2021年7月号Vol.123

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】ワンスオンリー原則と自治体DX

株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦

 本誌2021年1月号では『デジタル化の真価を発揮させるワンスオンリー原則』と題し、行政機関に一度提出した情報を再度提出することを不要にする「ワンスオンリー原則」について解説しました。本稿では、行政手続きの申請で入力を求められる情報を分析し、ワンスオンリー原則によって「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進する方法を検討します。

申請者を識別する情報

 行政手続きで行政機関が入力を求める情報は、①申請者を識別する情報、②制度適用の要件にかかる情報、③制度適用の対象等にかかる情報──の三つに大別されます。
 申請者を識別する情報は、申請を提出する人、すなわち申請によって制度の適用を求める人を特定する情報です。窓口における紙の申請書では氏名、住所、年月日を求めます。窓口では、運転免許証やマイナンバーカード等の本人確認書類を提示させ、券面の写真で本人を確認するとともに、記載事項によって申請書に入力された情報が正しいことを確かめます。
 オンライン申請では、マイナンバーカードに搭載された公的個人認証(JPKI)の利用者証明機能によってオンラインでの本人確認が可能になるとともに、申請者を識別する情報の入力を不要にできます。
 利用者証明機能では、本人が所持するマイナンバーカードを使い、本人が記憶しているPINを入力することで、所持と記憶の2要素認証によって本人を確認します。申請者を識別する情報としては、JPKI利用者証明書の発行番号(シリアル番号)を用います。住所地の自治体ではこの番号によって基幹系システム内の住民を自動的に特定できます。

適用要件にかかる情報

 行政手続きでは、所得や社会保険の資格など、制度を適用する要件を満たしていることを示すための情報を求めます。こうした制度適用にかかる情報の多くは行政機関が保有しており、オンライン申請では行政機関の基幹系システムから情報を取得すれば入力を不要にできます。現在でもマイナポータルの自己情報取得APIを利用すれば、本人の同意を得た上で、番号制度によって構築された情報提供ネットワークシステムを通じて行政機関が保有する本人の情報を取得できます。
 ただし、自己情報APIは現時点では〈誰が世帯員であるかを把握できない〉〈その世帯員の情報を取得できない〉といった制約があります。大半の行政手続きは世帯単位であるため、自己情報APIではワンスオンリーを実現できません。昨年末に公表された『国・地方デジタル化指針』には、情報提供ネットワークに代えて新しい情報連携基盤「公共サービスメッシュ」を構築することが掲げられており、世帯関連情報の取得も可能になることが期待されます。
 一方、民間機関が発行した証明書や領収書等は紙で受領することが多いため、その情報を入力するとともに、エビデンスとして画像ファイルを添付する必要があります。就労証明書や保険料控除証明書のように標準のデータレイアウトが定められたものは、内容をシステムへ自動的に取り込むことが可能です。マイナポータルでは、日本郵政などの民間送達サービスによって送信された情報をAPIで取得することが可能です。今後、さまざまな分野で標準的なレイアウトが定められ、手続きに関する処理の自動化が進むと見込まれます。

適用対象等にかかる情報

 児童手当で〈どの子どもが対象なのか〉、あるいは保育園の申し込みで〈どの保育園に入園を希望するか〉など、申請者が対象を指定する情報は入力が必須です。こうした情報は、ラジオボタンやリストボックスによって候補の中から選択すると入力の手間を減らせます。また、選択した項目によって情報をコード化できるので、基幹系システムで自動的に処理することが可能となります。
 転入届をオンラインで事前申請するには、転入後の住所を入力します。これも転入先自治体に存在する住所を確実に入力してもらうために、町字等を候補として表示しそこから選択する方式が有効です。世帯員の選択候補をつくるには、基幹系システムから情報を取得する必要があります。住所、事業所、保育所など、全国共通のコード情報については国がマスター情報を整備し、それをオンライン申請システムで利用することも可能でしょう。

ワンスオンリー原則と自治体DX

ワンスオンリー原則と自治体DX

 平井卓也デジタル改革担当大臣は「すべての手続きをスマートフォンで60秒以内に終わるようにしたい」と語っています。これを実現するには、可能な限り入力項目を減らすことが求められ、ワンスオンリー原則を適用することが不可欠です。また、この原則によって実現できるのは、オンライン申請のユーザビリティ向上だけではありません。
 手続き案内を利用する際にマイナンバーカードで申請者を特定すれば、関連情報によってその人にどの制度が適用できるかを的確に案内することが可能となります。また、本人が手続きを探すのではなく、行政機関から対象となる人を抽出してお知らせすれば、適用できる制度を見落とさずに確実に利用できるようになります。
 このように、基幹系システムの情報を利用するワンスオンリー原則によって住民サービスをさまざまな点で向上させることが可能であり、これは自治体DXを推進することにほかなりません。TKCもオンライン申請と基幹系システムの一体的な整備によって、住民サービスと行政効率の向上を図り、自治体DXの推進をサポートしてまいります。

アーカイブ

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

※掲載団体様への直接のお問い合わせはご遠慮くださいますようお願いいたします。

  • お客様の声
  • TKCインターネットサービスセンター「TISC」のご紹介