税理士事務所開業前に
すべきこと

1.開業エリアを決める

税理士として独立開業を決意して、「ビジョンと戦略」、「強みと弱み」を描き出したら、どこで開業するかを考えます。

開業エリアを決めるときは、「市場・顧客」の分析と「業界・競合」を分析することが大切です。
たとえば、エリアの「法人設立数」や主要な産業、業種の動向などを調べます。
また、「税理士事務所等の数」や他の会計事務所のホームページを見ながら、自分の戦略と競合しそうな事務所がどのような動きをしているかアンテナを立てておきましょう。
こうして、どのようなマーケットで開業するか、商圏を調査したうえで開業エリアを検討します。

自分の「強み」を発揮できる「エリア」かどうか。
自分の「戦略」で事務所を軌道に乗せることができる「商圏」であるかどうか。
自分の「強み」と「戦略」にマッチした「エリア」と「商圏」を探すことが成功の鍵となります。

2.自宅開業or事務所を借りる?

開業場所を考えるときに一番悩むのが、自宅で開業するか、それとも事務所を借りて開業するのか、の選択です。

開業当初は、お金がなくて、お客様が増えるのだろうかと、先行きの収入や資金繰りの不安がつきまといます。

「事務所を借りないとお客様が増えないよ」
「借金して、事務所を借りて、逃げ道をなくした方が成長するよ」
「お金がないんだったら、最初は自宅で開業してもいいよ」
「毎月の固定費を増やさない方が良いので、自宅で十分だよ」
「事務所を借りないと、仕事とプライベートの区別がつかなくなるよ」
など、さまざまな意見があります。

結論から言えば、どちらでも良いと思います。
事務所を借りても借りなくても結果は一緒です。
職員を雇い入れるときには事務所を借りることになるので、その期間だけの話です。
無理して、理想のエリアや憧れのオフィスを構えず、最初は自宅やレンタルオフィスでスタートしても良いです。
ただ、成長・成功している税理士は、開業して数年後、賃貸オフィスに移転しています。
ずっと、自宅で開業し続けることはオススメできません。
「○年目には▲▲で事務所を構えるぞ!」と目標を持ちながら、開業すると良いでしょう。

  • 1「自宅開業」のメリットとデメリットは?

    自宅で開業するメリットは、なんと言ってもコストです。
    ある程度、お客様が増えて、資金的にも生活ができる見通しが出てくるまで自宅で頑張っても良いかもしれません。

    ただ、ずっと自宅で開業し続けることはオススメできません。

    自宅だと、人を招きづらいのがデメリットです。
    開業当初、お客様も少ないし、人脈もコネもないから、人が来ることはないだろう、と考えるかもしれませんが、意外といろんな方が訪れます。
    金融機関、保険会社、ハウスメーカー、他士業の方・・・と人脈は広がっていきます。

    また、なんと言っても自宅では職員を雇いにくいのがデメリットです。
    遅くとも職員を雇い入れる前に、事務所を借りた方が良いです。
    目安としては顧問先数が10件くらいになる目途が付いたときには、自宅から賃貸オフィスへ移っておきたいです。

    あと、自宅では、家族の手伝いができることは良いのですが、仕事と私生活のメリハリがつきにくいのが難点です。

    最後にお客様の目線です。
    お客様からすると、「開業当初なんだから、無理せず自宅で開業している」と思います。
    そして、自宅開業から賃貸オフィスに移ったときには、お客様等から「あ、○○先生、頑張っているんだ」「順調なんだ」と好印象を持っていただけます。

    でも、(繰り返しですが)ずっと自宅で開業し続けることはオススメできません。

    中小企業の経営者から見ると、「自宅で開業し続けている税理士は、リスクを背負っていない」と思われるかもしれません。
    同じ経営者として見られないと、親身な経営の相談相手になれるまで時間がかかるかもしれません。
    ですので、開業当初だったら自宅でも構わないですが、早く賃貸オフィスへ移れるように目標を立てて、事務所を拡大しましょう。

  • 2「賃貸オフィス」のメリットとデメリットは?

    オフィスを借りる場合は、賃貸借契約を結び、差入保証金(敷金)を納め、前納家賃および毎月の家賃、そして水道光熱費を含め、固定費がかかることがデメリットです。

    一方、メリットは自宅開業と正反対で、次のような点があります。

    • 仕事とプライベートの境目がある
    • スタッフが働きやすい
    • 利害関係者から信用が得られる
    • 開業適地を選ぶことができる

    このようなメリットがあるので、資金に余裕がなくても、「借金をする勇気」を持って、オフィスを構えてみましょう。いいオフィスには人が集まります。

3.開業場所を決める

開業エリアを選定して、賃貸オフィスを借りることを決めたら、開業場所(物件)を探します。

  • 1都市部で開業するときの開業場所は?

    電車での通勤や移動のことを考えて、「駅から近いところ」など、利便性が高いところを選ぶと良いです。

    スタッフが職場を選ぶとき、給与や仕事内容はもちろん重要ですが、「通勤時間」も条件として外せません。
    また、お客さまのところへ訪問する「移動時間」も大切な勤務時間です。
    そこで、通勤圏、商圏ともに20~40分くらいを目安にして開業場所を探すと良いでしょう。

    あと、オフィスの近くに、駐車場(コインパーキング)、コンビニや飲食店があると便利ですね。

    もちろん、コロナ禍によって働き方の多様化が加速され、テレワーク対応などからオフィスの選択条件も変わってきています。
    ただ、開業場所の選び方としては、上記のことを押さえておけば良いと思います。

  • 2地方で開業するときの開業場所は?

    車での通勤が多いと思いますので、「駐車スペースの確保」など、通勤や移動の手段を考えて、利便性が高いところを選ぶと良いです。

    お客さまの視点では、近くに目印(ランドマーク)があったり、「お客さまにとって分かりやすい場所」を選びたいです。

    あと、近くに銀行など金融機関があると、可能性が広がります。
    以前は、申告書を提出しにくる納税者から目に付きやすいように税務署の周りで税理士事務所を開業される方がたくさんいました。
    ですが、今は電子申告なので、税務署に訪れる納税者は減りました。
    では、なぜ近くに金融機関があると、可能性が広がるかと申し上げますと・・・
    それは、金融機関は税理士と連携して、中小企業を支援したいと考えているからです。
    近くの金融機関とは、定期的に情報交換や勉強会を実施することで、いつでも気軽に相談できる身近な税理士として、覚えてもらえると良いです。
    やがて、お互いに仕事やお客様の紹介をしあう関係になれるかもしれません。

秦 勝行(はた まさゆき)

TKC全国会は、開業税理士が独立して3年間で事務所経営を軌道に乗せていただくためにニューメンバーズ・サービス委員会を設置しています。当委員会は、全国各地で活躍する約300名の税理士・公認会計士で構成されています。当サイトの記事は、この委員会で制作された独立開業ノウハウの書籍・セミナー資料をもとに執筆・編集しました。

編集責任者(執筆者) 株式会社TKC

秦 勝行(はた まさゆき)

昭和50年生まれ。千葉県出身。専修大学大学院経営学研究科経営修士課程修了。平成10年、TKCに入社。平成23年、独立行政法人中小企業基盤整備機構に出向。令和3年10月現在、SCG営業本部在籍。