ある対象企業のバランスシートを詳しく調べてみたところ、「棚卸資産が1億円と記載されていたが、実質的な価値は5000万円になっていたとか、売掛金の一部が回収不能になっていた」となれば、適切な“診断・処置”を行うのが難しくなるからだ。

 もう一つのポイントは、経営者が「絶対に立て直す」という強い気持ちを持って臨むことだ。おそらく今回リスケを申請した中小企業のほとんどは、これまでに経営計画を作成したことなどなく、成り行き経営であったと思われる。確かに誰も1年先に何が起こるかはわからないが、大事なのは経営者は夢(目標)を持ち、それを紙に書き、社員に語ることだろう。

 以前、米国のハーバード大学が卒業生の追跡調査を行った結果に関する本を読んだことがあるが、それによれば「卒業生の3%は飛び抜けて豊かな生活を送り、10%は余裕のある生活、83%は普通の生活であった」としている。その3%の人たちは具体的な目標を持ち、それを紙に書いていたとのことだ。このことからもわかるように、今回、返済条件の変更を認められた経営者は、「計画」を作って舵取りすることが“夢”(元気な会社)を実現するうえでいかに重要であるかを改めて認識してもらいたい。

(インタビュー・構成/戦略経営者・岩崎敏夫)