税理士事務所開業後に
すべきこと

新規関与先獲得 - ツール編 -

いざ、営業活動する前に準備しておくことがあります。
開業当初からすべて完璧に準備することはできませんが、優先順位をつけて、できるところから準備します。

1.お客さまのニーズを想定する

お客さまは、どんなことで悩み、どのような課題を持っているでしょうか。
また、顧問税理士に対して、期待していること、不満を持っていることは何でしょうか。

お客さまのニーズを想定して、自分の強みを発揮できる、ターゲットを選定します。
そのターゲットに対して、どうすれば接触できるか、どのように面談すれば良いかを考えます。

実は、いま顧問先を獲得するチャンスです。
平時で、経営が安定しているときは、顧問税理士に多少の不満があったとしても、顧問税理士を変えようとまで思わないことが多いです。
ですが、コロナ禍で、経営が厳しくなったとき、顧問税理士が「何もしてくれなかった」「対応が遅かった」などで不満を抱いて、顧問税理士を変えたいと思うようになります。いまはチャンスなのです。

  • 中小企業白書で中小企業の課題・関心事を調べる

    自分の知り合いの社長さんからニーズを聞き出すことも行いながら、世間一般的に、中小企業の社長さんはどのような悩み・課題を抱えているか調べます。
    そこで、一番良いのは、中小企業白書だと思います。
    中小企業白書は、ネットでも閲覧できますし、購入することもできます。
    直近5年分くらいの中小企業白書を読んでみると、お客さまのニーズが見えてきます。

  • 顧問税理士に対する期待と不満に思っていること

    お客さまが税理士を不満に思う可能性があることは何があると思いますか。
    お客さまが税理士に期待することは、お客さまによって異なります。
    そのため、その期待によっては、不満に思うことも自然と異なります。

    たとえば、「記帳など面倒なことは事務所にやってもらいたい」というお客さまもいれば、「タイムリーに会社業績を把握できるようなりたい」というお客さまもいらっしゃいます。

    お客さまは、いまの顧問税理士を見て、税理士の仕事(提供サービス)をイメージしています。
    または、社長さん同士の会話で、「うちの顧問税理士はねぇー」と、仲間の社長さんから税理士の仕事を聞いたりして、期待と不満を持つようになります。

    そのため、顧問税理士にどのような期待と不満を持っているかは、一概には言えないのですが、次のような不満を持っているかもしれない、などと自分なりに想定することで、営業戦略の仮説を立てます。

    税理士を不満に思う可能性があること

    • 1 月次試算表が遅れている
    • 2 所長(税理士)が来てくれない
    • 3 決算対策・納税予測をしてくれない
    • 4 税務に関する指摘ばかり
    • 5 IT活用やDXに弱い
  • お客さまのニーズに応えることを最優先に考える

    開業当初、顧問先が10件くらいまでは、活動する時間がいっぱいあります。
    顧問先が増えるまでは、とにかく税理士としてお客さまのニーズに応えることを最優先に考えることが必要です。

    お客さまのニーズに応えること

    • 1 月次試算表が遅らせない  (翌月には当月の試算表ができている状態に)
    • 2 所長が顔を出す      (職員がいないときは当然ですが)
    • 3 決算対策・納税予測を行う (決算月の3か月前に決算事前検討会も行う)
    • 4 税務以外の相談にのる   (資金繰りや経営計画の作成などを支援する)
    • 5 DXで経理業務を効率化する(クラウド会計やDXに強い事務所を目指す)

    以上のことを事務所として、一貫してサービス提供できる体制を考えなければなりません。
    最初は、すべて一人で担当するので、何も問題はないでしょう。
    時間に余裕があるということ、税理士自らが担当することは、独立当初の絶対的な強みです。

    所長先生自らが顧問先を担当しますので、この期間で、事務所サービスを標準化できるようにしておくと良いです。
    やがて、顧問先が増えると、所長先生は忙しくなり、自ら担当することができず、スタッフが担当するようになります。
    そのときも、継続してサービス提供できるようにしておきます。

