税務官公署出身会員に聞く

書面添付の全件添付でお客さまの存続と発展に貢献したい

【成長する事務所の経営戦略・税務官公署出身編】
 税理士法人ONE伊藤会計事務所 伊藤公一会員(TKC北陸会)
伊藤公一会員

伊藤公一会員

約30年間の税務署勤務を経て、父親の開業した税理士事務所を承継後、税理士法人化や税務官公署出身者の採用で、積極的に事務所の体制を強化してきた伊藤公一会員。TKC方式の書面添付の実践を事務所経営の重要な柱として関与先の信頼を得たいという。

税務署を退官し、父の事務所を承継 税務署出身者と協力し体制を強化

 ──事務所の概要を教えてください。

 伊藤 当事務所は父の伊藤禮三が昭和39年に福井県大野市で開業しました。私は短大を卒業後、公務員の道に進みましたが、平成18年9月に福井税務署を退官後、税理士登録し、TKCにⅢ型会員として入会した2代目です。職員は私のほかに社員税理士2名と勤務税理士1名、職員10名の計13名です。税理士は全員税務官公署の出身で、社員税理士2名(木谷愛一会員、桑野統臣会員)は税務署時代の同期です。
 平成24年に税理士法人ONEを木谷氏とともに設立しました。現在は、大野市の伊藤事務所と福井市の木谷事務所があり、地域に根差したお客さまへの支援を何よりも大事にしています。

 ──退官までのご経歴をお聞かせください。

 伊藤 期別は普通科37期、本科24期です。大阪国税局管内の西税務署を振り出しに、福井県内の税務署や、税務大学校本科、金沢国税局資料調査課で都合30年間勤務しました。
 一番の思い出は、金沢国税局の資料調査課勤務時代に8回ほど、査察事案を同行調査したことです。調査のための準備で先輩から教えていただいたことや調査先で経験したことはどれも貴重で勉強になりました。また、当時はバブル経済がはじけた後で、事案の平均不正所得が7000万円超と、多額の増差所得が出ていましたから、印象深いですね。

 ──税務署時代のTKCへの印象はいかがでしたか。

 伊藤 正直にいって「お堅いな」という印象がありました(笑)。北陸には全国に名だたるTKC会員先生が多くいらっしゃいます。その先生方は調査を行ってもほとんど申告是認のレベルでした。調査をして不正を正すという使命感を持っていただけに、調査に行っても肩透かしをくらったような感覚を持っていたのは事実です(笑)。でも、それだけTKC会員の先生方が、「租税正義の実現」を目指してきっちり真面目に関与先を指導されていたという証しなんですよね。いざ税理士になってみると、それがどれだけ難しいことなのかよく分かりました。

TKCビジネスモデルの実践がお客さまの存続・発展に貢献する近道

 ──事務所の承継後の取り組みについてお聞かせください。

 伊藤 承継した当初は、「もっと関与先を増やしたい」という気持ちがありました。父の代からお付き合いいただいている関与先も多いのですが、経営者の高齢化や後継者不足に悩んでおられる関与先も多く、将来への危機感がありました。
 最初は採算度外視で記帳代行やお客さまが望むことを何でも引き受けてしまっていたので、職員の負担が大きくなり、無理がたたって、事務所全体が疲弊してしまいました。「こんなやり方では成長できない」と思い直し、事務所の発展も大事ですが、その前提にはお客さまの存続・発展があることに改めて気が付きました。
 お客さまの支援を第一に考えると、TKCのビジネスモデルを真面目に実践することが近道であると痛感したのです。それからは、自計化・書面添付・TKCモニタリング情報サービスの推進、認定支援機関業務などに積極的に取り組むようになりました。そのうちに「伊藤さんのところに見てもらうといいよ」と、関与先だけでなく金融機関からも新しいお客さまを紹介いただくようになりました。
 私の自宅は福井市にあり、そちらの方でも地の利があり、お客さまの紹介を受けることもありました。しかし、大野市とは車で40分ほどの距離にあり、何かあったときの機動性に欠けることが問題でした。そのとき偶然、税務署の同期だった木谷氏が税務署を辞めるという話を聞き、「うちに来ないか」と誘ったところ、話が進み、一緒に税理士法人を設立。彼に福井市のお客さまを見てもらうことで、機動性を保つことができています。税理士法人化は商圏拡大策の意味もありますが、事務所の承継・存続を考えてのこともあります。

 ──認定支援機関への認定が全国的にも早かったそうですね。

 伊藤 はい。平成24年に近畿経済産業局の管轄内で一番目に認定支援機関の認定を受けられたことは私の密かな自慢です(笑)。それ以前から経営者の夢を伺い、一緒に経営改善計画を立てたり、事業承継を支援するなど、経営助言業務の分野でもお役に立ちたいと思い経営支援に力を入れていたので、すぐに申請しました。
 最近、特例事業承継税制を利用し、新社長(相続人)の負担を軽くし、スムーズに事業承継ができたことがあり、お客さまの存続・発展に認定支援機関としてお役に立てて嬉しく思っています。

税務調査官時に見ていた書面添付と実際の大きなギャップ

 ──伊藤先生は、書面添付に力を入れてきたと伺っています。

事務所外観

図:委員会在職時に立案した33の2マーク(上)
所内に目標として掲げた「めざせ全件添付」の直筆色紙(下)