2.営業ツールを準備する

顧問先獲得のきっかけは、「紹介」がもっとも多いのが、税理士業界の特長です。
見込み顧客と顔合わせをしたり、紹介してくれる方と打合せするときに、必要なツールを事前に準備します。

  • パンフレットは必要か

    事務所を説明(紹介)するパンフレットは必要です。

    確かに、パンフレットがない税理士事務所はたくさんあります。
    だからといって、自分もパンフレットを作らないで良いと言うことではありません。
    パンフレットがない事務所は、すでに顧問先などから紹介を受ける関係・人脈ができているので、特別準備をしていないだけです。
    でも、独立開業した開業税理士は違います。自分を売り込む、営業活動をするのです。
    営業活動をする業界で、会社のパンフレットがない会社などありません。

    パンフレットを作成するまでは大変ですが、営業ツールとして必要となるものと考えておきましょう。

  • ホームページは必要か

    ホームページはパンフレット以上に重要であり、必須です。

    見込み顧客は、次のような場合に、事務所のホームページを確認します。

    • 1 税理士と面談する前に、その事務所のホームページを事前に確認します。
    • 2 税理士と面談した後に、その事務所のホームページでサービス内容などを再確認します。
    • 3 税理士を紹介された見込み顧客が、事務所のホームページをのぞきに来ます。
    • 4 自分を紹介してくれる方が、顧客に紹介する前に事務所のホームページを見ておきます。

    以上のように、「私はホームページから顧問先を獲得しない」という方でも、事務所ホームページを持っておく必要があります。
    紹介や口コミなどから獲得した見込み顧客も、ホームページは見られるからです。

    さらに、SNSや名刺交換で知り合った方も、ホームページが常に中心となりますので、しっかり制作します。ホームページの制作は、外注やアウトソーシングする方が多いです。

    なお、「ホームページで顧問先を拡大したい」という方は、検索エンジンの上位に表示されるように、広告やSEO対策が大切です。
    その場合、ウェブマーケティングの知識とウェブサイトの制作ノウハウが求められます。

    また、ホームページが陳腐化しないように「更新」する仕組みを持っておくこと、あとは「スマホ対応」も大切です。

  • 封筒は必要か

    ペーパーレスの時代なので、紙で何かを渡すことは減らしていくことが良いですが、まだゼロにはなっていないので、書類や資料をお渡しするために、事務所の封筒はあった方が良いです。

    封筒を準備するときの大切な心構えは、①お客さま、②紹介してくれる方、③職員、の3つの視点です。
    見込み顧客に、市販の茶封筒を使って、書類をお送りするわけにはいきません。

    お客さまから「○○先生のところの名刺や封筒や税理士事務所らしくないよね」と言われたり、職員から「うちの名刺や封筒はカッコいいから思わず自慢してしまいます」と言われたら、嬉しいですね。
    そのとき、「大切なお客様にお送りするものですから・・・」と思いを込めていることを伝えられるくらい丁寧に封筒は制作すると良いです。

    その際、「事務所のロゴ」も制作すると良いです。
    ロゴは、名刺や封筒にも印刷されるので、イメージアップにつながります。
    事務所のロゴは、優先順位として、ホームページやパンフレットよりも下がりますが、時間を見つけて、準備しておきましょう。

  • 「事務所通信」(ニュースレター)は必要か

    「事務所通信」は、税理士事務所から顧問先への情報発信用の月刊誌(案内ツール)です。
    内容は、税務はもちろん、経営・人事労務などの中小企業の経営者に役立つ最新情報をタイムリーに掲載します。
    ボリュームは、8~12ページくらいがちょうど良くて、顧問先および対外的な関係者との対話ツールとして活用します。

    事務所通信など、定期的に情報発信している税理士事務所は少ないでしょうから、事務所の差別化になると思います。
    実際に「事務所通信」をきっかけに顧問先を獲得している成功事例をよく聞きます。

    「事務所通信」のメリットは

    • 1 お客さまに定期的に情報発信する
    • 2 見込み顧客と継続して繋がる
    • 3 紹介してくれる方と継続して繋がる

    事務所通信を、①お客さま、②見込客、③紹介者に、毎月送付してみてはいかがでしょうか?
    ポイントは、自分・事務所のことを忘れられない状態を作ることです。
    毎月定期的に送り続けていると、受け取った見込客、紹介者の記憶に残ることで、「そういえば、事務所通信を送ってくれる先生に、相談してみよう」と思い出してもらいます。

    また、継続して「事務所通信」を制作するのに、時間と費用をあまりかけずに、継続できる体制を整えておきます。
    そこで、頭を悩ませるのが、ネタ作りです。
    最初のうちは、時間があるので、自ら頑張って情報収集して、ネタ作りできるのですが、やがて忙しくなると、ネタ作りの時間を確保できなくなります。
    結果、継続して「事務所通信」を発信できない事務所になってしまいます。
    継続して発信し続ける事務所になることで、見込客と紹介者と継続して繋がる関係を作りましょう。

    なお、事務所ホームページに「事務所通信」コーナーを設けて、毎月メルマガを発信することもできます。その場合、メルマガの開封率やクリック率を高める工夫も必要となります。

3.見込客と紹介者のリストを管理する

いままで名刺交換した名刺は、ちゃんと保存されていますか?
いただいた名刺をそのまま保管しているだけでは、名刺情報を有効に活用できません。
見込客や紹介者の名刺情報をデータ化することで、継続的に情報発信できる仕組みを整えます。

見込み客とすぐに顧問契約を結ぶことができれば良いのですが、出会ってから1年後、2年後に再会して、顧問契約になることはよくあります。
また、お客さまを紹介してくれる方も、すぐに紹介してくれるわけではありません。
見込客とも紹介者とも、長い年月かけて、「つながり続けること」が大切です。

そこで、顧客情報等をデータベース化します。
データベースまでいかなくても、見込客と紹介者のリストだけは管理した方が良いです。

4.「事務所通信」(ニュースレター)は必要か

税理士事務所から顧問先への定期的に情報発信する方法として「事務所通信」があります。
税法はもちろん、経営・人事労務などの最新情報をタイムリーに掲載しておくことで、お客さまの対話ツールとして活用されています。

顧問先獲得のために、「事務所通信」は絶対に必要かと言われると、あった方が良いです。
事務所通信など、定期的に情報発信している税理士事務所は少ないでしょうから、事務所の差別化になると思います。
また、実際に「事務所通信」をきっかけに顧問先を獲得している成功事例もよく聞きますので、時間と費用をあまりかけずにできる体制であれば、オススメです。

「事務所通信」のメリットは

  • 1 お客さまに定期的に情報発信する
  • 2 見込み顧客と継続して繋がる
  • 3 紹介してくれる方と継続して繋がる

事務所通信を①お客さま、②見込客、③紹介者に毎月送付してみてはいかがでしょうか?
継続して送付している事務所は数パーセントです。その数パーセントに入ることで、顧問先拡大し続けることができます。

なお、事務所ホームページに「事務所通信」コーナーを設けて、毎月メルマガを発信することでも良いと思います。その場合、メルマガの開封率を高める工夫が必要となります。

秦 勝行(はた まさゆき)

TKC全国会は、開業税理士が独立して3年間で事務所経営を軌道に乗せていただくためにニューメンバーズ・サービス委員会を設置しています。当委員会は、全国各地で活躍する約300名の税理士・公認会計士で構成されています。当サイトの記事は、この委員会で制作された独立開業ノウハウの書籍・セミナー資料をもとに執筆・編集しました。

編集責任者(執筆者) 株式会社TKC

秦 勝行(はた まさゆき)

昭和50年生まれ。千葉県出身。専修大学大学院経営学研究科経営修士課程修了。平成10年、TKCに入社。平成23年、独立行政法人中小企業基盤整備機構に出向。令和3年10月現在、SCG営業本部在籍。