 伊藤 TKCへ入会して数年後、北陸会巡回監査・書面添付推進委員会(現書面添付推進委員会)委員長のお役目をいただきました。書面添付について正直にいえば、調査官時代には、「この書類を盾に調査回避を狙っているのではないか」という見方をしていたこともありましたので、TKC全国会の書面添付推進運動が始まった頃(昭和57年)に書面添付を実践された会員先生方のご苦労は相当なものがあったと思います。
 しかし、会務に携わり「TKC方式の書面添付」について知れば知るほど、私の認識が間違っていたことを思い知らされました。「TKC方式の書面添付」は、「租税正義の実現」を目指して、税理士が巡回監査を誠実に実践していなければできません。税務当局も調査を重ねるたびにそのことに気づいてくれています。書面添付推進運動の黎明期から書面添付を実践し続けてこられた会員先生方のフロンティア精神に感謝せざるを得ません。
 また、現在、書面添付推進委員会の会議資料や周知文書、『TKC全国会による書面添付制度総合マニュアル』等に記載されている「33の2」マーク(図)は、添付書面文例データベース小委員会時代に、東北会の内海敬夫先生(前全国会書面添付推進委員長)と立案し採用されたもので、大変思い出深いマークです。そのような思いもあり、委員長の職を退いた後も、事務所では「めざせ全件添付!」を旗印に、事務所経営の最も重要な柱としています。

職員間の作業量と時間を平準化し残業・土日出勤ゼロを実現

 ──業務体制で留意しておられることを教えてください。

事務所外観

JR越前大野駅から車で5分ほどの場所に位置する、
税理士法人ONE伊藤会計事務所

 伊藤 いくつかありますが、特に「残業、土日出勤はしない」ということ。これは税務署勤務時代からの私のポリシーです。この方針は繁忙期であっても変わりません。例外的に2月の土曜日は出勤してもらうこともありますが、仕事が終わっていれば出勤は不要です。今年も確定申告は2月末にほとんど終えました。そのために「段取り」の重要性を職員に説いています。OJTで、経験の浅い職員にベテランの職員が付き、分からないことや困ったことがあったらその場ですぐに解消できる体制にしています。仕事の配分についても経験の差で発生する作業量や作業時間のバラツキをできるだけ平準化するようにしています。特定の人に仕事が集中しそうなときは、私から声をかけ、他の職員に手伝ってもらえるよう調整しています。

 ──職員さんの育成についてはどのようにされていますか。

 伊藤 先代の頃から長く働いてくれている職員が多いです。全員にTKCの職員研修に参加し、巡回監査士補の資格を取得してもらいました。また、新しいシステムが提供されると北陸会や支部が主催した研修会が行われているのですが、必ずその研修会へ参加してもらっています。また、TKCや大同生命の担当者に定期的に来所していただき勉強会を開催するなど、最先端の情報に触れる環境を作っています。
 職員には月次巡回監査の際、数字の変化をとらえ、お客さまとお話しするよう指示をしています。また月次巡回監査で確認した情報に加え、「添付書面文例データベース」を活用しながら、記載内容が充実した添付書面を作成するように教育しています。書面添付を実践することで、職員の成長にもつながり、事務所の業務品質も上がりました。事務所の成長と税務当局や金融機関、お客さまからの信頼は比例するうに思います。

TKCの活動参加とシステムのフル活用で多くの出会いと情報が得られる

 ──新型コロナウイルス感染症のお客さまへの影響についてお聞かせください。

 伊藤 おかげさまで、当事務所のお客さまに、このコロナ禍で廃業に追い込まれた方は今のところおられませんが、休業要請で売上が激減した方はいらっしゃいます。当事務所としては、売上がない期間の顧問報酬は値引きすることにしました。TKCは、ProFITのトップページに「緊急資金繰り対策コーナー」を用意してくれていますので、情報収集に努め、緊急融資の申し込みに欠かせない試算表の準備や、コロナ収束後の経営の立て直しに向けた経営改善計画のお手伝いなど、関与先の要請にお応えできるよう準備を進めます。

 ──事務所経営に悩むニューメンバーズ(NM)会員の先生方や独立を考えておられる方へのメッセージをお願いします。

 伊藤 「なかなか関与先拡大ができない」と不安を抱えておられるNM会員には、TKCのビジネスモデルを信じ、TKCシステムのフル活用による徹底的な関与先の支援に取り組んでいただきたいとお伝えしたいです。お客さまに真剣に向き合って結果を出し、喜んでもらえると、必ずそのお客さまを通じて口コミで新しいお客さまを紹介いただけます。
 また、TKCの活動にも参加すべきです。私も入会当初は考えられなかったことですが、ニューメンバーズフォーラムへの参加をはじめ、地域会の理事としてや、書面添付推進委員会の委員としても全国各地で開催される行事に参加させてもらい、全国でたくさんの会員先生と出会い、よき友人、よき仲間、よきライバルができました。TKCの組織の大きさを実感しています。もし、行事に全然参加せず、単独で事務所を経営していれば「井の中の蛙」になっていたと思います。
 最近、先輩がTKCへ入会されました。理由を聞いたら、メインの関与先から「TKCでやってほしい」との要望があったとのことです。まさにTKC全国会が目指している「社会の納得」が広まってきていることを実感した出来事でした。事務所経営に悩んでおられる方にはこの流れを知っていただいて、TKCのビジネスモデルに沿った活動を一刻も早く行うことをお勧めします。

(取材日:5月27日(水))


伊藤公一(いとう・きみかず)会員
税理士法人ONE伊藤会計事務所
 福井県大野市陽明町3-905

(TKC出版 石原 学)

(会報『TKC』令和2年7月号より転載)

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